第769話 六甲山頂へ行こう

 ☆亜美視点☆


 時刻派15時前です。 昼食後もひたすら堪能した温泉テーマパークでの時間も終わりが近付いてきた。


「ふぅ。 全部制覇したわね! 満足満足!」


 と、奈々ちゃんはとても幸せそうだ。 最後の方は駆け足気味だったけどねぇ。


「ふやけたよぅ」

「あはは! 楽しかったー」


 ロビーで全員集合。 皆かなりふやけているな。


「中々充実した時間だったわね。 さて、次は六甲山へ行きますわよ」

「ロープウェイに乗るのねー?」

「はぅ」

「わ、忘れとった!」


 ロープウェイの名前を聞いた途端に震え出す希望ちゃんと渚ちゃん。 こんなんで大丈夫かな?


「今日の夕飯は六甲山で夜景を観ながら頂くわよー。 我が西條グループが総力を上げて作った展望レストランがありますのよ、おほほほ」

「うわわ、出たよ総力!」


 今回は無いなぁと思っていたけど、ここでお出ましだよ。 きっと凄いんだろうねぇ。


「他には何するんだ? 何か食えるのか?」

「はあ、宏太はこれだから……」

「まあ、一応フードコートはあるけれど、我慢した方が夕食を美味しくいただけるわよ?」

「その夕食ってのは何だい奈央?」

「高級神戸牛ステーキですわよー!」

「よし!」

「肉ー!」


 ステーキと聞いた途端元気になる宏ちゃんと遥ちゃん。 でも神戸牛かぁ。 楽しみだねぇ。


「じゃあ行くわよ、ロープウェイ有馬温泉駅へ!」

「おー!」

「はぅー」

「うぅー」


 約2名程ノリ切れない感じではあるけど、ロープウェイに乗ってる間だけで降りたらどうせいつも通りに戻っているのだろう。 心配するだけ無意味である。

 さて、私はササッと夕ちゃんの隣へ移動して手を握る。 昨日の自由行動も今日の温泉テーマパークでも別行動していたから、夕ちゃんエネルギーが不足しているのである。


「ねね、夕ちゃん」

「ん?」

「温泉テーマパークどうだった?」

「おう、のんびり出来て良かったな。 まあ、あんな長時間風呂場にいるなんて経験無かったから少しのぼせかけたが」

「わかるわかる」


 と、仲良く話していると、麻美ちゃんが羨ましそうな顔をしてこちらを見ている。 あれは自分も夕ちゃんに甘えたいという顔だねぇ。 んー、まあいっか。 希望ちゃんと渚ちゃんは、今から乗るロープウェイの事で頭一杯で戦線離脱してるし。

 私が麻美ちゃんに手招きすると、パッと笑顔になって夕ちゃんの隣にやって来た。 


「夕也兄ぃの左手確保ー」

「うおっ」

「元気だねぇ」

「まあねー!」

「希望と渚ちゃんの顔なんか見てみろよ。 この世の終わりみたいな顔してるぜ」


 夕ちゃんの言うように、その2人はただロープウェイに乗るというだけなのに今にも天に召されそうな表情をしており、足取りも重い。 少し可哀想になってきたよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 さてさて、ロープウェイ乗り場までやって来ました。

 駅にゴンドラの姿はまだ無いので、到着するまでしばし待機。

 皆で雑談をしつつ希望ちゃんと渚ちゃんのケアもしっかりこなす。

 5分程待っていると、やって来ましたゴンドラ。


「は、はぅっ」

「何でや?!」


 ゴンドラを見た瞬間、怖がる2人が大きな声を上げる。 それも仕方ない。 そのゴンドラは床部分を除いてほぼ全面透明な窓になっており、四方八方どこを見ても絶景なのである。


「た、高い所は平気だけど、これは嫌だなぁ」

「ですね」

「大丈夫よ。 何も起きるわけないじゃない」

「そうそう。 すぐに山頂駅に着きますわよ」


 というわけで、皆でササッとゴンドラに乗り込みいざ山頂へ。


「ガクガク……」

「ブルブル……」


 ダメだこりゃ。 大体安定飛行に入った飛行機は平気な癖に、どうしてロープウェイはダメなんだろう? 理解不能である。


 ゴンドラに揺られながら、不安がる希望ちゃんの気を紛らす為に話しかけてあげる。


「楽しみだねぇ、六甲山。 きっと夜景も綺麗だよ」

「ぅん……」


 どうやら話を聞く余裕はあるようだ。 渚ちゃんの方は麻美ちゃんが見ているけど、あれは怖がる渚ちゃんをイジッて遊んでるのかな? 渚ちゃんも反撃する余裕はないみたい。


「なはは! 渚ー、下見てみろー! 絶景かな絶景かなー!」

「あわあわ……」


 麻美ちゃん、絶対楽しんでるやつだ。


 程無くして、ゴンドラは六甲山頂に到着した。

 ゴンドラから降りて地に足がつくと、途端に普段通りに戻る希望ちゃんと渚ちゃん。 スイッチの切り替わりが早すぎる。 これ、ゴンドラに乗せたり下ろしたりして遊んだら凄く面白い挙動をするのでは無かろうか?


「亜美ちゃんありがとぅ。 おかげで気が紛れてだいぶマシだったよ。 帰りもお願いね」

「か、帰りも怖がるのは決定してるんだね?」


 まあそんな簡単には克服出来るもんじゃないだろうけど。 そんな私達の前では、渚ちゃんが麻美ちゃんの頭をポカリと叩いて反撃を開始していた。


「さて、六甲山に着きましたわね」

「ここでは何すんの?」


 紗希ちゃんが訊くと、奈央ちゃんが六甲山での予定を話し始める。


「まずは高山植物園なる物を観に行きましょう。 そこで結構時間も潰れるでしょ」

「宏太、高山植物には詳しいわけ?」

「専門外に決まっとろうが」

「じゃあ亜美に任せましょう」

「私も高山植物までは詳しくないよ……」


 世界の有名な草木花はある程度知っているけども、高山植物まではねぇ。 私なんかよりも、その辺にいるであろう園内スタッフさんに聞いた方が良いんじゃないかな?

 とりあえず最初の目的地は高山植物園に決まった。

 時間は待ってはくれないので、サクサクと行くよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 六甲高山植物園へとやって来た私達は、入場料を支払い中へ。

 

「何か見た事ない植物ばかりね」

「俺にはわからんな。 街中でも生えてないかこんなの?」


 生き物の事なら細かい違いでもすぐにわかるくせに、それ以外はからっきしダメダメな宏ちゃん。


「バカめ。 高い山に生えるから高山植物なんだろうが。 街中で見れるわけないだろバカめ」

「バカって2回も言いやがったな?」

「ふん」

「はあ……もう少しこの雰囲気を静かに楽しめないんですか、バカ2人は」

「何をぅ!?」


 男子3人は3人で騒がしくなりだしたよ。 他のお客さんに迷惑かけないきゃ良いけど。


「さて、園内マップを見ながら回りますわよ」

「結構広いね」

「ゆっくり回れば結構時間かかりそうねー」


 まあ、夕食はここで食べるって事だし、多少なり時間はあるだろう。 焦って急足で回る事もないはず。


「では行きますわよー」


 マップを手に持った奈央ちゃんを先頭に、六甲高山植物園の観光を開始する。


「まずは入り口に近い湿性区とやらに向かいますわよ!」


 名前からして湿地帯なんかに自生する植物が見られるのかな?


「あの辺一帯がそうみたいね」


 奈央ちゃんが指差す方向には、小さな黄色い花が群生していた。

 あれは……。


「キンレンゲショウマかな? 可愛いね」

「何よ。 やっぱり詳しいんじゃない……」


 奈々ちゃんにツッコまれてしまう。 べ、別に全然知らないとは言ってないんだけどなぁ。

 

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