第760話 自由行動

 ☆紗希視点☆


 やっほー紗希ちゃんですよん。 私達は現在有馬温泉街の観光中。 奈央の考えた初日の観光ルートもほとんど消化して、残るは有馬天神社と水神社を巡る3社巡りだけとなっているわ。 後は夕方まで自由行動で夕方からは夜の有馬温泉街観光となるようよ。 ホタルやライトアップされた橋なんかも見られるみたい。


「さて着きましたわよ有馬天神社。 これで2社目よー」

「凄く硫黄の匂いがキツイねぇ」

「本当だな」


 亜美ちゃんが言うように、神社の周りには温泉独特のあの硫黄の匂いが立ち込めている。


「渚ー、この神社の御利益は学業成就らしいよー」

「ほんまかそれ!?」

「主祭神が学問の神様、菅原道真公だからね」

「わからへんけどお参りしていきましょう」


 受験生である渚だけど成績はそんなに良くはないらしい。 七星大学志望との事だけど、亜美ちゃん曰くはこの夏を必死に頑張らなくても何とかなるし受からせるとのこと。 亜美ちゃんに任せておけば大丈夫だろう。


「厄除け神社とも呼ばわれてるわよ」

「厄除けか。 まあとりあえず参拝だな」

「そうですね」


 というわけで、皆でぞろぞろと歩いて行く。


「何だかモクモクと湯気が出てるよぅ? あれは?」

「有馬天神社には泉源があるんだよ」


 と、亜美ちゃんが指差す先には天神泉源と書かれた看板と、蓋の着いた井戸のような物がある。

 皆でそっちの方へ向かい見てみる事に。


「匂いきついなっ……」

「泉源ですもの」

「ボコボコいってるー!」

「常に温泉が湧いているってことかしらね?」

「そだね。 ちなみに含鉄泉だから金泉だよ」

「ほぇー」


 しばらく泉源を眺めてから参拝を済ませて、次の水天神社へ向かう事にした。

 渚は泉源の湯気を頭に浴びて「これで頭良くなるやろか?」とかやっていたけど、それはまた違うんじゃないかしら?

 


 ◆◇◆◇◆◇



 有馬天神社を後にした私達は、そのまま水天神社へと歩いてやって来た。

 ちなみに道中ではまた佐々木君と遥が「腹減った」と言い出して何か買って食べていた。


「着きましたわよ水天神社。 ここが3社巡りの最後ね」

「おおー」


 さてこの神社はどうなってるのかしらー。


「さてさて参拝するわよー」

「おお」

「あのよぉ。 3つの神社を回ることで一体何があるんだ?」

「穢れや罪を祓って心身を清らかにし、健康になるってことだよ」

「ほう。 そりゃいい」

「宏太は穢れだらけだものね」

「ほっとけ!」

「仲良いわねー本当に」


 奈々美と佐々木君も随分長く恋人やってるわね。 結婚とかどうするんだろうか?


 水天神社の境内や社殿、途中にある井戸などをゆっくりと見て回り参拝を済ませる。 これで穢れが祓われて清らかになったのかしら?


「さて、これで本日の昼の部は終了ですわよ。 一旦旅館に戻って自由行動とします。 19時頃には夕方の観光を始めるからそれまでには旅館に戻って来る事」

「はいよー」


 というわけで、私達は一旦宿泊中の宿へと戻るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 旅館へと戻ってきた私達は、ここで自由行動となった。 亜美ちゃんと奈々美は、観光中に立ち寄った有馬の工房のそばを食べに行ったわ。 渚はこの時間に少し受験勉強をするみたい。 奈央は北上君と散歩に出かけたし、佐々木君と遥は2人で食べ歩きへ向かった。


「むふふ。 ということは、今のところ今井君はフリーねぇ」


 じゃあ、今井君誘って私も有馬温泉街の散策に出掛けて……。


「よーし! 夕也兄ぃを誘って街の散策へイクゾー!」

「おりょ?」

「はぅ、私も行くよぅ!」

「おりょりょ」


 忘れてたわ。 亜美ちゃんの他にこの2人が今井君を狙っていることを。

 亜美ちゃんが居ない所でこの2人がどんな女の争いを見せるのか興味があるわね!


「私もついてくわよん!」


 というわけで、3人で今井君を誘って出かけることになった。 渚にも声を掛けてみたけど、勉強を少しでもというので無理に誘い出すのはやめた。


 男子部屋に行くと、今井君は1人、畳みに寝そべっていた。 暇そうね。


「夕也兄ぃ、皆で散策に行こー!」

「ん? 散策か。 良いぞー暇してたからなー」

「そもそも、何で亜美ちゃんと奈々美についていかなかったの?」

「あの2人で行動する時は俺はあまりついていかないぜ? 蚊帳の外になったりするからな」


 と、当たり前のように言う。 たしかにあの2人の仲の良さは尋常じゃないけど、今井君が蚊帳の外になるぐらいなのね。


「よし、行くか」

「おー」


 と言っても観光スポットはそこそこ回ったから、お土産を見たり誰かさん達みたいに食べ歩きしたりすることになるんだろうけどねー。


 てなわけで4人で旅館を出るのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



「こっち行ったら橋だよな? んじゃ、あっちから見てみるか」

「旅館で周辺のマップもらったからこれ見て歩くぞー」

「でかしたわね麻美」

「結構色々あるよぅ」

「とりあえず土産物屋を見に行きましょ。 もしかしたら誰かと会うかも」

「だな。 じゃあ出発!」

「おー」


 と、比較的平和な感じで有馬温泉街の散策がスタートした。 よくよく考えたら温厚な希望ちゃんとノー天気な麻美の2人が女の争いなんてするわけなかったわね。

 ちょっと残念。


「と、思ったけど」


 2人は今井君の左右に別れて両方から今井君の手を握る。 なるほど、水面下では争いが勃発しているようね。 やっぱり近くに亜美ちゃんが居ない時はチャンスだと思ってバンバンアプローチを仕掛けて行くみたいだわ。 これはこれは面白い。


「って、私が握る手が無いじゃーん」

「な、何の話だよ……」

「神崎先輩は出遅れー」

「早い者勝ちだよぅ」


 しまったー。 2人の事ばかり見てて、自分が争いに参加するの忘れてたー。

 ま、いっか。


「夕也兄ぃ! 何か美味しそうな匂いがするよー! あそこ行こー!」

「お、おーい引っ張るなー」

「はぅー」


 元気良く今井君を引っ張る麻美と、巻き添えを喰らう希望ちゃん。 私はそんな3人を爆笑しながら追いかける。 こういう時、遠慮しない性格の麻美はやっぱり強いわね。 希望ちゃんはうかうかしてると2番手の座が危ういわよー?


 さて、やって来たのは何やらお饅頭を売っているお店のようね。 甘い匂いが漂っている。


「うめー!」

「佐々木、次行くぜ!」

「おう!」


 ……。


 どうやら先にここのお饅頭をいただいているのも居たみたいね。 饅頭を頬張りながら次の獲物を求めて、嵐のように去って行ったけど。


「あの2人の食欲は凄いね」

「宏太兄ぃは昔からだねー」

「遥もよ」

「何だかなぁ」


 2人が走り去った方角を呆れた表情で見つめながら私達もお饅頭屋に入る。


 売られているお饅頭は黒糖でも使っているのか、茶色っぽい生地をしている。 持ち帰り用もあるみたいだけど、私達はとりあえず自分達で食べる分だけ蒸してもらう。


「美味しそうだねっ」

「うむー。 よだれ出るー」

「きゃはは。 汚いわよ麻美ー」

「しかし良い匂いだな」


 饅頭が蒸し上がるまでの間、4人で適当に寛ぎながら駄弁る。


「2人はさ、今井君へとアタックまだ辞めないの?」

「もちろんだよー」

「まだまた諦めないよぅ」


 と、2人はまだまだやる気満々。 今井君が亜美ちゃんへのプロポーズに動き出している事をまだ知らないとは言え、中々諦めの悪い子達だわね。


「大変ね、今井君も」

「うむ……」


 はてさて、このごちゃごちゃした恋愛模様。 一体どうなるやら。

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