第747話 キャミィの成長

 ☆亜美視点☆


 アメリカ代表2軍チームとの練習試合が始まりました。 開幕アメリカのサーブから始まるラリーは黛姉妹の高速連携で取り0-1となっています。

 アメリカ代表とはいえ相手は2軍。 いくら手の内を封印しているとはいえみっともない試合は出来ない。


「よし、私のサーブだね」


 私は世界選手権の時に一通りのプレーデータは取られているだろう。 もちろんあれから成長したり新しい小ネタなんかは増えているけれど、それは見せられないという事。 あくまで私は世界選手権から大きく変わっていないと思わせる必要がある。 調節が中々難しい。

 とりあえずはお得意のライン上サーブを使っていこうかな。


「よっ!」


 パァンッ!


 私のサーブは相変わらずパワー不足。 もちろん、世界選手権の時からは幾らか鍛えてパワーアップしてはいるけど、その成果は隠さなきゃならない。

 私が狙ったライン上サーブは、やはりというか既にバレている為、簡単に拾われてしまう。


「やっぱりバレてるかぁ」


 まあバレてるのは仕方がないのでプレーに集中だ。

 アメリカ代表のセッターさんはあちらチームのメンバーの中では身長は低め……と言っても日本代表の紗希ちゃんより高いくらいはあるけど。

 2軍Sながらトスはかなり上手いみたいだ。 層の厚さが窺える。

 高く上がったトスに跳び付くのはキャミィさんだ。

 高さもありフォームも綺麗だ。 初めて見た時から見ると本当に別人のように成長している。

 ブロックには田中さんと遥ちゃんの2人がついている。

 クロスを開けて新田さんがコースで待機する。


「ハイッ!」


 パァンッ!


 しかしそんなブロックもお構い無しと言った風に力押しでストレートに打ち込んでくる。

 相変わらずとんでもないパワーでブロックを貫き、スパイクを決めて来た。


「うわわ……」

「ヨッシャヤデー!」


 ガッツポーズを見せるキャミィさん。 やっぱり上手くなっている。 最後に試合した時とは比較にならないよ。


「あの人、2軍とはいえ侮れないですね」


 と、新田さんが囁く。


「でもさ、あれ手の内隠す気無さそうだよな」

「わかんないよ? もしかしたらもう一段上があるのかも」

「だったら怖いがなぁ」


 遥ちゃんの言う通り、そうだったら恐ろしいねぇ。

 とりあえずサーブ権は移動。 再びアメリカサーブだ。


 パァンッ!


 これまたパワーサーブ。 アメリカ代表さんはダイナミックだねぇ。

 今度のスパイクは私が拾う。


「っとぉ!」

「ナイスです!」

「さすがや清水さん!」


 たしかにパワーはあるけどそのパワーも奈々ちゃん程のモノではない。 それなら私でも何とか拾えるというものだよ。 そう考えると奈々ちゃんのパワーって凄いんだなぁと思わされる。 もはやアメリカ代表級のパワーを持ってるんだね。


「ほい、田中さん頼んます!」

「よし!」


 今度は元エースの田中さんを使う黛志乃さん。 高さもパワーもそれなりではあるが、ベテラン特有の老獪さや引き出しの多さが武器になる。


 パァンッ!


 しかし、田中さんのスパイクはブロックに阻まれてこちら側に返ってくる。 新田さんが追いかけてレシーブを上げる。

 まだチャンスボールだ。 黛志乃さんがトスの体勢を取る。 私もバックアタックの準備準備。


「ほらよ!」


 黛志乃さんのトスの前に黛梨乃さんが助走を始めており、高速連携を匂わせる。 それに合わせてアメリカ代表側もブロックも2枚ついていく。 それを見て黛志乃さんが、ニヤリと微笑んだように見えた。 後出しだね。


「蒼井さん行ったれや!」


 Cクイックに走っていた遥ちゃんにトスを合わせると、遥ちゃんも跳び上がりスパイクを放つ。 ブロック1枚を躱してストレートに打ち込んで決める。


「よっし!」

「どや!」


 黛志乃さんは相手ブロックを手玉に取って実に楽しそうである。 多分実際に楽しいのだろう。


「手の内隠しても2軍ぐらいやったら十分相手取れるやん」

「そうだね」

「私達も伊達に優勝候補に挙がってないわよ。 それにこっちもエースや主力の大半を温存して臨んでるし、1軍相手でも何とか」

「田中さん、それは聞き捨てなりまへんで。 私は藍沢さんや月島さん、宮下さんに劣ってるとは思うてへん」

「はは、そうだね。 ごめんごめん」


 黛梨乃さんは今日の2軍戦に抜擢されはしたが、これは以前の大会で姉妹の連携を見せてバレているからという理由が大きい。 もちろん私もそうだ。 しかし、奈々ちゃんや宮下さんを隠す理由はやはり力を見せたくないと言った部分が大きいような気がする。 2人の力は間違いなく世界に通用する。 それをこんな所で見せるわけにはいかないと考えているのだろう。

 日本の監督もアメリカの監督も、考えている事は同じなんだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 そのままお互いが手の内を全く出さないまま試合は進んでいく。 5ー8のリードで迎えるテクニカルタイムアウト。


「良いぞお前達。 相手は2軍だがこちらも手の内は明かさずに互角以上。 最高じゃないか」

「そうですが……」

「うん? どしたぁ?」

「この試合、日本にもアメリカにも何の得にもならん試合なんやないですか?」

「むぅ……いや、アメリカさんにはたしかに手ぶらで帰ってもらうが、我々はしっかり各選手に経験を積ませていくつもりだぞ。 2セット目からは世界経験の無い藍沢妹と月島妹を投入する。 2人も相手が2軍ならば気楽にプレー出来るだろう」

「なるほど。 ここで新人の経験値をね」


 田中さんは納得したように頷くが、麻美ちゃんは少し迷いながら監督に話しかける。


「私、足に重り巻いたままなんですけどー?」

「構わん。 いや、むしろそのまま行って『このMBミドルブロッカーは警戒する必要が無い』と思われるくらいが良い」

「そうなのー?」

「うむ、本番でパワーアップした姿を見せて度肝を抜いてやれ」

「おー! 度肝抜いてやるー!」


 監督は監督で色々と考えているみたいである。 意外と侮れないよこの人。


「というわけだ。 負けても構わないがしっかりと得る物は得てこい!」

「はい!」


 テクニカルタイムアウトを終えてコートに戻る。

 負けても良いとは言われても黙って負けるつもりはないし、まずはこのセットを取らせてもらう。


「アミ! ヤッパリスゴイデー!」

「あはは……キャミィさんも凄いよ。 正直びっくり。 最後に見た時とはまた別物だし」

「メッチャレンシューシタヤデー」


 その練習がどれだけの物だったか、この成長ぶりを見れば一目瞭然だ。 大会本番までまだ2ヶ月近くあるし、もしかしたら1軍まで上がってくるかもしれない。


「今日は負けないよ」

「コッチモヤ!」


 テクニカルタイムアウト明け最初のラリーが始まる。 サーブは遥ちゃん。


「そらっ!」


 日本チームでも上位に入る高身長から放たれる力のあるサーブを、キャミィさんがしっかりと拾う。

 レシーブも上手くなっている。 もう穴とは言えないねぇ。


 パァンッ!


 そのままあっさりとスパイクも決められて6-8。 2軍でもかなりの相手だねぇ。 早く1軍と試合してみたいよ。


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