第743話 ユーティリティープレーヤー
☆亜美視点☆
合宿4日目です。 それぞれが世界と戦う為に己のレベルアップに励んでいる。 特に麻美ちゃんは今までにないほど本気の姿勢を見せている。
これから大会が始まるまでの間、自分に足りていない高さを鍛える方針に決めたようだ。 靴下の中には紗希ちゃんから貰い受けたという、両方で3kgにもなる重りを巻いているらしい。 ワールドカップが楽しみだ。
私はというと、OHでありながらエース争奪戦には参加せず。 各ポジションの練習を転々としながら総合力アップに勤しむ。 監督さんからは、なんでも出来るユーティリティープレーヤーになってくれと頼まれた。
高校時代からそういう役割だったので、その延長だと思って頑張るよ。
今はトスをOHに上げる役をやっている。 奈央ちゃんみたいに1人1人その人にドンピシャに合うようなトスは上げられないけど、癖が無くて打ちやすいと評価されている。
「亜美、よろしく」
「奈々ちゃん行くよー」
次は奈々ちゃんにトスを上げる。 エース争奪戦でもかなり良い評価を受けているみたいだ。 弥生ちゃんや宮下さんもエース候補として名前が挙がる。
ちなみに、オリンピックでエースを張っていた田中さんは「若い子達に任せる」と自分からエース争奪戦から離脱した。
紗希ちゃんや渚ちゃんもまだまだエースの座を狙えるという事で頑張りを見せている。
正セッター争いの方は早々と決まっており、奈央ちゃんが正セッターに抜擢されている。 実力は誰が見ても明らかに抜きん出ているという事で、他の
「ちょいさーっ!」
パァンッ!
「ありゃー!」
元気良くブロックに跳んでいる麻美ちゃんだけど、足に巻いた重りの所為でジャンプの高さが出せなくなって簡単に上を抜かれてしまう。
「ぐぬぬ」
「きゃはは、重いっしょそれ。 でもそれを着けたまま今までと変わらないぐらい跳べたら、外した時はそりゃもうめっちゃ跳べるわよ」
「頑張るー!」
麻美ちゃんが高く跳べるようになったら無敵である。 いやそれは言い過ぎたけど、かなり強力なブロックになると思われる。 私も期待している。
「清水さん、そろそろ替わりますえ」
ポンポンとトスを上げていると、後ろから声を掛けられる。 私達より1つ上の先輩である眞鍋先輩だ。
Sである。 私もそろそろブロックの練習に行きたいと思っていたのでちょうど良かった。
「お願いします」
持ち場を離れて今度はMBさん達の輪の中へ移動する。
「あ、亜美姉だ」
「やほ」
「スパイク打たなくて良いのかい?」
背後から遥ちゃんに問いかけかれる。
「うん。 昨日一杯打ったからね。 今日は他ポジションだよ」
「大変だねー、万能選手は」
「亜美姉は天才ー」
と持て囃されながらコートに入る。 お、次のスパイカーは紗希ちゃんか。 止めるぞー。
「おりゃー!」
「とう!」
紗希ちゃんのスパイクを止める為に、遥ちゃんと2人でブロックに跳ぶ。 私と遥ちゃんが作るブロックは、結構な高さがある。 これなら紗希ちゃんと言えども上を抜く事は出来ないだろう。
「むふふ! コメットインパクトー!」
と、技名を叫びながら腕を振りかぶる紗希ちゃん。 たしかその技はインナークロス気味の打ち下ろし。
パァンッ!
紗希ちゃんの放ったスパイクは、ありえない角度で決まった。 これはまた凄いスパイクだ。
「どよー!」
「めちゃくちゃなスパイクだなそれ」
「ふふふ! 私は最強!」
実際このスパイクはかなりやばいと思う。 インナークロス気味の打ち下ろし、そこにはあまり守りの選手はいない。 かなり決定率の高そうなスパイクだ。
「紗希やるやん。 ほな次はウチ行くで!」
続けて弥生ちゃんのスパイクを受けるよ。 奈々ちゃん程のパワーではないけど、それでも強烈なスパイクを持っている。
「おらぁ!」
パァンッ!
弥生ちゃんのサーブは遥ちゃんが綺麗にシャットアウト。 どうやら読み勝ったらしい。
「くっ」
「よし。 どうだ月島ー」
「今度は抜いたる」
「おうおう、次も止めてやんよー」
今日は遥ちゃんの調子も良いみたいだ。 読みが冴えているみたいである。
私と遥ちゃんは一旦コートの外に出て他のMBと交替する。
「亜美姉は忙しいねー。 あっち行ったりこっち行ったり」
「ユーティリティープレーヤーだからねぇ」
「全ポジションを出来るようになれってかー。 小林監督もとんでもないこと言うよなー」
「月ノ木でもユーティティーだったよ?」
「それもそうだったな」
私は元々OHとしてバレーボールを始めたんだけど、最初に中学でプレーするにあたり希望ちゃんの交替で入るMBとして起用された。 その中で奈央ちゃんがトスできない場面でトスを上げたりする機会も増え、気付いたら何でも出来ちゃうようになっていたのである。 そこからはOHとしてコートに立ちながらも、守備やトスもするようなユーティリティプレーヤーとなっていった。
「凄いよねー、どんなポジションも出来ちゃうって。 しかもどれをとっても一流レベルって化け物だよー」
「人間だよー!」
「ははは、でもそんなプレーヤー、亜美ちゃんぐらいだろうな。 世界広しといえどもね」
「いやいや世界は広いよ」
私の知らない凄いプレーヤーが世界にはいるかもしれない。 それこそ今度のワールドカップで出会うかもしれない。 そんな人と勝負できるのはとても楽しみである。
「私は亜美ちゃんみたいな化け物がまだいるなんて考えたくないけどなぁ」
「私もだよー」
「人間なんだけどなぁ……」
◆◇◆◇◆◇
この日の練習も無事終了。 毎度のごとく銭湯へとやって来て汗と疲れを流していく。
「ふぅ、今日も疲れが取れるわね」
「そだねぇ」
今日は私もあちこちのポジションで練習してお疲れモードである。 奈々ちゃんと同じく年寄り臭くなっているよ。
「亜美ちゃん本当になんでも出来ちゃって凄いよぅ」
「でも、一つ一つのポジションの技術は皆には劣るよ。 万能だけどスペシャリストにはなれないねぇ」
「せやかてそれでもその辺のプレーヤーよりは遥に上やで。 普通やないであんさんは」
「ん-。 そうかなぁ」
「そうですわよ。 大体亜美ちゃんはバレーボール以外も相当ぶっ飛んでるじゃない。 初めてやったテニスで県大会準優勝の人に勝ったり」
「あったねぇ」
それを聞いた弥生ちゃんに「あんさんほんまなんやの」と呆れられてしまうのでした。
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