第740話 月島姉妹
☆渚視点☆
練習2日目──。
代表合宿だけあって練習レベルはかなり高い。 ついていくのも大変や。
私ら
ただ約1名、そのブロックより高い所から打ってる人がおるけどあの人は別格やな。
「しかし高いブロックね。 こんなのから点取れんのかしら?」
と、スパイクを打ち終わって戻ってきた藍沢先輩が漏らす。 動かない人形だから良いようなものの、実際には相手も動いてくる。 簡単には決められないやろなぁ。
「ほなら次はウチが行くで!」
と、お姉ちゃんが手を上げて助走に入る。 大きく跳躍して力強くスパイクを打ち込む。
パァンッ!
バキッ!
「きゃははは! 人形の腕がへし折れたじゃないの!」
お姉ちゃんはブロック人形を避けずに真正面からスパイクを叩き込み壊した。
「誰だー! 俺お手製の人形を壊したのは!」
「す、すんません! ウチです!」
「苦労したんだぞー! まったく」
どうやら監督自らが作ったらしい。 腕の部分が折れただけやから、そのまま使う分には問題無しみたいや。
「小林監督の作った人形が脆すぎんねや」
「いやいや、そもそもブロックを躱す練習なんだからぶつけちゃダメでしょ」
藍沢先輩に冷静にツッコまれるお姉ちゃんだった。
順番に打ち回しながら午前の練習を終えた私達は、休憩タイム。 これまたコーチ陣が用意してくれた昼ご飯を頂いている。
「せやけど渚も中々レベルアップしよったな」
「そやろか? お姉ちゃんとか他の先輩見てたら自信無くしそうやけど」
「まあ、渚の先輩は化け物揃いやからなぁ。 あんなとこで鍛えられたんやからレベルアップもするか」
「人間だよ」
話を聞いていた清水先輩から恒例の返しだ。 そやけどお姉ちゃんの言うた通りで、とんでもない先輩達に鍛えられたおかげで私はかなりレベルアップ出来たと思うてる。 月ノ木学園に入学してほんまに良かった。 い、今井先輩にも出逢えたし。
「亜美ちゃんを始め、月ノ木の皆にはほんま感謝やで。 ウチの妹のことよう見てくれて助かるわ」
「ま、大事な後輩だしね」
「そゆことー」
先輩方は軽い感じて応えていた。
「なははは! 渚より私の方が上だー!」
話に割って入って来たのは私の同級生で親友にしてライバルの麻美。 ポジションこそ違えど1年生の頃からレギュラーとして競い合ってきた。 たしかに麻美はそこらのMBとはわけが違う。 感覚派で何をしでかすかわからないところがあるが、見る人が見ればそのプレーは天才のそれだ。
正直な話、私は麻美に比べて数段劣ると思うてる。 私は天才やないからな。 やけど、麻美本人に「負けた」とは言いたくない。
「アホ、私が上や」
と、大体いつもこうなる。
「ははは! ライバルが近くにおってええな。 大事にしぃや渚」
「わ、わかってるて……」
「なははは」
そのライバルさんはあまり深くは考えていないのか、いつも通りヘラヘラと笑っていた。
午後からは本物のMBを相手にスパイクをする練習になった。 高さはさっきまで使っていた人形に比べると幾分低いけど、動きがある分実戦的でやりやすい。
「はっ!」
「うぇーい」
パァンッ!
私のスパイクは麻美にいとも簡単にシャットアウトされてしまう。 麻美曰くまだまだ駆け引きが弱いとの事。 中々そういうのが上手くならへんな。
「ふむ。 渚ちょっとこっち来ぃや」
と、手が空いているお姉ちゃんに呼ばれてそちらへ向かう。
「なんやの?」
「渚、あんたちゃんと空中で駆け引きしとるんか? 藍沢妹にええように誘導されてるように見えるで」
「うっ……あの子そういうのがとてつもなく上手いんよ」
「まあ、せやなぁ。 正直言うてウチも、ついでに美智香もあの子のブロックは苦手や。 一瞬の読み合いになった時の引き出しの多さが尋常やない。 それに加えてアタッカーの癖を見抜く眼力、相手の狙いを読む嗅覚、どれを取っても一級品やでアレは。 日本の女子バレー界で見てもかなり上位に食い込むやろな。 現に今は日本代表にまでなっとるし」
と、お姉ちゃんの麻美への評価はかなり高いらしい。 ちょっと悔しいな。
「せやけど、こっちにかて駆け引きの手札はあるんや。 渚はその手札をちゃんと切っとるかっちゅう話や」
「駆け引きの……手札?」
「そや。 あんた、スパイク打つ時とりあえず空いたコースに打つ癖あらへんか?」
「……」
考えてもみんかったけど、言われて思い返してみたらそう言った節がある気がする。 以前マリアもそれを指摘されていたことあったな。 そうか、私もあの時のマリアと同じなんや。
「ブロックに止められへんようにスパイクを打つのは大事な事やで? せやけどそれは駆け引きに使う手札の1つや。 他にもブロックアウト取りに行く動きを見せたりフェイントでタイミングずらしたり、他にもインナークロスを狙ってみたりと選択肢を散らしていって、ブロッカーにこんだけカードがあるんやでってのを見せなあかん。 その中からどれを選ぶか、そこからはジャンケンや。 まあ、藍沢妹はそのジャンケンが異様に強いんやけどな。 ま、お姉ちゃんからのアドバイスはこんなもんや。 これから世界を相手に戦うんや、この事はよう覚え時や? 藍沢妹みたいなんがウヨウヨおるかもしれんで」
と言われて少し想像してみる……。 相手コートにずらりと並ぶ麻美……。
「なははは!」
「うぇーい!」
「ちょいさーっ!」
「うわっはっはっは!」
さすがにそれは嫌すぎるで。 せやけど確かに今まではごり押しでもなんとかなってたとこがある。 それは今まで代表クラスのMBと対峙した経験が無かったからに他あらへん。 でもこれからはそんな力技だけでは勝てへんくなってくる。 世界ってのはそういう舞台なんや。
「おおきにやでお姉ちゃん。 今度から気を付けてみるわ」
「おう、頑張りや渚」
と、姉妹で話していると清水先輩と藍沢先輩が近付いてきた。
「姉妹で仲睦まじいねぇ」
「ほんと、うちとは大違いね」
「何言うてんの。 ウチから見たら藍沢さんとこも相当仲ええで」
「どうかしらね」
「でも、私達が教えられてなかったのはよくなかったねぇ」
「いやいや、そんなことあらへんよ。 亜美ちゃん達はよう渚を鍛えてくれたで。 2年間で時間も無かったやろうに」
「ほんま感謝してます」
「あはは、そう言ってもらえてホッとしたよ」
「これからも時間があったら色々教えてあげるから覚悟しときなさいよ?」
と、藍沢先輩に肩を叩かれる。
「はい!」
「ぶーっ! 私のお姉ちゃんだよー! 私にも教えてよー!」
と、遠くから麻美が吼えているのが聞こえてくる。 どういう耳しとんねん。
藍沢先輩は「MBは専門外なのよ。 遥に教わりなさい」と正直に返答していたが、麻美は「ぶーぶー」と頬を膨らませて不機嫌になるのだった。 なんだかんだ言ってお姉ちゃんっ子らしい。
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