第739話 ハードな練習
☆亜美視点☆
夜です。 夕食を食べ終えた私達は、ミーティングに参加しています。 明日からの練習内容やワールドカップバレーの日程等の情報を共有する。
更に、ワールドカップに出てくるチームの中でも強敵になりそうなチームをピックアップして、要注意プレーヤー等の説明もあった。 その中には私達が世界選手権で対戦した、イタリアのアンジェラさんやアメリカのオリヴィアさんの名前があった。 私達と同世代のプレーヤー達が今大会はかなり強いみたいである。
「オリヴィアめ。 今度はコテンパンにしたる」
「あはは」
「そう言えばあなた達は世界選手権で対戦経験があるんだったわね。 情報提供お願いできるかしら?」
今回のワールドカップは、もちろん私達ルーキーだけではなく、オリンピックなどで活躍したベテランさんも代表入りしている。 ベテランさん達は当然私達の世代のプレーヤーについて詳しくは知らない。
なので、私達が持ち得る情報を提供して共有する。 逆に私達はベテラン世代のプレーヤーをよく知らないので、提供してもらうのであった。
今大会、優勝候補はキューバ、アメリカ、そしてなんと私達日本が挙がっているとの事。
世界選手権優勝の実績のある私達が参加しているという事で評価が上がっているようです。 これは俄然やる気が出るというもの。 頑張るよ。
「というわけで明日から練習ガンガン行くからなぁ」
「はい!」
「それと、高校生の者達は合宿後のインターハイもあるからなぁ。 各学校から選手を預かる身としてもケガなどをさせるわけにはいかんので注意するように」
「はい!」
かくして初日のミーティングは終了となり、明日から本格的な練習が始まることとなる。
◆◇◆◇◆◇
翌日──。
ホテルから程近い体育館を借りてひたすらに練習である。 私達攻撃陣のプレーヤーは、
具体的には反対コートにターゲットを置いて、それを中心とした半径40cmの円を描き、その中にスパイクを打ち込む練習だ。
「よっ!」
パァンッ!
私のスパイクはターゲットの左側10cm地点に着弾。 当然狙い通りだ。
「さすが清水さんやるー」
私の後ろに並んでいた宮下さんから褒められる。
私はピンポイントを狙ってスパイクやサーブを打つのが得意なのだ。
続く宮下さんもコースの打ち分けには自信のあるプレーヤーだ。 何なくターゲットの近くに打ち込んで見せた。
逆にこういう繊細なプレーがあまり得意ではないのが奈々ちゃん、弥生ちゃん、渚ちゃんといったパワー系プレーヤーだ。 大阪の黛姉さんの方は普通なようだ。
「おりゃ!」
パァンッ!
「あかんか」
「ふふ、まだまだ甘いわね、弥生」
「ほな紗希やってみいや」
「見てなさいよー。 奈央、トスよろしく!」
「はいはい」
奈央ちゃんのトスに合わせて紗希ちゃんがスパイクを放つ。
「ていっ!」
パァンッ!
紗希ちゃんのスパイクはターゲットの右横20cm地点に着弾させる。 かなり良い制球力だ。
紗希ちゃんもパワーの割には制球力のあるプレーヤーだね。 奈々ちゃんや渚ちゃんも挑戦するが、ターゲットからはちょっと遠い位置に決めていた。
「ダメね。 あの円の中に入れるのがやっとだわ」
「いや、十分だよ。 それの練習なんだから」
「どうせならターゲットにズバッとブチ当てたいのよ」
「壊れちゃうよ……」
私も当てないようにして打ったぐらいだもん。 当てようと思えばできるけどね。
さて、今回こういったコースの打ち分けを練習するのは、相手がパワー自慢の海外勢であるからだろう。 オリヴィアさんのような長身かつパワーのあるブロックが相手となってくる以上、パワーで勝負するのはリスキーだという事だろう。 私達のようなフィジカルで劣るプレーヤーは小手先の技術で上回っていくしかない。
「大体、私には世界と戦えるだけのパワーがあるっての」
と、奈々ちゃん。 たしかに奈々ちゃんのパワーは世界レベルだと思う。 だけどそれでもコントロールは大事だと思われる。 強力なブロッカー達と渡り合うのに力でごり押しだけでは辛いとだろう。
「藍沢ー。 パワーだけで世界のトップと渡り合おうと思うな」
珍しく監督も奈々ちゃんの言い分を咎めている、 それだけ今大会は本気で頂点を目指しているのだという事が窺える。 奈々ちゃんも「はい」と大人しく言うことを聞いて練習を続けているし、監督の気持ちは伝わったのだろう。
さて、他のポジションの選手はというと、これまたハードそうな練習をしているよ。
特に
◆◇◆◇◆◇
その練習は適時休憩を挟みながら夕方まで続いた。 練習を終えた私達はさすがにヘトヘトである。
近くに銭湯があるという話を聞きつけた私達は、練習の疲れを癒すために先頭へとやってまいりました。
「くぅーっ……生き返るわー」
「相変わらずだねぇ奈々ちゃん」
「にしても、ハードな内容でしたわねぇ」
「はぅ……くたくただよぅ」
「ですねぇ……」
リベロ勢の希望ちゃんと新田さんは特にかなり疲れを見せているようだ。 ただそのかわり、毎日あのようなメニューというわけではなく、明日は軽い調整をして疲れを抜き、またその翌日にハードな練習という風に間隔を空けながらやるとの事。 さすがにあんなのを連日やってたら、希望ちゃん達倒れちゃうもんねぇ。
「せやけど小林のおっさんやる気やなぁ。 ウチらより張り切っとるやん」
「それだけ私達に期待してるんでしょー」
「でしょうねー」
紗希ちゃんと宮下さんは小林監督の期待に気付いているみたいです。 私達なら世界と戦えると信じてくれているからこそ、厳しい練習を課しているのだろう。 ベテランの先輩さん達も、今回の練習は過去に類を見ない厳しさだと言っていた。 その事からも私達がかなり期待されているのだとわかる。 私達はその期待に応えなければならない。 もう一度、日本のバレーボールを世界一へ。
「そやけど、世界のレベルっちゅうのはそんな高いもんなんやろか?」
「あんた、世界選手権どんだけ大変だったか忘れたわけ? 総力戦でようやく優勝をもぎ取ったじゃない?」
「せやったっけ」
と、弥生ちゃんはとぼけているけど、かく言う弥生ちゃんも全力を出し尽くして最後はベンチに下がっていたほど全員バレーだった。 ワールドカップともなればそのレベルはあの時以上であろうという事は容易に想像できる。 私達のバレーボールがどれだけ通用するかはわからない。
この合宿で大幅にレベルアップして本番に臨みたいところである。
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