第717話 可愛い妹分

 ☆亜美視点☆


 東京最後の夜である。

 皆で同じホテルに泊まり明日には千葉へ帰るよ。

 今は皆で近場のレストランで夕食タイムである。


「予知夢?」


 奈々ちゃんが夢を見たという話を聞いています。

 夢ぐらいは誰しも見る物だと思うけど、奈々ちゃんはそれを予知夢だと思っているみたい。


「まあ、だったら良いなって思うだけだけどさ」

「良い夢だったわけですわね」

「宏太くんと結婚する夢?」

「違うけど」


 違うらしい。 じゃあどんな夢を見たのかを聞いてみたところ。


「私達がさ、大学卒業後に同じVリーグのチームで皆揃ってコートの上に立ってる夢よ」


 と、奈々ちゃんが言う。

 それはなんとも素敵な夢ではある。 実現すればどれほど嬉しいだろうね。


「奈央さ、以前チーム作りたいとか言ってたわよね?」

「言ったわよ。 今はまだ手付かずだけど、その気持ちは今でもあるわ」


 奈央ちゃんは今でもチームを作りたいと思っているみたいだ。 じゃあきっと実現するね。 私達が全員揃ったチーム。


「さて、夢の話はおしまい。 明日からはまた日常ね」

「そだねぇ」


 明日千葉へ帰ればいつもの日々が始まる。

 大学へ行ったり家事をしたり。 人によってはアルバイトもしたりという日々。

 そいえば夕ちゃんはどうしてるかな? 春くんに迷惑かけてないかな?

 後で連絡でも入れてみよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで、部屋に戻ってきた私は早速夕ちゃんにお電話してみるよ。


「もしもーし」

「おー! 亜美姉!」


 あれ? かける相手間違えたかな? と思い液晶を見てみるも、そこにはしっかり「夕ちゃん」と書かれている。

 はて?


「麻美ちゃん? どうして夕ちゃんのスマホを?」

「なはは、今夕也兄ぃは藍沢家に来てるんだよー。 夕飯とかお風呂とか。 あ、今お風呂中だから私が代わりに出たのだ!」


 ということらしい。 どうやら藍沢家に色々とお世話になっているみたいだ。


「皆は明日帰ってくるんだっけ?」

「うん、そだよ」

「夕也兄ぃを誘惑するには今日がラストチャンスだー!」

「あのねぇ……せめて私に聞こえない様に心の中で言うとかさぁ」

「あははは! 口に出した方が亜美姉には効果あるからねー」

「はぁ……」


 麻美ちゃんは中々に侮れない相手だよ。 夕ちゃんへの愛情は私よりも深い。 それに結構夕ちゃんへのアタックも激しく、油断出来ないのである。


「ま、亜美姉や希望姉がいない間にどうこうするのはフェアじゃないからやらないけどね。 今日は一日夕也兄ぃとゲームしてたのだ。 この後も寝るまでゲーム三昧」

「麻美ちゃん、受験生だよね?」

「なはは! レベル落として七星にしてるから大丈夫だよー」

「ダメだよ気を抜いてちゃ」

「亜美姉、お母さんみたいー……」


 多分おばさんにも同じ様な事を言われたんだろうね。

 麻美ちゃんと話を続けていると、背後から夕ちゃんの声が聞こえてきた。 どうやらお風呂から上がって来たみたいだ。


「麻美ちゃん、人の電話を勝手に取るなよー。 俺だから良いけどよ」

「あはは! 夕也兄ぃの以外取らないよー。 はい、亜美姉からだよー」

「出来れば俺のも取らないでほしいんだが。 もしもし、亜美か?」


 どうやら夕ちゃんに替わったみたいだ。

 明日には会えるけど早く顔が見たいねぇ。


「うん。 藍沢家に迷惑かけてない?」

「おう、大丈夫だ。 おじさんもおばさんもよくしてくれるよ。 風呂も上がったしそろそろ帰るつもりで……」

「ぶーっ! 泊まってきなよー! 一緒にゲームしようよー!」


 隣にはまだ麻美ちゃんがいるらしく、もう帰ると言う夕ちゃんに対して怒っているようであった。 泊まらせたいみたいだね。


「良いんじゃない? 別に泊まっても」

「お、お前なぁ……」

「別に何もしないでしょ? ゲームだけなら別に私は構わないよ」

「う、うーむ」

「マロンや海水魚さん、希望ちゃんのハムちゃん達のお世話は済んでるんでしょ?」

「おう。 それは春人が来てやってくれた」


 その辺は春くんにお願いしてあるので問題無いみたいだ。 夕ちゃんは相変わらず困ったような声音で「しかしなぁ」と唸っている。

 夕ちゃんは夕ちゃんで、麻美ちゃんの行動を警戒しているみたいである。 行動力の塊みたいな子だからそれも仕方がない。 でもそれと同時に律儀な子でもある。

先程、私や希望ちゃんがいない時にどうこうするのはフェアじゃないと自分で言っていた通り、今日夕ちゃんが藍沢家に泊まったとしても本当に何もしないだろう。

 麻美ちゃんはああ見えてちゃんとしているのだ。


「麻美ちゃんに替わって?」

「ん? お、おう」


 すぐに電話の相手が麻美ちゃんに替わる。

 夕ちゃんが帰ると言うので少々不機嫌である。 わかりやすいなぁと苦笑しつつも、麻美ちゃんとお話しを始める。


「約束」

「約束ー?」


 おそらく電話の向こうでは、首を傾げる様な動作をしながら話を聞いているだろう。

 私が提示した約束はただ一つ。


「今日、夕ちゃんがそっちに泊まっても、夕ちゃんが困る事は一切しないって約束できる?」


 麻美ちゃんは私の言った事をゆっくりと咀嚼するように繰り返し……。


「できるー!」

「うんうん。 約束だよ」

「約束!」


 電話の向こうでは、間違いなくニコニコ笑顔になっているであろう。 声音でわかる。 一瞬で先程の不機嫌な様子が吹き飛んだからね。

 私は再度夕ちゃんに替わるようにお願いして夕ちゃんとお話しをする。


「麻美ちゃんには約束させたから、今日は泊まりでも大丈夫だよ。 麻美ちゃんの遊び相手になってあげて」

「はぁ。 お前変わってるよなぁ……。 了解! 今日は藍沢家に泊まってくわ」

「やったー!」


 後ろの方から麻美ちゃんが大喜びする声が聞こえてきた。 私もまだまだ甘いとは思いつつ、可愛い妹分に多少の幸せのお裾分けをしてあげるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 さて、部屋に付いているお風呂で入浴を済ませた私は、奈央ちゃんの部屋へ行き、恒例の紗希ちゃんとのビデオ通話タイムに入ります。

 今日は他の皆も集合しているので、賑やかな通話になるだろう。


「もしもし。 って、皆いるじゃん! きゃはは」

「元気そうね」


 奈々ちゃんが画面に映る紗希ちゃんの顔を見て言うと、紗希ちゃんは「あったりまえよ!」と元気に返答する。 隣からは女の子の笑い声が聞こえてくるので、すぐ横には青砥さんもいるのだろう。


「そういや、亜美ちゃんと奈央に勝ったらしいわね? やるじゃない奈々美」

「まあね。 これが私の実力よ実力」


 威張る奈々ちゃんに対して、奈央ちゃんが「たまたま流れが向いただけじゃないの」と小さな声で呟く。

 それは当然紗希ちゃんにも聞こえており「きゃはは! 奈央めっちゃ悔しそうじゃん」と爆笑するのだった。

 紗希ちゃんは現在、自分のデザイナーとしての力を測る為に、色々なデザインコンクールに自分の作品を応募しているとの事。

 夢に向かってどんどん突き進んでいるみたいだ。

 今日は京都散策に出かけていたらしく、相変わらず碁盤の目みたいになっている京都の地理が頭に入ってこないと文句を言っていた。 これを弥生ちゃんが聞いたら怒るだろうなぁ。

 今度の休みは足を伸ばして大阪へ行ってみるとの事。

 何だかんだ楽しんでいるようで何よりだ。

 夜も遅くなってきたので、通話を切り各々部屋へ戻る。 明日は千葉へ帰るよ。

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