第669話 七星大学VS青葉丘教育大学

 ☆奈々美視点☆


 今日は4月21日。

 大学生活にもまあまあ慣れてきたわけで、部活の方もぼちぼち頑張っているわ。

 そんな部活だけど、今日は練習試合の予定が組まれている。

 相手は青葉丘教育大学。 希望がいる大学よ。

 まさかこんなに早くに知り合いとの対戦が実現するなんてね。


「希望が相手か……チームメイトだった時は頼りになるバックだったけど、敵に回すと怖い相手だわ」


 私のスパイク、通用するかしら?


「楽しみだわ」


 亜美との対戦も楽しみにしてはいるけど、希望や遥との対戦も同じぐらい楽しみにしている。

 個人的に一番対戦したいのは紗希なんだけど、これは叶いそうにない。


「先方到着したみたいよ」


 キャプテンがそう言うと、監督が大勢の人間を引き連れて体育館へとやって来た。

 その中には見知った顔もある。


「いるいる」


 あちらも私に気が付いたらしく、小さく手を振ってきた。

 私もそれに応えて手を振る。

 何だかんだ言って馴染めているみたいね。

 心を鬼にして特訓に付き合った甲斐があったわね。


 とりあえずコートを青葉丘に貸してウォーミングアップの時間を作る。

 ふむ、皆良い動きしてるわね。 ただ、インハイとかで全国区のプレーを見てきた私からすると、やっぱりムラが多く見える。


「あの子だけは相変わらずキレキレねー……」


 希望はやはりリベロでの参加のようで、1人だけ違うユニフォームを身に付けている。

 しっかり1年レギュラーになってるあたり、リベロの中では青葉丘一だと認められたって事かしら?

 まあ、実績と実力から考えても当然よね。


 ウォーミングアップが終了したらしいので、試合開始前に少し希望と話をする事に。


「あ、奈々美ちゃん。 こんにちはー」

「ようこそ七星大へ。 今日は負けないわよ」

「ふんすっ! 私だって負けないよぅ!」


 おーおー、希望にしては熱くなってるわね。

 これは良い試合になりそうだわ。

 

 さて、私の戦力分析だと総合力ならうちのチームの方が少し上だと思うのよね。

 ただ問題があるとすれば、うちのアタッカー達が希望の守備を抜けるかどうか。

 何せ相手は世界で活躍したリベロ。 並のレベルの攻撃なら軽く拾ってくる可能性が高い。

 たとえ受験勉強で鈍っているとしてもね。


「さあ、じゃあ始めましょうか」


 というわけで練習試合開始。

 

 私は前衛のレフトスタート。

 まあ、いつものポジションね。

 サーブは私達七星大学から。

 

「ナイサー!」


 パァン!


 3年の先輩サーブが飛んでいく。

 セッターなんだけど、中々に良いサーブを打つわ。

 しかし、希望相手では心許ないかしらね。


「はいっ」


 と、やはり簡単にレシーブを上げてしまう希望。

 またこれはセッターが喜びそうなレシーブね。

 セッター定位置じゃない。


「はいっ!」


 パァン!


 ブロックを抜かれてまずは1点を先制される。

 まあ、仕方ないか。


 今度は青葉丘のサーブ。


 パァン!


「はいよ!」

「藍沢さん!」


 トスが私に上がったので、私の全力スパイクを叩き込む。


「はあっ!」


 スパァン!


「はぅっ!」


 私のスパイクに飛びついてレシーブを上げる希望。

 あれを拾うのね。 やっぱとんでもない子ね。

 

「はっ!」


 パァン!


 ピッ!


 連続失点。 本気の希望からスパイク決めるのは相当骨が折れそうだわ。



 ◆◇◆◇◆◇



 何とかセットカウント1ー1で最終セットまで持ち込んだものの、希望がコートにいる間の得点力がガクッと落ちる。

 まさかこんなに拾ってくるとは思わなかった。

 さすが弥生や宮下さんを相手にしてきただけあるわ。


「それにしても、藍沢さんもあっちの雪村さんはやっぱりレベルが段違いだわね。 これが全国区ってやつなのね」

「雪村さんがコートにいると、相手コートが狭く感じますね」

「どこに打っても拾われる気がするんよね。 ありゃ正真正銘化け物だ」


 うちの先輩達の希望への評価もかなり高いみたいね。

 こんなのと地区大会で当たるって考えると、先が思いやられるわ。


 最終セットに入っても希望はキレキレ。

 私や先輩のスパイクを拾いまくる。

 その間相手のスパイクはバンバン決まり、気が付くと10ー18と大差をつけられていた。


「ぐぬー。 強い」

「スパイク決まらないわ」

「まさに鉄壁って感じー」


 絶対に拾ってくるってわけじゃないけど、そう錯覚させるだけのプレッシャーが希望にはある。

 普段ボケボケなのに、リベロとしてコートに立つとどうしてあんな風に人が変わるのかしら。


「このまま引き下がるつもりは無いけど……」



 ◆◇◆◇◆◇



 ピッ!


「試合終了! セットカウント1ー2で青葉丘教育大学勝利!」

「ありがとうございました!」


 結果はご覧の通り。

 総合力では優勢だと思ってたけど、守備力の差が如実に出た試合だった。

 それはコーチや先輩達もわかったらしく、今後の練習方針について考え直す事になりそうだということ。


 私もまだまだ課題が残っているみたい。 今日の試合は良い経験になったわ。


 クールダウンした後、帰っていく青葉丘のメンバーの中で、希望だけが残っていた。

 どうやら私を待っているみたい。


「ミーティングあるんだけど待てる?」

「うん。 大丈夫だよぅ」

「ごめんね。 帰りには夕也引っ張ってくる」

「あはは、待ってるよぅ」


 希望を近くで待たせておいて、とりあえずミーティングに参加する。

 ミーティングでは今日の試合の反省点や、課題、これからの方針なんかを細かく話しあった。

 練習日数が少なくて緩いチームかと思った思ったけど、存外やる気のあるチームみたい。

 一応インカレ目指してるらしいから当然よね。


 ミーティングを終えて、キャンパスで暇していた夕也をとっ捕まえて希望の元へ。


「お待たせ」

「おかえりー。 本当に夕也くん引っ張ってきたんだね」

「よ。 練習試合やってたんだっけな? お疲れ」

「うんうん。 奈々美ちゃんに勝ったよぅ!」

「ぐぬ。 いや、完敗だけど」

「でもでも、やっぱり奈々美ちゃんのスパイクは拾うの大変だったよ」

「割と楽に拾ってなかった?」

「全然だよぅ? 何とか食らいついてたって感じかな」

「それでも拾ってたんだし、やっぱり凄いわよ」

「私まだまだ精進だよぅ。 亜美ちゃん、奈央ちゃんや遥ちゃんだって一筋縄じゃいかないし」

「白山大が本当にやばいわよね。 亜美と奈央が揃ってる時点で頭3つぐらい抜けてるっての」

「やっぱりあの2人は凄いのかぁ」


 夕也が呑気にそう呟く。

 亜美の話によると、チーム力もそこそこあるらしい。

 まだ練習試合とかはまだやってないみたいだけど、間違いなく強いはず。


「あー、早く皆と練習試合したいわねー。 監督に進言してみようかしら……」

「いやでも地区予選でぶつかるよぅ」


 と、希望は言うけど、全員と試合出来るかどうかわからないのがね?

 トーナメント運によるとこあるし。


「やっぱりバレーは楽しいわね。 こうやって、高校時代の仲間と勝負が出来るんだもの。 続けて良かったわ」

「そうだね。 私も自分に自信ついたし、大学バレーを続ける選択は良い選択だったと思う」

「希望、今度やる時は私が勝つから」

「ふんすっ! こてんぱんにしてあげるよぅ!」

「仲良くなぁ」


 希望との対戦は負けたけど、まだまだリベンジの機会はあるはず。

 もっと強くなるわよ。

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