第668話 バレーボール

 ☆希望視点☆


 大学生になって早10日。 徐々に新しい環境にも慣れてきた今日この頃、私は部活案内のチラシを見ながら、バレーボール部の練習場を目指して歩いています。

 講義には出来るだけ出ているおかげで、随分と人見知りも消えて普通に過ごせるようになってきました。

 今まで特訓に付き合ってくれた亜美ちゃんと奈々美ちゃんに感謝です。

 今日は先輩とも会うからまた人見知り発動しちゃうかもだけど、バレーボールを続ける為には頑張らないといけないね。


 さて、私以外の皆はというと、亜美ちゃんと奈央ちゃんは白山大学バレーボール部に入って活動を開始、遥ちゃんも羽山体育体育大学バレーボール部に入ったとの事。 奈々美ちゃんもバレーボール部に入って早くも練習試合でスタメンに抜擢されて活躍したみたい。 紗希ちゃんはサークルでゆるーくバレーボールを続けているみたいだけど、サークルのメンバーからはバレー部で本格的にやることを勧められているみたいです。

 紗希ちゃんも凄いプレーヤーだもんね、サークル活動だけで終わらせるのももったいないと思うけど、練習時間やバイト、勉強時間まで考えると大変なのだろう。

 小説、勉強、部活に家事をこなしている亜美ちゃんがちょっとおかしいのだ。


「ここだ」


 バレーボール部の専用体育館へとやって来た私は、恐る恐る体育館の扉を開けて中を覗いてみる。


 キュッ! キュッ!


体育館からは聞き慣れたバレーシューズが床を擦る音が聞こえてきている。

 うーん、良い音だよぅ。


「新入生?」

「ひゃぅっ?!」


 扉の前でボーッとしていたら、先輩らしき人が近付いて来て声を掛けてきた。


「今年は1年生の新入部員もそこそこいて賑やかになりそうね。 どうぞ入って……って、貴女もしかして……」

「は、はぅ」

「そ、その困った時に出る独特の口癖はまさしく?!」


 あわわわ、なんだかすごい勢いでにじり寄ってくる先輩にたじろぐ。

 どうやら世界大会やインターハイでの活躍の所為か、バレーボール界隈では相当顔が知れ渡ってるみたいだよ。


「やっぱり! 月ノ木学園のリベロの雪村希望!」

「は、はひぃ」


 というわけで、簡単にバレてしまった。 まぁ、それはそれでいいんだけど。


「どうぞどうぞ、こちらへー」


 手を引っ張られて体育館の中へと連れて行かれる。 まだ入部するって言ってないのに。


「はいはい、今日もまた新入部員来たわよー! しかもしかも超大物!」

「大物って?」

「聞いて驚いて! 一昨年の世界選手権のユース大会、日本ユース正リベロの雪村希望さんよ!」

「おお!」

「日本ユース!!」

「凄いの来たー!!」


 と、バレーボール部一同大盛り上がり。 私はというと、さすがにちょっと怖くなって小さくなっています。 人見知り、随分マシになったとはいえこの勢いで来られるとさすがにさすがに……。


 声を上ずらせながらも何とか自己紹介を済ませる。


「イヤーでも助かるわー。 まさか超一流が来てくれるなんて」

「いやいやそんな……」

「噂によると七星大学に藍沢奈々美さん、白山大学に清水亜美さんと西條奈央さん、羽山体育に蒼井遥さんが行ったって話だけど、これで私達も戦いの土俵に立てるってわけね」

「その4人に比べると私はそんなに……」

「否! 貴女の守備力なら、そのメンバーとも渡り合える!」


 何故か言い切られてしまったよぅ。 実際紅白戦とかでもそれなりに対戦経験はあるけど、勝ったり負けたりだ。 大体亜美ちゃんと当たると負けちゃうけど。


「いや、でも亜美ちゃんと奈央ちゃんが組む白山は強いですよぅ。 紅白戦でもその2人が組んだ時は手が付けられなかったです」

「やっぱレジェンド2人が入った白山が抜けてるわね」

「ですです」

「そういえば、もう1人いたでしょ? えーと、神崎紗希さん! 彼女は?」

「紗希ちゃんは京都へ行きましたよぅ。 夢があるってことで、そっちの大学へ。 バレーはサークル活動で続けるみたいです」

「そっかー」

「でも、ワールドカップの代表選考には来るみたいです」

「……ワールドカップの代表選考? それってもしかして雪村さんも呼ばれてたり?」

「はい、一応」

「おおおお……頑張ってね!」

「は、はい」


 どうもこの先輩はちょっとテンション高い系みたいです。 私はこういう風にガンガン来られるとビクってなっちゃうよぅ。


「まあまあ、とにかく入部するのよね?」

「は、はい」

「よし、じゃあ早速練習していく?」

「あ、あのぅ。 練習の参加についてご相談があるんですけど、監督とかコーチとかはいないですか?」

「監督はまだ来てないわねー。 コーチは今日は来ない日よ。 コーチは月水金だけ」

「そうなんですか。 えと、いずれバイトをしたいんで、練習ちょこちょこ休むことになるかもなんですが」

「あー、OKOK! そういう人多いから」

「そぅなんですね」


 という事で慣れてきたらアルバイトでも探そうと思います。 夕也くんは亜美ちゃんの薦めで緑風の方でバイトをしようと思っているみたいで、今度面接するらしい。

 奈々美ちゃんもそれを聞いて応募してたっけ。 私も緑風行きたいなぁ。



 ◆◇◆◇◆◇



 今日はそのまま練習に参加して帰ってきましたよぅ。

 家に戻ってくると夕也くんが暇そうにソファに座っていた。


「ただいま。 亜美ちゃんは?」

「まだ帰って来てねぇな」

「明日は夕也くんの誕生日だからどうするか相談したいんだけどなぁ」

「別にやらなくても良いんじゃないかぁ?」

「いや、皆がやる気満々なんだよぅ」


 何と言っても騒ぐの大好きな皆だからね。 紗希ちゃんも今回はウェブカメラで参加するらしいよぅ。

 プレゼントも既に送っていて、明日には届くようになっているらしい。

 彼氏さんも妬いちゃうんじゃ?


「そんなことより、今日はバレーボール部見てきたんだろう?」

「うん。 すぐにバレて囲まれちゃったよぅ」

「大丈夫だったか? 委縮して小さくなったりしたんじゃないのかー?」

「あはは、ちょっとだけ。 先輩がガンガン距離詰めてくるタイプでね」

「あぁ、お前が苦手そうなタイプだな」

「そうなんだよ。 でも、何とかやっていけそうだよぅ。 アルバイトの事も問題ないって言ってくれてるし、落ち着いて慣れてきたらバイト探すよ」

「そうか。 俺も緑風の面接今度の休みにあるんだよなぁ」

「あはは、亜美ちゃんが何が何でも採用されてくれって言ってたよ」

「あいつは……。 俺がバイト始めたらしょっちゅう来そうだな」

「今でも大学の帰りにしょっちゅう寄ってるって言ってたよ」


 相変わらずフルーツパフェを食べまくっているらしいよぅ。 もしかしたら今も食べてるかもしれない。


「でも、月ノ木バレー部は見事に散ったな」

「うん。 皆同じ地区だから、地区予選からバチバチだよぅ」

「どこが一番強いだろうなぁ」

「総合力なら遥ちゃんの行った羽山だね。 ただ、亜美ちゃんと奈央ちゃんが入った白山も強そうだよぅ」


 近いうちに七星大学との練習試合も予定されているという事なので、早くも奈々美ちゃんとの対戦は実現しそうです。

 結構楽しみにしているよ。

 

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