第666話 大学生活のスタート

 ☆夕也視点☆


 さて今日は4月8日。

 俺達の大学生活スタートの日である。

 着慣れないスーツなんかを来て大学の入学式に参加中。

 俺が通う予定の大学は七星大学。

 特に目標も無く大学でダラダラとしようって奴らが大体ここを目指す。

 月ノ木学園の奴らもそれなりに見かける。

 俺達のグループでこの大学を受験して受かっているのは藍沢奈々美。

 あいつとは学部が違う。

 入学式を終えた俺達は、当大学についての説明や講義の日程表何かを受け取り、本日は解散となった。



 ◆◇◆◇◆◇



「こら夕也。 何を先に帰ろうとしてんのよ」

「やめろ、スーツが伸びるだろうが」

「あんたが私を放って帰ろうとするからじゃないの」

「今日は講義も部活も無いんだろ? さっさと帰れば良いじゃないか」

「せっかちな奴ねぇ。 せっかくだから昼でも一緒に行きましょうよ」

「お前の奢りか?」

「自分の分は自分で払いなさいよ……」

「ケチな奴だな」

「はぁ……まあ、良いわよ。 1人で食べて帰るし」


 と、呆れたように溜息をついてそう言う奈々美。


「しゃーねーなー。 わかったよ。 飯ぐらいは付き合ってやらぁ」

「ふふ、さすが夕也。 押してダメなら引いてみるとすぐ釣れる」

「くそ」


 完全に弄ばれてしまうのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 奈々美と2人で近場のレストランに入り、昼食を食いながら雑談する。


「ねぇ。 あんた講義はどれくらいの頻度で出るつもり?」

「まだ何とも言えんが、それなりには出ようと思うぞ。 何せ今まで勉強する事が無かった分野だからな。 なるべく早く追いつきたい」

「ふむ、なるほどね。 私は夕也に合わせても良いわよ」

「何でだ? 好きな時に適当に出れば良いじゃないか? わざわざ俺と合わせなくても」

「1人だと寂しいでしょ? お昼とか帰りの寄り道とか」

「友達作れよ……てか部活仲間と飯食ったり寄り道すれば良いだろう?」

「あー、悲しいわね。 18年も一緒に育ってきた幼馴染だっていうのに、およよよ……」

「お前なぁ……」


 まったく奈々美の奴……。

 こいつの性格や見た目、コミュ力の高さならあっという間に一大コミュニティを形成する事なんてわけないはずなんだが、あまりそういうのを好まないらしい。

 基本的には気心知れた仲間とゆるーく過ごしたいと思っているようである。


「本当に困るのよね。 さっきもさ、同じ学部の女の子達が『この後合コンなんだけど一緒に行かない?』とか誘ってくんのよ。 彼氏待たせてるからって断ってきたけど」

「なあ。 その彼氏役が俺ってわけか?」

「ご名答!」


 なるほど納得。

 どうやらそういう誘いを躱すのに俺を使いたいわけだ。


「知らんがな」

「意地悪」

「大体お前には宏太がいるだろうが。 彼氏がいるってだけで逃げられるだろ」

「それがしつこくてねー。 どうしようか考えていたとこに帰ろうとするあんたがいたわけ」

「……まさか、俺を彼氏だって言ったんじゃないだろうな?」

「え? 言ったけど? だってそうでもしないと解放してくれなさそうだったもの」


 何を考えてんだよこいつは。 面倒くさい事になっても俺は知らんぞ。


「似たようなもんでしょ? 18年一緒にいる幼馴染と恋人なんて」

「幼馴染と恋人は違うだろうよ……」

「そうかしら? ま、良いじゃない。 大学にいる間は、私の彼氏って事で一つよろしく!」


 と、人の話をまったく聞かずに話を進める奈々美。

 よろしくじゃないんだよなぁ。


「知らんー。 そんな役割は御免だぞ」

「ダメかー……じゃあ夕也は、私が強引に合コンに付き合わされた挙句、何処の馬の骨ともわからない男にお持ち帰りされて、あんなことやこんなことされれば良いと思ってるのね? ひどいわね」

「何をめちゃくちゃな事言ってんだよ……お前なら何処の馬の骨だろうがバキバキにへし折ってしまうくせに」

「あら、試しにバキバキにしてあげましょうか?」


 と、顔は笑顔だが声音がマジギレだったので、即平謝りしておく。


「はぁ、しょうがねぇなぁ。 大学にいる間だけだぞ?」

「やっぱ夕也は最高ね。 助かるわ、ありがとうね」


 と、珍しく素直に礼を言ってくる奈々美。

 どうやら本気で合コンの誘いに困っていたらしい。

 まあ、彼氏のフリだけで済むなら安いもんだ。


「ただし、面倒な事になりそうだったらすぐに手を引くからな」

「合点!」


 本当にわかってやがんのかこの幼馴染は。

 奈々美は既に満足してしまったようで、昼飯を美味そうに頬張るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 帰り道でも他愛無い話をしながら歩く俺と奈々美。


「あんたバスケどうすんの? サークル?」

「まあ、続けるならゆるくやれるサークルがいいんだが」


 これは本音である。 鈍らない程度には続けていきたいとは思っているが、ガッツリ練習したり大会に出たりというのは正直考えていない。

 バイトやらを考えるとどうしてもな。


「ふぅん」

「何だよ」

「別に。 サークルと部活だと、帰る時間とか合わせられないなと思って」

「そこまでお前に合わせられるかよ……」

「わかってるわよ。 私だってそこまで無茶な事言うつもりはないってば」

「当たり前だ」

「でもさー、一緒に帰れる時は一緒に帰ってよね」

「はいはい」

「よしよし」


 まあ、この辺が妥協点といったとこだろう。

 あまり奈々美に振り回されてばかりもいられんからな。


「で、バイトはどうしましょうか?」


 俺はこけそうになった。

 今度は同じバイト先でバイトしようとか言い出すんじゃなかろうな?


「何をコミカルな動きしてんのよ?」

「何でもねぇ。 しかしまさか、バイト先も同じにしようってんじゃないよな?」

「バイト先も一緒しようって言ってんだなぁ、これが」


 ダメだこりゃ。


「大体、部活はサークルと違ってガチで大会目指すようなやつだろ? バイトとかやれないだろ?」

「大丈夫でしょ。 その辺はある程度融通利くでしょうしね」

「そうでっか」


 やる気あるのかよ、こいつは。


「てなわけで、バイトは多分問題無いわよ。 さあ、バイト先どうしましょ?」

「知らん。 まだ求人も見てないしこれから考えるわい」

「じゃあ帰ったら一緒に考えましょ」


 と、ノリノリの奈々美。

 俺と奈々美が仲良くバイトを探してる姿を見た亜美と希望がどんな反応するか、考えるだけで怖い。


「た、頼むから今日はやめよう。 次の登校日にでもな? な?」

「ふふ、しょうがないわね。 約束したからね」

「お、おう」


 何だかよくわからないうちに上手く丸め込まれ、一緒にバイトをする事になってしまった。

 こいつ、人心掌握術でも身につけてるのかよ……。


「ありそうだな……」

「何がありそうなのよ?」

「何でもねぇ」

「そう? いやーでも、楽しいキャンパスライフになりそうねぇ! これからもよろしく!」

「へいへい。 よろしくよろしく」


 と、適当に返しておく事にした。

 これからは奈々美と2人になる機会が多くなりそうだな。

 何だかよくわからんが、不安にしかならない大学生活がスタートする。

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