第656話 希望の幸せは?

 ☆夕也視点☆


 昼飯にボケねこ食堂とやらに入り、メソねこセットという名のハンバーグセットを食べている俺と希望。

 メソねこセットとか言われても何なのかさっぱりわからなかったんだが、希望曰くメソねこの大好物がデミグラスハンバーグなのだそうだ。

 他のセットも皆、そのキャラクターの大好物のランチセットになっているらしい。

 そんなもん、ファン以外の人間にわかるか?


「んまんまだよぅ」

「まあ、ショッピングモールのフードコートにあるような飲食店にしちゃレベル高いわな」

「んむんむ。 この後はどのお店に行こうかなぁ」


 ボケねこモールに来てからまだほとんど回っていないからな。

 希望は色々な店を回りたいと思ってるだろうし、これは時間一杯まで付き合う事になりそうだ。

 

「14時まで遊び倒すぞー」

「お、おう」


 後2時間ぐらいあるな。 俺はこの異様な空間で2時間耐えられるだろうか?

 まあ、希望に楽しんでもらう為なら多少は我慢しようかね。


「んむんむ。 でも、どうして私の周りは皆ボケねこに対しての評価低いのかな?」

「まあ、男にはあんまり刺さらないかもしれないな」

「んー」


 もうちょい可愛げのあるキャラクターならまだ良いんだが、こいつはなぁ。

 何故か細っこい体に、どうやってバランスを取っているのかわからない程の頭の大きさ。

 その表情もハッキリ言って可愛いからはかけ離れている。 何せ口はあんぐり大きく開いており、目も常に上を向いていつもヘラヘラヘラヘラした、人を小馬鹿にしたような表情をしている。

 何故あれが世の女性に人気が爆発しているのかさっぱりわからん。

 見れば見るほど腹の立つ顔をしている。


「まあ、ただヒメねこちゃんってのは割と可愛い見た目してるよな」

「ヒメねこちゃんはマドンナ的立ち位置だよ」

「まあそうなんだろうなぁ……」


 主人公格のボケねこがあの表情だから腹立つが、他の奴らはまあ、まだマシなんだよなぁ。

 何で敢えてボケねこを主人公にしちまったんだ。


「そうかー、夕也くんはヒメねこちゃん推しかー」

「推しではないが……」

「ちなみ私はメソねこくん推しだよぅ!」

「聞いてねぇなこれ」


 まあ、良いか。



 ◆◇◆◇◆◇



 昼食を食べた後はボケねこモールを散策。

 時間ギリギリまでここで過ごす事にした。


「アミューズメントエリアだよ!」

「そうだな」


 アミューズメントエリアへとやって来た俺達。

 そこにはボケねこグッズ専用のプライズゲームだらけであった。

 UFOキャッチャーを始めとしたゲームや、ボケねこキャラクターズがフレームになっているプリントシール機等で埋め尽くされている。


「よぅし、早速挑戦!」

「程々にしろよー」


 こういうのは沼にハマるとどんどんお金を入れてしまうからな。

 いくら貯金があるとはいえ、あまり無駄遣いさせるはの良くないだろう。


「メソねこちゃん待っててねー!」


 似たようなぬいぐるみ持ってると思うんだが、何でそんなに欲しいんだか。


「はぅはぅ。 どぅだ!?」


 アームが開き、ぬいぐるみを掴み上げるも上手く持ち上げられず、手ぶらになったアームがそのまま戻ってくる。


「はぅっ! もう一回!」


 それから10回ぐらい繰り返すも中々上手くいかない希望。

 こういうのは麻美ちゃんが得意なんだが……。

 おう、そうだ。


「麻美ちゃんに攻略法を聞いてみようぜ」

「はぅ?」


 というわけでビデオ通話をかけてみて状況を説明する。

 麻美ちゃんは現在、クラスの友人達とショッピング中だったらしい。


「なるほどねー。 どれどれ、見せてー」


 スマホの画面をUFOキャッチャーの方に向ける。


「ふむふむー。 よーし、希望姉! 私の言う通りにやってみて。 あと300円で取らせてあげる」

「おー!」


 300円で取れるのかこれ?

 いくらなんでもそれは……。


「まず右ー」

「右ー」

「ストップー」

「はーい」

「奥ー」

「はーい」

「ストップー」

「はいー」


 まず1回目の挑戦だが、あまり上手い感じではない。

 麻美ちゃんも電話越しではといった感じなのかもしれんな。

 そのまま2回目の挑戦だが、これも景品を取ることは出来ず、くるりと回転させるぐらいしか出来なかった。


「よーし、準備オッケー! 次で取るよー」

「お願いします麻美先生ー!」


 準備オッケーってなんだ? ここまでの2回はこの3回目で取るための仕込みだったって事か?

 希望は麻美ちゃんが言う通りにアームを操作している。

 操作を終えると、アームが景品目掛けて降りて行き、景品を掴む。 しかし、掴みきれずに上がり始めるアーム。


「ダメか?」


 しかし、上がって行くアームの先が、ぬいぐるみに付いているタグに引っかかって持ち上げ始めた。


「おお?」

「おー! いけ! いけー!」


 希望も熱くなってきている。

 落ちるか落ちないかのギリギリの状態でシュートの上までやってきた。


「取れた!」

「すげー!」

「なははは! こんなもんだよー! じゃ! 私も遊んでるとこだからー!」

「ありがとうー!」


 麻美ちゃんはそのまま通話を切った。

 希望は取れたぬいぐるみを喜んで抱き上げている。


「メソねこー! 可愛いよぅー!」

「良かったなー。 にしても麻美ちゃん凄いな」

「だよね。 本当に300円で取れたよ」

「ゲームならなんでも出来るんだな」


 スマホ越しに見ただけで3手で景品を取れるルートを構築してしまう麻美ちゃん。 恐ろしい子だ。


 UFOキャッチャーは程々にして、次はプリントシール機へ移動。

 何個も機種がある事に驚きを隠せない。


「メソねこちゃんフレームが選べるやつにしていい?」.

「何でも良いぞ。 俺は特に拘り無いからな」

「ありがとう!」


 と、喜んで機械の中へ入っていく。

 中は普通のプリントシール機と大して変わらない構造ではあるが、ガイドは音声ではなく画面に映し出されたボケねこの吹き出しになっている。

 こういう細かいキャラ付けはしっかり遵守されているようだ。

 現在画面では「フレームを選ぼう!」という吹き出しが出ている。

 この辺は全部希望に任せよう。

 希望はウキウキとフレームを選んだり、デコったりしている。

 ボケねこが絡むだけでキャラが変わるぐらい楽しめるって凄いよなぁ。

 ちょっと妬けるぜボケねこよ。 顔はそうなりたくないがなぁ。


「さあ夕也くん撮るよぅ」

「あいよ」


 希望は自然と俺の腕に抱きつき笑顔を作る。

 付き合ってた頃も良くこんな感じでプリントシール撮ったよなぁ。


「ありがとう夕也くん! シールシールー」


 出てきたシールを見て、これまた嬉しそうに眺めている。 やっぱりこうやって見ると可愛らしいよなー。

 こんな可愛い子をフッちまうなんて、俺は本当にダメな奴だな。

 変な期待させるだけさせて、最後には辛い思いをさせて。

 それでもそんな俺を好きでいてくれる。

 こいつは幸せにならないといけない子だ。

 亜美じゃないが、俺もまた希望の幸せを願わずにはいられない。

 希望にとっての幸せは、やっぱり俺と一緒になる事なんだろうか?

 

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