第542話 ミステリールーイン
☆亜美視点☆
クリスマスイブの今日、私は夕ちゃんや希望ちゃん、奈々ちゃん達と一緒にファンタジーランドへとやって来ている。
最初に入ったアトラクションは希望ちゃんがチョイスしたミステリールーイン。
色々な仕掛けを解いて、奥にある宝箱を見つけるのが目的の脱出系アトラクションだよ。
主に宏ちゃんが色々なトラップに引っ掛かりながらも順調に進み、最初の謎解きポイントに到着したようだ。
私は周りを見渡し、既に扉を開ける為の謎を解いてしまっている。
のだけど、奈々ちゃんからは私が解けても口出ししないように言われている。
曰く「あんたがやったらサクサク進み過ぎて面白味が無くなるから」だそうだ。
麻美ちゃんからはチートだと言われた。
そんなこと言われても、解ってしまうんだもん。
という事で、私は黙って皆が謎解きしている様を見物する。
「夕也、何かわかったか?」
「この部屋で何かしなきゃならんって事ぐらいしかわからん」
「先輩、そんなんは皆わかってますて……」
「うぐ……」
「あははは、夕也兄ぃはバカだなー!」
麻美ちゃんが、笑いながら夕ちゃんをバカにしている。
「そう言う麻美は何かわかったの?」
「うん? ゲームでこういう謎解きなんて飽きる程見たからね」
「はぅ。 ゲーム凄い」
麻美ちゃんは謎解きが終わったらしい。 私と一緒に高みの見物を決め込むようだ。
「んー……ん?」
渚ちゃんがこの部屋の扉を開ける為の仕掛けの前に立ち、首を傾げる。
「今井先輩。 この床なんですけど、他の床よりちょっとだけ出っ張ってないです?」
「ほう。 どれどれ? たしかにちょっと出っ張ってるな」
「宏太、ちょっと乗ってみなさいよ」
「何か俺をトラップ探知用に使ってないか?」
「そうよ。 ほら早く乗りなさいバカ」
「へいへい」
宏ちゃんは不憫だなあ。 後でちゃんと労ってあげよ。
宏ちゃんが出っ張った床の上に乗る。
カチッ
すると、出っ張っていた床が一段下がり、スイッチが押されたような音が鳴る。
グゴゴゴ……
次に、固く閉ざされていた扉が、重たそうな音を立てて開いた。
「おお。 渚ちゃんナイスだぜ」
「どやぁ。 先輩、キスのご褒美で勘弁してあげますよ」
「渚ちゃん、私の前でよくそんな事を口に出せるねぇ?」
渚ちゃんを少し威圧する様に糾弾すると、渚ちゃんは冷や汗を流しながら「じ、冗談やないですか」とたじろいだ。
夕ちゃんに告白してからというもの、凄く積極的になった渚ちゃん。
告白させたの失敗だったかなぁ?
「あははー、先へイクゾー」
麻美ちゃんがまたもや先陣を切り先へ進む。
今日も元気な麻美ちゃん。
相も変わらず宏ちゃんを危機回避の盾に使いながらズンズン進む。
宏ちゃん、あまりにも可哀想である。
「俺の身体はボロボロだー……」
「宏太兄ぃ! あそこに宝箱があるよー」
「うおお! 開けるぜー!」
あからさまに怪しい宝箱を喜び勇んで開ける宏ちゃん。
すると、急に宝箱の周りから鉄格子が生えてきて宏ちゃんを閉じ込めてしまう。
「ぬお?!」
「何やってんだバカ」
「あははは! 動物園のサルみたいだー!」
「こんなイケメンなサルがいるわけあるか! おら、さっさと助けやがれ手下共!」
鉄格子をガコガコ揺らしながら、私達に助けを求めるその様は、動物園で人の前まで来て格子をガコガコ揺らすおサルさんのようだ。
「バカは放って置いて先に行きましょ」
「なははー! さらば宏太兄ぃ!」
「佐々木先輩。 先輩の事は10分ぐらいは忘れません」
「せめて1日ぐらいは覚えておけよ月島ー!」
皆は本当に宏ちゃんで遊ぶのが好きだねぇ。
しかし、宏ちゃんを早く助けて上げないと先に進めないよ。
「んー」
優しい希望ちゃんは、何処かに宏ちゃんを助ける為に周りに仕掛けが無いかを探し始める。
私も一緒になって探す。
他の皆も何だかんだ言って何か無いかと探している。
「早くしろよー。 隊長の命を助けろー!」
「やかましいわね。 あんたもそこから何か無いか探しなさいよ」
「おう」
何かやってる2人を尻目に、私は探索を続けていく。
そして、何やら丸い玉を嵌め込めそうな窪みを見つけた。
「ふぅむ」
「何か見つけたのぅ?」
唸る私の隣へ来てた希望ちゃんが、窪みを見て「はぅ」と考え込む。
「多分ここに合う玉を嵌めるんだと思うけど」
「ここに来るまでにそんな玉は無かったよ?」
「うん。 見逃してたらわからないけど、少なくともそれらしい物は見てないね」
希望ちゃんと2人で唸っていると、皆が寄って来た。
「何だこの窪み」
「何か嵌めるみたいね」
皆で相談していると、鉄格子に閉じ込められた宏ちゃんが声を上げた。
「おい、宝箱になんか赤い玉と青い玉が入ってたんだが?」
「おー? でかした宏太兄ぃ!」
麻美ちゃんがパタパタと走っていき、宏ちゃんから玉を受け取り、パタパタと走って戻って来た。
「にしても2つかぁ。 もう同じような窪みって無いよね?」
「無いよー」
という事は、どちらかの玉が当たりで、どちらの玉はハズレということかもしれない。
赤い玉と青い玉を、床に並べて皆で考える。
「この部屋にヒントは無かったよね?」
「ええ多分」
「ふむー。 とりあえずテキトーに嵌めちゃえー!」
麻美ちゃんは青い玉を手に取りそれを嵌め込んだ。
プシュー!
「うぎゃあああ! 冷てえ!」
鉄格子の中から宏ちゃんの悲鳴が聞こえて来た。
どうやら青い玉はハズレだったらしい。
麻美ちゃんは青い玉を外して──
「とりゃ!」
また青い玉を嵌め込んだ。
プシュー!
「うがぁ! ワザとだろー!」」
「あははは!」
麻美ちゃんは面白がって、あと3回繰り返すのだった。
◆◇◆◇◆◇
赤い玉を嵌め込むと、鉄格子が下がっていき宏ちゃんがようやく解放された。
「この青い玉と赤い玉どうするよ?」
仕掛けを解いた以上はこの玉は必要無いような気もするけど、ここでゲーマーの勘を働かせた麻美ちゃんが「両方持って行こう」と言って持って歩き出した。
「宏太くん、大丈夫?」
「服が冷たくなった」
「宏ちゃん、風邪引かないようにね」
「お、おう」
麻美ちゃんはあまり悪気無さそうにしながら「イクゾー」と先を歩いていく。
楽しんでいるようで何よりだよ。
そして、更に先へ進むんでいく。
いくつか謎を解いて、どうやら最後の部屋に到着したようである。
「お、宝箱だぞ」
「今まであったフェイクと違って装飾が豪華だね」
「佐々木先輩、開けてください」
「あのなぁ……」
と言いつつも宝箱に手を掛ける。
もう完全にネタキャラが染み付いちゃってるね。
「おろ、開かねえ」
「鍵掛かってんの?」
「うぬ。 ん? おい、箱に丸い窪みがあるぞ」
「本当だねぇ」
という事は、麻美ちゃんのゲーマーの勘が当たったらしい。
2つある窪みに、先程の仕掛けから持ってきた青い玉と赤い玉を嵌め込む。
「おお! 宝箱開いたぞ!」
宝箱の中には、写真が入っていた。
その写真は、アトラクションに入る前に係りの人に言われて撮った写真だ。
なるほど、これが宝物というわけか。
ちゃんと7人分の写真を手に取り、最初のアトラクションを脱出したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます