第537話 スポーツジム体験

 ☆亜美視点☆


 最近は勉強勉強という日々になり、運動不足気味である。

 共通テスト……以前で言うセンター試験も近付きつつあるのでこれは仕方がない。

 問題はそこではなくて……。


 私はお風呂から上がり、悪魔の機械に足をゆっくりと乗せて見る。

 その悪魔の機械の液晶には、容赦なく数字が表示されていく。


「うわわわわわー!」


 私は数字を見た瞬間に顔を青くしてしまうのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日、ランチスペースでお昼を食べていたのだけど。


「あん? 何か今日は女子組の弁当少なくね?」


 宏ちゃんがお昼ご飯を頬張りながら疑問を投げかけてきた。

 私を始めとする3年女子の内5人のお昼ご飯の量がいつもに比べて明らかに少ない。

 私なんて鳥のササミにお茶だけである。


「それじゃあお腹空かないか?」

「だ、大丈夫だよ」

「そ、そうよ。 これで充分よ」

「はぅはぅ」

「んぐんぐ、そうか? 絶対足りないぜそれ?」

「良いのよこれで」

「ですわ」


 そんな中、いつも通り食べているのは遥ちゃん。

 多分だけど、週末にジムで運動を続けているからだろうか、体重がそこまで増えていないのだろう。

 それに引き換え私は運動量が減った上、夜勉強のお供に夜食を食べたりしているせいで、順調に成長してしまっている。

 まずは夜食を無くし、カロリーを摂り過ぎないようにする。 そして、日々運動をするようにする。

 その為には後で遥ちゃんに相談だ。



 ◆◇◆◇◆◇



「え? ジムの体験が出来ないかって? どうしたんだい、皆して急に?」


 体育の時間。 女子は持久走だ。

 私達はササッと3キロ走って、クールダウンのために学園外周を歩行中。

 遥ちゃんを捕まえて話を聞く事に。 遥ちゃんは不思議そうに首をかしげが、誰も体重が増えたとは認めたくないのか、こぞって「部活辞めてからちょっと運動不足で」みたいな事を言い出した。


「あー、まあ確かにそうかー。 1日体験ならやってると思うよ。 なんなら放課後にでも行ってみるか? って勉強会が……」

「今日の勉強会はお休みにいたしますわ!」

「そうね! 今日はちょっと体動かして普段の運動不足を解消しましょ!」


 受験生の口からとは思えない言葉が飛び出している。

 皆必死のようである。 女子にとってダイエットは受験勉強よりも優先されるのである。

 遥ちゃんは皆の謎の圧にたじろぎながらも「わ、わかった」と頷くのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 放課後──


 夕ちゃんと宏ちゃんには、本日の勉強会中止を知らせて遥ちゃんと共にスポーツジムへ向かう。

 運動用の着替えを持って来ていないので、学園のジャージで行う事に。


「1日体験のお客様ですか?」

「そうそう。 私の連れなんですよ」

「ほー。 じゃあまずはこの用紙に必要事項を記入して下さいね」


 と、記入用紙を渡された。

 氏名性別年齢……ジムで運動する目的……。

 ダ、ダイエットっと。

 ここは正直に記入しておこう。


 用紙を返してしばらく待っていると、更衣室に案内される。

  学園指定ジャージに着替えて出てくると、インストラクターさんがついてくれた。

 人数が人数だけに2人に対してインストラクター1人という形になる。


「えー、清水さんと雪村さんですね。 今日担当させていただく田中です。 よろしくお願いします」

「お願いします!」

「はぅはぅ……」


 希望ちゃんは最近かなりマシになったとはいえ、まだまだ初対面の人に対しては人見知りを発動する。


「お2人ともダイエット目的という事のようですが……」


 まで言ったところで、私と希望ちゃんの体を、爪先から頭まで見ていく。


「ふむ……気にする必要は無さそうですけど、私も同じ女ですから良くわかりますよ」


 どうやら理解ある人のようである。

 まずは軽くストレッチから始めて、色々なトレーニング器具の説明を受ける。

 私はまずわかりやすいダンベルで二の腕を引き締めたいと伝える。

 するといくつかトレーニング法があるようで、丁寧に教えてくれた。


「よーし、やるよー」


 私はまず5キロのダンベルを……。


「う、うわわ、重たいねぇ」

「はぅ」


 どっちも非力な為、5キロを片手で持ち上げるのが困難であった。


「いきなり重たいやつから始めると体を痛めますよ」

「でも、重い方が効果ありそうで……」

「と、初心者程そう言って無茶なトレーニングをしてしまいがちなんですよ。 こういうのはですね、如何に自分の力に見合った負荷を掛けられるかが重要なんです」

「ほうほう」

「なるほど」


 重けりゃ良いというわけじゃないらしい。 試しに1キロのダンベルを持って、インストラクターさんの言った通りの動作を20回やって見る事にした。

 すると……。


「……もうキツいよ」

「はぅぅ」


 半分の10回を超えた辺りで二の腕がプルプルとしてきて、手が動かなくなった。


「1キロ10回が今の2人の適正なトレーニングレベルですね」

「な、情けない」

「力無さ過ぎだよぅ」

「いえいえ、初めてならそんなもんですよ。 でもわかったでしょう? 軽いダンベルでもかなり効くという事が。 大事なのは適切な負荷と正しい姿勢で、どこを引き締めたいか意識しながらゆっくり続ける事です」

「おー、勉強になります」


 この程度のトレーニングなら、ダンベルがあれば家でも出来そうである。

 今はインターネットでトレーニング法なんかも簡単に調べる事が出来るし、実践していこう。

 という事で、次は家では出来ないような大きな器具を試して見る事に。

 腹筋周りをシェイプアップしたいと伝えると、ケーブルクランチという器具に案内された。

 インストラクターさんの見本を見せてもらったけど、これで本当にお腹周りに効くんだろうか?


 ────。


「あ、あぅ……お、お腹周りが痛い」

「はぅー……」


 思いの外効果抜群だった。 こりゃ明日筋肉痛だよ。


「こういった大掛かりな器具を使って、ちゃんとしたインストラクターの下でトレーニング出来るのがスポーツジムの利点です」

「な、なるほど」


 確かに初心者が知識も無しにやるとケガの元になりかねない。

 現に私や希望ちゃんは、何も知らずに重たいダンベルで始めようとしたし。 ダンベルを使ったトレーニング法だって詳しくは知らなかった。


「お腹周りのシェイプアップも、器具を使わずに家である程度可能ですよ。 普通の腹筋だったり、腹斜筋を鍛える腹筋や腹筋下部を鍛える腹筋なんかもありますよ」


 と、その場で手本を見せてくれる優しいインストラクターさんであった。

 たしかにあれなら家でも可能そうである。

 なるほど、何もジム通いしなくても、痩せる意志と根気があれば自宅で続けられそうだ。


 その後も色々な器具を使わせてもらい、実に良い運動が出来た。

 ダイエットやトレーニングについても色々勉強になり、知識欲も満たせて非常に満足だよ。

 ジムの出口を出た所で皆と合流。


「お腹空いたし、バーガーでも行く?」

「お、良いねぇ! お昼全然お腹いっぱいにならなかったし行こ行こ」

「運動したし食べてもカロリープラマイ0だしねー。 きゃはは」


 ダイエットの道は長く険しいのである。

 

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