第529話 白華マイスター?

 ☆亜美視点☆


 東京へやって来てから1週間以上が経過した。

 明日には千葉へ帰るつもりだけど、今日はちょっとお暇をもらい遊びに来ています。

 今日一緒に遊んでくれているのは何と、宮下さんと新田さんだ。

 

「清水さんは東京に遊びに来た事は?」

「何度かあるよ」


 小さな頃から何度か遊びに来てはいる。

 ただ、おもにマジカルランドにしか行ったことはかったり。

 それを宮下さんに話す。


「マジカルランドねー、鉄板だねあそこは。 私も千沙っちも何回も行ってるよ」

「千沙っちはやめてほしいって……」


 新田さんは額を手で押さえて溜息をつく。

 やっぱり仲が良いのかどうかわかんないね。

 いや、仲は良いんだろうけど、私と希望ちゃんや奈々ちゃんとはまた違う感じだ。

 幼馴染にも色々あるんだねぇ。


「じゃあ、今日はマジカルランドは無しだね。 とりあえずはまずお昼かな」

「そだねぇ。 時間的にそれが良いね」

「美智香姉、何処へ案内するの?」

「あの周辺で美味しいお店といえば白華屋はっかやでしょ」

「賛成」


 どうやら、地元民にしかわからない良いお店があるようだ。 今日はこの2人に任せておけば万事OKだね。

 宮下さんは何しでかすかわからないけど、新田さんが上手い具合にブレーキになってくれそうだ。

 そういえば、宮下さんは三山君とはどんな感じなんだろう?

 今年の月ノ木祭を通じて仲良くなったらしい宮下さんと三山君。

 私は三山君とはそんなに仲良くしているわけじゃないから、2人がどうなってるか聞いてないんだよね。


「ねね宮下さん」

「ほい?」

「三山君とはどう?」

「大君? 連絡はちゃんと取り合ってるよ。 でもあちらは大学受験があるからあんまり邪魔しないようにしてるんだー」

「だ、大君!?」


 思ったより上手く行っているようだ。 まさか下の名前で呼んでいるとは思わなかったよ。


「美智香姉、何だかんだよく電話してるよね」

「ちゃんと了解取ってから電話してるもん」

「はいはい……電話してる時のこの人、凄くデレデレしてるんですよ」

「へぇ、そなんだ」


 ふむ、向こうに帰ったらちょっと三山君をイジって遊んでやろうと思う。


「○○ー、○○です。 お降りの方は……」

「お、着いたよ。 降りるべー」


 どうやら目的地に到着したようだ。 私達3人は連れ立って電車を降りる。

 改札を抜けると、やはりというか凄く都会であった。

 恐るべし東京。


「じゃあまずは軽く腹ごしらえね。 白華屋へ行きますか」

「行きましょー」

「おー」


 白華屋さんというのがどういう店なのかは知らないけど、新田さんがテンション高めなのを見るに美味しい物が食べられるに違いない。

 私は2人の後ろについて行くだけである。



 ◆◇◆◇◆◇



 2人について歩くこと10分。

 一つのお店の街に到着した。 そこには白華屋と書かれた看板が掛かっており、そこからは鰹出汁の良い香りが漂ってくる。


「ここが白華屋よ」

「です」

「この匂い、うどん屋さん?」

「正解! ここはうどん屋さんよ。 色々とあるけど私のオススメはカレーうどん!」

「美味しいんですよ、ここのカレーうどん」

「ほうほう」

「じゃあ入ろ入ろ」


 宮下さんに促されて私達は白華屋へと足を踏み入れる。

 中に入ると一層と鰹出汁の香りが漂ってきて食欲を煽る。

 中にはカレーうどんを啜っているお客さんも見受けられる。


「3名様でしょうか?」

「はい」


 店員さんに席へ案内してもらう。 席に着くと、私はメニューをを開いて確認する。

 天ぷらうどんに肉うどん、力うどんなど色々なラインナップがあるようだ。

 そして当店のオススメとして大きくカレーうどんが挙げられている。

 余程の品らしい。

 私以外の2人は最初からカレーうどんに決めているらしく、メニューすら開かない。


「私もカレーにするよ」

「じゃじゃ決まりね。 店員さーん!」


 全員の注文が決まり、宮下さんが元気に店員さんを呼ぶ。

 良く通る大きな声である。

 店員さんがやってくると、カレーうどんを3人分注文する。

 店員さんが去って行くと、宮下さんと新田さんは同時に鞄をガサゴソとし始めた。

 何してるのかな? と、見ていると、2人とも何やら布切れを取り出す。


「何それ?」

「エプロンよ。 カレーうどん食べるとつゆが飛び散って服に着くのよ。 だからカレーうどん食べる時は必須ってわけ」

「そうなんです。 私と美智香姉は白華屋用にマイエプロンを持ってるんです」

「マ、マイエプロン?」

「白華マイスターなら持ってて当然!」

「マ、マイスター……」


 2人はどうやら筋金入りの白華マイスターらしい。 世の中には私の知らない事がたくさんあるのである。


「でもたしかに服に付いちゃうのはやだね」

「大丈夫よ。 ここはカレーうどん注文したらちゃんと前掛けエプロンも付けてくれるから。


「なら安心だね」


 どうやらお店側の配慮も行き届いているようだ。

 宮下さんと新田さんがそこまでする程のカレーうどんが待ち遠しい。


「そだ。 おばさんはどう?」

「ん? お母さん? だいぶ良くなったよ。 まだ無理はさせたくないけど、私もずっとこっちにいるわけにはいかないからねぇ」

「そかそか」


 一度会っただけの私の母親の事を気にしてくれている宮下さん。 優しい人である。


「お母さん、宮下さんの事覚えてたよ。 元気で面白い子って」

「あはは。 そかそかー」

「美智香姉、清水先輩のお宅で変なことしてないよね?」

「してないしてない」

「うんうん。 いつも通りだったよ」


 家に来た時の事を思い出す。 元気良く両親に挨拶して「いやっ! お2人ともお若い! 高校生の娘さんがいるように見えませんなぁ!」とか言ってたっけ?


「そのいつも通りがダメなんですよ……もうちょっと他所行きの顔とかあるでしょ普通」

「あー、あはは……たしかに」


 そういえば私の両親にさえ友達感覚であった。 あれはあれで良いと思うけど、人によっては悪い印象を与えかねない。 宮下さん、社会に出て大丈夫だろうか?


「お待たせしました。 カレーうどん3人前です。 熱いので気を付けてお召し上がりください」


 話をしていると、当店のオススメカレーうどんがテーブルにやってきた。

 白い湯気を立てるそれを上から見ると、並々と浸されたカレースープに白くて太いうどん。

 ネギが少量にお肉、なるとも入っている。

 あくまでもカレースープとうどんを楽しんでほしいという事なのか、具は少なめ。 

 それだけカレースープとうどんに自信があるのだろう。


「装備完了」

「です」

「おっと、私も前掛けしなきゃ」


 一緒に持って来られた前掛けを着けて、いざいざ実食。


「いただきます!」


 まずはレンゲでカレースープだけを掬いそれをすする。


「んん。 カレースープ美味しいね。 カレールーを鰹出汁で溶いたものだろうけど、市販のカレーとか出汁とかそういうんじゃないね」

「おお? 清水さんわかってんねー。 ずるずる」


 宮下さんは感心しながらうどんを啜る。


「ここの店長さん、元々カレー屋さんやってたんですよ。 だから、カレーにも拘りがあって、スパイスもオリジナルブレンドなんです」

「へぇ。 こんな深い味のカレーうどん初めてだよ。 ずるずる」


 辛さを、鰹出汁が上手く和らげてくれていて、実に程よい塩梅に仕上がっている。

 うどんもコシがあって、つるっと入ってくる。

 私はこの絶品カレーうどんを満足行くまで堪能するのであった。

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