第514話 西條家の日常

 ☆紗希視点☆


 今日は11月27日土曜日よ。

 もうすぐ12月だし受験も近付いてきたので受験勉強も追い込みに入っている。

 今日もやっぱり受験勉強。 西條家別宅に集まった私達は長机に参考書や問題集を広げて黙々とシャーペンを走らせる。


「亜美ちゃん、ここなんだけどさ」

「んん?」


 遥は亜美ちゃんの隣に陣取り、事あるごとにわからないところを訊いている。

 まあ、遥の成績じゃあ焦るのもわかるけど。  一応遥の受ける大学の偏差値はそこまで高くないし大丈夫だとは思うけども。


「ここはねぇ、この式を使ってこうして」

「ぐぬぬー」


 大丈夫じゃないかも。


 と、私も他人の心配してる場合じゃないわね。 私の受ける大学はそれなりに難関。

 成績は良い方だけど、余裕こいて良いレベルではないのよね。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕方、受験勉強会が終了したので解散したのだけど、私は奈央を呼び止めて少しお願いをすることに。


「奈央奈央ー」

「何よ?」

「?」

「どしたよー?」


 一緒に歩いていた遥と北上君もこちらを振り向く。


「今日、このまま泊まりに行っていい?」

「泊まり? 別に良いけどどうしたのよ?」

「うん、 ほら、もう受験勉強も追い込みじゃん? だからもうちょい勉強しときたいのよ。 あんたと北上君が一緒だと捗りそうだし」

「あぁ、なるほどそういうことですか。 良いですね」

「そうね。 遥も来る?」

「お、おう! 行くよ! 私も自信ないからな」


 ということで、私と遥は西條家に泊まり込んで受験勉強会夜の部をすることに。

 さてさて、せっかくだし今回は私が西條家の日常ってものを私視点で解説していくわよ。

 

「ただいまですわ。 今日は友人2人泊りですの。 夕食も2人分追加してちょうだい」

「はい、かしこまりました」

「おじゃまします」


 私はもはや顔なじみとなった侍女長さんに挨拶する。 そのまま奈央の部屋まで向かう。

 さて、西條家の夕食は18時と決まっている。 時間5分前に放送で各部屋に伝えられる。

 何故家に放送設備や放送用スピーカーがあるのかは知らないけども。

 奈央の家のあれこれにいちいちツッコミ入れてたらキリが無いから、もう半分どうでも良くなっている。


「春人君、着替えるから待っててくださる?」


 と、奈央が北上君に告げると、北上君も「わかりました。 終わったら呼んでください」と、部屋の前の通路に立ち止まる。


「良いじゃない別に」

「そうだぞ。 奈央のお子様な体なんか見ても北上は何とも思わないぞ」

「うっさいですわよ!」

「ははは……レディーの着替えを見るなんてジェントルマンのする事じゃないですからね」

「くっさ!」


 北上君は苦笑いしながらドアを閉めるのだった。

 しかし、本当紳士な奴だわ。 でも、実際はどう思ってんのかしらね?

 いくらお子様体型とはいえ彼女の体。 興味が無いわけじゃないと思うけど。


「大体、お子様って程じゃないわよ……ちょっとはあるじゃない」


 どれどれ。 計測してしんぜよう。

 私は素早く奈央の背後に回り込み、ターゲットをロックオン。 神の手を伸ばす。


「もみもみ」

「ふぁっ?!」


 計測終了。 我ながら神速神業。 何人も我神の手から逃れる術はない。

 それにしてもこの子……。


「全然成長してないじゃない。 75て1年の時から2ポイントでしょ」

「ははは! 成長期は来ないのか?」

「これから来るのよ! 大器晩成なの!」

「その小器が大器になる日は来るのかしらね」

「むきーっ!」


 でも、本当に成長期あったのかしら? 小学生高学年くらいからは多少成長してるけど、すぐ止まったわね。


「よいしょ。 オッケ。 春人君どうぞ」


 部屋着に着替えた奈央は、すぐさま北上君を呼ぶ。

 ちなみに、奈央の部屋着はそこら一般人の着る物とはわけが違う。

 部屋着さえ高級品なのよ。


「はい」

「てわけで、夕食の前に勉強の続きやっちゃいますか」

「そうね、まだ1時間ぐらいあるし時間はいくらあっても足りないわ」

「おおお! やるぜー」

「あんたが一番心配なのよ……」

「ははは、蒼井さんも頑張りましょう」



 ◆◇◆◇◆◇



 さてさて、17時55分頃に西條邸内には予鈴が鳴り響く。

 もうツッコミはいらないわよ? 奈央の家は何でもありなのよ。

 予鈴が鳴り終わると、放送が流れてくる。

 夕食の時間を知らせる放送ね。 

 私達は一旦勉強を中断してダイニングへ向かう。

 今日はおじ様やおば様もいらっしゃるみたいなので、皆揃ってダイニングでとの事。

 家族水入らずに水差しちゃったわね。


「あら、紗希さんに遥さん。 いらしてたのね」


 ダイニングへ入ると、既に席に着いていたおば様とおじ様が声を掛けてくる。


「こんばんは。 今日はお世話になります」


 私と遥はペコリと頭を下げて挨拶を返し、席に着く。

 私も遥も慣れたもの。 私は幼稚園の頃から、遥も小学生の頃からお世話になっている。


「そうそう。 紗希くんは京都の芸術大学を受験すると聞いたよ。 どうかね、受験勉強の方は?」

「はい。 奈央や他の友人のおかげで順調です」

「おお、そうかそうか。 遥くんも体育大学、頑張りたまえ」

「はい!」


 と、奈央のご両親は比較的親しみやすい方々だ。


「それではいただきます」


 食事中は必要以外の事を話さないのが西條家内の決まりだそうだ。

 私達もちゃんとそれを守る。 普段はテーブルマナーなんか知ったこっちゃないという遥でさえもだ。


 西條家の夕食は当然のように豪勢よ。 今日はイタリアンで統一されている。

 よく泊まりにくる私や遥は、舌が肥えてしまった。

 自宅の普通の食卓を見ると、涙が出るわよ。

 まあ、これは言い過ぎかしら。 私は実家の味が大好きよ。


 夕食を終えて部屋に戻り休憩をしていると、またまた放送が鳴る。

 この放送は、入浴が可能になった事を知らせる放送よ。

 西條邸の浴場はとんでもなく広い。 無駄に広い。

 というのも、侍女さんや執事さんも共用の為だ。

 そういった使用人さんの入浴時間は夜遅くになっている。

 今から23時までは西條家の人間および客人の入浴時間。 男性が先で21時から女性へ切り替わる。

 北上君はさっさと浴場へ向かってしまった。


「あんたら本当に付き合ってんのよね?」

「えぇ、ご覧の通りよ」


 ご覧になっても付き合ってるのかどうかわからないから訊いたんだけど。

 ふむ、前々から思ってたんだけど、淡白な関係ね。

 上手くいってんのかしら?


「何よ?」


 私の視線に気付いた奈央は、首を傾げる。


「いえ、何ていうか上手くいってんのかなーってね」

「気になるよなやっぱ」


 まあ、遥のとこも気にはなるけどね。

 

「上手くいってるわよ? ご覧の通り」

「いやいや、見てても恋人同士に見えないんだってば」

「そりゃまあ、あんたんとこに比べれば乾いた関係に見えるかもね」


 と、その辺については自分でもわかってるみたいね。

 ここは親友として、私が色々力になってあげなくては。


「まだしてないの?」

「してませんわよー。 結婚するまではしないつもりだし」


 性欲枯れてんのかしら? そんなわけないわよね?

 まあ、奈央も北上君もそれで良いなら、私からは何も言えないわよね。


「そういや婚約はしてるのか?」


 遥が訊く。 たしか、許嫁だったけど一旦婚約破棄されたのよね。 その後どうなってるかは聞いてなかったわ。


「えぇ。 そちらの方も復縁してますわよ。 大学卒業後の予定だけども」

「は? つまり大学卒業するまでは肉体関係にならないと?」

「そうなるわね」


 いやいや、さすがにそれはどうなのよ。

 後で北上君にも聞いてみましょ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る