第508話 覚悟に答えて
☆夕也視点☆
誕生日パーティーが終わり、いつものように渚ちゃんを部屋に送り届けた後、コーヒーをいただく為に部屋に上がらせてもらっていた。
これも最近はよくある事だ。
しかし、今日はいつもと違う事が起きていた。
渚ちゃんから「大事な話」があると言われたのだ。
その渚ちゃんから発せられた言葉は……。
「先輩の事が好きなんです!」
という、予想していなかった言葉だった。
俺の事が好き? 渚ちゃんがか?
あ、そうか。
「先輩としてとか人としてって事か!」
「異性としてに決まってるやないですか……」
渚ちゃんは溜息をつきながらそう言った。
「ホンマ先輩、私の時だけやけに鈍感やないですか? ワザとやってません?」
「い、いや……そんなつもりはないんだが」
マジである。 しかし、たしかに渚ちゃんに関して言えばたしかに少し距離の取り方を考えていた節はある。
というのも、俺は出逢った当初は渚ちゃんから嫌われているとか、避けられていると思い込んでいたからだ。 最近は仲良くなりつつあり、ある程度は近しくなってきていたとはいえ、まさか好かれているとまでは思っていなかったんだが。
「い、いつから?」
「多分最初からです。 一目惚れやったんやと思います。 あの頃は自分でもようわかってなかったんで曖昧な言い方になりますけど」
えぇ? 最初から嫌われてなかったのか?
じゃあ、俺は渚ちゃんに結構ひどい感じの接し方をしてきていたんじゃ?
「な、なんか悪い。 そうとは知らず、付き合い方がなんか悪かったりしたかもしれん」
「ホンマですよ。 嫌われてるとか避けられてるとか……私結構あれで困ってたんですよ? 何でやろ? 私なんかやったかな? って」
「うお、マジでごめん!」
平謝りするしかなかった。
そんな俺を見かねた渚ちゃんは「ええですから」と許してくれた。
「しかし、俺に告白してもだな……そのな?」
「わかってますよ。 清水先輩ですよね?」
そう。 俺には亜美がいる。 そんなことは渚ちゃんも知っているはずで、それでも俺に告白してきたのは何故だ?
「多分、麻美と同じです」
「あ……」
麻美ちゃんと同じ? 自分の気持ちを知ってほしかったって事か。
フラれるのは当然わかった上で。
「最初は告白なんかせぇへんつもりやったんですけど、麻美や皆から色々話を聞いてるうちに心境に変化があったいうんですかね? それで気持ちだけでも伝えておこ思うたんですわ」
麻美ちゃんといい渚ちゃんといい、何というか強いな。 フラれるのがわかった上での告白。 一体どれだけの勇気と心の強さがあれば出来るんだろうか?
「ありがとうな、渚ちゃん。 気持ちは伝わったよ」
「良かったです。 これでちょっとだけ気が楽になりました」
「そうか」
渚ちゃんの気持ちはありがたい。
だが、その気持ちに答えてやる事は出来ない。
亜美という恋人がいる以上は。
「先輩。 時間、少しもろてええですか?」
「ん? あぁ、明日はまだ休みだからまだ大丈夫だが?」
「おおきにです。 シャワー浴びて来ますわ」
「んん? お、おう」
んー? 何故シャワー浴びる必要があるんだ?
と、考えているうちに渚ちゃんはシャワーを浴びに行ってしまった。
浴室からはシャワーの音が聞こえてくる。
そのうちに頭の中を整理していく。
告白→シャワーと来て次は……。
「まさかな」
と、考えるのを止めると同時に、浴室から下着姿の渚ちゃんが出てきた。
それを見て、そのまさかである事を悟った俺は、内心困るのであった。
何で俺の周りの女子はこう、自分を安売りするんだか。
「先輩っ!」
「あーちょっと待て」
顔を赤く染め上げながら近付いてくる渚ちゃんを手で制止する。
「な、何でなんですか?」
「落ち着いてくれ渚ちゃん。 たしかに渚ちゃんの気持ちは嬉しいし、ちゃんと受け取った。 恋人にはなれないけど、これからは渚ちゃんの事を後輩じゃなくて、女性として見るようにはしていく。 それだけじゃダメなのか?」
「うっ」
お、意外と話がわかる感じか? 麻美ちゃん程の強引な動きも無い。
「そ、それはそれで嬉しいんですけど、やっぱもろてほしい言うかですね」
「自分を安売りするもんじゃないぞ? 今渚ちゃんが投げ売ってるものは大事なものだからな?」
「わかってます! だからこそ、先輩にもろてほしい!」
そう言って泣きながら飛び込んで来る渚ちゃん。
その体を抱き止めて頭を撫でる。
「先輩……ぐすっ」
泣かせてしまった。 俺はどれだけの女の子を泣かせば気が済むんだかな。
俺の胸で泣きじゃくる渚ちゃんを見て思う。
告白するだけならまだしも、体まで許す覚悟を決めていた渚ちゃんの勇気には恐れ入った。
今思えば、亜美の奴もこうなるのをわかっていたのかもしれないな。
「ごゆっくりどうぞだよ」
そう言っていたからな。
「ぐすっ」
「わかった。 今夜だけだぞ?」
「!」
渚ちゃんの気持ちには答えてやれないが、渚ちゃんの覚悟に答えてやろう。 それが勇気を出してくれた渚に対して、俺が出来る唯一の事だ。
優しく渚ちゃんを抱きしめながら、ベッドへと移動する。
◆◇◆◇◆◇
「先輩、朝やよー」
「んあ……」
どうやら朝になってしまったらしい。 あの後、渚ちゃんを無茶苦茶貪ってしまった俺は、疲れて寝落ちしてしまったようだ。
あ、亜美に怒られるんじゃ?
「先輩、はよ帰った方がええんやないですか? 私ならもう大丈夫なんで」
「そうだな。 なあ、俺で本当に良かったのか」
「はい」
即答されてしまっては何も言えないな。
俺はまだ朝早い時間ではあるが、渚ちゃんの部屋を後にして家へ戻る事にした。
部屋を出てしばらく歩くうちに、だんだんと罪悪感が浮かんで来る。
「またやっちまった……何人目だこれで」
亜美と希望以外で4人目だ。 俺は女の子の涙と強引な押しに弱いようだ。
簡単に女の子と関係持っちゃダメだろ……。
自分で自分を責めるのだった。
家に帰って来た俺は、ゆっくりとドアを開けて静かに家に入る。
まだ亜美達は寝ている可能性がある。
部屋までバレずに戻り、適当に寝てから何食わぬ顔で起きていけば朝帰りしたとはわからないんじゃないか?
などと、悪知恵を働かせてみたが。
「あ、おかえり夕ちゃん。 ごゆっくりだったねぇ」
亜美は普通に起きていて、俺の部屋で待ち伏せていたので無意味だった。
「た、ただいま」
「いやいや、まさか朝帰りするとは思ってなかったよ。 渚ちゃんなんだかんだ言ってやるね」
こいつ、やっぱりわかってて送り出したんだな。
「でも、これで一通り出揃ったね」
「何がだ?」
「夕ちゃん争奪戦のメンバーだよ? 私から夕ちゃんを奪わんとする刺客3人が同じ土俵に立ったんだよ」
何言ってんだこいつ。 何かちょっと楽しんでるし。
「渚ちゃんはどういうスタンスでかわからないけど、希望ちゃんと麻美ちゃんはまだ諦めてなさそうだからね。 私から夕ちゃんを奪うのを」
たしかにその節はあるようだが、それに対して亜美はあまりに無防備すぎる。
余裕の現れか、はたまた天然なのか。
まあ、流される俺も悪いので人の事は言えんが。
「夕ちゃんが何考えてるかはわかってるよ」
「俺はお前が何考えてるかよくわからんぞ」
亜美は「あはは」と笑いながら俺の前に立ち抱きついてきた。
「夕ちゃんは誰にも上げないもん。 皆の挑戦、受けて立つよ」
キリッとした表情でそう言う亜美を見て、何だかなぁと思うのだった。
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