第489話 今年もやります
☆夕也視点☆
女子のライブが終了したと同時に、亜美達の姿を近くで見ようとした男子達が一斉に舞台へ入るための扉前に押し寄せた。
「うへー、すんごい人気ねー」
「こらまた一苦労しそうやなぁ」
と、招待客である月島さんと宮下さんが苦笑いしている。
さすがに2人にまで手伝わせるわけにはいかんな。
「2人は危ないから下がっててくれ」
「何言うてんのん。 ウチは手伝わせてもらうで」
「私も」
2人はもうやる気満々で腕まくりまでしていた。
どっちも変わった人だな。
「希望は下がってろよー」
「うん」
逆に希望は素直だ。 自分があの中に突っ込んで行っても役に立てないだろうとわかっているのであろう。
という事で、俺、宏太、春人、柏原君、遥ちゃんの彼氏さん、月島さん、宮下さんで何とか亜美達の突破口を開く事になった。
「んじゃま、やりますか」
「だな」
「先陣は任せてくれないか?」
と、俺達の中では1学年上である、遥ちゃんの彼氏さんが前に立つ。
趣味は筋トレだという噂だけあり、かなりガタイも良い。
「お願いします」
「行くよ」
合図と共に、ひしめく男子達の中へと順番に突っ込んで行き道を空けさせる。
「今だー!」
それを見た3-A女子達が、扉を開けて一気に走り抜けていく。
俺達はボコボコと殴られながら、何とか亜美達を体育館から逃す事に成功。
亜美達の後を追う奴らもいたが、あの程度なら巻けるだろう。
◆◇◆◇◆◇
俺達も役目を終えて体育館を出て来たが、思いのほか疲れてしまい、ランチスペースに腰を下ろして休憩する事にした。
「あいたたた……」
「あの阿呆共は、女子でもお構いなしかいな……あいたたた……」
「だから下がってろって言ったろ……」
テンションが上がり興奮状態になった人間なんて周りが見えなくなってるに決まってる。
邪魔する奴は誰であろうと容赦無しだ。
「亜美ちゃん達、上手く逃げ切ったかな?」
「どうでしょう?」
「見ていた感じ、追いかけて行った人数は少なかったから大丈夫だと思うよ」
割とまだ余裕そうな遥ちゃんの彼氏さんがそう言う。
趣味筋トレはやっぱりすげぇな。
柏原君なんて見るも無残。 テーブルに完全に突っ伏して伸びている。
「スマホに連絡してみっか」
宏太がスマホで奈々美に電話を入れると、どうやらすぐに繋がったらしい。
「おー、そっちはどうだぁ?」
……。
「おー、そうかぁ。 じゃあ、まだ合流出来なさそうか?」
……。
「ランチスペースで戦いの傷を癒やしてるとこだ。 おー、んじゃ動かずに待ってるから落ち着いたら来いよー。 おう、じゃあまた後でな」
どうやら通話は終わったようだ。
「今は身を隠して、追ってくる男子共をやり過ごして入る最中らしい。 落ち着いたらこっちに来るみたいだからそれまで待ってろだと」
「まだ追われとるんかいな」
「うへー……芸能人みたい」
「ホンマやな……」
あいつらの男子人気には恐れ入る。
今日は特にひどい事になっているようだ。
普段は大人しい連中だが、今日は祭とライブのテンションでかなりタガが外れているらしい。
「まあ、すぐに来るだろう……」
合流さえしてしまえば、俺達がガードすれば良いだけだからな。
◆◇◆◇◆◇
10分後──
「皆ー……」
「ん? お、来よったで」
ランチスペースに疲れ果てた5人が姿を表した。
「大変だったわねー?」
「本当だよぉ……夕ちゃん疲れたからおんぶしてぇ」
ぐったりした亜美が隣の椅子にドサッと座って項垂れる。
他4名も同じように椅子に座り一息ついた。
「まさかあそこまでとは……」
「私、胸を揉まれましたわよ」
「あんたの胸触った奴はハズレね」
「うっさいですわよ!」
「あはは……奈央ちゃんまだ元気だねぇ」
「疲れてますわよ……」
「うあー……」
あの遥ちゃんや奈々美、紗希ちゃんさえもしばらくは動けなさそうである。
もう少し休憩する事になりそうか?
と、その時。
「おーい! 皆ー!」
「お疲れ様でした。 ライブ凄かったです」
逆方向から元気に走り寄ってくるのは麻美ちゃんと渚ちゃんのコンビ。
サバゲー屋の店番が終わったらしい。
「おー、麻美ちゃん!」
「おー、宮下先輩!」
謎に仲の良いこの2人が揃うと、一気に騒がしくなる。
案の定2人は他愛ない話で大盛り上がりしていた。
「あ、そーだ! 今年は誰かミス月ノ木出ないのー?」
思い出したように麻美ちゃんが訊くと、紗希ちゃんが手を上げる。
「ほいっ! 今年は出るよん!」
「おー、神崎さん出るんだー? 頑張れ!」
「頑張る!」
他は特にいないとの事。
「マリアも出るんだってー」
「マリア? あの子ああいうの出るタイプには見えないけど……」
「クラスの推薦で仕方なくらしいです」
と、渚ちゃん。
「本人は嫌がってそうだねぇ」
「でもあの子、見た目可愛いし案外強敵かもよ?」
「紗希ちゃんファイトだよぅ!」
「おー!」
ところで、ミス月ノ木とミスター月ノ木に選ばれた2人は舞台上で踊るのが決まりになっていたはずだが、柏原君は放っておいていいのか?
「今井君も出なよー」
「むっ! 狙いはそれなの?」
「どうかなー?」
亜美と紗希ちゃんがいつものやり取りを見せる中、俺が出るなら私も出ようかなと言う女子が約3名程いたが、俺は出ないと言うと「じゃ、良いか」とサクッと諦めるのであった。
「皆、夕ちゃんと踊りたがりすぎだよ……」
亜美が疲れたように言うと、周りの皆はケラケラと笑いうのであった。
◆◇◆◇◆◇
休憩も済んだところで、またグループに分かれて行動する事に。
俺達のグループは麻美ちゃんと渚ちゃんの2人が増えて9人となった。
多いな……。
「麻美ちゃんは今年はミス月ノ木出ないんだな? 前回の優勝者だろ」
「なははー、辞退しちゃったけどねー。 今年は神崎先輩出るみたいだし、ちょい分が悪いから出ないよー。 もし優勝しちゃったら好きな人と踊れないし」
と、笑顔で俺を見る麻美ちゃん。
いやいや、皆の前で何を言ってるんだこの子は……。
「なんやなんや、藍沢妹かなり積極的やな。 亜美ちゃん大変やん」
「本当だよ。 四方八方から刺客がやってくるから気が休まらないよ……」
「刺客って……」
「夕ちゃん君も、自分の気持ちしっかり持たないとダメだぞー?」
「わ、わかってるよ」
大丈夫ではあるんだが、中々皆諦めの悪い連中のようで、どうすれば良いのか……助けてくれ。
「ま、困ったらウチの妹で手打ちぃや。 渚はええ子やでぇ」
「お姉ちゃんっ! 先輩が困ってはるやん!」
姉妹で戯れ合う姿を見ながら、俺と亜美は溜息をつくのだった。
◆◇◆◇◆◇
夕方17時。
ミス&ミスター月ノ木が始まるという事で第一体育館に集まった俺達は、もちろん紗希ちゃんの応援だ。
「紗希ちゃん、どんなアピールするんだろ?」
「……急に脱ぎだしたりしなきゃ良いけど」
奈央ちゃんが小さな声でそう言うと、仲の良い友人達は「ありそう……」と不安そうに口を揃えて言うのだった。
いくら紗希ちゃんでもそれはないだろ……。
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