第479話 亜美のアクアリウム

 ☆亜美視点☆


 私と宏ちゃんはデートから帰ってきたわけだけど、水槽やポンプ、海水の作り方などを何も知らない私は宏ちゃんに頼んで色々セッティングしてもらう事にした。


「ごめんね宏ちゃん」

「いや、気にすんなー。 デートのついでだ」

「結構小さい水槽だね」


 希望ちゃんが後ろから覗き込むようにして宏ちゃんの作業を見ている。

 海水魚はそんなにたくさん飼うと大変という事なので、最初は小さな水槽で慣れていこうと思いそうしたのである。


「海水を作るにはまず、水道水の中の不要な物を中和してやらないといけないんだ。 これがカルキ抜きってやつだな」


 宏ちゃんはバケツに水道水を貯めて、カルキ抜きを投入する。


「んでその水温を計る。 後で海水の比重を測るから24℃くらいに調整すると良いぜ。 調整が済んだら、人工海水用の塩を計量してバケツにちょっとずつ海水を作って水槽に継ぎ足していくのが良い。 手間だけどな。 袋に大体こんなもんって載ってるからこれ参考にして計算すればいいと思う」

「ふむふむ」


 人工海水の素を入れてぐるぐるとかき混ぜる。

 最後に比重を確認して、濃度に問題がないかを調べて完成という事らしい。

 宏ちゃんのお手本を見た後、自分でも実際にやってみる。

 思ったより手間がかかるんだねぇ。 しっかり塩を溶かしてポンプで循環し水槽に入れてセッティングOK。

 明日の受験勉強後にお店に行き、お魚さんを見繕う事にした。 また宏ちゃんのお世話になることになりそうだよ。


「しかし亜美って海水魚飼いたかったのか……」

「うーん、というより興味があったって感じかな? 部活も引退して時間も増えたし、ちょっとやってみようかなって。 飼ってみたいって思ってるのは断然猫さんだよ」

「亜美ちゃん、猫さん好きだもんね。 ボケねこさんはそうでもないみたいだけど……」


 と、自分で言ってちょっと落ち込む希望ちゃん。 仕方ないよ。 あれは猫さんとは似て非なるものだもん。

 だからと言って希望ちゃんや紗希ちゃんがあれを溺愛するのをバカにするつもりはない。

 2人は本当にあれが好きだからね。


「とりあえず今はこれで良し。 海水を循環させておくんだ」

「うん」


 セッティングを終えた宏ちゃんは、今日の所は帰るというので、玄関までお見送りする。


「今日はありがとうね。 お礼にちゅっ」

「うお……」

「奈々ちゃんと夕ちゃんには内緒だよ?」

「お、おう。 じゃあまた明日な」

「うん、おやすみー」


 手を振って宏ちゃんとのデートを終える私。

 うん、楽しかった。 こういうのも悪くないかもね。 奈々ちゃんの言ってたWデートってのもそのうちしてみてもいいかもしれない。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 翌日の日曜日~。


「え? 海水魚飼うの?」

「うん」


 皆と受験勉強会を開きながら、ちょっとした休憩タイムに入る。

 海水魚を飼うという話をすると、皆が食いついてきた。


「あれって難しいって聞いたけど?」

「うん。 でも宏ちゃんが色々教えてくれるって」

「ほう、さすがペットシッター内定者ですね」

「本当、どんな取り柄があるかわからないものね」


 奈央ちゃんがそうは言うけど、奈央ちゃんも宏ちゃんに色々と協力していたしわかっていたんじゃないだろうか?


「奈央ちゃんの家は海水魚飼ってないの?」

「飼ってるわよ? 私は世話してないけど」


 どうやら世話は使用人さんに詳しい人がいるようで、その人に任せているらしい。


「私がお世話してるのはジョセフとセリーヌだけよ」

「あ、2頭とも元気?」

「元気よー」


 あれ以来会ってないし、また今度会いたいね。

 他の皆は海水魚はおろか熱帯魚も飼っていないようだ。 意外と皆興味が無いのかなぁ?



 ◆◇◆◇◆◇



 今日の受験勉強会をお昼過ぎに終了した私は、宏ちゃんを呼んで早速海水魚を見に行くことに。

 夕ちゃん、希望ちゃん、奈々ちゃん、麻美ちゃんもついてきてちょっと賑やかである。


「海水魚って何飼うのー? いわし? サンマ?」

「たしかに海水魚だけど……なんか違うよ。 海水魚は綺麗なのが多いから何にするかはまだ……」

「イソギンチャクとかエビもいるよな」

「イソギンチャクって可愛いのかな……」


 希望ちゃんは可愛いものが好きだからね。

 イソギンチャクってうねうねしてるし、苦手な女子は多そうだ。


「まあ、定番はカクレクマノミだな。 飼いやすいぞ」

「あー、あの有名なやつね」


 うーん、楽しみだ。 早くお家の水槽で眺めたいものである。

 

 お店に到着した私達は、真っ直ぐに海水魚コーナーへと足を運ぶ。

 希望ちゃんは私達とは離れてハムちゃんのおもちゃを見ているようだ。


「綺麗だねー。 あれ何?」


 はしゃぐ麻美ちゃんが指差したのは、綺麗なコバルトブルーの小さなお魚さん。

 鮮やかな色だ。


「こいつはコバルトスズメだな。 見た通り綺麗な魚だ。 が、こいつは結構気が強い奴でな、自分より小型の魚を攻撃したりするから、混泳する場合は相手を選ぶんだ」

「さっすが宏ちゃん! ちなみにカクレクマノミさんとは混泳出来るかな?」

「大丈夫だと思うぜ」


 なるほど……この子も綺麗だし候補に入れちゃおうかな。

 と、さらに他の水槽を眺めていると、パッと見て何もいない様な水槽があった。


「んん? 何かいるこれ?」

「いないわね……」

「淡水ヒラメだなぁ。 あの端っこに小さいのがいるぞ」

「淡水ヒラメ……淡水魚かぁ……可愛いのに海水じゃ買えないんだね」

「だな。 ペットとして人気もあるんだ。 機会があったら淡水魚も飼ってみたらどうだ?」

「だねぇ」


 今はとりあえず海水魚だ。

 結局色々見た結果、カクレクマノミのペアにコバルトスズメ、イソギンチャク、更に見た目を彩る為にエビさんと海藻も買った。

 いやいや、凄い出費である。


「買い込んだわね」

「あはははー、凄い一杯ー!」


 親切な店員さんから飼育のコツなんかも教わり、いよいよ私だけのアクアリウムが出来るわけである。

 家に帰って来た私達は、袋に入ったままの海水魚さん達を水槽に浮かべて、少しずつ水温に慣らしていく。 その間に海藻やイソギンチャク、エビを先に放流。


「はぅ。 うねうねしてるよぅ」

「でも、これだけでも綺麗ね」

「だねぇ……」


 そして、水温に慣れたであろうところで、お魚さん達も放流。

 これにて私のアクアリウムが完成した。


「おー! やっぱりお魚が入ると映えるねー!」

「うん」

「しばらくはちゃんと混泳出来るか見ておくんだぞ?」

「わかったよ」


 しばらくの間、皆で水槽を眺めてのんびりと過ごす。

 希望ちゃんも、自分の部屋からバニラパフェとチョコクッキーの飼育ケースを持って来て、ちょっとしたペットショップ状態になる。

 お世話は大変かもしれないけど、頑張って飼育を続けていくよ。


「そだ。 今日は皆で夕飯食べよ?」

「ん? 良いけど。 親に電話しとくわね」

「やったー! 夕也兄ぃに美味しいご飯作るー!」

「サンキューな」



 ◆◇◆◇◆◇



 夕飯を食べながら、水槽を眺めてリラックスする私。

 いいねぇ。 ペットを飼うって本当に良いものである。

 夕飯を食べた後は、お魚さんに餌を与える。

 量も大事で、多すぎるとエサが残り、腐ってしまい水質が悪くなるらしい。

 イソギンチャクは水質にうるさいらしいので、要注意だと店員さんに教わったよ。

 初心者にはあまりオススメしないと言われたけど、何事もやってみないとわからないので、私は挑戦する事にした。

 いつか、私だけのアクアリウムを作り上げるよ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る