第468話 友達以上恋人未満

 ☆奈々美視点☆


 七星大学のオープンキャンパスを終えた私と夕也は、そのまま大学周辺でデートをすることにした。

 要するにここからがデート本番ってわけね。

 とりあえずは周辺でショッピングかしらね? 大学に受かったらこの辺が行動範囲になるわけだし、将来の為に下見下見。


「さあ夕也、行くわよ。 駅前にモールあったしそこ見に行くのよ」

「あいよ」


 夕也と手を繋ぎ、いざ駅前にあったショッピングモールへ。


「ね? 私達、恋人同士に見られたりしてるのかしらね?」

「まあ、知らない人から見たら見えるんじゃねぇか?」


 夕也に訊いてみると普通にそういう返事が返ってきた。 まあ、同い年ぐらいの男女が手を繋いで歩いているんだから、普通はそう見えるか。


「さっきもバレーボールの見学してる時に、お前の彼氏か訊かれたぞ」

「なんて答えたのよ?」

「友達以上恋人未満って答えておいたぞ」

「ふぅん」

「な、なんだ? 間違ってないだろ?」

「そうね」


 まあそうなんだけど、なんか面白くないわねぇ。


「な、なんか怖いんだが……」

「別に大丈夫よ。 取って食ったりはしないわ」


 2人で会話を楽しみながら、目的地であるショッピングモールへとやってきた。


「さあ! 洋服を見るわよ! ついてきなさい」

「了解」


 夕也は特に文句も言わずに私についてくる。

 宏太なら「勝手に見てこい、俺はここで待ってる」とか言って、休憩用のベンチに腰を下ろしているところね。

 夕也と宏太ではこういう所にも違いがある。

 まあ性格とかの違いなのかしらね。


「ふんふーん……」

「鼻歌とか歌ってご機嫌だな」

「服を見てる時は大体ご機嫌よ」


 これ着て歩いたらどんな感じになるかしら? とか、これとあれのコーデ試してみたいわね。 とか、色々考えながら洋服を手に取ったりする。

 これがまた楽しいのよね。


「ね、どれ買ってくれるのよ?」

「何?」


 聞いていなかったのか、こちらを向き首を傾げる夕也。

 なのでもう一度同じ言葉を繰り返す。


「どれ買ってくれるのよ?」

「……買わせる前提なのか」

「ぷっ……ははは……嘘嘘冗談よ。 欲しけりゃ自分で買うわよ」


 別に最初から買わせるつもりなんてないのよね。 どんな反応するか見てみたかっただけってとこ。


「まあ、あんまり高くない服なら買ってやらんでもないが」

「……あんた、ほんっとに優しいわね。 そんな事言われちゃあしょうがないわ。 買わせてあげる」

「……高いのはダメだぞ」


 言ってみるものね……。 マジで冗談のつもりだったのに、こいつってば。

 とはいえ、この優しさに免じて財布に優しい物を選んであげる事にしましょう。

 さすがの私でも気を遣うわ。


「んー……」


 季節はそろそろ涼しくなってくる秋。

 とはいえ残暑厳しい9月の上旬。

 先を見据えた服をチョイスした方が長く楽しめるわね。

 という事で、秋から冬にかけて着られそうな服を選ぶ。

 

「これぐらいならどう?」


 選んだ服の値札を夕也に見せる。

 夕也は値段を確認すると「お前も何だかんだ優しい奴だな」と応えた。

 OKという事らしいので、並んで会計へ。


「サンキュー夕也。 今着るのはまだ暑いから、もうちょい涼しくなったら着たとこ見せてあげるわ」

「おうおう、楽しみにしてらぁ」

 

 買った服を片手に店を出る私達。 この服を着た姿は夕也に最初に見せてあげましょう。


「夕也は何か見たい物とかないの?」


 私の買い物に付き合ってもらったわけだし、次は夕也に付き合うつもりで訊いてみた。

 夕也は少し考えるような仕草を見せたが……。


「いや、別にないな。 まあ、歩いてて気になる店でも見つけたら声掛けるさ」


 そう言って先々と歩き出した。 そういうことなら少しぶらぶらとウインドウショッピングにでも付き合ってもらいますか。


「よし、じゃあ次はお化粧品見にいくわよ」

「了解だ」


 相変わらず文句も言わずについてくる夕也。 んー、私的には夕也との方が付き合いやすいわね。

 宏太とだといちいち漫才みたいなやり取り挟むことになったりして大変なのよね。 それはそれで楽しいんだけど。


「どうした?」

「え? いえ別に。 あんたって亜美や希望とデートしてる時もこんな感じなわけ?」

「こんな感じってどんな感じだよ」

「だからこう、亜美とか希望に合わせるような感じなの?」

「んー? あー、まあそんな感じだな。 亜美とはお互いに行きたい場所を交互に行く感じだけどな」

「ふぅん……なるほどね」


 やっぱり相手に合わせるのね。 まあ夕也はそういう性格よね。

 今日は私とのデートだから、私のやりたいようにやらせてくれてるんだろう。 本当にこいつは……。


「あんたはなんていうかさ……損な性格してるわよね」

「そうかぁ?」

「そうよ。 他人に優しいのは良いけど、もうちょっと自分にも優しくなった方が良いんじゃない?」

「うーむ? 俺そんなに優しいか?」


 と、首を傾げながら隣を歩く夕也。

 自覚無し。 あぁ、こいつはそういう奴だったわねぇ。

 無自覚な優しさで女の子をその気にさせる女ったらしだったわ。

 私も何回ドキドキさせられたか……。


「誰から見ても優しい。 優しすぎるわ」

「そうかー? 自分では結構冷たい男だと思ってるんだが」

「はぁ……あんたが冷たかったら世の男はどうなんのよ……」

「それはさすがに盛りすぎだろ」


 夕也は苦笑いしながらそう言った。

 別に盛ってるつもりはないんだけど。 こいつに自覚させるのは無理くさいわね……。

 でもまあ、今のままの夕也が私は好きだし、これからも無自覚な優しさでドキドキさせられてあげるとしましょう。

 宏太には出来ない芸当よね。


「あ、コスメショップ発見」


 歩き回っていると、目的のお店を発見。 普段来ないようなショッピングモールだから、お店を探す楽しみもあるわね。


「よし、入るわよ夕也!」

「へいへい、姫の満足いくまでお供いたしますよ」


 と言う夕也の腕に私の腕を絡めてコスメショップへ入店。

 ここまでやっても嫌がらないのね。 これはどこまで許してもらえるのか興味ありだわ。

 

「んー……色々あるわね」

「男の俺には何が何だかさっぱりわからん」

「まあそうでしょうね。 あ、これ新作の香水かしら」


 お試し品を手に取り手首に少しだけ吹きかけてみる。


「……ほう。 スイートポテトの香りって何よって思ったけど割とありね」

「スイートポテトの香り? どんなだ?」


 夕也も興味を示した様子。 匂わせてあげようとしたところで良い事を思い付いた。

 とりあえず手首を自分の顔の前に出して夕也に匂いを嗅がせてあげる。

 夕也が私の手首に顔を近づけてきたところで、すっと手を退け……。


「ん……」

「んぐ?!」


 不意にキスを見舞ってやる。

 さすがの夕也もびっくりしたような顔を見せて後退、周りをキョロキョロ見回した後で小さな声で……。


「バ、バカかお前……何してるんだよ……」

「別にキスぐらい良いでしょ。 外国じゃ挨拶だって言うし」

「そ、そういう問題かよ……大体、人に見られたらどうすんだよ?」

「上手く見えないようにしたから大丈夫よ」


 そう返すと夕也は口をパクパクさせて黙り込んでしまう。 これはイタズラドッキリ大成功ってやつね。


「ふふ……今度はこのコスモスの香りっての嗅いでみる?」


 イタズラっぽく微笑んで聞いてやると、夕也は「バカか……」呆れていた。

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