第456話 引退
☆亜美視点☆
インターハイから帰って来た日の翌日。
奈々ちゃんを家に呼んで色々と相談をしているところである。
「んー、やっぱりキャプテンは小川ちゃんだよねぇ……」
「それは現キャプテンの亜美が決めなさいよ」
相談にならなかった。
「でも、鏡さんも適正あると思うよぅ」
と、鏡ちゃんを推して来たのは希望ちゃん。
たしかにそれもそうなんだよね。
結局この2人のどっちかなんだけど、ずっと2年生を引っ張ってきたのは誰かって言えば、やっぱり小川ちゃんなんだよねぇ。
「んー!」
「悩み過ぎでしょ……」
奈々ちゃんはクッキーを齧りながら呆れたように言った。
「でもねぇ、キャプテンって大変なんだよぉ……特にバレー部はねぇ」
「まあ、名前だけの顧問がいるだけだものね」
結局、それを改善してあげることは出来なかった。 後輩にも同じ苦労をさせる事になるのだと考えると申し訳なく思う。
「でも、仕方ないよ。 亜美ちゃんは良くやったと思うよ」
「そうよ。 なんと言っても、バレー部専用体育館を手に入れたのが一番の功績でしょ」
「そだねぇ。 でも、皆のおかげで好成績を残せたからであって、私一人でやったわけじゃないよ」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
「後は新しいキャプテンにお任せしようよ。 きっと大丈夫だよ」
「そだね。 私達の出来る事は全部やったよね」
「そういう事!」
「よし! 新キャプテンは小川ちゃんだ!」
小川ちゃんに、月ノ木バレー部の未来を託す事に決めたのだった。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
私達は、最後の部活動の為に月ノ木学園、バレー部専用体育館へと集まっていた。
「はいー! 皆、集合だよー!」
すっかり大所帯になったバレー部員を一か所に集める。
私達3年生は皆の前に並んで集合。
落ち着いたところでお話を始める。
「えーと、キャプテンが松葉杖突いてて何だかかっこ悪いんだけど、これから新しいキャプテンを任命して私達3年生は引退します」
「皆、今までついてきてくれてありがとうね」
副キャプテンの奈々ちゃんが続ける。
「まあ、こんな頼りないキャプテンについてきてくれたことは、本当に感謝してるよ」
「そんな、頼りないなんてことはありませんて……」
苦笑いしながらそういうのは渚ちゃん。 中学生の頃からずっと世話してきている麻美ちゃんはというと……。
「うわーん! ぐずっ! うわーん!」
号泣していた。 別にどこか行っちゃうわけでもないんだけど……。
「皆も一言どぞ」
他の3年生の皆にも最後の挨拶をしてもらうことにする。
まずは希望ちゃんから……って、なんで隠れてるんだろう?
「希望ちゃん、どうぞ?」
「はぅ……その、皆頑張ってね」
「そ、それだけでいいの?」
そう訊くと「うん」とだけ頷く希望ちゃんだった。 仕方ない子だねぇ。
「んじゃあ次は奈央ちゃん」
「OK-。 私が直接何か教えた事ってあんまりなかったけど、ちゃんと皆の事は見てたわよ。 本当はセッターの技術とかをもっと教えてあげるべきだったんだろうけど……ごめんなさいね。 皆なら私達がいなくてもきっとやっていけるわ。 自信持って頑張って」
「はいっ!」
うんうん、いいねいいねぇ。
「次は紗希ちゃん」
「あいよー。 おほん。 私は結構色々なこと教えてきたつもりだけど、まだまだ教えたい事があるわけ。 受験勉強はあるけど、たまーに休憩がてらに顔出すこともあると思うから、その時は邪険にしないでね」
「はい! いつでも来てください!」
「紗希ちゃん、勉強もちゃんとするんだよ?」
「わかってるわよー」
まあ、紗希ちゃんは努力家だしちゃんとするだろう。 その辺は心配ないか。
「んじゃじゃー遥ちゃん」
「おうー。 皆、私達がいなくなったから弱くなったなんて言われるんじゃあないよ! 目指せ高校大会6連覇だ!」
「はい!!」
そうならないように私は後輩育成に力を注いできたつもりだ。 強豪立華や、新田さんのいる都姫など強敵はいっぱいいるけど、皆ならきっと勝てるよ。
「よし。 じゃあ、これから新しいキャプテンを任命します」
私は松葉杖を突いて小川ちゃんの前に移動する。 小川ちゃんも察したのか、顔付きが真剣なものに変わり息をのむ。
「小川ちゃん。 月ノ木バレー部をお願いね」
「は、はい! 頑張ります!」
パチパチパチパチ……
「副キャプテンは小川ちゃんが決めてねー」
「あはは……じゃあ鏡さんかな」
あー、やっぱりそうなんだね。
「了解。 皆で頑張っていきましょうね」
これで私のキャプテンとしての役目は終わった。 月ノ木バレー部を引退し、これからは受験勉強専念していくことになるわけだ。
「小川ちゃん、バレー部のキャプテンはすごく大変で、こんな形で引き継ぐのは心苦しいんだけど頑張ってね」
「あはは……頑張ります。 私は専属コーチを付けてもらえるように頑張りますね」
「お願いね」
空いている方の手を伸ばして小川ちゃんと握手を交わし、思いを託す。
うん、後輩も皆、頼もしく成長してくれた。 私も安心だよ。
「それじゃ、皆後は……」
「待ってください先輩方」
「え?」
体育館を去ろうとしたその時、小川ちゃんに止められてしまう。
一体どうしたんだろうか?
「最後に私達と試合してください!」
「え……」
◆◇◆◇◆◇
ということで、思いもよらぬ試合が行われることとなった。 ただし、私は足をケガしていて動き回れないのでサーブだけの参加。 奈々ちゃんは無茶さえしなければ大丈夫とのこと。
守備に入れない私の代わりはマリアちゃんが立候補してくれた。
私も思い切りプレーしたいけど、この足じゃもう無理だよぉ……。
ということで、私達3年生は本当の最後の試合を目一杯楽しんだのであった。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……皆、楽しかったよありがとう」
「や、やっぱり先輩達は強い……ありがとうございました!」
代表して小川ちゃんが頭を下げて礼をする。
「あはは、皆も強いよ。 安心した」
「まだまだですけど、頑張ります」
「……清水先輩。 必ず先輩以上の選手にになってみせます」
「マリアちゃん。 ふふ、頑張ってね」
「……余裕ですか……」
なんか小さな声で言ったような気がするけどまぁ良いか……。
「じゃあ、またね。 時々は顔出すよ」
「はい! お疲れさまでした!!」
こうして私達は体育館を後にしたのであった。
帰りには皆で緑風へ寄り、打ち上げを始める。
「ようやく肩の荷が下りたねぇ」
「そうねぇ。 練習試合で都姫に1回負けたとはいえ、公式大会無敗の5連覇達成。 本当よくやったわよ」
「中学からだと8連覇ですわよー」
こうやって聞いてみるととんでもない記録である。 私だけじゃなくて、皆がいたから達成できた記録だね。
「皆、約6年間、本当にありがとうね。 お疲れ様だよ!」
「お疲れー!」
皆でジュースを乾杯し、バレーボールでの思い出を語り合いながら過ごした。
これで高校でのバレーは終わり。 今後、どうなるかはわからないけど、また皆とバレーボールが出来る日が来るといいね。
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