第409話 最後の体育祭
☆亜美視点☆
今年もやってまいりました体育祭。
梅雨時期にも関わらず、毎年何故か天気が良くて中止にならない不思議な体育祭。
今年は3年A組なので、Aチームでの参加となる。
麻美ちゃんと渚ちゃんもAチームなので、バレー部レギュラー勢揃いだ。
「このチームでどうやって負けろって言うんだ?」
宏ちゃんが、我がAチームのメンバーを見てそう言った。
奈央ちゃんに遥ちゃん、紗希ちゃんだって運動神経良いし、奈々ちゃんや希望ちゃんもかなり動ける。
夕ちゃんと宏ちゃんも言わずもがな。
「うわわ……凄いチームになってる」
「まあ、負けようがありませんわね」
「油断は禁物よ?」
まあそうではあるんだけど、でも皆のスペックを考えたら負けるのは難しいんじゃないかなぁ?
「亜美ちゃん、二人三脚頑張ろうねっ」
「うん」
私は希望ちゃんと二人三脚にも出場予定である。 姉妹の息ぴったりの走りを見せちゃうよ。
「開会式を始めます。 生徒はクラス毎に集合して下さい」
集合の合図が掛かったので、私達はチームテントから出て移動する。
相変わらず学園長の長いお話を聞かされるので、私は雲の流れをじーっと見つめて時間を潰すのであった。
◆◇◆◇◆◇
開幕競技は恒例の短距離走である100m。
私達の中からは奈央ちゃん遥ちゃん、夕ちゃんが参加予定。 私は次のハードルに出る予定なので、一緒に移動を開始する。
「同じクラスだと亜美ちゃんと勝負出来ない事が残念ですわね」
「そうだねぇ」
奈央ちゃんとのライバル対決は、私も楽しませてもらっている。
ただ、今年は同じチーム故に対戦が成立しないのだ。
それに関しては仕方がないだろう。
「皆、頑張ってね」
「任せて下さいませー」
「余裕余裕」
「ま、サクッと1位になってくらぁ」
頼もしい限りである。
まず1年生の部からだけど、バレー部の子が数名走っていた。
あまり結果は奮わなかったようだけど。
そして2年生の部には麻美ちゃんが今年も参加している。
「麻美ちゃんふぁいとー」
「頑張るー!」
私の声援に応えてスタートを切る麻美ちゃん。
彼女もかなり足が速く、陸上部でも短距離選手としてやっていけそうなレベルである。
「あはははー!」
余裕なのか癖なのかは知らないけど、笑いながら走っている。
ちょっと怖い。
そのまま麻美ちゃんは、ぶっちぎりトップで駆け抜けて行った。
「さすがだねぇ……私も頑張らなくちゃ」
3年生の部はまず奈央ちゃんからスタートのようだ。 陸上部の人と一緒に走るみたいだけど。
パンッ!
ピストルが鳴ると同時に、奈央ちゃんはフルスロットルで飛び出した。
どういう原理か知らないけど、奈央ちゃんは初速が異常な程速い。
もちろん最高速もかなりのもので、普通の人はスタートでつけられた差を詰めることすら不可能な程だ。
普通のポニーテールで走っている事から、あれでも本気ではないという事だね。
あっさりとトップでゴールテープを切っている。
「退屈そうな顔してるよ……」
奈央ちゃんは勝ったのに詰まらなさそうに空を見上げながら溜息をついているように見えた。
その後の遥ちゃんも夕ちゃんも順当に勝ち、100mが終了した。
「さてさて……次は私だね」
ハードル走に参加する選手が呼ばれたので、スタート位置へ移動する。
ハードルは1年生の時に走ったっけ。
「うわ、清水さんと同じレースかぁ」
隣に並ぶB組の新山さんが、私の姿を見てそう言った。
「お手柔らかにぃ……」
「新山さん……諦めムード漂ってるけど……」
「そりゃねぇ……」
私って何だと思われてるんだろうか?
もしかしたら転けたりするかもしれないのに。
ハードル走は順調に進んでいき、私の出番がやってきた。
新山さんも気合いを入れているようで、諦めムードはどこへやら。
「狙うは大金星!」
「あ、あはは……」
パンッ!
スタートの合図で、一斉に飛び出す。
私は奈央ちゃんみたいなスタートダッシュはないので、横並びのスタートとなった。
しかし、ハードルを跳ぶたびに私のリードが広がっていく。
飛越の上手さが如実に出ているようだ。
結局、ゴールテープを切る頃には結構な差をつけていたのだった。
「知ってた」
「新山さん……」
2位となった新山さんは、真顔でそう言って私を見つめるのだった。
◆◇◆◇◆◇
僅か2競技ではあるが、Aチームが圧倒的な強さを見せた為に、既に他チームとは大きな点差が生まれていた。
「いやー、こりゃやばいね」
紗希ちゃんが得点ボードを眺めながら零す。
「このままぶっちぎっちゃいましょ」
「んだなぁ」
このチームならそれも可能そうである。
さて、次の種目は借り物競走だ。
我が学園の借り物競走は、突拍子もないお題が入っていたりする。
青いブラだとかお姫様抱っこだとか……思い出すだけで恥ずかしい。
今年は希望ちゃん、宏ちゃんが参加。 2年生からは渚ちゃんが出るようだ。
「希望ちゃーん頑張ってー」
「フレー! フレー! 希望姉!」
今年のAチーム応援団長に任命された麻美ちゃんが、学ランを着て応援している。
チアガールじゃあないんだね。 あ、渚ちゃんはチアガールらしい。
さっきはハードルに参加しててよく見てなかったから後でじっくり観察しよう。
さて、借り物競争がスタートしたようである。 1年生の子達がお題の物を借りようと四方に散る。
さて、どんな無茶なお題を引き当てたのかな?
「おお、花川先生のとこに走ってく男子いるね」
「花川先生を借りて来いってお題か?」
「あはは」
花川先生は月学教師陣でも男子からの人気の、若い先生である。 私達は直接関わったことはないんだけど、男子生徒からモテるらしい。
今1人の男子生徒が頭を下げて何とか借りることに成功したようだ。
「おう斎藤! 後で体育館裏こいよ!」
「てめぇー!」
他の男子からは非難轟々と言ったところ。 後で大変そうである。
「お、渚の番よ」
「おおー! 渚ファイトー!」
パンッ!
スタートして一斉にお題の書かれた紙を開く走者達。 皆頭を抱えたりして困った様子を見せている。
一体何が書かれているというのだろうか。
「あ、渚ちゃんが近藤先生のとこに走っていったよ」
「近藤を借りて来いってお題か?」
近藤先生は、少し太った初老の先生である。 実はある疑いがあるんだけど……。
「あれ、近藤ちょっと困ってるわよ?」
「渚も必死に頭下げてますわね」
「んーもしかして……」
渚ちゃんはだいぶ苦戦している様子。 他の子達もそれぞれの題の物を探して走り回っている。
きっと皆、めちゃくちゃなお題を出されたに違いないよ。
渚ちゃんは両手を合わせて懇願するようなポーズを取っている。
「間違いないな……」
「そうだよなぁ……」
夕ちゃんと遥ちゃんは察しがついたらしい。
他の皆も薄々と察し始めたところで、麻美ちゃんがポロッと口に出してしまう。
「近藤先生のカツラだー!」
……そう、近藤先生にはカツラ疑惑が浮上しているのである。 もちろん真偽の程は誰もわからない。 渚ちゃんも非常に頼みにくいお題を引いてしまったねぇ。
「どうすんのこれ? リタイア?」
「これはお題が悪すぎでしょー」
「だよねぇ」
他の走者はすでにゴールしてしまったので、渚ちゃんはビリ確定である。 もうお題を借りずにゴールしても良いような気がするが。
「うわわ!?」
「おおー」
次の瞬間。 渚ちゃんは一瞬の隙をついて近藤先生の頭に手を伸ばし、見事なスティールを決めた。
なんと、近藤先生は本当にカツラだったことが今この瞬間に発覚してしまったのだ。
「うおおおお!」
「やるー!!」
「月島グッジョーブ!」
周りから歓声が巻き起こる中、渚ちゃんは近藤先生のカツラを右手で高々と掲げてゴールテープを切るのだった。
ビリでゴールしたのにトップを取ったような盛り上がりである。
この日、渚ちゃんは全校生徒から「英雄」として崇められるのだった。
尚、後で近藤先生にカツラを返しに行った時はこっぴどく叱られたらしい。 完全にとばっちりである。
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