第369話 比較
☆亜美視点☆
紅白戦の第一試合は終了したので、少し休憩を挟んで第2試合。
冷静さを欠いたマリアちゃんの頭を冷やすため、Aチームは観戦に回らせる。
私達Eチームは、私の他にに渚ちゃんがいる。 対するCチームには奈々ちゃんと奈央ちゃん。
コートに入って、1年生達に一声かける。
チラッとマリアちゃんの方を見てみると、紗希ちゃんが隣に座って何か話しかけている。
フォロー入れてくれてるのかな?
「さ、始めるよ」
「はい」
「さー、来なさい亜美」
「奈々ちゃん、勝負!」
◆◇◆◇◆◇
「よっしゃ勝ちー」
「負けたー」
うーん、やっぱり奈々ちゃんは強いなぁ。 奈央ちゃんと組んだってのもあるんだけど。
「奈々美、試合には勝ってますけど、亜美ちゃんとの個人の勝負でしたら、得点数も決定率も亜美ちゃんの方が少し上ですわよ」
「ぐっ……ひ、引き分けねっ」
「あはは、引き分け引き分け」
それにしても、コートに入って試合してみてわかったけど、やっぱり今年の1年生はレベルが高い。
「育て甲斐あるね」
「そうね」
コートから出て少し休憩を挟む。
さて、マリアちゃんは頭冷えたかな?
チラッと見てみると、じーっと私を見つめていたマリアちゃんと目が合う。
うーん、頭は冷えたみたいだね。 紗希ちゃんが上手く宥めてくれたのかな?
「紗希ちゃん、フォローありがとねー」
「大したこと言ってないわよー? 亜美ちゃんに勝ちたいなら、亜美ちゃんの試合よく見とけーって言っただけだし」
「だ、だから私をじーっと見てるのか……」
んー、じゃあ次の試合は私のチームとマリアちゃん、紗希ちゃんチームかな。
とりあえずは試合してみて、話はそれからだね。
◆◇◆◇◆◇
で、次の試合──
「よーし、始め!」
ネットの向こう側には、鋭い目つきでこちらを見るマリアちゃんが立っている。
うー、怖い。
サーブは相手チームの冴木ちゃんから。
さっきの試合では、中々良いフローターサーブを使っていた。
今回もフローターサーブみたいだ。
「落ち着いて拾ってこー」
Lの子に声をかけつつ、ポジションにつく。
「はいっ!」
「ナイスレシーブだよー!」
レシーブは、Sの小川ちゃんの真上に上がっている。 Lの子も上手い。
どの子達も、本当にちょっと前まで中学生だったはずだけど……。
渚ちゃんが少し早めに助走に入っている。
MBの子もCクイック、私はオープンだ。
「はい!」
お、私へのオープントス。
ブロックに紗希ちゃんと黒川ちゃんがついている。 いやいや、マリアちゃんも来て3枚だ。
「じゃあ……これで!」
私は全力で地面を蹴り、高々と跳び上がる。
「せーの!」
ブロック3枚もタイミングを合わせて跳んでいるけど。
私はその上の高さからスパイクを打ち抜く。
「うへー、やっぱり抜かれたかー」
「先輩ー、全力は禁止ですよー……」
紗希ちゃんと黒川ちゃんが、私の方を見てそんな風に言う。
「……」
マリアちゃんは、飛んでいったボールの方を見ながら固まっていた。
「くっ……!」
うーん、同じ学校の仲間なんだから、そんな敵意を剥き出しにしないでほしいなぁ。
「って、私のサーブだ」
急いでローテーションしてサーブ位置へ。
よし、じゃあ狙いはマリアちゃん。
「いくよっ!」
マリアちゃんを狙った私の弾丸サーブ(別に早くも強くもないけど)は、マリアちゃんに簡単にレシーブされた。
やっぱりパワーが私の課題か。
で、マリアちゃんはレシーブも上手いね。
「こっち!」
レシーブしてすぐにバックし、助走に入るマリアちゃん。 次の動作を考えたレシーブの体勢。 そこからの次の動作への切り替え。
並の高校1年生とは比較にならないレベルだ。
でも、こっちのMBの子もきっちりブロックについてる。
「せーの!」
渚ちゃんとMBの子でブロックに跳び、マリアちゃんを止めに行く。
パァン!
「触ってます!」
「ナイスブロックー!」
ブロックの手の平に当り、高く上がったボールにLの子が追いついてレシーブを上げる。
私はバックアタックの準備だ。
小川ちゃんがセットアップして、トスを上げる。 私の前でクイックに跳んでいた渚ちゃんは、手を振るだけでスパイクは打たず。
上がったトスは、私への高いトスだからだ。
渚ちゃんに釣られた黒川ちゃんとマリアちゃんは今、ブロックから着地したところだ。
「はっ!」
ガラ空きになったネット際から、コーナーを狙ってスパイクする。
「うへー、ライン上スパイク禁止ー」
「えぇー……」
全力ジャンプもピンポイントスパイクも禁止って、私何も出来ないよ。
「……」
マリアちゃんには睨まれるし……。
その後は、マリアちゃんも最後まで冷静にプレーしていたけど、私達には1歩及ばずに試合は終了した。
負けたとはいえ、素質の片鱗は十分見せてもらったし、あとは私と仲良くしてくれれば言うことなしなんだけど。
「集合!」
紅白戦を終えて、皆に集合してもらう。
皆に、今日の試合を通してみての総評を伝える。
「まず1年生だけど、皆思ってた以上にレベルが高いよ! 自信持ってね!」
「はい!」
「2年生! 1年生に負けてちゃダメだよ!」
「はい!」
「3年生は次の大会が最後だから、気を抜かないで頑張って!」
「はーい」
か、軽いなぁ……。
「じゃあ、各自練習再開!」
残り時間は、ポジションごとに分かれての練習に充てる。
んで私は……。
「マリアちゃん、ちょっと」
「……何でしょうか?」
「あっちでお話ししよ」
「……わかりました」
敵意は剥き出しだけど、一応ちゃんと先輩の言う事は聞けるようだ。 話が出来るなら何とかなるかもしれない。
私はマリアちゃんを連れて、体育館の舞台袖に移動した。
移動してすぐに、マリアちゃんが口を開く。
「……ボコられるんでしょうか?」
「ボコらないよ?!」
私を何だと思っているんだろうか。 奈々ちゃんじゃあるまいし……あ、奈々ちゃんも宏ちゃんと夕ちゃんにだけだよ?
「お話って言ったでしょ?」
「……」
黙ってしまうマリアちゃん。
とりあえず始めよう。
「気になったから、マリアちゃんの事調べてみたよ」
「そうですか……」
「その、ごめんね? 私、中学バレー界で私と比較されてるなんて知らなくて」
と、何とかフォローしてみる。
「……最初は気にしてなかったですよ。 いつか超えてやる。 廣瀬マリアが1番凄い。 そう言わせてやるって」
マリアちゃんが心中を語り始める。
私はそれを黙って聞いてあげることしか出来ない。
「でも……周りから聞こえてくるのは中学時代の清水亜美はもっと凄かった、清水亜美の下位互換……そんな声ばかりだった」
「えっ……」
思ってたより酷い比較のされ方をしたようだ。
でも、私にはどうしてあげることも出来ない。
「今や、世界一のプレーヤーとなった清水先輩に、劣化品扱いされる私の悔しさがわかりますか?」
「そ、それは……」
ここで「わかるよ」なんて見え透いた嘘をつく事は出来ない。 勝負事に負けて悔しい思いをする事はあっても、誰かと比較されて劣化品扱いされた事なんてないからだ。
何をやっても出来てしまう私は常に「凄い」「何でも出来て羨ましい」そんな風に言われるばかり。
それが私の欠点なのかもしれない。 出来ない人の心が、比較される側の心がわからない。
もしかしたら私は、無意識に他人を見下すような事をしている酷い人間なのかもしれない。
「わからないですよね?」
「あぅ……」
「……ですけど、今日の紅白戦でハッキリわかりました」
「え?」
マリアちゃんは、私を見据えて言った。
「周りの評価は間違っていなかった。 清水先輩は、間違いなく私より上でした……恐らく、中学生時代の先輩にすら敵わないだろうことも……」
「マリアちゃん……」
「ですが!」
「あぅ……」
「これで兜を脱ぐつもりはありません。 高校では必ず、先輩より凄いプレーヤーだと言わせてみせます」
と、強い意志のこもった眼差しで私には向けて言うマリアちゃん。
すると……。
「言ってくれるわねぇ? 亜美を超えたいなら、まず私を超えてもらわなきゃ。 あ、でも先に私が亜美を超えちゃうかも?」
「あ、藍沢先輩……」
「私もいるわよー」
「神崎先輩も?!」
「次期エースは私やで!」
「月島先輩まで!?」
何故か立ち聞きしていたらしい3人が、乱入してきた。
副キャプテンの奈々ちゃんまで何やってるんだか……。
「はぁ……マリアちゃん。 私に対抗心燃やすのは構わないけど、仲良くバレーボールしようね? 私も、他の3年生の皆も、マリアちゃんには期待してるんだよ? 見学の後、皆で『凄い子がいたね』って話してたんだから」
「……仲良く……わかりました。 努力します」
「お、お願いね」
まだ打ち解けたとは言い難いけど、何とかチーメイトとして上手くはやっていけそうだ。
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