第353話 完全復活
☆亜美視点☆
春休み。
短い休みだけど、奈央ちゃんがアメリカへ行っている間は特に予定は無い。
今日も家事以外はやる事が無くて退屈していた。
そんな時に、麻美ちゃんから連絡があった。
「一緒にゲームしよー」
という事である。
特に予定も無いのでOKすると、すぐゲームを起動する。
「ありゃ、夕ちゃんもいるんだねぇ」
先月始めたばかりの夕ちゃんも、麻美ちゃんに呼ばれたらしい。
「よーし! 3人で組んでダンジョン攻略だー!」
やる気満々の麻美ちゃんにパーティーに誘われて、ダンジョン攻略をする事になった。
しかし、いつ見ても麻美ちゃんと夕ちゃんの名前の横に付いているハートマークが羨ましい。
そのハートマークは、そのキャラが結婚しているマークだ。
麻美ちゃんと夕ちゃんは、このゲーム内で結婚しているのだ。
私がいない間にしていたのでどうしようもない。
「まあ、ゲーム内だからとやかくは言わないけども……」
現実の恋人は私なのだ。 それは誰にも譲らない。
「ミミは強くなったよねー」
「ありがとう」
ミミとは私のキャラの名前である。 本名はさすがに使いたくなかったので。 アミ→アミミ→ミミというわけである。
夕ちゃんも「ユウユウ」とかいう可愛い名前でプレイしている。
キャラクターは男の子らしく戦士にしているので、魔法使いの私や、打たれ弱い麻美ちゃんの壁になってくれる。
ただ、まだあまり強くないのがねぇ。
「夕ちゃん、またやられてるし……」
私達のパーティーに足りない物、それは回復してくれる人だろう。
コンコン……
ゲームをプレイしていると控えめなノックが聞こえてくる。 夕ちゃんは一緒にゲーム中だし、これは希望ちゃんだね。
「どうぞー」
「亜美ちゃんー、退屈だよぅ……って、ゲーム中か」
部屋に入って来た希望ちゃんは、そのまま私の隣まで来て画面を覗き込む。
「……面白いの?」
「うん、結構ね。 わかってくると面白いよ」
「ほー……私にも出来るかな?」
「希望ちゃん興味あるの?」
「んー何か、私だけ仲間外れみたいでやだなぁと」
仲間外れ? あー、夕ちゃんが始めちゃったから、この家の中では希望ちゃんだけが話に入れないんだ。
「出来なくはないと思うよ? 私や夕ちゃんでもなんとなくで出来てるぐらいだし」
「亜美ちゃんに関しては、色々とハイスペック過ぎて参考にはならないかな」
「普通だと思うけどなぁ」
私は、希望ちゃんがゲームに興味がある旨を、麻美ちゃんに伝える。 すると……。
「すぐ行く!」
「だって」
「はぅ」
麻美ちゃんは行動力の塊のようだ。
ものの数分で今井家にやって来ては、希望ちゃんを連れ去っていった。
「まるで台風だよ……」
麻美ちゃんがいない間は、夕ちゃんとその辺のモンスターを倒して遊ぶ。
少し遊んでいると、麻美ちゃんが作ったチームに新メンバーが加入したという通知が来た。
「のんちゃん……希望ちゃんだね」
可愛いらしい女の子のキャラクターが、チームの拠点にやってきた。
「おー、可愛い! 回復キャラだ!」
これでパーティーバランスが良くなったよ。
麻美ちゃんは、そのまま今井家に居座り、ノートパソコンからログインしてプレイを続行。
ダンジョン攻略は中断して、希望ちゃんの強化のお手伝いをする事になったのであった。
◆◇◆◇◆◇
ちょっとした休憩時間を取りながら、私はネットサーフィンを始める。
パソコンは便利だねぇ。
ピロン……
「ん、メールか……素人小説大賞発表……うわわ! 今日だっけ?!」
私が応募した小説大賞だ。 早速、発表ページへ移動する。
トップページには「数多くのご応募ありがとうございます」と始まり、長い挨拶文が書かれている。
私はドキドキしながらページをスクロールさせていく。
「大賞……『繋ぐ想い』 音羽奏さん」
たしかにそう書かれていた。
大賞…。
「や、やったー!!」
大賞候補になっているっていうのは結月さんに聞いて知っていたけど、こうやって決まってみるまではドキドキした。
「どうしたの亜美ちゃん?!」
「何かレアアイテムドロップした?!」
隣の部屋にいた希望ちゃんと麻美ちゃんが、私の大声を聞いてすっ飛んできた。
わ、私、そんな大きな声出してたかな?
「何だ何だ?」
遅れて夕ちゃんも様子を見にきた。
私は、パソコンの前に3人を呼んで画面を見せてあげる。
「はぅっ!?」
「お?」
「おー! 亜美姉やった!」
麻美ちゃんが私の手を取って飛び跳ねる。
本人の私より喜んでるんじゃないだろうか?
まあ、私も飛び跳ねたいけどちょっと恥ずかしいなぁ。
「これって、お前の書いたのが本になるのか?」
「うん、そうだよ」
「はぅー……おめでとう、亜美ちゃん!」
「ありがとう!」
「音羽奏、完全復活だねー!」
「あ、あはは……うん。 私、この道を歩いて行こうって思う」
一つのやりたい事。 小説作家への道が開けた。
私の力がどこまで通用するか、私の作品がどれだけの人に感動を与えられるか……。
「ワクワクするよ!」
ピロピー……
と、盛り上がっていると、気の抜けるような着信音が聞こえてきた。
麻美ちゃんのスマホからのようである。
「うげ……この悪魔の着信音は……」
どうやら人によって着信音を変えているらしい。 それにしても、悪魔の着信音って……。
麻美ちゃんは、嫌そうな顔して通話を始めた。
「もしも……はぁ」
もしもしを言い終わる前に溜息ついた?!
「あー……うん……うん、見てるよー」
あ、麻美ちゃんが勢いに押されてる?! 一体誰なんだろう……。
「うん、本人も喜んでるよー。 うん、一緒ー……わ、わかった、わかったからー」
麻美ちゃんは「はい」と、スマホを私に渡してくる。
え? 私?
「私の担当から……」
「あぁ、結月さん!」
「気を付けてねー、電話だとリミット外れるからー」
なんだかよく分からないけど、とりあえず通話を始める事に。
「あの、お電……」
「おめでとう、音羽奏さん! 見事貴女の作品が大賞に選ばれたわよー! あ、私が担当になるんでよろしくお願いしまーす!」
リミットか外れるってこういう事ね……。
前にあった時は、もう少しマシだったもんね。
「あ、ありが……」
「早速なんだけど、連絡の取り方はメールとか電話にした方が良いのよね!? 身バレは出来るだけ避けたいって話だし」
「あ、はい、出来ればそ……」
「了解! 仕事用に捨てアカ作ってメアド教えてくれる? あ、別に本アカでも良いけど」
「あ、じゃあ後で作ってメールし……」
「OKOK! じゃあこれから、アサミちゃんとカナデちゃん2人とも面倒見るんで、よろしく!」
「あ、よろし……」
プツッ……
「くお願いしま……す……」
電話は既に切れていた。
「あぅあぅ」
「はぅはぅ?」
「どうした亜美?」
呆気に取られて言葉を失ってしまったよ。
「凄いよねー、勢い任せに話すだけ話して、こっちの話は聞かないんだもん。 連絡のやり取りメールにして正解だよ亜美姉」
「う、うん……」
わ、私、あの人と上手く仕事出来るかなぁ……。
麻美ちゃんだからついていけるんじゃないだろうか?
「何はともあれ、これから私のライバルだね、亜美姉! 恋愛では勝てないけど、小説では負けないよー!」
「お、お手柔らかに……」
こうして、小説作家の音羽奏としての活動が本格的にスタートする事になった。
まずは、繋ぐ想いをちゃんと書籍にしないとね。
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