第342話 なんでもできる

 ☆亜美視点☆


 現在、テニス部の助っ人として練習試合に出ている私は、シングルス1にて試合中。

 お相手は県大会個人戦準優勝の猛者だけど、何とかついていけている。


「あー、やってるやってる」

「亜美、見に来てやったわよ」

「はぅ、負けてる?」

「私のライバルがこんなところで負けて良いわけありませんわよ?」

「踏ん張れ亜美ちゃん」


 どうやらバレー部の2年生が応援に来たようだ。 ただの練習試合だから来なくていいって言ったのにぃ。


「よし……頑張るよ」


 私は崖っぷちだけど、ここでブレイクできれば5-5になり何とか希望を繋げる。 このゲームが大事だ。

 コートに入って集中力を高める。

 まずはサーブで崩されないこと……。


「っ!」


 パンッ!


 まずはワイドのドライブサーブから入ってくる。 私はある程度読んでいたので、インパクト前には走り出していた。 ここで相手はネットへと出てくる動きを見せた。 先程からロブを試みているものの、あまり上手くいっていない。


「なら、横を抜くパッシングショットだよっ!」


 難しいコースだけど、私は空いているストレートに無理矢理打ち込む。


「っぁ!」


 パンッ!


「なっ?!」


 上手く相手のネット際プレーを封じることに成功。 まずはリターンエースでこのゲームの主導権を握る。


「いいですわよー」


 外野も声を出して応援してくれている。

 次のサーブはスライスサーブで攻めてきた。 ネットにも出ずに、ベースラインでストローク勝負に持ち込んでくるつもりらしい。


「よし……ここは勝負だよ!」


 その勝負に私も乗る。 ストローク勝負は正直分が悪いけど、上手く相手を走らせて隙を窺う。

 左右に走らせて、ここでも主導権を握る。


「ここだ!」


 途中で逆を突くフラットショットを放ち、ここでもポイントを取り0-30とする。

 テニス、だいぶ掴めてきたよ。 ここに来て、思ったとこにボールを打てるようになってきた。

 さらに次のサーブを、相手のシングルスコートのコーナーライン上にピタリと落とすリターンエースを決める。


「な、なんなのあの子……部長に食らいついてる」

「無名選手でしょ……?」


 相手チームの方も騒がしくなっている。 無名っていうか、テニス部ですらないんだけどね。


「亜美ちゃんいいよぅ! ここ取れればまだいけるよぅ!」


 珍しく希望ちゃんも声を出してくれているし、なんとか……。


 パンッ!


「深いところにサーブ打ち込んできたねっ!」


 打ちにくいところに入ってきたサーブだけど、上手く引き付けてリターンする。

 ここでまたストローク勝負になるが、先程のように私が主導権を握り左右に走らせる。


「全部ラインぎりぎりに……ていうか、全部ライン上じゃない……何なのよあの子!」


「っ!」


 ここで渾身のフラットショットを逆サイドに打ち込むも、お相手さんが何とか追いついてラケットに当てる。

 しかし、当てるだけのリターンはロブになり、私のチャンスになる。


「えいぃ!」


 それを落ち着いて逆サイドにスマッシュし、ゲームをブレイク。 何とか希望を繋いだ。


「5-5!」

「清水さん凄いよ!」


「あはは……」


 さて、ここは私のサービスゲーム。 キープして逆に有利に立ってやる。


「よし、いくよ!」


 パンッ!


 ここでまた逆回転のサーブを打つ。

 最初のセット以降使わずにいたので、突然これを打たれては相手も反応が遅れる。

 返ってきた力のないボールを、逆に力強く返球する。


「この!」

「負けないよ!」


 ここでまたストローク勝負に。

 私もかなり慣れてきたので、ストローク勝負でも引けを取らなくなってきている。


「よっ!」

「15-0」


 ……。


「30-0」


 試合を完全に有利に進めているよ。 相手選手もかなり焦りを感じているのか、プレーに精彩を欠き始めた。


「ゲーム月ノ木清水! 6-5!」

「おおー! 亜美ちゃん、あと1ゲームよー!」

「あの子、本当になんでもできるわね……」

「私のライバル、亜美ちゃんですもの。 当然ですわ」

「あはは」


 さあ、このゲームを取れば私の、私達月ノ木学園の勝ちだ。

 こうなったら、テニスでも勝っちゃおう。


「っ!」

「フォルト!」


 珍しくファーストをミスってきたね。 だいぶ力んでるようである。

 セカンドサーブはミスれないので、必然と力を抜いたサーブになる。

 つまり、こちらのペースに持ち込みやすい。


「はいっ!」


 お互いベースラインでの打ち合いに拘り、1球1球決めるつもりで打ち込んでいく。

 取ったり取られたりを繰り返し、30-40で私のマッチポイントとなった。


「っ!」


 相手が渾身のサーブを打ち込んでくると、私はそれを渾身のリターンを返す。

 後が無い相手とここで決めたい私。

 長いラリーが続く。


「はっ!」

「えいっ!」


 そして……。


「はぁっ!」


 パァン!


「くっ!」


 私の渾身のショットは、相手の股下を抜けて決まる。


「ゲームアンドマッチ! ウォンバイ、月ノ木清水!」


「はぁはぁ……か、勝った!」


 両者ネットの前へ移動して、握手を交わす。


「貴女、強いわねー。 名前も聞いた事ないけど、1年? 前半はテニス歴浅そうに感じたけど、後半は逆に県上位クラスの試合運びだったわ。 担がれたかしら?」


 やっぱその辺はバレていたらしい。


「私は2年生だよ。 テニス歴はぁ……今日が初めて。 バレー部員なんだけど、テニス部で欠員が出たからその助っ人を頼まれたの」

「き、今日が初めて?! さすがに嘘よね?」

「本当だよ」


 お相手さんは、口をパクパクとさせて言葉を失っている。

 やっぱり、初心者に負けたのはショックだよねぇ。


「月ノ木……バレー部の清……あーっ! 日本の月姫!?」

「あ、あはは……」


 テニス界でも有名なんだろうか? 私は恥ずかしいけど一応頷いておく。


「はー……テニスの才能まであるのねー……。 今日は良いゲームだったわ。 また……って、もうないか」

「多分……」

「残念。 それじゃね」


 先程まで試合していた相手と手を振り別れる。

 うん、青春。

 もし次の小説を書くことになるなら、テニスを題材にしてみようかな。


「清水さん! 今日はありがとう!」

「あ、水瀬さん! こっちこそ、何だかんだ良い経験になったよ」


 部長でクラスメイトの水瀬さんと、話をする。

 まさか、私が勝つとは思っていなかったらしい。 普通は勝てるわけないもんね。



 ◆◇◆◇◆◇



 帰り道──


「でもあんたさ、さすがに化け物過ぎない?」

「人間だ……と思うんだけどなぁ」


 さすがに今日の勝ち方をしちゃうと、ちょっと自信を失くすね。 人間だよね?


「その内、色んな部から助っ人頼まれそうだね?」


 希望ちゃんが恐ろしい事を口にした。

 バレーボールや勉強に集中したいから、助っ人はもう良いかなぁ?


「にしても、夕也も来れば良かったのに」


 奈々ちゃんがそう言う。

 

「どして?」

「貴重な亜美のスコート姿が見られたのに」

「うわわ……恥ずかしいから来てなくて良かったよ」

「可愛いかったから写メ撮ったよぅ。 夕也くんに見せよーっと」

「希望ちゃんっ?!」


 2人から散々イジられる私であった。

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