第335話 今年は
☆亜美視点☆
2月です。 13日の土曜日です。
つまり、バレンタイン前日。
夕ちゃんと付き合い始めてから初めてのバレンタイン。
一昨年までは、市販のチョコレートを渡していたんだけど、去年はついに初めて手作りを渡した。 凄く小さいやつを。
そして今年も手作りを渡すつもりでいる。
ただ、今年は希望ちゃんとの共同制作をする事にした。 これは私から提案した事。
「で、どんなのにする?」
希望ちゃんと、チョコ作りの材料を買いに出てきているわけだけど、まだどんなチョコレートを作るか決まっていない。
希望ちゃんは去年、チョコレートケーキ作ってたっけ?
「無難に色んな形の詰め合わせとか?」
「それ本命にするの?」
「え、ダメかな?」
「んー。 ダメって事はないけど、恋人ならもうちょっと頑張っても良いんじゃないかな?」
「そ、そう?」
と、希望ちゃんに言われてもう少し考えてみる。
「そうだねぇ。 せっかく2人で作るんだし、もうちょっと手の込んだ物にしよっか」
「うんうん」
「ちなみに希望ちゃんは、どんなのを作る予定だったの?」
「私? 今年はロールケーキにしよっかなぁって考えてたんだけど……」
「よし! 採用!」
「えぇ……」
希望ちゃんは、ジト目で私を見つめるも、仕方ないといった感じの溜息をついて頷いた。
な、何か問題あったかな?
という事で、早速材料を購入していく。
基本的にはケーキの材料と、チョコレートクリーム用のチョコと生クリームだね。
「んー」
「ん? どしたの希望ちゃん?」
「うん。 ロールケーキとは別に、友チョコ用のトリュフも作ろうかなって思ってね」
「あー、たしかにそうだね。 私もそうしよっと」
という事で、ココアパウダーも追加で購入。
これで材料はOKかな。
さて、帰ったら早速チョコレート作りだよ。 夕ちゃんの家だと何作ってるかバレちゃうので、清水家の台所で作る事にした。
「あ、先輩」
「お、渚ちゃんこんにちは」
「こんにちはー」
「あ、こんにちはです。 じーっ……」
私達が手に持っている物をじっと見つめている。
「バレンタインチョコ作りはるんですか?」
「そうだよ」
渚ちゃんの手に持っている物を見ると、綺麗に包装された袋。 多分中身はチョコレートだ。
夕ちゃんに上げるやつかな?
「それ、夕ちゃんに?」
「えっ? あ、いやこれはその……あ、あの! 私にチョコレート作り教えて下さい!」
何故か頭を下げてそんなお願いをしてきた渚ちゃん。
教えるほどの事でもないんだけど……。
「それ、市販のバレンタインチョコレートだよね? 夕也くんに上げるんでしょ?」
「や、やっぱり、て、手作りの方がええかと思うて……」
私と希望ちゃんは顔を見合わせた後、クスッと笑い。
「良いよ! これから私の家で作るからおいでよ」
「ほ、ほんまですか! おおきにです! せやったら、材料チョコ買ってきます!」
凄い勢いでスーパーに戻って行った。
慌てなくてもちゃんと待つのに。
◆◇◆◇◆◇
はい、という事で、渚ちゃんも加わり早速チョコ作りをしていくよ。
「渚ちゃん。 トリュフで良いかな? 私と希望ちゃんも、友チョコ用に作るんだけど」
「はい、それでええです」
じゃあ、ロールケーキは後にして先にトリュフから作っていきますか。
「トリュフはそんな難しくないから、すぐに覚えられよぅ」
「頑張ります」
渚ちゃんったら緊張してるねぇ。
「んじゃ、まずは材料チョコを刻むよ」
希望ちゃんは、手際よくチョコレートを刻んでいく。
渚ちゃんも見様見真似でやってるけど、ちょっと手がおぼつかない。
野菜は刻めるのに……。
希望ちゃんの包丁が空いたので、私もチョコレートを刻む。
3人ともチョコレートを刻み終えたので、生クリームを鍋に入れて火にかける。
一気に3人分なので、少し時間がかかりそうである。
「生クリームを温めてる間に、バットを用意しておこうか」
「そだね」
生チョコを冷やす為のバットを用意する。
やはり3人分のバットを用意。
そうこうている間に、生クリームが軽く沸騰し始める。
私は火を止めて、お鍋をテーブルに持ってくる。
「で、さっき刻んだチョコレートに生クリームを入れて、ヘラで溶かしながら混ぜる」
「ほうほう……」
3人でボウルを順番に回しながら混ぜていき、いい感じに溶けて混ざったところで、バットに3等分して流し込む。
「……ドロドロですね」
「あはは、このまま冷やしてちょっと固めるんだよぅ」
「ふむふむ」
渚ちゃんはスマホでメモを取り始めた。
勉強熱心だねぇ。
「亜美ちゃん。 固まるまで時間あるし、ロールケーキの方も進めよ?」
「そうだね」
「え、ロールケーキも作りはるんですか?」
渚ちゃんが、目を丸くして訊いてきた。
「うん。 夕ちゃんに上げる分は、私と希望ちゃんで共同制作するんだよ」
「す、凄い……」
「まあ、私はこんな手の込んだバレンタイン初めてだけどね。 今までずっと市販だったし」
「え? 清水先輩が?」
何故か意外そうに言う。
希望ちゃんもクスクスと笑うし、一体何なのよ……。
「亜美ちゃんって、意外とこう言う事に無頓着なんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「んー、そう、なのかなぁ?」
まあ、今までが今までだからねぇ。
希望ちゃんより目立たないようにしてる内にあんな感じになったんだけど……。
「ほらほら、それよりもロールケーキ作るよ」
「そだね。 私、生地担当するね」
希望ちゃんが生地を担当するなら、私はクリームの方だね。
渚ちゃんが見学する中、私と希望ちゃんで分担して作業を進める。
希望ちゃん、手際良いなぁ。 何故かお菓子作りは得意なんだよね。 料理はまだ私の方が上手いんだけど、何が違うのかな?
希望ちゃんの生地をオーブンで焼いている間に、トリュフの方を進める。
「ラップの上にチョコを乗せて、丸めながらゆっくり包んでね」
希望ちゃんが渚ちゃんに手本を見せる。 渚ちゃんは少々不器用なところがあるが大丈夫だろうか?
「……あ、力入れすぎてしもうた!」
「あはは。 大丈夫大丈夫。 形を直せば良いんだよ」
渚ちゃんは半泣きになりながらチョコと格闘していた。
チョコを全て包んで、冷蔵庫に入れて固める。
ここでまた時間が出来るので、ロールケーキの続きだよ。
「焼けた焼けた。 よいしょっ」
バットを逆さまにして、ストンッと焼けた生地をシートの上に落とす。
「す、凄い……ケーキになっとる」
「そりゃケーキ作ったんだもん、なってないと困るよぅ」
「良い感じに焼けてるね。 んじゃ、私が作ったチョコレートクリームを塗って……」
ヘラでケーキの表面にチョコクリームを塗りたくり、最後にケーキが崩れないように優しく巻いていく。
「完成ー!」
「パチパチー」
「ロールケーキになっとるー!」
渚ちゃんは今までに、お菓子とか作った事ないのかなぁ?
反応が面白いね。
「さて、あとはトリュフだね」
冷えて固まったトリュフを冷蔵庫から取り出して、ココアパウダーを振りかけると……。
「こっちも完成ー!」
「パチパチー」
「わ、私にも出来た……」
「うんうん。 やったね!」
渚ちゃんは大袈裟に頭を下げて、私と希望ちゃんにお礼を述べる。
大した事じゃないのに……。
最後に袋に入れて包み、渚ちゃんに渡す。
「助かりました」
「後は明日、夕ちゃんに渡すだけだねぇ」
「うっ……」
緊張してきたのか、渚ちゃんは固まってしまった。
大丈夫かなぁ?
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