第333話 昔の思い出

 ☆亜美視点☆


 私達は家族で旅行に来ている。 旅館に着いて少し休憩した私は、外に出て辺りの散歩をすることにした。

 希望ちゃんもついてきているので、ゆっくりとお喋りしながら未知の街を歩く。


「んー、雰囲気良い所だね」

「うんうん。 本当にビンゴ当たって良かったよぅ」


 これは希望ちゃんに感謝するしかない。 私には何一つ当てることが出来なかったし。

 それにしても、2人で温泉街を散歩していると小学生6年の冬休みにした旅行思い出す。

 それは希望ちゃんも同じようだ。


「ねぇ、小学生6年の頃にも旅行先でこうやって歩いたよね」

「うん。 私も思い出してたとこだよ」

「やっぱり?」

「うん。 だってねー? 希望ちゃんったら迷子になっちゃって。 ぷぷ……」

「あぁ! もぅー……」


 あの時は大変だったけど、あれで希望ちゃんも清水家の一員になれたってところあるしねぇ。



 ◆◇◆◇◆◇



 希望ちゃんが清水家の一員にになったばかりの冬休み。 私達清水家は新たに増えた家族、希望ちゃんと初めての家族旅行に行った。

 あの時も温泉旅行だった。 私は今と同じように外に出て散歩していたのだけど、一緒についてきた希望ちゃんはまだ少し遠慮気味で、家族に馴染み切れていなかったところがあった。


「亜美ちゃん……私、本当についてきてよかったのかなー?」

「お散歩の事なら良いに決まってるじゃない」

「そうじゃなくて……この旅行」


 希望ちゃんは少し下を俯いてそう言った。 清水の家に来てまだ数ヶ月であるけどこの子は……。


「良いに決まってるでしょ? いい加減に慣れなよぉ」

「そう言われても……」

「もう……」


 私は希望ちゃんと適当に歩きながら、色んな店を冷かしていたのだけど、気付いた時には希望ちゃんがいなくなっていた。



 ☆希望視点・過去☆


 私は亜美ちゃんについて旅行先の街を散歩していたのだけど……お土産屋さんでお爺ちゃん達のお土産を選んでいるうちに、亜美ちゃんがどこかへ行ってしまいはぐれてしまった。


「は、はぅ? 亜美ちゃーん?」


 しーん……


 名前を呼んでみても返事が無いことから、近くにいないことがわかる。

 どどど、どうしよう……。

 こんな見知らぬ土地で知り合いとはぐれて1人に……。 もしかしたらこのまま放って帰られたりして、私はこのまま見知らぬ土地で……。


「はぅぅ……」


 もちろん、その辺の地元の人に宿泊している旅館の名前を伝えれば道を教えてくれるだろうけど、人見知りの私がそんなこと出来るはずもなく……。


 お土産屋さんを出た私は、記憶を頼りに来た道を戻るように歩き始めた……つもりであったが、亜美ちゃんの後を、ただついて歩いていただけだったので道をはっきりとは覚えていない。


「はぅ……」


 どこを見回してみても知らない街並み。 亜美ちゃんも見つからないしどうすれば。


「お嬢ちゃん、1人かい? ご両親は……」

「はぅー?! 大丈夫ですぅー!」


 優しい人が声を掛けてはくれるのだが、人見知りな私は逃げ回っていたのであった。

 そんなこんなで1時間近く知らない街を歩き回った私は、完全に道にも迷ってしまいパニックに陥っていた。


「どうしよう……このままじゃ本当に……うう、お父さん、お母さん……もうすぐそっちに逝くよぅ」

「逝かせるわけないでしょもぉ……探し回ったよぉ?」


 1人で公園のような場所に佇んでいると、聞きたかった声が聞こえてきた。


「亜美ちゃん! と、お養母さん、お養父さん」

「もう心配したじゃないの希望……」

「はぅ……」


 次の瞬間、私はお養母さんに抱き締められていた。


「もう……」

「お、お養母さん……」

「希望。 心配したぞ。 お前はもう私達の娘なんだからな。 簡単に逝くとか言うな」

「お養父さん……」


 私はちゃんと、清水家の一員として愛されているんだという事を感じた。

 そしてその日から私も、清水家の一員として、遠慮することなく接していこうと決めたのだった。



 ☆希望視点・現在☆


「懐かしいね」

「そうだねぇ。 もう迷子になっちゃだめだよぉ?」

「ならないよぅ」


 今も亜美ちゃんと2人で散歩中。 今は手を繋いで歩いているので、迷子になることもないだろう。


「さて、そろそろ戻ろうか?」

「うん」


 ひとしきり散歩した後、私と亜美ちゃんは手を繋いだまま旅館へと戻った。

 旅館に戻った後も、お父さんとお母さんに「迷子にならなかった?」と弄られてしまうのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 時間は夕方。 食事の前にお風呂に入ろうということになり、早速浴場へと向かった。

 露天風呂もあるようなので、私達はそこへと向かう。


「うわわ、立派な露天風呂だよ」

「雪景色の山が一望できるね」

「本当良い景色ね」


 お母さんも一緒、女3人で入浴。


「亜美ー。 あなた、胸大きくなったわねぇ。 着やせするのね」

「もう……お母さんったら」

「あはは。 でも亜美ちゃん本当に大きいよね」


 羨ましいなぁとは思う。 でも、私は今ぐらいで丁度良いし別にこれ以上大きくならなくても良いかな。


「それにしても、本当に良い宿だわ」

「奈央ちゃんの家が凄いだけだよ……」

「たしかに……」


 西條グループの旅館、やっぱりその辺とは違うという事だ。 帰ったら奈央ちゃんにも感謝しないといけないね。


「あ、そうだ。 ねぇ希望ちゃん?」

「ん?」


 亜美ちゃんが唐突に何か訊いてきた。

 一体何だろ?


「今朝、夕ちゃんの事でまだチャンスを窺ってるって言ってたよね?」

「言ったね」


 私は今でも夕也くんの隣に居たいと思っている。

 半ば諦めてもいたけど、チャンスがあれば……ぐらいにはまだ狙っていたりする。

 亜美ちゃんも夕也くんもガードが緩いから、割とチャンスがあるような気もするけど……。


「娘2人が1人の男子を巡って争ってるって……面白いわね」

「面白いかなぁ……」

「奪い合うのは疲れるよぅ」


 お互いの幸せの為とはいえ、亜美ちゃんと争うのは本当に大変だ。

 それに、夕也くんの気持ちを動かすのも一筋縄じゃいかない。

 チャンスを窺ってるだけじゃ、逆転勝利は転がってはこないかもしれないなぁ。


「私はいつだって挑戦を受けるよ」

「あ、あはは。 余裕だねー、亜美ちゃん」

「やれやれー」


 何故かお母さんもノリノリになっていたのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 食事の後ののんびりとした時間。

 亜美ちゃんは夕也くんに電話していた。


「麻美ちゃんとはどうだった? ちゃんとエスコートしてあげた?」


 この通り、心配なのは夕也くんと麻美ちゃんの仲ではなくて、麻美ちゃんを楽しませてあげられたかどうか。

 余裕なのか無頓着なのかはわからないけど、ガードゆるゆるである。


「そかそか、良かった。 うんうん。 え? 夕ちゃんもあのゲーム始めたんだ? じゃあ一緒に遊ぼうね」


 麻美ちゃんがやってるゲームかな? 夕也くんも始めたんだね。

 私は鈍臭いからなぁ。


「じゃあ希望ちゃんに替わるね」


 そう言って私にスマホを手渡す亜美ちゃん。 ありがたく受け取り、夕也くんとお話しをする。


「どうだ、そっちは?」

「のんびりと出来て良いよ。 夕也くんは夕食とか大丈夫?」

「あぁ。 麻美ちゃんが作ってくれたよ」


 なるほど。 デートの後で夕也くんの家に来たんだね。 麻美ちゃんも意外と攻める。


「今度、私ともデートしてね」

「月1回のやつだな? 了解了解」


 その後も、気の済むまで夕也くんとお話ししてから、亜美ちゃんにスマホを返す。

 亜美ちゃんももう話すことは無いようで「じゃあ明日ね」と言ってすぐに通話を切った。


 あっさりしてるなぁ。

 

 寝る前には家族でトランプなどに興じ、賑やかに過ごした。


 翌日は旅館をチェックアウトし。辺りを観光してから家路につく。 4月にはお父さんとお母さんは東京に行ってしまう。

 定期的には会いにいくつもりだけど、一緒に居られる間は出来るだけ一緒に過ごす事にしようと思う。

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