第291話 西條家クリスマスパーティー

 ☆奈央視点☆


 学校も冬休みに入っており、今日は12月25日のクリスマス。

 年末年始はさすがにアメリカへ行くわけにもいかないので、日本で過ごす。

 今日は西条家でクリスマスパーティーが催される事になっていて、友人達も招待している。

 バスケ部はウインターカップの為に東京へ行っており、今はここにはいない。 まあ仕方がないことである。 なので、バレー部の友人だけを招待している。

 パーティーは18時開始であり30分前から受付開始となっている……のだけど、私の友人達は例外で、既に私の部屋に来て寛いでいる。


「こ、このドレスほんまに着てもええんですか?」

「ええのよ」


 渚が飾ってあるドレスを見て、目をパチパチさせている。

 今日のパーティーの為に、友人達用のドレスを準備してある。 勿論、彼女達に似合うように作られたオーダーメイドである。 そんなことを言ったらこの子達は恐縮するだろうから、あえて言わないけれど。


「やっぱり有名人とか来ちゃうわけ?」


 ソファーの上で胡坐を掻きながらそう訊いてくるのは奈々美である。

 今年も政界のお偉いさんやグループのお偉いさん。 芸能人なんかも招待されているはずである。


「そうね。 結構来ると思うわよ」

「ゆ、有名人?!」


 その辺に慣れていないであろう渚は、逐一驚きの声を上げる。

 一般人はまあ仕方がないわよね。


「麻美ー。 イケメンも来るかもよ?」

「興味ないよー。 あ、でもラッキーズの浅井君ならちょっと興味あるかな」

「希望ちゃんも、イケメンに声掛けられるかも?」

「興味ないよ」


 と、2人は御覧の通り。

 いや、それはここにいる全員がそうかしらね。

 皆にかかれば、芸能界随一のイケメンアイドルも形無しね。


「遥もナンパされたりして?」

「いやいや、ないっしょ」


 今年の5月連休前に、私が可愛らしく改造してあげた遥は、学園内ではそれなりに人気があるようだ。

 女子受けの良かった以前に比べて、今は男子からも一定の支持を受けている。

 遥はもっと、自分に自信を持った方が良いと思うのよ。

 夏祭りから、例の彼との噂も聞こえてこない。

 一体何をもたもたしているのかしら。


「さて、そろそろ着替えて準備準備」


 時間も時間なので、皆に着替えを促す。

 女子ばかりだし、この場で着替えても問題無いでしょう。


「うっ、紗希……またデカくなった?」

「さあ?」

「神崎先輩凄いですやん……」


 私の親友である紗希は、とにかく豊満な胸の持ち主である。 ちょっとぐらい分けて欲しいと思うわけ。

 他にも亜美ちゃんや奈々美も、かなりの物を持っている。

 ていうか私以外は、それなりに……。


「渚もまあまあじゃん」

「ちょっ! 麻美触らんといてや!」

「麻美、触り方がぬるい! こうやんのよ!」

「ぎゃー! 神崎先輩まで!」


 渚も紗希の神の手の餌食に……。

 それにしても、どうして私は身長も伸びないし胸も育たないのかしら……。


「ほら、奈央が落ち込むからその辺にしとけよー」

「落ち込まないわよ!」


 遥に3万円のクッションを投げつけてやった。

 それぞれがドレスで着飾ると、これはこれはかなり華やかになった。

 亜美ちゃんは、薄い水色のドレスで、髪にはイルカの髪留め。

 希望ちゃんは、薄い黄色のドレスに赤いヘアバンドを着けている。

 この2人のドレスは同じデザインの色違いにしてある。 仲の良い2人に配慮したのだ。

 奈々美は黒の大人っぽいドレスで、背中が大胆に開いている。

 その背中が見えるように、髪は上の方でまとめて留めている。


「なんか背中がスースーするわね」


 だそうだ。


 紗希は薄いピンクのドレス。 奈々美が背中なら紗希は胸。

 胸の上部を大きく開けてあり、谷間もバッチリなエロドレスである。


「紗希、こぼれないようにね」

「気を付ける」


 遥のは、情熱的な赤いドレス。

 凝ったデザインではないけど、身長と相まって目立つ事間違いなし。

 本人は、もう少し大人しい色にしてくれと文句を言っているが無視。

 麻美には、明るいオレンジ色のドレスを。

 元気な彼女には、その元気さが際立つ明るい色が似合う。

 ちょっとフリルも付いて、可愛らしい仕上げになっている。

 渚のは逆に暗いブルーのドレス。

 悩んだけど、麻美とは対照的に大人しい色のドレスにしてみた。


「皆、似合ってるわね。 見立て通りだわ」

「奈央ちゃんのも似合ってるよ」


 とは亜美ちゃんの言葉。

 私のは白いドレスである。

 こちらも、あまり凝ったデザインにはしていない。


「皆、準備出来たみたいだし、会場に向かうわよ?」

「はーい」


 というわけで、皆を引き連れて会場となる大広間へと向かうのであった。

 これぐらいの時間なら、早い人ならもう来ているかしらね。

 また挨拶回りが面倒なのよね……。


「それにしても、ほんまに広い家ですね。 はぐれたら迷子になりそうや……」


 きょろきょろと周りを見ながら、渚が漏らす。

 さすがに家の中で迷子にはならないでしょう……。

 ただ、はぐれると厄介である。


「はぐれないようにね」

「は、はい」



 ◆◇◆◇◆◇




 友人を連れて会場へ入り、私の友人達の為に準備してあった専用の席に、皆を案内して座らせる。


「ここなら目立たないし、他のVIPさん達からも距離があるからマシでしょう。 もちろん、他のお客様と交流を楽しむのも自由よ」

「あ、あはは……」


 今のところ、テーブルには何も置かれていないが、直ぐに料理が運ばれてくるはずである。

 その前に私は……。


「じゃあ、ちょっと挨拶回りに行ってきますわね」


 真お嬢様モードに切り替えて、一度友人達から離れる。


「おお、奈央お嬢様。 本日はこのようなパーティーにご招待下さり、誠にありがとうございます」

「お久しぶりでございます、平井様。 ご活躍は耳にしております。 今夜はごゆっくりお楽しみください」


 ぺこりと、お辞儀をしてまた次のお客様の下へと向かい、ぺこぺこと挨拶をする。

 しばらくはこの繰り返しである。

 本当に面倒なのよね。 早く友人達とパーティーを楽しみたいものだ。


 挨拶回りを終えて、戻る頃には皆の前に豪華な料理が並んでいて、私の帰りを待っていたようで「早く早く」と急かされる。


「西條先輩って、ほんまにお嬢様なんですね。 学校で見るのとは別人みたいですやん」

「まあねー。 いつもあんなんじゃ、身が持たないわ」


 堅苦しいのは嫌いだ。

 出来るだけ緩~く過ごしたいので、友人と一緒にいる間はとても楽させてもらっている。


「さて、待たせてごめんなさいね。 いただきましょうか」


 私も席に着き、皆と料理を囲む事にする。

 紗希が「お客さん達はいいの?」と聞かれたが、後はお父様がなんとかしてくれるでしょ。


「大丈夫よ。 顔見知りとは挨拶も済ませたし。 ただ、まだ誰かこっちに来るかもしれないから気を付けてね」

「はぅっ?! 知らない人が来たらどうしよぅ!? 凄く偉い人で、粗相しちゃって目を付けられて……社会的に消されたりして……はぅぅ」

「希望ちゃん、落ち着いて」

「よくそこまで妄想膨らむわねあんた……」


 亜美ちゃんが落ち着かせて、奈々美は呆れ返っているのだった。


「別に、誰か来たら軽く会釈するだけでいいわよ。 皆は私の学友ですって紹介するわ」

「全部奈央に任せておけばいいのよー。 さ、いただきましょ」


 何故か紗希が仕切っているが、皆もお腹を空かせていたのか手を合わせて食事に手を付け始めた。

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