第280話 秘密を探れ

 ☆希望視点☆


 今日も今日とて、宏太くんの家で家事を終えた私は、家に帰ってきた。

 土曜日だというのに、宏太くんのご両親はお仕事でいなかった。

 社会人って大変だなぁ。


「ただいまぁ」


 しーん……


 どうやらお父さんとお母さんは出かけたようだ。

 お買い物かな。

 亜美ちゃんはいるのかな?

 部屋に戻る途中、亜美ちゃんの部屋のドアを見てみると「勉強中につき開けないでね」の札が掛かっていた。


「平常運転かぁ」


 最近は、部屋に篭って勉強している事が多い。

 今まで以上に力が入っている。

 何か目標でも見つけたのかな?


 ガチャ……


 ドアの前で突っ立っていると、部屋から亜美ちゃんが出てきた。

 何故か、ジャージにハチマキというダサい格好で。

 受験勉強に必死な浪人生みたいだよ。


「あ、希望ちゃん帰ってたの? おかえり」

「た、ただいま」

「飲み物飲み物ー。 あ、部屋の中見ちゃダメだよ」

「み、見ないよ……」


 亜美ちゃんは一言そう残してから階段を降りて行った。


「勉強してるとこ見られたくないって何だろ……」


 よく分からないけど、約束通り部屋の中は見ないで、自室へと戻った。


「はぅ……それにしても、本当に勉強してるのかなぁ? あんなダサい格好して勉強する亜美ちゃん、初めて見たよ」


 ベッドに横たわりながら、一人言葉を漏らす。

 見るなって言われると見たくなるよね。


「ちょっとだけ……」


 大体勉強ってだけなら、見ないでなんて言わないよね。


「きっと何か隠してるね。 よぅし、そうなったら早速」


 部屋から再び出て亜美ちゃんの部屋へ向かう。

 もちろんバレないように、ゆっくりだよ。


「抜き足……差し足……はぅはぅ足」

「何してんの……」

「はぅぅっ?!」


 あっさりバレてしまった。

 亜美ちゃんは階段を上がってきて、私をジト目で見つめていた。


「あ、あはは……」

「見ようとしてたね?」

「だ、だって気になるじゃん」

「勉強してるだけだよ?」

「じーっ……」

「な、何?」

「怪しい……」


 絶対おかしい。

 ここまでして見られたくないって、勉強じゃないよね。

 

「怪しくないよぉ? 集中してるから邪魔されたくないだけだよぉ」

「むぅ……」


 亜美ちゃんがそう言うなら仕方がないね。


「はいはいー。 もう気にしませんー」


 私は諦めて部屋に戻る。

 でも、確信した。 亜美ちゃんは間違いなく何か隠してる。

 私にも言えない何か……。


「なんだかちょっと寂しいなー」


 一体何を隠してるんだろう。




 ☆亜美視点☆


「ふぅ……全く希望ちゃんは……」


 私は椅子に座り、パソコンのモニターに目を移す。

 モニターには、ワードソフトが映し出されており、そこには短いけど文章が書かれている。

 そう、私は現在音羽奏として新しい小説を執筆中なのだ。

 設定や話の大筋は出来ているけど、いざ文章にするとなると中々難しいものである。

 表現の仕方にしても色々あるし。


「ううん。 ここももうちょっと表現変えられるかなー」


 カタカタカタ……


「うん……しっくりくる。 それにしても、希望ちゃんが何かに勘付き始めたねぇ」


 いつまで隠し通せるかねぇ。

 それでもまだ話す気にはなれないよ。

 恥ずかしいもんねぇ。

 話すとしてもせめて完成してから……自信持って良い作品になったって思えたら。


「うん……よーし! 頑張るぞぉ!」


 カタカタカタカタ……


 

 

 ☆希望視点☆


「はー、亜美が何か隠してるって?」

「うんー。 何か知らない?」


 私は奈々美ちゃんと2人で部室でお話中。

 奈々美ちゃんなら何か聞いてるかもしれないと思ったんだけど。


「んー、特に何も聞いてはいないけど?」

「そ、そっか」


 どうやら奈々美ちゃんも何も聞いてないようだ。

 私や奈々美ちゃんにも話してないとなると、よっぽどの事なんだろう。

 この分だと夕也くんにも話してなさそうだね。


「まあ、そのうち話してくれるわよ。 多分」

「そっかな」

「そうよ。 隠し事っていえば、麻美もなのよねー……それも結構昔から」

「へぇ。 麻美ちゃんもなんだ」

「案外同じこと隠してたりしてね」

「あはは、まさか」


 ふうむ……仕方ない、亜美ちゃんが話してくれるまで気長に待つとしよう。


「何の話してるのー! 練習始めるよー」

「あーはいはい。 キャプテンの仰せのままに」

「あはは」


 着替えるのが遅い私と奈々美ちゃんを、亜美ちゃんが呼びに来た。

 さてさて、練習練習。


「亜美姉ー」

「んー?」

「どう調子は?」


 練習の合間に、麻美ちゃんが亜美ちゃんの隣へやって来て話し始めた。

 聞き耳を立ててみる。


「うん……まあまあかなぁ」

「ほうほう」

「まぁ形にはなると思うよ」

「待ってるよー。 完成したら最初に見せてね」

「あはは、うん」


 んんん? 何の話だろう? 亜美ちゃんと麻美ちゃんが隠してる事に関係あるのかな?

 だとしたら、2人は本当に同じ隠し事を共有してるって事に?

 調子とか完成とか……何か作ってる系だね。

 むむー、やっぱり気になる。


「ねぇ、何の話してるの?」


 スススーッと寄って行って自然に会話に混ざってみることにした。

 流れで口を滑らせないかなぁ。


「別に何でもないよ? ね、麻美ちゃん」

「うんうん」

「えぇ……」


 何も教えてくれなかった。


「な、何よぅ! どうして何も教えてくれないのー? 亜美ちゃんが何か隠してるの気付いてるんだからね?」

「お、怒んないでよぉ。 その内ちゃんと話すよ」

「むぅ」

「本当だよ。 今はまだちょっと恥ずかしくて……」

「むぅ……」

「さ、さぁ休憩終わり! 皆、練習再開だよっ!」


 亜美ちゃんは手を叩いて休憩終わりの合図を出した。

 恥ずかしくて言えない事ねぇ……。

 はぁ、何を作ってるのか知らないけど、亜美ちゃんが教えてくれるまで待つかぁ。



 

 ☆亜美視点☆


 現在は夜21時半。 お風呂から上がってパソコンで執筆活動中。

 まだまだ序盤の方ではあるけど、導入部分でどれだけ引き込めるかが大事。

 ここで手を抜くわけにはいかないよ。


「うーん……希望ちゃん怒ってたなー」


 ちょっと一息入れるために、モニターから目を離す。

 大きく伸びをして体を解した。


「んー……話してもいいけど、あまり期待させるのもあれだし、やっぱ完成してからの方が良いよね」


 本棚から一冊の本を取り出して、パラパラと頁をめくる。

 以前に私が書いた本だ。


「うぅ……やっぱこれ書いたの私だってバレるのはちょっと恥ずかしいねぇ」


 中学生の時私が書いた恋愛小説……結構恥ずかしい言葉が並んでいたりして、とても知り合いに話す気にはなれなかった。

 しかもヒット作になってしまい、さらに言い出しづらくなった。


「ふぅ……よし、今日はもうちょっと書いて寝よ寝よ。 汗って書いても良い物は出来ないよ」


 カタカタカタ……


 その日は22時半まで作業をして、早めに眠ることにした。

 書き始める前はそこまで乗り気じゃなかったけど、いざ書き出すと楽しいものだ。

 

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