第279話 春高レギュラー決め

 ☆亜美視点☆


 今日も今日とて部活部活。

 キャプテンとして頑張らなくちゃいけない。


「夕ちゃーん」

「こら! キャプテンらしくしなさい」

「あぅ」


 練習の合間に夕ちゃんのとこへ行こうとして、副キャプテンの奈々ちゃんに引っ張られる。

 これももう日常茶飯事である。

 やっぱり私はキャプテンなんて向いてないよ。


「ほら、後輩も呆れてるじゃないの」

「あぅ……」


 仕方なく練習に戻るのである。

 夕ちゃん、また後でだよぉ。


「春の大会のレギュラー、そろそろ決めないといけないでしょうが」

「そうだねぇ。 じゃあ後で緑風で相談する?」

「パフェ食べたいだけでしょ……」

「あ、バレた?」


 奈々ちゃんは「はぁ……」と溜め息をついた。


「とりあえず、皆の動きとか見ておかないとダメでしょ」

「うんうん。 じゃあ、紅白戦だね」

「まぁ手っ取り早くて良いわね」


 そうと決まったら、早速皆を呼ぼう。

 私はパンパンッと手を叩いて、バレー部員に集合をかける。

 1年生も2年生もわらわらと集まってきたよ。

 うーん、キャプテンって感じだね。


「こほん! これから紅白戦やります。 コートは半面しか使えないから、3チームに分けて1試合ずつ、総当たりでやります」

「はい」


 ということで、バランスよくチーム分けをしていく。

 現在のレギュラー陣はバラけるようにしてあるけど、それでも多少は差が出そうである。


「じゃあAチームとBチームから行くよぉ」


 まずはAとBで試合。

 Aチームには紗希ちゃんと麻美ちゃん、Bには遥ちゃんと奈々ちゃん奈央ちゃんがいる。


「じゃあ始めてねー」


 さて、どうなるかなぁ……。


「亜美ちゃん。 この試合どうなると思う?」


 希望ちゃんが隣に移動してくる。


「うーん……パワーなら奈々ちゃんだろうけど、高さなら紗希ちゃん。 ブロックはどうだろうねぇ……タイプ違うし」

「だね」

「他の1年達も注目だよ」


 今のレギュラー陣はほぼ盤石だと思うけど、1年生達もどんどん上手くなってるしチャンスはありそうだ。

 とはいっても……2年生6人と麻美ちゃん渚ちゃん以上の子となるとかなり難しいよ。


「はいドォン!」


 コート内では、紗希ちゃんが強烈なスパイクを鋭角に叩き落としていた。

 そこそこ高めの身長から、高いジャンプ力を叩き出す紗希ちゃんは、高さなら絶好調時の私と互角と言える。

 全日本ユースの合宿に呼ばれなかった事を、一番悔しがっていたのは紗希ちゃんだった。

 実は努力家で、練習も人一倍やっているのを私は知っている。

 日に日にレベルアップしていく紗希ちゃんは、もう1人のエースである。


「紗希ちゃん、また高くなってない?」

「うん」


 自分の武器は高さだと理解しているからこそ、武器を磨いてきたようである。


「っ!」


 今度はお返しとばかりに、奈々ちゃんのスパイクが炸裂する。


「っし!」


 高さが私や紗希ちゃんなら、パワーは奈々ちゃん。

 とにかく思いっきり叩くスパイクは、生半可なブロックでは止まらない。

 また、ブロックを躱す技術もあり、ブロックアウトやコースの打ち分けも上手い。

 うちのエースだよ。

 世界選手権中に、フォームを改造した新しいスパイクも身につけて、パワーアップを果たした。


「止めるっ!」


 今度は1年生のスパイク。

 しかし、それは遥ちゃんのブロックに阻まれる。

 遥ちゃんは、うちのバレー部で一番の長身。

 その身長を活かして、MBをやってもらっている。

 本人は、才能が無いなんて悲観しているけど、身長の高さだって立派な才能だ。

 それに、攻撃に回れば奈々ちゃんに次ぐパワーも持っている。

 うちには欠かせないセンタープレーヤーだよ。


「うぇーい!」


 こちらの変わった掛け声でブロックに跳ぶのは麻美ちゃん。

 奈々ちゃんの妹で1年生レギュラーだ。

 高さは遥ちゃん程ではないけど、天性の嗅覚と洞察力で相手を出し抜くブロックを見せる。

 駆け引き上手で、相手の細かい癖も見抜く。

 遥ちゃんが「天才」と評するだけはある。

 

「やっぱりレギュラー陣は抜けてるねぇ」

「うん。 そりゃレギュラーだしね」


 まあ、そうなんだけど。


「奈々美!」

「はいよっ」


 奈々ちゃんにボールを上げるのは、うちの正セッターの奈央ちゃん。

 バレーボールを始めたのは中学に入ってから、つまり出会った頃は初心者だった。

 私の弱点を見つける為に入ったにも関わらず、気付けば正セッターにのし上がっていた。

 そのトスは正確無比で、アタッカーの癖や打点に合わせて完璧に上げてくる。

 彼女もまた天才である。


「んと、先輩が抜けて空いたポジションを埋めないとなんだよねぇ」

「うんうん」

「えと、OH1人、MB1人にL1人か……」

「それ、今のレギュラーは変動無しって事?」

「今のところベストメンバーだと思うけどねぇ」


 今のレギュラー陣はほぼ不動と言える。

 変わるとすれば1年生セッターだけど、今のところは小川ちゃんが一つ抜けている。

 

「OHとMBをどうするか……」

「Lもだよぅ」


 悩むなぁ……。

 などと頭を抱えていると、最初の試合が終了した。

 ふむぅ……。

 一応めぼしい1年生はチェックしといたよ。

 さて、次は私達の番だね。


「奈々ちゃん、チェックお願いねー」

「はいはい」


 副キャプテンにお任せして、私はコートへ入る。

 私のチームには希望ちゃんと渚ちゃんがいる。

 希望ちゃんはうちの守備の要。

 反射神経と動体視力が凄くて、守備範囲がとても広い。

 レシーブも上手くて、あまり乱れないよ。

 渚ちゃんは1年生レギュラーでOH。

 京都から遥々やってきたプレーヤーで、姉に京都立華の月島弥生ちゃんがいる。

 奈々ちゃんに良く似たパワータイプ。

 だけど、奈々ちゃん程パワーがあるわけでも、技術があるわけでもない。

 まだまだ成長過程ではあるけど、1年生の中では飛び抜けている。


「先輩!」

「はいはいー」


 私にトスを上げてくれたのが、1年生セッターの小川ちゃん。

 荒削りではあるけど、良いモノを持っている。

 視野が広く、司令塔としての才能も秘めている。

 私達の代が引退したらキャプテンは彼女が有力である。


「とりゃっ!」


 私はきっちりスパイクを決めていく。

 うんうん。 皆良い動きしてるねぇ。



 ◆◇◆◇◆◇



「じゃあ、今日は解散っ! 皆お疲れ様ー」

「お疲れ様でした!」


 本日の部活も無事に終了。

 で、この後で奈々ちゃんと一緒に緑風へ行き、レギュラーをどうするか相談だ。


「じゃじゃ、私達は緑風行くから、希望ちゃんは夕ちゃんのご飯の用意お願い」

「はーい」


 皆と別れて、私と奈々ちゃんで緑風へ向かった。

 緑風へ着いたら、まずはパフェを注文する。


「あんたは揺るぎないわね……」

「うん」


 奈々ちゃんは、呆れたように溜め息をつく。

 ではでは早速本題に。


「で、レギュラーどうする?」

「まずあんたの意見を聞きたいわね」

「うんと、今の9人は固定としてあと3人……Lは森島ちゃんかなーって思ってるんだけど、OHとMBで悩んでて」

「ちなみに誰で悩んでるの?」

「OHに金城ちゃんか真宮ちゃん、MBに倉持ちゃんか黒川ちゃんかな」

「タイプが違うプレーヤーよね。 私も似たような感じで悩んでてね」


 奈々ちゃんと意見は合ったようだ。

 金城ちゃんは、紗希ちゃんと似た長身のアタッカーで、物怖じしないプレーが強み。

 真宮ちゃんはテクニカルなタイプで、よく相手を見てスパイクを打ち分けるプレーヤーだ。


「私は真宮さんを推すわ」


 と、奈々ちゃんが意見を出してきた。

 なるほどなるほど。


「高さは紗希とあんたで十分だわ。 渚も私よりだし、ここは技術のある真宮さんがバランス的にも良い」

「そだね。 じゃあOHは真宮ちゃんだ」


 あとはMBだ。

 

「正直MBは遥と麻美で十分な気もするのよねー」

「たしかに2人は凄いけど、倉持ちゃんと黒川ちゃんだって頑張ってるよ」

「まあね。 どっちかなら、私は黒川さんかしらね」

「あー、身長も紗希ちゃんと同じぐらいあるし、攻撃も結構上手いもんね」

「そうそう。 倉持さんも悪くないけど、攻撃面がね」

「うんうん……じゃあ決まりかな?」

「案外あっさりね」

「もっと意見別れるかと思ったけどね」


 はてさて、私達の人を見る目がたしかかどうか……。



 ◆◇◆◇◆◇



 で、翌日の練習開始前。


「んじゃじゃ、春高を戦うレギュラーを発表しまーす!」


 ざわざわ……


 ざわついてるねぇ。


「まずOHから。 私、藍沢奈々美、神崎、月島、真宮の5名」

「嘘っ! やった!」


 真宮さんが喜びの声を上げる。

 わかるなぁ。 私も中学で初めてレギュラーになれた時は嬉しかったし。


「MBは蒼井、藍沢麻美、黒川」

「っし!」


 うんうん。


「Sは西條、小川」

「はいっ」

「Lは雪村、森島、以上です! 今回レギュラーになれなかった人も、諦めないで夏の大会ではレギュラー奪取を目標に頑張ってね!」

「はいっ!」

「じゃあ練習始めるよ!」


 新レギュラーも決まり、春高に向けての練習も力が入る。

 春高連覇に向けて視界良好だよ。

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