第278話 10年の付き合い

 ☆希望視点☆


 先日、佐々木くんが私を庇ってケガをしてしまった。

 私の所為ではないと皆言ってくれるけど、さすがに何もしないわけにもいかない。

 なので、奈々美ちゃんと交代制で佐々木くんの家のお手伝いをすることになったよ。

 ということで、金曜日。

 早速、佐々木くんの家にやって来た。


「こんばんわ。 相変わらずおじさんとおばさんはお仕事?」

「悪いな。 俺の所為なのに」

「ううん。 えーと、夕食は奈々美ちゃんの家に行くんだよね?」

「おう」

「じゃあ、夕食は作んなくて良しと。 洗濯も今やっても乾かないかな」

「あー、脱水までかけておいてくれたら明日母さんに干してもらう」

「了解―。 佐々木くんはゆっくりしててねー」


 ということで、まずは洗濯から始めるよぅ。

 洗濯物を洗濯機に放り込んで~、洗剤を適量パッパ~。

 スタートボタンをポチッっと~。


「うん。 この間にお掃除だよぅ」


 リビングから順番に掃除機をかけていくよぅ。


「ふんふん~」

「ご機嫌だな、雪村」


 鼻歌交じりに掃除機をかけていると、リビングでゆっくりしていた佐々木くんにそう声を掛けられた。


「掃除してるとたまーに、鼻歌出ちゃうんだよ」

「ふーん。 夕也の奴も、よくこんな可愛いくて良い子を手放したなー……」

「はぅ……」

「あ、すまん……」


 私が少し落ち込んだのを見て、すぐに謝罪の言葉を口にする佐々木くん。


「相手が相手だからね……亜美ちゃん以外になら負けない自信あるんだけどなぁ」

「実際、雪村が亜美ちゃんを焚きつけたりしなけりゃ今でも続いてた可能性はあるだろ」

「あー、かもしれないね」


 とは思いつつも、きっとそんな状態では素直に喜ぶ事も出来なかったかもしれない。

 亜美ちゃんと真剣に取り合って負けたからこそ、納得出来ているのだ。

 納得の出来ない勝ち負けなんかじゃ、きっと夕也くんと幸せにはなれなかった。


「ところで、奈々美ちゃんとはどぉ?」

「あー。 あいつも例の騒動で色々怖くなったらしくてな。 これからはちょっと控えていこうって話になった」

「亜美ちゃん達と同じだね」


 そりゃ、高校生で出産なんて事になったら、色々と大変だろうし怖い筈である。


「でも、奈々美ちゃんと夕也くんがそんな事をするなんてねー」

「別におかしくはないけどな。 仲は良いし、お互いに幼馴染以上の感情だってまあ、あるだろうし」

「やっぱりそういうもの?」

「まあな……俺と雪村だって、雰囲気次第じゃどうなるかわからんぞ?」


 と、そんな事を言い出す佐々木くん。

 冗談かなーと思いつつも、意外にも真剣な表情を見せる佐々木くんに、少し戸惑う。


「う、うーん……佐々木くんとは出来てもキスまでかなぁ……」

「なるほど。 雪村の中では俺はそんなもんかぁ」

「いやいや、十分だと思うよ」


 キスまで許されたら、十分だよね。

 さすがにその先までは許せないけども……。


「さて、佐々木くんの部屋も掃除機かけてくるね。 時間になったら、勝手に奈々美ちゃんの家に行って良いよ」

「さすがに不用心過ぎるから、終わるまで待ってるって」

「あーひどいっ! 私何も盗ったりしないよぅ!」

「わかってるっつーの。 冗談だよ。 ただまあ、何があるかわからんからな」


 一体何があるというのか……。

 私はプンプンしながら佐々木くんの部屋へ向かう。


「よぅし! 掃除機かけるよー」


 ブィィィン……


 先程のように、鼻歌を歌いながら軽快に掃除機をかけていく。

 

「ふんふー……ん……ん?」


 掃除機をかけていると、何やら鼻に何かが当たる感触があった。

 はて、何だろ……。

 じーっと寄り目にして、鼻先を凝視する。


「は、はぅーっ! ク、クモー!?」


 バタバタ……


 虫がダメダメな私は、完全に取り乱してしまう。

 手でパシッと振り払い、何とかクモから逃げる事に成功した。


「どうした?」

「さ、佐々木くんっ! クモ!」

「クモ? そりゃクモぐらいいるわい」


 佐々木くんは、とても冷静にそう言ってのけると「この部屋の掃除は今日は良いぞ」と、私に気を遣ってくれるのだった。


「しかし、雪村は怖がりだな」

「虫はダメなの……」

「女の子だなぁ。 周りの女子で一番女子って感じだな雪村は」

「怖がりなだけだよ……」

「人見知り、恥ずかしがり屋、寂しがり屋」

「……そうだね」


 何だかんだ言っても、10年近い付き合いである。

 私のことを良く理解しているようだ。


「そっかー……10年近い付き合いなんだね」

「ん?」


 なのに、未だに私と佐々木くんはお互い名字呼び。

 こんな風に仲も良いのに、どうしてなんだろう……。


「こ、ここ……」

「ニワトリの真似か?」

「違うよぅ! 宏太くんのバカ」

「んん? 宏太くん?」

「う、うん。 だってもう10年も幼馴染やってるんだよ? 名字呼びだと、何だか距離を感じない?」

「ふむ? 気にした事はなかったが……じゃあ俺も希望って呼べば良いのか」

「そ、それはお任せするよ」


 いざ名前で呼び合うと照れくさい。

 やっぱり、急に変えたりするものじゃないね。


「希望、愛してるぜ」

「はぅっ?! 冗談はやめてよもー!」

「はははっ! 真っ赤になって面白い奴だな」


 からかわれてしまった。

 な、何だか悔しい。


「宏太くん嫌いっ」


 赤くなった顔を隠す為に、ぷいっと後ろを向く。


「いやー悪い。 あんまりにも反応が面白かったから」

「むー」

「ほら、機嫌直してくれって。 お、洗濯終わりんじゃないか? ほれほれ」

「はぁ……じゃあ今日はもう帰るよぅ。 また来るからね」

「サンキューなー。 腕が直ったら何か礼するぜ」

「別にいらないよー。 さて、じゃあまたね」

「って、1人で帰るのか? 家まで送るぜ?」


 辺りは暗いしいくらご近所とはいえ、女子の一人歩きは危険。


「奈々美ちゃんの家にご飯食べに行かないの?」

「多少遅くなっても大丈夫だろ。 それに、一人で帰らせたら奈々美と亜美ちゃんにめちゃくちゃ怒られそうだ」

「なるほどなるほど。 じゃあ送ってもらおうかな」


 ここはお言葉に甘える事にした。

 やっぱり男の子だなぁ。

 こういうところはちゃんとしてる。

 本当に何か一つ違えば、私は宏太くんを好きになっていたかもしれない。


「ちょっと奈々美に連絡しとくわ」

「はーい」


 少し待っていると、奈々美ちゃんに連絡を終えた宏太くんが声を掛けてきた。


「よし行くか」

「奈々美ちゃんなんだって?」

「しっかり送ってやれってよ」

「あはは。 優しいね」

「俺には暴力的だけどな」


 付き合いだしてからはそうでもないように見えるんだけどな。

 付き合う前は、結構手が出たりしてたような気もするけど。

 でも、なんだかんだ言って皆上手くいってるみたいで羨ましい。

 私も月1で、夕也くんとデートさせてもらってはいるけど、恋人じゃないっていうのがなんとも……。

 次のデートでは思い切ってもっと甘えてみようかな……。

 宏太くんに送ってもらって家の前まで到着。


「ありがとう。 腕、早く治るといいね」

「おう。 じゃな」


 手を振ると、宏太くんは来た道を戻っていった。

 

「さて、私も夕飯食べよ」


 亜美ちゃんと夕也くんの待つ今井家のダイニングへと向かうのであった。

 これからしばらくは、こうやって宏太くんの家に行くことになったのであった。

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