第274話 結果
☆奈々美視点☆
月ノ木祭終了から1週間たった土曜日。
今週ぐらいには来るかと思われたアレがまだ来ていない事への不安から、産婦人科へ来るのを早めた。
私の不安を見て取ったのか、事情を知っている亜美がついて来てくれている。
もし出来ちゃってたらどうしよう……まずは夕也と宏太にも説明して4人で今後の事を話し合う必要があるわよね。
その後、私と夕也の両親に話し合って結婚を認めてもらわなきゃいけない……。
私は学校もやめないといけないし、夕也だって高校出たらすぐに働かなくちゃいけなくなる……。
私の所為で、夕也の人生に大きな狂いが生じてしまうかもしれない……いえ、夕也だけじゃなくて亜美も。
「奈々ちゃん。 どうなっても受け入れよう。 不安だと思うけど、私は力になるよ」
「うん、そうね……」
亜美は亜美で、夕也と別れなきゃいけないかもしれない不安と戦っているというのに、私の事を気遣ってくれている。
「結果ってすぐにわかるのかしら?」
「さぁ……」
出来れば早く安心したいものだ……。
「藍沢さーん、どうぞー」
「はいっ」
呼ばれたので立ち上がり、診察室へ向かう。
さすがに亜美は中まではついてこないようだ……。
仕方ないわね。
診察室では簡単な問診を受けた。
一通り問診を受けた後は触診や尿検査と言ったものを受け、再度呼び出しがあるまで待合室で待機することに。
「……」
「どんな感じ?」
「うーん……問診で訊かれたような症状は特に無かったのよね……個人差はあるみたいに言われたけど……」
「そう……」
もうすぐ結果が出るのだ。 亜美も言ってたけど、どんな結果でも受け入れるしかない……。
しばらくの間黙って待っていると再度呼び出されたので、診察室へ入る。
緊張しながら椅子に座り、先生の言葉を待つ。
「藍沢さんですね。 検査の結果ですが──」
◆◇◆◇◆◇
翌日の日曜日──
今日は皆で話がしたいと伝えて、宏太と2人で夕也の家に来ている。
亜美と希望も来ており、この5人で今回の件について話を聞いてもらうことになった。
「……」
「……」
リビングでソファーに座り、しばらくの間沈黙が続いたが、宏太がまず口を開いた。
「で、皆を集めて話って何だよ? 大事な話っぽいけどよ?」
「そうね」
「この前、奈々美が言ってた話に関係あるのか?」
「えぇ」
夕也には、月ノ木祭の時に少しだけ話をした。
といっても、詳しい事は何も話してはいなかったのだけど。
「お前と宏太が別れて、俺と亜美が別れることになるかもしれない……だっけか?」
「はぅっ?! 何それ?!」
希望は私の顔を見て、目をパチクリさせている。
宏太も声には出さないけど、怪訝そうな顔で私を見つめている。
皆がこれからする話の内容を理解したところで、説明を始めることにした。
「まず、事の始まりから説明するわね。 事の始まりは夏休みのある日なの」
「夏休みのある日?」
宏太は夏休み中に私と何かあったかと、首を傾げながら考え込みだした。
が、事の始まりに宏太は関与していない。
「夏休みに学校の草むしりをさせられたのを覚えてるわよね、夕也?」
「ん……あぁ」
一月ちょっと前の事だし、忘れたりはしないだろう。
そして夕也はその日に起きた事を思い出して、何かを察したのか顔色が変わった。
ただ、どこまで察したのかはこちらからはわからない。
亜美にバレたとか、そんな風に思ってるのかもしれない。
だから、話しを更に進める。
「あの日は台風が予報より早く来ちゃって、帰れずに学校に泊まった」
「お、おう……」
「当然その夜に何があったかを覚えてるわよね?」
「う……うむ……」
夕也はチラリと亜美の方に視線を向ける。
その視線を受けた亜美はコクリと頷き、もう知ってるという事を伝えた。
夕也は一度俯いた後、ゆっくりと口を開いた。
「奈々美と……ヤッちまった」
「はぅーっ?! ヤッっちゃったって……えぇー?!」
「……」
希望は相変わらず大袈裟に驚いているが、一方の宏太は思っていたより冷静に受け止めたようだ。
私と夕也がそういう関係になる事自体は、普通にあり得ると思っていたのであろう。
私だってそうだ。 亜美と宏太だってそういう風になる可能性があると思っていた位である。
「亜美ちゃんは知ってたの?」
「うん。 少し前に聞いたばかりだけど」
「バラしたのか奈々美?」
夕也が少し低い声でそう訊いてきた。
面倒事になるから黙っていようと約束したのに、裏切られたと思ったのだろう。
少々怒りの感情が見て取れる。
しかし現実は、バレるよりさらに面倒事になっているわけだけど。
「バラしたというか……相談に乗ってもらううえで話さざるを得なかったのよ」
「相談……?」
「実はね……あの後から生理来てなくてね。 これってどういう事かわかる?」
「えぇ、奈々美ちゃんそれってもしかして……」
希望は察したようだ。
夕也も当然その意味がわかったようで、さらに顔色が変わる。
宏太でも理解できたらしく、ようやく合点が行ったという表情になる。
「昨日、産婦人科に行って来たわ」
「っ!」
夕也は顔を上げて私の顔を見る。
緊張した面持ちで、私の次の言葉を待つ。
希望も宏太も黙って話の成り行きを見守っている。
「結果から言うとだけど、妊娠してなかったわ」
「……はぁ」
夕也は大きく息を吐き安心したように体から力が抜けた。
まるで昨日の私のようだ。
「なんだよ……如何にもな話し方しやがって……心臓バクバクしてんぞ」
「私だってそうよ……どれだけ不安だったか」
「大体、あの時はお前の暴走だっただろ?」
「うぅ……それを言われると……」
そう、私は今回、妊娠は確認できなかった。
生理が来ないのも、亜美の言った通りホルモンのバランスが崩れたからだろうとの事。
私はそれを聞いて、凄く安心したのだ。
「つまり、今までと何も変わらないってことで良いの?」
希望はそう訊いてきた。
妊娠していなかった以上、夕也は責任を取る必要も無いので亜美と別れる必要は無い。
ただ、宏太はどう思うか……。
「宏太は、私とまだ付き合っていける?」
「何でそんなこと訊くんだ? 何も変わんないぞ?」
「そ、そう?」
なら、私達の関係は今まで通りという事になった。
一安心だけど、ただ今回の件で少し懲りた私は、宏太との営みを少し減らそうと思う。
「ところで、妊娠してた場合夕也くんはどうするつもりだったの?」
「……そりゃ、責任とって亜美とは別れて奈々美と子供の為に色々やらなきゃいけなかっただろうな……亜美もそれで納得するつもりだったんだろ?」
「うん……そうなったら仕方ないかなって思ってたよ……ならなくて良かったよ」
「本当そうだな……俺達も気を付けような」
「うん。 まあでも、夕ちゃんとの子供なら私は別に早く出来ちゃっても……」
と、亜美は冗談っぽく笑いながらそう言った。
危うかった私から言わせてもらえば、愛する人との子供とはいえ、高校在学中には産みたくないわね。
さすがに将来が不安過ぎるわ。
とにかく、今回の騒動は私の杞憂に終わり一安心。
今後はこんなことが無いように気を付けて行こうと心に誓うのであった。
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