第270話 清藍
☆奈々美視点☆
「ごゆっくりどうぞ」
私達A組は和風茶屋をやっている。
和風の着物に身を包み、接客する。
「お、おったおった」
「わお、和服がまた似合ってるわねー藍沢さん」
「あら、弥生に宮下さんいらっしゃい」
亜美が招待した日本ユースの仲間だった2人が来てくれた。
「ほぉん。 和風茶屋やね」
「まあね」
「良い雰囲気じゃない。 学校の教室がこんな風になるのねぇ」
そう。 部屋の装飾なども凝っていて、出来るだけ和風な感じを醸し出す努力をしている。
「お品書きは壁に貼ってるからそれ見て注文お願いね」
「OK」
2人はお品書きに目を通して、しばらくした後で私を呼び出した。
「決まった?」
「羊羹と緑茶お願い」
「ウチもそれで」
「はい承りました」
私は注文の品を用意しに一度奥へ引っ込む。
羊羹と緑茶2人前ね。
まぁ、その辺で売ってる羊羹とお茶の葉っぱで作るんだけど、高校の学園祭なんてこんなもんよね。
「はい、お待たせ。 ゆっくりどうぞ」
「ありがとー。 ねぇ、午後から一緒に回れるんでしょ?」
「あー……あんまりかしらね。 昼一から体育館で亜美とライブやんのよ」
「んぐ……ライブやて? 亜美ちゃんが?」
「なんだか想像つかないけど……」
まぁ、そうよね。
私達ですら、去年まであの子がギター弾けるなんて知らなかったぐらいだし。
「ぜひ見に来てよ?」
「おもろそうやな」
「いくいく」
「で、その後はどうなん?」
「その後はバレー部の方の店番。 焼うどん屋よ」
「あぁ、去年ウチが手伝ったあれか。 なんやったらまた手伝おか?」
「いやいや……さすがにそれはどうかと思うわよ」
「別に気せんでええのに」
とりあえず丁重にお断りしておいた。
「あんた達は招待客なんだから、ゆっくり回ってればいいのよ」
「えー。 せっかく来たのに一緒に回れないの?」
と、宮下さんは残念そうな顔を見せる。
ちょっと困ったわね。
「奈央と紗希と遥が交替要因だから、私と亜美と希望が店番してる時はその3人と一緒に回ってて」
「うーんわかった」
「あとで合流できるんやろ?」
「ええ、15時ぐらいには」
「了解やで」
2人はそう言って羊羹を平らげた後、1年生の教室へ向かうと言って移動していった。
渚のとこへ行くのね。
◆◇◆◇◆◇
午前中は程よく忙しい感じで時間が過ぎて、現在は昼食休憩。
適当な教室へ入って、食べ物を漁る。
その後、私と亜美は体育館へ移動。
午後から、ライブをやる為である。
「これでいいんだっけ?」
「うん。 BGM開始の合図はこっちから出すからお願いね」
裏方を担当してくれている放送部や演劇部の人達と最後の打ち合わせを済ませる。
袖から体育館を見てみると、結構なお客さんが入っているのが見えた。
「うわわ……結構いるねぇ」
「想像以上ねこれは」
「2人は学園の人気2トップだから……その2人がデュオ組んでライブするってなればこうなるって」
演劇部所属のクラスメイトが、苦笑いしながら「私らの劇の前に、しっかり観客あっためといてよー」と、プレッシャーをかけてくるのであった。
◆◇◆◇◆◇
「ただいまより、2年A組の藍沢奈々美さんとB組の清水亜美さんによる、ライブを開始します。 藍沢さんの力強い歌唱力と、清水さんの優しいギター演奏をご堪能ください」
幕が上がって、いよいよ私と亜美によるライブがスタートした。
ライブと言っても持ち時間の関係上2曲だけだけど。
「皆さん! 今日は私と亜美のデュオライブを見に来てくれてありがとうございます! デュオ名は2人の苗字の頭をくっ付けて『
「2曲ありまして、1曲目はアイドル歌手の姫百合凛さんの曲、Blue skyをアレンジしたものを、2曲目は私と奈々ちゃんで作詞作曲したオリジナルを歌っていきたいと思います。 それでは皆さん、お聴き下さい」
亜美が舞台裏の方を向いて小さく頷くと、それがBGMスタートの合図。
今日の為に、ライブハウスのお客さんに頼み込んで作ってもらったBGMだ。
それに乗せて、亜美のギターの演奏が流れてくる。
「おお……」
観客達が、思ったより本格的なライブだと気付き、感嘆が漏れる。
「あの頃追いかけた空は〜」
私が歌い出すと、先程までざわついていた観客達が一斉に黙り込んでしまった。
歌い出しで、完璧に観客の心を掴むことに成功したようだ。
亜美のギターも練習の成果が出ており、曲調に合わせた優しい音色を奏でている。
「Blue sky〜遥なこの空へ〜」
1曲目もサビに入り、ここで亜美とのハモリが入る。
音程差のあるハモリが綺麗に重なって、とても気持ちいい旋律を奏でる。
そのまま最後までハモリ続けて、1曲目を終える。
「ありがとうございました! 続けて2曲目ですが、先程も言ったようにオリジナルの曲です」
「私達には大切な幼馴染がいます。 その人達との思い出や、これから歩んでいく道を思い描きながら作詞作曲しました」
「それでは、聴いてください。 Ami d'enfance」
再びBGMが流れ、亜美のギター演奏が始まる。
この曲は最初から亜美との斉唱である。
「物心ついた時には〜いつも一緒だったね」
オリジナル曲を作ろうと言い出したのは亜美だった。
作詞や作曲なんて全然わからなかったし、最初は無謀だと思った。
それでも、亜美が幼馴染を題材にした歌を作りたいと言うものだから、私もその気になってしまい、紆余曲折ありながらなんとか完成した。
録音したものを初めて聴いた時は、感動で涙ぐんだりもした。
大切な人達との時間を歌にした曲。
皆にはどう聞こえてるかしら?
「これから〜も〜一緒だよ〜」
私も亜美も、精一杯気持ちを込めて歌い切った。
パチパチパチパチ!
曲が終わると、拍手が体育館に鳴り響いた。
まるで大雨が屋根を打つような大きな拍手の中で、私と亜美は頭を下げて「ありがとうございました!」と礼をしてから舞台を去った。
◆◇◆◇◆◇
「よがっだよぉ……」
舞台から降りた後皆の元へ行くと、希望が号泣していた。
どうやら感動しているらしい。
「でも、まさかオリジナル曲とはな」
「ライブやるってだけでもびっくりしたのに、オリジナル曲まで作ってるとは本当信じられん」
「亜美が言い出したのよ」
「あはは……どうしても皆との事を歌にしたくて」
でもまあ、最高の曲に仕上がったと思う。
また機会があれば歌いたいものね。
「いやー感動したでぇ」
「貴女達、バレー辞めてもなんでも出来るんじゃないのー?」
招待客である弥生と宮下さんも満足な様子。
頑張った甲斐があるというものだ。
さて、この後私と亜美、希望はバレー部の焼きうどん屋台の店番をしなければならない。
今は、奈央達が番をしてくれている筈だから交替ね。
皆とは別れて、3人で焼きうどん屋台へ向かう事にした。
◆◇◆◇◆◇
「うわわ、結構並んでるね」
「繁盛してるわね」
「凄い」
焼きうどん屋台は大繁盛だった。
これはかなり忙しくなりそうである。
「あー来た来た。 ちょっとお客さん多いからすぐに入ってー!」
「目が回りますわ……」
「うおー! 焼きうどん一丁!」
これは完売も時間の問題ね。
思ったより早く皆と遊べるかもしれない。
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