第269話 月ノ木祭2年目
☆亜美視点☆
今日は10月10日の体育の日。
だけど、月ノ木学園で本日行われるのは学園祭──そう、月ノ木祭だ。
今年も父兄や他校の人等、招待された人達がお客さんとしてやってくる。
私のクラスは、今年はフリーマーケットをやる事になっていて、私と希望ちゃんは午前中は売り子さんの予定。
夕ちゃんと紗希ちゃんは、客寄せだ。
午後一から、私と奈々ちゃんは体育館でライブをやる事になっている。
奈々ちゃんは今、少し悩みを抱えているけど、皆の前ではいつも通り振る舞っている。
さて、今年私は2人の友人を招待している。
もう2人とも来ている筈だけど……。
いつもの6人で登校してくると、校門前にその2人が立っていた。
「お、今年も招待してもろておおきにやで。 渚をおちょくるの楽しみや」
1人は去年も招待した弥生ちゃん。
今年は妹の渚ちゃんが月学生という事で、そちらに会うのも楽しみにしている。
「今日は招待してくれてありがとう! 目一杯楽しむわよ!」
「うんうん」
もう1人は宮下さん。
春の合宿の時に招待する約束をしたからね。
「んで、こちらが噂の夕ちゃん君?」
「そや」
「おほー! これまた写真で見るよりイケメン君ね」
勝手に盛り上がり始める招待客2人。
そのテンションに、少し戸惑っているのは夕ちゃん。
「えーと……」
「あ、初めまして! 東京の都姫女子のバレー部員で、宮下美智香ですっ! 美智香って呼んで下さい!」
しれっと下の名前で呼ぶように仕向けている。
侮れないよ、宮下さん。
「宮下さん……あー、世界選手権に出てた」
「そうそう!」
妙に馴れ馴れしいけど、宮下さんってこういうタイプだし仕方ないか。
どことなく、麻美ちゃんに似ている気もする。
「亜美ちゃんが、怒っとるで」
「うげ……」
「いやいや、別に怒ってはないけど……」
「朝から賑やかだなー」
「こちらが藍沢さんの?」
「え、えぇまあ」
宮下さんのターゲットが宏ちゃんへ移る。
「こりゃまたイケメンだわ……」
「まあな……この佐々木宏太、月学一のイケメンよ」
「バカ……」
「はははっ! 良いなぁ共学は」
「まあ、ウチもちょっと羨ましいとは思うけどやなぁ……」
「共学は共学で鬱陶しいわよ? 毎日毎日バカみたいに男が告りに来るんだから……」
「それは藍沢さんと清水さんだからでは?」
「それはぁ……どうなんだろ?」
恋人がいる今でも、結構呼び出しとかされている。
困ったものだ。
「っと、そろそろ行かないと」
時計を見ると、月ノ木祭開始20分前であった。
「これ、学園内の案内図ね。 2-Aが奈々ちゃんのクラスの和風茶屋、2-Bが私のクラスのフリーマーケット、1-Cが渚ちゃんのクラスのお食事処だよ。 じゃあ、また後でね! ゆっくり楽しんでいってねー」
「はーい」
2人とは別れて、私達はそれぞれのクラスの開店準備へと向かう。
クラスの前でA組の奈々ちゃん宏ちゃんとは別れてB組へ。
売り子となる私と希望ちゃんは名札とエプロンを着けて席に着く。
「希望ちゃん。 接客大丈夫?」
「はぅぅっ?!」
なんと、今回の売り子は希望ちゃんが最初に立候補したのだ。
それは凄く偉い事だと思うけど、初対面の人とはまともに会話できないほど人見知りな希望ちゃんに、果たして接客が出来るだろうか?
去年も喫茶店ではボロボロになっていた。
心配だったので、私がもう1人の売り子に立候補したというわけだ。
「でも、こういう風に頑張んないといつまでも克服できなもん……」
「希望ちゃん……うん、頑張ろうね」
「頑張るっ!」
「無理すんなよぉ」
「希望ちゃん、無理そうだったら奥で休憩するんだよー」
今日の午前は、廊下で客寄せをやることになっている夕ちゃんと紗希ちゃんも気にしているようだ。
それでも希望ちゃんは「だ、大丈夫!」と強がってみせるのであった。
ピンポンパンポーン……
「ただいまより第27回月ノ木祭を開始します。 各クラス、各部のお店を開店してください」
と、いよいよ今年の月ノ木祭の開始が告げられた。
「じゃあ気張っていくよー」
「おー!」
「お、おー……」
やはり少し不安になるのであった。
少しすると、すぐに月学の生徒が何人か教室へ入ってきた。
何故か男子が多いのは気にしない。
「おー、清水さんと雪村さんマジで売り子やってんじゃん!」
「おい見えねぇよ! 俺にも見せろよ!」
あー、やっぱり私達が目当てのお客さんのようだ……。 困るんだよねぇ。
「はいはいはいはい! お買い物しない人は出て行ってね~」
即座に紗希ちゃんがやって来て、男子達に注意を促す。
「わ、わかった! 買い物するから! 押さないでくれ神崎さん! あーでもやらかいのが当たってこれはこれで!」
なんだかなぁ……私はこれなら女子校の方が気が楽でいいような気がするよ。
結局男子達は私と希望ちゃんが見たいが為に、安い小物を買っていくのであった。
まぁ、売れたしいっか……。
しばらく接客を続けていると、何やらとても小さなお客さんがやって来た。
あの子はたしか……。
「あー! のぞみおねえちゃんいたー!」
「あ、さゆりちゃん!」
そうそう。 幼稚園の先生の体験学習の時に希望ちゃんと仲良くなった女の子だよ。
希望ちゃんが招待したのか、ご両親と一緒に来ているようである。
「いらっしゃーい」
「えーとえーと……あみおねえさん!」
「おおーよく覚えてたねぇ」
どうやら私の事も覚えていたようだ。 嬉しいねぇ。
「初めまして、今日はこの子を招待してくださってありがとうございます」
「はぅ?! あ、いえ! その! ごゆっくりどうぞ!」
希望ちゃんは声が裏返りながらも、さゆりちゃんのご両親に挨拶を返す。
うん、頑張ってる。
ここのところ希望ちゃんはバレーボールでも何でも、かなり成長している。
姉としてとても嬉しい事だよ。
これなら、近い内に人見知りも克服できるだろう。
将来の夢の為に頑張る希望ちゃんは、とても偉い。
さゆりちゃんは、小さなぬいぐるみを買って、2-Bの教室を後にした。
うーん、可愛いなぁ……あんな子供が欲しいなぁ……子供かぁ……奈々ちゃん大丈夫かな?
「お、おったおった」
「あ、本当だ!」
などと考えていると、今度は弥生ちゃんと宮下さんがやってきた。
騒がしくなりそうだ。
「へぇ、結構色んなもん置いてるんやね」
「この服可愛い!」
「あー、それは紗希ちゃんの服だね」
「神崎さんか。 オシャレやんね、あの子」
「ありがとー」
廊下の方から紗希ちゃんの声が聞こえてきた。
どんな耳してるんだか……。
「へぇ。 これ買っちゃおうかなぁ」
と、宮下さんは、紗希ちゃんの持ってきた古着を持って悩んでいる。
「ウチはこのぬいぐるみ気になってんねんけど」
「それはボケねこさんだよ!」
希望ちゃんが持ってきたボケねこのぬいぐるみに興味を示した弥生ちゃんに、希望ちゃんが物凄い勢いで食い付く。
「このアホ面ええやん」
「アホじゃないよ、ボケだよ」
「さ、さよか……」
ボケねこファンのこの異様なまでのこだわりは一体何なのだろう?
でも弥生ちゃんは気に入ったらしく、そのぬいぐるみを買っていた。
宮下さんも紗希ちゃんの服を2着ほど買って、このあと2-Aに行くと言ってこの場を後にした。
フリーマーケットは中々好調である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます