第256話 2つのジャンプ
☆亜美視点☆
私達は、優勝候補の一角であるイタリアと試合中。
同時高速連携を決めて2-3としているところだ。
「さすがの優勝候補さんも、面食らってるわね」
「まあ、見たことないやろからな」
ローテーションで希望ちゃんが抜けて、宮下さんがコートに入ってくる。
「よーし暴れるわよ」
「じゃあ、私は希望ちゃんが戻ってくるまで守備に徹するね」
「了解ですわ」
これが今日の私の仕事だ。
守備的に立ち回るよ。
サーブは曽木先輩。
ジャンプサーブをきっちりと入れていく。
私のセッター狙いが悪手だったのを見て取って、リベロに拾わせる。
さすがに上手い。
前衛は宮下さん、弥生ちゃん、奈々ちゃん。
頼むよぉ。 セッターの癖を見てクイックかそれ以外かを見極められれば……。
セッターがトスを上げる。
む、クイックだ。
私は身構える。
ブロックの3人は、反応が遅れてジャンプのタイミングが合っていない。
スパイクが飛んでくるよ。
私は腰を下げて、どんなボールにも飛びつく準備をする。
パンッ!
アンジェラさんのクイック攻撃。
「てぃっ!」
何とか反応し、手には当てるもボールコントロールするには至らず。
希望ちゃんならきっと上げてたに違いない……。
「ごめん」
「ナイスナイス。 私達こそごめん」
「ブロック間に合わんかったわ。 次は止めるで」
「うん。 私も次は拾うよ」
それにしても、やっぱりクイック主体で来たね。
もう、私達がクイックに反応できないと思い込んだに違いないよ。
次の攻防も、お互いの攻撃が決まり点差は動かず。
そのまま、私は前衛センターの位置までローテーションしてきた。
ここから何とか点差を広げたい。
その為にも、セッターの癖を見切って、クイックとオープンを止めなきゃ。
「集中だよ……」
宮下さんが失敗も恐れない弾丸サーブを見舞う。
ただ、相変わらず冷静にリベロ拾ってくる。
やっぱり上手い。
「返ってくるわよ」
私と曽木先輩がセッターの動きを目で追う。
クイックなら腕の角度は少し下がる。
見逃さないよ。
セッターがトスを上げる。
これは……。
「オープン!」
トスは高く上がる。
私と曽木先輩で、アンジェラさんのブロックにつくは、アンジェラさんは既に跳んでいる。
「……」
まただ。 何だろうこの違和感。
「せーの!」
少し遅らせて曽木先輩とブロックに跳ぶ。
アンジェラさん、まだ高度が落ちてない……。
何とか高さで追いついて、手を前に出す。
ここでアンジェラさんは冷静にフェイントを打ってきた。
「フォロー!」
「はいよー」
宮下さんがフォローに入ってくれていた。
「ナイスフォロー!」
少し後ろに下がって、サインを確認しながら助走を開始する。
「はい!」
「よっしゃー!」
大きな声を上げて弥生ちゃんが跳んでいる。 バックアタックだ。
パァン!
相変わらず強烈なバックアタックは、リベロのトスでも勢いを止められず、大きく後逸していく。
「どや!」
「良いよー弥生ちゃん」
ここでブレイクして点差がつく。
良い展開だ。
「もう一本行きますわよ。ナイサー宮下さん」
「はいよはいよー」
宮下さんのサーブが続く。
ただ、さっきと同じでリベロに簡単に拾われる。
「セッターの腕は……」
またオープンだ。
よし、ボールの高さを見て──。
「……あれ?」
アンジェラさんのジャンプを開始するタイミングが、さっきまでより遅い?
気にしすぎ?
などと迷っていると、アンジェラさんが跳躍する。
え? あれ?
「せーの!」
曽木先輩の合図で跳ぶが、アンジェラさんのスパイクの方が早く放たれた。
やっぱりさっきとタイミングが……。
ピッ!
得点されてしまった。
それにしても……。
「曽木先輩、今の……」
「うん……」
そうだったんだ。
最初に感じた違和感の正体、それは……。
「ジャンプの上昇速度が違う」
アンジェラさんは2つのジャンプを使い分けているのだ。
動画では見せていなかったことを考えると、今まで隠していたのだろう。
曽木先輩もそれに気付いたらしい。
皆にも情報共有したいけど、プレーを止めるわけにもいかない。
◆◇◆◇◆◇
1セット目中盤のテクニカルタイムアウト。
現在得点は13-16でリードしている。
「というわけ」
「なにそれ」
「2つのジャンプやて?」
「うん。 アンジェラは、踏み切る時の力の入れ具合を変えて速いジャンプとふんわりとしたジャンプを使い分けてるんだよ」
「絞り辛くなったわね」
「通されたボールは私が頑張って拾うよぅ」
と、希望ちゃんは頼もしいこと言ってくれるが、素通しばかりもしていられない。
「クイックに2種類のジャンプね」
ふんわりとしたジャンプは、ゆっくりと地面を蹴る関係上高さが出にくいが、その分空中にいる時間が長い。
滞空時間の長いジャンプがこれだ。
それに対して、速いジャンプは思いっきり地面を蹴って飛ぶ普通のジャンプ。
この時は、ジャンプの最高点も高くなるし、到達までの時間も早い。
スパイクの高さとタイミングが変化するのだ。
「まぁ、それがわかったところで読み合いだし、今のところ何とか対応できてるし……」
「うん。 このままで良いと思うけど、情報としては知っておいてほしかったから」
「さよか。 まぁとりあえずはこのままセット取って有利に進めていこうや」
「そうですわね」
テクニカルタイムアウト終了て、ここから1セット目終盤。
ここまで優勝候補のイタリア相手に互角に渡り合えている。
私達も自身がつくよ。
「奈々ちゃんナイサー」
奈々ちゃんのサーブから再開。私は後衛で希望ちゃんはコートから出ている。
ただ、アンジェラさんも後衛なので、イタリアの攻撃力もダウン。
奈々ちゃんのサーブも割と簡単に拾われる。
世界レベルだと、あのサーブでもちゃんと拾ってくるんだね。
トスが上がり、前衛のアタッカーが打ってくる。
「せ-の!」
曽木先輩が率先して声を出してブロックに跳ぶ。
パァン!
「ナイスブロック!」
曽木先輩のブロックが通るも、相手のフォローも速い。
すかさず立て直してきた。
さすがだ。
トスが上がり……。
パァンッ!
「うわわ」
ピッ!
アンジェラさんのバックアタック。
強烈な一発を見舞われてしまう。
うーん。 後衛に下がっても攻撃力は下がらずか。
「やりよるな」
「そりゃ世界トップレベルだしね」」
「でも、私達の方が強いですわ」
「そういうこと」
なんだか、皆は自信満々だよ。
でもそうだよね。 世界一を目指してるんだもん。
自分たちが誰よりも強いと思ってないとダメだよね。
「よーし! 1セット目取るよ!」
「おう!」
気合を入れ直して取り掛かる。
終盤は、アンジェラさんのタイミングが違うジャンプに翻弄されつつも、なんとかリードを守りきり……。
「いきますわよ!」
「はっ!」
パァンッ!
ピッ!
「ナイス亜美!」
「これで1セット先取!」
「これで気持ち有利に戦えるわね」
「2セット目も取って、さっさと勝ちを決めますわよ」
ベンチに戻り、少しの休憩タイム。
アンジェラさんの2種類のジャンプは今のところ攻略できていない。
後衛に下がった時にはそこまで怖くないけれど、前衛時の攻撃力は侮れない。
イタリアの若き天使……言われるだけはあるね。
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