第243話 占いテント

 ☆亜美視点☆


 射的を終えて、奈央ちゃん達と別れた後、りんご飴の屋台で元気にはしゃぐ、麻美ちゃんとその友人達を発見した。


「麻美、元気ねぇ」

「あ、お姉ちゃん達だ」

「やっほー」

「やほほ亜美姉」

「こんばんわ」


 挨拶を返してくれたのは、麻美ちゃんと渚ちゃん。

 渚ちゃんは私服のようだ。

 私達が近付くと、他の1年生達がざわざわし始めた。


「清水先輩よ……」

「こんなに近くで見られるなんて……」

「サ、サイン貰っちゃおうかな……」


 といった感じの声が聞こえてきた。


「あんた、アイドルか何か?」

「普通の高校2年生だよ……」

「普通か?」

「普通ではないだろ」

「普通じゃないよね」

「化け物よね」

「私泣いちゃうよっ?!」


 幼馴染達からの扱いはひどいものである。

 麻美ちゃんは大爆笑。 渚ちゃんは苦笑しながらりんご飴を舐めていた。

 

「そうだ! さっきね、ちょっと離れたとこに占いのテントがあってね──」

「えっ……」


 占いのテントってもしかして……。


「亜美。 去年あんたが占ってもらった占い師じゃない?」

「か、かな?」


 もしそうなら、お礼を言いたい。

 

「あっちの方だよー」


 麻美ちゃんが、場所を教えてくれたので、私達はそこへ向かう事にした。

 

 麻美ちゃんの言う通り、屋台群から外れた場所にそれはあった。

 見覚えのあるテントだ。

 間違いない。 去年、私が占ってもらった占い師だ。


「ちょっと行ってくるね」

「おう」

「待ってるね」

「早くしなさいよ」

「急かしてやんなよ奈々美」

「あはは」


 私は、ゆっくりとそのテントの中に入った。


「いらっしゃい……あら?」


 私の顔を見て、そう反応した。


「あの、覚えてます……か?」

「ええ、去年ここで占って差し上げた子ですね? とても複雑な運命を持つ方でしたので、よく覚えていますよ」

「あ、あはは……あ、あの、私、お礼が言いたくて」

「お礼ですか?」

「はい。 去年、最後に占い師さんがしてくれた助言のおかげで、私は自分に正直な選択が出来たと思うんです」

「そうですか……」


 占い師さんは、にっこりと笑った。


「今、幸せですか?」

「とても幸せです」

「お役に立てたようで何よりです。 今日も占って行きますか?」


 この占い師さんの占いは良く当たる。

 それは、私が身を持って知っている。

 だから……。


「いえ……この先は、自分自身の気持ちを信じて歩いていきたいので、すいませんが……」

「ふふ、そうですか。 商売している側としては残念ですが、貴女がそう言うのでしたら」

「あ、あはは……失礼します!」


 大きく頭を下げて、私はテントを後にした。


「もう、道を誤ることは無いでしょう」


 ◆◇◆◇◆◇


「お待たせ」

「ちゃんとお礼出来たの?」


 奈々ちゃんが訊いてきたので、頷いて答えた。

 今、私が幸せなのは、間違いなくあの人のおかげだよ。


「んじゃ、行くか?」

「皆は占ってもらったりしないの? 特に希望ちゃん」

「うん? 別に良いよ。 あまり知りたくないしね」

「そっか……」


 そういう事ならいっか。

 私達は、連れ立ってそのテントを後にした。

 屋台群に戻ってきた辺りで、今度は遥ちゃんを見つけた。


 ピキーンッ!


「あれが噂の男か……」

「だね」

「うんうん」

「お前ら、邪魔してやんなよって……遅かったか」

「女子って本当に色恋に首突っ込むの好きだな」


 私達は、夕ちゃん達の言葉を無視して遥ちゃんに近付き、声を掛ける。


「はーるーかーちゃん」

「ひぃっ? あ、亜美ちゃん……達?」

「遥、この人は?」

「奈々美……あんた知っててわざと訊いてない?」

「あ、あはは……」

「あ、初めまして。 蒼井さんのジム仲間の神山です」


 礼儀正しく挨拶してくれたので、私達もちゃんと挨拶を返す。

 以前、遥ちゃんの初デートを尾行した時にも見たけど、爽やかな感じの人である。

 身長も遥ちゃんに負けないぐらい高いし、顔だってかっこいい方だ。

 モテそうだけど、遥ちゃん曰くは彼女無しとのこと。


「中々良い男じゃないの遥」

「な、ななな、何言ってんだよ奈々美! ジム仲間だって言ってるだろ!」


 奈々ちゃんは、面白がって遥ちゃんをイジっている。

 神山さんはそんな光景を見ても、ニコニコしていた。

 心の内が読めないなぁ。


「お前らなあ、遥ちゃんが困ってんだろ」

「あんま首を突っ込むなよー」

「良いじゃない別に」

「大事な友達の大事な事なんだよ、夕也くん!」


 と、夕ちゃんと宏ちゃんの注意を聞かない奈々ちゃんと希望ちゃん。

 わ、私は挨拶しただけだもんね。


「そうだ。 神山さん、この後皆は集まって花火見るんですけど、神山さんも一緒にどうですか?」

「あ、亜美ちゃん?!」


 私の唐突な誘いを聞いて、遥ちゃんがびっくりしたような声をあげた。

 夕ちゃんと宏ちゃんは呆れてるし、奈々ちゃんと希望ちゃんは盛り上がっている。


「良かったら一緒して良いかな?」

「か、神山さん?!」

「是非是非。 遥ちゃん、そういう事だから一緒に集合場所に来てねー」


 鯉みたいに、口をパクパクさせている遥ちゃんに手を振って、その場を後にした。

 夕ちゃんに、頭をコツンと叩かれて「少しは自重しろ」と怒られた。

 痛いよぉ。


「でも、良さそうな人だったわね」

「ジムで筋トレばっかりしてる人って言うから、どんな筋骨隆々のマッチョさんかと思ったら、意外とシュッとしてたね」


 希望ちゃんの言う通り、結構スリムな体型をしていた。

 ただ、腕の筋肉を見る限りは、やっぱりマッチョさんぽい。

 細マッチョさんなんだね。


「上手くいくと良いね、遥ちゃん」

「いやいや、遥ちゃんはあまり乗り気じゃない感じだったぞ」


 と、夕ちゃんが言うと、希望ちゃんは……。


「そうかなぁ? その気が無いならお祭りに誘わないと思うけど」

「私もそう思うわね。 遥は何だかんだ言って、あの人に惚れてんのよ」

「まあ、どちらにしてもあまり首を突っ込むなよな」


 宏ちゃんのその言葉に対して、私達は無言でもって答えた。

 これには夕ちゃんも宏ちゃんも溜息をつくしか無いのであった。


「そういえば、今年は腕相撲やってないんだな?」

「やめて……思い出したくないわ」

「?」


 去年、確かに腕相撲大会やってたね。

 優勝したのは女子高生だって聞いたから多分奈々ちゃんだったんだろう。

 何よ。 奈々ちゃんだって化け物じゃない。


「あ、あそこで盆踊りやってるよ」

「本当ね。 てか、あれ麻美じゃない……」

「あはは、元気だねぇあの子は」


 盆踊りの輪の中には、麻美ちゃんも混ざっていて、元気に踊っていた。


「お前達はいいのか?」

「浴衣じゃないし」

「奈々美ちゃんは浴衣着てるし行ってきたら?」

「別に踊りたくないし」


 と、いう事で盆踊りはスルー。

 途中でソフトクリームを買って食べながら、駅前広場へと戻ってきた。

 もうすぐ花火が上がり始めるはずだ。

 近くのベンチに腰を下ろして、皆で駄弁る。

 去年はこのベンチで、危うく春くんとキスしそうになったんだよねぇ。

 今となっては良い思い出だよ。

 花火が上がる前には全員集合し、あとは花火を待つのみとなった。


「遥-、どうだったのよお祭りデートは?」


 奈央ちゃんが、子供モードになってコアラの様に遥ちゃんの背中に抱き付いている。

 わ、私にも抱き付いてほしいな。


「デートって……違うから。 ですよね?」

「どうなんだろう?」


 神山さんは首を傾げてそう言った。

 どうも、神山さんの心の内は読めないね。

 でも、遥ちゃんの事は、好きなんだと思う。

 それが友情か愛情かはわからないけれど。


 ヒュー……ドンッ!


「お、上がり始めたぞ」

「うんうん」


 花火が夏の夜空に上がり始めた。

 今年も皆と見れて良かったよ。

 私は夕ちゃんの手を握って、静かに寄り添う。


「たーまーやー!」


 麻美ちゃんが元気な声でそう言うと、他の皆も後に続く。

 去年とは、皆の関係が変わったりもしているけど、誰1人欠けることなく……むしろ人数増えてるけど……こうやって集まれたことが嬉しい。


「来年も、皆と見れますように……」


 心の底からそう願う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る