第229話 大苦戦
☆亜美視点☆
京都立華との決勝戦、1セット目中盤から終盤に差し掛かろうというところ。
19-18と、序盤に麻美ちゃんが奪ってくれたリードが少し詰められてしまっている。
激しいラリーの末にポイントを奪われたのだ。
なんとか引き離して1セット取りたいところだけど、これが中々に難しい。
同時高速連携も1度返されたため、奈央ちゃんは故意に使わないようにしている。
攻撃力も守備力もほぼ互角の両チーム。
平均身長だけ言えば、京都の方が圧倒的に有利ではある。
「ううー、ごめんなさい。 私がもっと止めないとダメなのにー」
「バカ。 あんたは十分やってるわよ」
奈々ちゃんの言う通り、麻美ちゃんはよくやってくれている。
キャミィさんと弥生ちゃんが、麻美ちゃんのブロックを警戒して避けてくれているおかげで、ラリーに持ちこめているのだ。
むしろ足を引っ張っているのは、私達OH陣。
今年の京都立華はとにかく守備力が高い。
「まあ、まだリードしてるし、ブレイクだけされなうように集中しましょー」
紗希ちゃんが少し暗くなったムードを、明るくしてくれる。
本当に助かる。
「よし! ここは意地でもブレイクするわよ!」
「おー!」
気合を入れ直したところで、今日活躍している渚ちゃんのサーブ。
ミスしないように、丁寧に入れていく。
「はいっ!」
眞鍋さんのトスが上がり、弥生ちゃんとキャミィさん、そして後衛の選手が助走をしている。
私と麻美ちゃんでライトのブロックに入り、奈央ちゃんがセンターをブロック。
隙間を、後衛の奈々ちゃん、紗希ちゃん、渚ちゃんでカバー。
「らぁっ!」
弥生ちゃんの強裂なサーブは、麻美ちゃんの手に当てて、ブロックアウトを狙う一撃。
しかし、麻美ちゃんはそれを独特の感覚で読み、腕を避けていた。
「な、なんやねんこの子!」
スパイクは、紗希ちゃんの正面。
「はいよっ!」
紗希ちゃんが冷静に拾う。
ブレイクチャンスだ。
奈央ちゃんのサインは……。
「らじゃだよ……」
私と麻美ちゃん、そして後衛の奈々ちゃんが順番に助走に入り踏み切る。
「はいっ!」
ここはエースの奈々ちゃんのバックアタック。
「っ!」
ブロックの無いコースを突き抜ける奈々ちゃんのバックアタックだけど、Lがフォローに入っていた。
強烈な一撃はあっさりと拾われてしまう。
「くっ」
「集中して! 返ってくるわよ!」
奈央ちゃんが声を出す。
ここ一番集中だ。
もう一度弥生ちゃんの前にブロックを作る。
キャミィさんの前は奈央ちゃん1人だけど……。
「亜美姉……こっち任せる」
「え?」
小声で麻美ちゃんが何か言ったかと思うと、センターの方へ移動した。
また何か嗅ぎ取ったのだろうか。
とにかく私は、弥生ちゃんに合わせて跳ぶ。
「ほんまにあの子なんやの」
ボールは弥生ちゃんではなくキャミィさんの方へ。
しかも今日初めて見せるAクイックだ。
麻美ちゃんは完全に読んでいるかのようにコミットブロックに跳んでいた。
「うぇーい!」
パンッ!
ピッ!
そして、またもやキャミィさんの攻撃を止めて見せた。
凄い……。
「ナイスゥ!」
と、声を掛けながら麻美ちゃんの頭をパシパシと叩く奈々ちゃん。
絶対痛いよアレ。
何にしてもブレイク。
このままセットを取りたいところである。
その後も長いラリーなどを挟みながら進むも、ブレイクは許さず。
25-23で1セット目を逃げ切った。
◆◇◆◇◆◇
「はぁー……疲れるー……」
と、麻美ちゃんがベンチにどかっっと腰を下ろす。
まるでおじさんだよ。
「麻美ー、良いじゃん」
「正直ここまでやってくれるとは思ってなかったわよ」
遥ちゃんとキャプテンからも、労いの言葉を掛けられている。
「ただ、私ならもっと止められる!」
「言いましたねー!?」
「遥ちゃん……」
麻美ちゃん相手に意地になってどうするのよ……。
「それにしても、あの連携に対応してくるとはねー」
「紗希、いつでも行けるようにはしておきなさい。 ここぞという場面で使うわよ」
「返されたのに?」
「返されたから使ってないわけじゃないわよ? あくまでもアレは切り札。 ここぞという場面で、貴女達なら決めてくれると信じてるのよ」
奈央ちゃんはそう言うと、スポーツドリンクを飲みだした。
私達を信じてる……か。
応えないとね、その信頼に。
「それにしても、麻美ちゃんのプレーには驚かされるね」
「そうー?」
「そうね。 味方の私達でも何するかわかんないんだもの」
本当に突拍子もない動きをする。
時々、弥生ちゃんが「なんやあれ」と口走っていたし、向こう側でも「意味が分からない動きをする子」として認識されていそうだ。
とはいえ、結果を出しているのは事実だ。
ここから先も期待しているよ。
◆◇◆◇◆◇
しかし、2セット目は激しいラリーの応酬を中々取れず、弥生ちゃんやキャミィさんの攻撃をバンバン通されてしまう。
ブレイクも決められて、いいようにやられた2セット目は、25-20で落としてしまった。
所々、麻美ちゃんのブロックは決まっていたが、ブロックフォローが上手く機能していて得点に結びつかなかったのも原因の1つかもしれない。
さすが京都立華。 対策を講じるのが早い。
さらに悪い流れを引き摺り、3セット目も立華ペースで進んでしまう。
何とか食らいついて逆転を狙うものの……。
「うらぁっ!」
ピッ!
「よっしゃっ!」
「はぁ……はぁ……うぅ……」
21-25でセットを連取されてしまった。
◆◇◆◇◆◇
「強いねぇ……やっぱり」
「わかってたことでしょ」
「そうそう」
もう後が無いというのに、奈々ちゃんと奈央ちゃんには焦りが見られない。
諦めているというわけではないのだろうけど……。
「麻美のブロックは確実に効いてるから、そこからなんとかブレイクするしかないんじゃないか?」
と、遥ちゃんは言う。
たしかに、ブロックフォローで拾われてはいるけどブロック自体は機能している。
そこで点が取れれば変わってくるんだろうけど……。
「何とかしてみるー」
「私達も攻撃でブレイクを取れるように頑張るよ」
ということで始まった4セット目。
後が無いという状況の私達だったけど、立華サイドがミスをしてくれたりと、流れがこっちに向いてきたこともあり、なんとか22-25でセットを取り返せた。
とはいえ、相手のミスに助けられていたので、それが無ければ終わっていた。
麻美ちゃんのブロックも相変わらず拾われているようで、最終セットも厳しい展開が予想される。
と、思っていたのだけど。
「先輩方、よく耐えてくれましたねー!」
「ええ?」
麻美ちゃんが元気一杯にそんな事を言い出した。
一体何だというのだろうか?
「最終セットは、私のブロックで何とか突破口を開くよー!」
「あんた、全部拾われてたじゃない」
「何か策があるの?」
奈央ちゃんがそう訊くと、麻美ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。
「ワザとなのさ」
「……ワザと?」
「そう! ワザと拾われてたの! 3セット目の最後辺りから新しい作戦が思い浮かんでたんだけど、それは最後の最後、ギリギリまでは出さずに隠しておこうと思ってね!」
「それで負けてたらどうするつもりだったんだ……」
遥ちゃんの言う通りだけど、麻美ちゃんは不思議そうな顔でこう答えた。
「負けないよー! お姉ちゃんや先輩達の事信じてたもん! だから、最終セットは私を信じてください!!」
「……」
私達は顔を見合わせて、くすくすと笑いだす。
1年生に励まされちゃってるよ。
よし。
「わかったよ。 期待してるからね麻美ちゃん」
「うん! 亜美姉達も攻撃で援護してよ!」
「うん」
「じゃあ、最終セットはアレを解禁するわよ!!」
「良いわね。 やったろうじゃない!」
どんどんチームの士気が上がっていく。
泣いても笑っても後1セット15点先取。
インターハイ最後の戦いが始まる。
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