第150話 練習2日目

 ☆亜美視点☆


 お風呂から上がってきた私達だけど、今は宿舎の1階にある待合コーナーで、夕ちゃんに電話をかけているところである。

 何故、部屋でかけないのかというと──。


「はよかけーや」

「早く早く」


 このように、野次馬がいるからである。

 弥生ちゃんがお風呂で、私と希望ちゃん、夕ちゃんの三角関係について話しちゃったものだから、宮下さんが食いついてきて現在に至る。


「亜美ちゃん、大変だね」

「希望ちゃんも渦中の人間でしょ?!」

「はぅ」


 じゃんけんで負けて、私がかけることになったのだけど……電話自体は今夜するつもりでいたから、別に構わないんだけどねぇ。

 ギャラリーが邪魔である。


「あ、もしもし夕ちゃん?」

「おー、どうだそっちは?」


 私が通話を始めると、宮下さんが音を出せとジェスチャーしてくる。

 仕方ないので、皆に聞こえるようにスピーカーモードにする。


「やっぱり皆凄いよ。 来て良かった」

「そうかそうか。 しっかり頑張れよ」

「うん」


 隣で、ヒソヒソと話している弥生ちゃんと宮下さん。

 やりにくいなぁ。


「夕ちゃん、晩ご飯は?」


 すると、弥生ちゃんがヒソヒソと宮下さんに説明を始める。

 いったい何を説明してるのだろう?


「晩飯な、おばさんが心配してくれてな、毎晩食いに来いって言ってくれたよ」

「そうなんだ。 良かったよ」


 ちょっと安心した。

 さすがに1週間朝昼晩、コンビニ弁当は可哀想だったからね。

 さすがはお母さんだよ。


「そうだ、戻ってきたらホワイトデーに行けなかった

買い物に行こうぜ」

「うん」


 結局まだ行けてないんだよね。

 楽しみだよ。


「それじゃ、希望ちゃんにかわるよ?」

「おう」


 私は希望ちゃんにスマホを渡す。

 希望ちゃんが、夕ちゃんと話し始めるのを確認して、弥生ちゃん達の方に視線を向ける。


「さっきから何をヒソヒソと話してるの?」

「あー、うん。 月島さんや藍沢さんから、夕ちゃん君について色々教えてもらってたの」


 私は、奈々ちゃんと弥生ちゃんをジト目で見つめる。

 2人は悪びれた様子も無く、口笛なんか吹いている。

 一体、どんなこと宮下さんに吹き込んだんだろう?


「いや、声かっこよかったなーって思って、どんな人なのか聞いてたの。 藍沢さんから写メも見せてもらったけどイケメンじゃん」

「そ、そうだけどぉ」

「このイケメンを雪村さんと取り合ってる感じだ?」

「うん……」

「凄いやろ? ウチも月学通ってたら参戦するんやけどなぁ」

「や、弥生ちゃん……」

「もしもの話やんかー」


 弥生ちゃんもなんだかんだ言って、月ノ木祭の時に夕ちゃんの事を気に入ったみたいである。

 でも夕ちゃんは、私と希望ちゃん以外はもう眼中に無いはずだよね。


「何の話してるの?」


 希望ちゃんが通話を終えたのか、私にスマホ返しながら話に加わってきた。


「今井君の事で盛り上がってますのよ。 あ、もしもし春人君、おはようございます」


 ピキーンッ!

 宮下さんと弥生ちゃんの目が怪しく光ったかと思うと、話題はすぐに奈央ちゃんと春くんの事にシフトチェンジした。


「なぁ、春人君言うのって、学園祭の時に一緒におった儚げイケメン君やろ?」

「うん、そうだよ」

「月学祭、行きたかったなぁ」

「あ、あはは、今年は招待するよ」


 宮下さんが、羨ましそうに言うので約束した。

 弥生ちゃんは今年も来たいらしい。

 賑やかになるね。


「で、その春人君って亜美ちゃんにホの字やったんちゃうの?」

「私がフッちゃったからね。 その後奈央ちゃんが春くんの事を好きになって、猛アタックした結果2月末に付き合い始めたんだよ」

「何、月学女バレって彼氏持ちばっかりなの?!」

「そういうわけじゃないわよ? 亜美と希望は今彼氏いないし、遥……あー、赤毛で長身の子もいないわよ」

「あー、そうなのね」


 私と遥ちゃんに関しては、まだ恋人が出来たこともない売れ残り中の売れ残りだけど。


「でも、春人君って留学してきてたんやろ? まだ日本におんの?」

「ううん、2月末にアメリカに戻ったよ」

「てことは、遠距離? うわー憧れる―」


 宮下さんは目を輝かせている。

 実際遠距離恋愛ってどうなんだろう?

 奈央ちゃんは辛くないんだろうか?


「何を盛り上がってますの?」

「んん? 春くんと奈央ちゃんの事で」

「なっ?!」


 その後、少しの間ガールズトークで盛り上がった後、翌日の練習の為に各部屋に戻り就寝することにした。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日は午前中は昨日と同じメニューをこなす。

 練習2日目ということもあり、皆も連携が取れるようになってきている。

 特に奈央ちゃんのセットアップは完璧で、各選手が要求するトスを寸分の狂いも無く上げている。


「西條さんのトス打ちやすいわぁ」

「どうも」


 弥生ちゃんもお墨付きである。

 奈央ちゃんも紛れもないもない天才だよね。


「よぉし! 午前中はここまでだ! 午後からは紅白戦をやるぞ! チーム分けは後で伝える」

「はいっ!」


 紅白戦だよ。

 今まで組んだことない人とチームになるのは楽しみだし、月学の皆と対戦できるのも楽しみだよ。


 昼食を食べて、体育館に集合。

 監督からチーム分けが発表された。


「Aチームは西條、黛姉、黛妹、藍沢、上野、宮下、倉橋、柴田、堂本、綿引」


 おお? ということは……。


「Bチームは眞鍋、清水、月島、南、川崎、雪村、明石、中川、高橋、曽木」


 いきなり弥生ちゃんとチームになった。

 楽しみだよ。


「スタメンは各チームで決めてくれ。 コートメンバーと控えメンバーはローテーション1周ごとに入れ替え、試合は3セットで2先だ。 空いてる選手はラインズマンをやれ」

「はいっ」


 ということで、私達はまずスタメン6人を誰にするかでミーティングを開始する。

 チームリーダーは2年生の眞鍋さんにお任せした。


セッターは私と明石さんやけど、明石さん先に行きはります?」

「ええ、わかりました」


 明石さんは宮城の青海女子2年生の正セッターだったかな?

 直接対戦したことは無いけど、有名なので知っている。


OHアウトサイドヒッターは……ふふ、まずはやっぱり皆が見たいんとちゃうやろか? 清水さんと弥生、それに川崎さんお願いします」

「はい」

「了解やで」

「とんでもないメンバーよね」


 最初から弥生ちゃんとプレー出来るなんて最高だね。

 弥生ちゃんも「楽しみや」と微笑んでいる。


MBミドルブロッカーは曽木さんでリベロは雪村さんお願い」

「OK」

「わ、わかりました」

「以上がスタメンで。 ラインズマンは私が行くわ」


 スタメンが決まったところで、私達はコートへ入る。

 ローテーション一周ごとにメンバー入れ替えという事なので、コートにいる間にしっかりアピールしないとね。

 こっちのフォーメーションは、レフト前衛が私、その後ろに弥生ちゃん、センターの前衛が曽木さん。

 長身のMBだ。

 センター後衛に希望ちゃん、ライト前衛に川崎さんで、後衛に明石さんである。


「げっ、いきなり化け物2人がいるじゃない……」


 ネットの向こうから奈々ちゃんの声が聞こえてきた。

 奈々ちゃんはAチームのスタメンらしい。

 向こうのスタメンは奈々ちゃん、黛姉妹、宮下さん、上野さん、倉橋さんのようだ。

 さぁ、強化合宿の紅白戦第1戦目開始だよ。


 

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