第120話 冬といえば

 ☆希望視点☆


 春高バレーも終わり、千葉へ戻ってきた私達は、1月11から13日にかけてスキー旅行へ出かける事になっている。

 やはりというか、西條グループのスキー場とホテルらしいので、奈央ちゃんが仕切っている。


「我が西條グループが経営するスキー場は、初心者コースから上級者向けのコース、更には自然そのままの形を残した超上級者コースまでありますわよ!」

「ち、超上級者……」

「毎年遭難者が絶えない危険なコースですわ」

「そんな危険なコース作らないでよ」

「作ってません。 自然のままです」

「どちらにしても危険なんだろ?」


 夕也くんが、そう言うと……。


「大丈夫ですわよ。 来場者には全員にGPSの発信器をつけてもらいます。 スタッフが常に来場者の位置を確認してますから、遭難してもすぐに救助に動けます。 悪天候でなければですが」

「悪天候だとどうなる?」


 次は佐々木くんの質問。


「それはー……頑張ってください。 一応コースにはいくつか避難小屋がありますので、そこまで行ければ」


 私は絶対に行かないよ、そのコース。


「亜美、そのコース行く?」

「行かない、かなぁ」


 さすがの亜美ちゃんも、その危険なコースはパスのようだ。


「今井君!」

「おわ!? どうした紗希ちゃん?」

「向こう着いたら、スノボおせーて!」


 あ、そういえば、夏にそんな話をしてたような気がするよ。

 それにしても近い。 今回は彼氏さんも一緒に来てるのに。


「あ、あぁ良いけど、近くない?」

「ん? そうかな?」


 そう言って、少しだけ離れる紗希ちゃん。

 もしかして、誰にでもあれぐらい接近するのかな?


「紗希はその癖早く治してくれ」

「んー中々ねー」


 癖なんだ。 彼氏君も大変だなぁ。

 しかし、大所帯だ。

 春人くんに柏原くんも加わり、総勢10人。

 男子はイケメンばかりで、女子は美女ばかり。

 凄い集団である。



 ◆◇◆◇◆◇



 新幹線を下りた私達は昼食を挟んだ後、ホテル行きのバスに乗り込み走る事20分で、目的のホテルおよびスキー場へ到着した。


「では、部屋割りですが、紗希は柏原君と2人部屋で良い?」

「良いわよん」

「春人君は私と遥の3人部屋で、亜美ちゃんと希望ちゃんと今井君は3人部屋ね」

「え? 今、さらりと僕と奈央さんが同室って言いませんでした?」

「私もいるよ……」


 遥ちゃんがボソッと呟いた。

 私達も3人部屋かぁ。

 今回の部屋割りは、奈央ちゃんの独断で凄い事になっている。


「はい、これが各部屋のカギね」


 各部屋のリーダーにカギを渡す。

 うちのリーダーは夕也くん。


「じゃ、13時にここに集合してくださいね。 解散!」


 ロビーで一旦解散した私達は、各部屋へ向かう。

 春人くんは、奈央ちゃんに引っ張られていたけど。

 食べられちゃうんじゃないだろうか?


 部屋に入ると──。


「3人部屋なのに」

「ベッドが2つしかない」

「はぅー」


 これは、私が夕也くんと寝るしかないね。


「あー、俺はそのソファーで寝るわ」

「私と添い寝しても良いよ?」


 先に、亜美ちゃんが動いてきた。


「聞いてたか? 俺はソファーで良いよ」


 亜美ちゃんは「しょうがないな、夕ちゃんは」と、諦めてしまったようだ。

 むぅ、私も諦めざるを得ないね。


「ゲレンデ、見えるねー」


 亜美ちゃんが、すたすたっと窓際へ移動して、外を眺める。

 私も夕也くんも、それに倣って窓際へ。


「すげーな」

「西條グループって、何でも手を出すんだね」

「あはは、本当にね」


 3人で時間までくつろぎながら、会話を楽しむのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ロビーに集まった私達は、各人に用意されたスキーウェアを渡された。

 更には、来る時に言っていたGPS発信器をインナーに縫い付けて外れないようにする。


「今、モニターを確認してもらいましたところ、全員分の位置情報が確認出来ましたので、これから自由行動としまーす!」

「おー!」


 奈央ちゃんの一言で、各々がホテルからゲレンデへと出て行く。

 私は夕也くんと行動するつもりなんだけど、亜美ちゃんはさっさと行ってしまった。

 夕也くんと遊びたくないんだろうか?


「今井君、スノボおせーて」

「彼女と一緒のところごめん」


 紗希ちゃんと柏原君が、スノボを教えてもらいにやってきた。

 私も、前に教えてもらった事が出来るか確認しよう。

 4人でボードを借りに行く。

 奈央ちゃんの友人だと言うと、タダでレンタルしてくれた。

 気分が良い。


 早速復習だ。

 確か……。


「おー! 希望ちゃん凄いっ!」

「まだ、ちゃんと覚えてるみたいだな。 感心感心」

「えへー」


 意外と身体が覚えてる物だね。

 

「んじゃ、2人にはまず転け方から覚えてもらおう」

「転け方は大事だもんね。 了解であります今井教官!」

「普通で良いんだぞ、紗希ちゃん」

「はぁ」


 柏原君、普段からあんな感じの紗希ちゃんを相手にしてるのかな?

 大変そうだ。


 紗希ちゃん達が基本を教えてもらっている間、私は1人で緩い傾斜を滑る練習をしている。

 すると後ろから──。


「希望ちゃん、夕ちゃんは?」


 スキーを楽しんでいた亜美ちゃんが、華麗に滑り降りてきてわたしに話しかける。

 何でも出来る人だなぁ、亜美ちゃんは。


「紗希ちゃん達にスノボ教えてるよ?」

「なるほど、紗希ちゃん達に取られたのか」

「そうだね」


 亜美ちゃんは、ゴーグルを上げて「うーん」と考えた後。


「私、超上級者コースっていうの行ってくるね」

「えっ?! 危ないし行かないって言ってたじゃん」

「ちょっと興味が出てきちゃって」

「や、やめときなよ……雲行きも怪しいよ? 雪もちらついてきたし……」

「んー、大丈夫だよ」


 亜美ちゃんなら大丈夫かもしれないけど……。

 やはり心配だ。


「やっぱりやめた方が良いよ!」

「大丈夫だってば。 心配性だねぇ希望ちゃんは。 じゃあまたね」


 亜美ちゃんは、私の制止の言葉も聞かずに行ってしまった。


「亜美ちゃん、大丈夫かな……」


 私は心配になり、夕也くん達の所へ戻り、その事を伝える。


「亜美が? あのバカは……」

「ちょっと心配だけど、亜美ちゃんなら案外、余裕で滑り降りてくる気もするね」

「でも、何かあったら大変だ」


 柏原君の言う通りである。

 何だか嫌な予感がする。


「とは言え、今から追いかけても追いつけないだろうしな……」

「はぅ」

「とりあえずは様子を見るしかないな。 GPSもあるんだし、大丈夫だろ」

「う、うん……」

 

 でも、私のその心配は、的中してしまったのだった──。



 ◆◇◆◇◆◇



「吹雪いてきましたわね」


 急に天気が崩れたのだ。

 リフトは止まり、他のお客さんも一旦屋内へ移動した。

 

「いない……」

「え? いないって?」


 亜美ちゃんと別れてから、そこそこ時間が経っていた。

 どんなコースかは知らないけど、滑り降りてきていても不思議ではない。


「亜美ちゃんが、いないの!」

「亜美ちゃんが?」

「あいつ、超上級者コースに行ったんだよな!?」

「えぇっ!? 本当ですの?!」


 奈央ちゃんが、大きな声を上げる。

 すぐにどこかへ電話をかけ始める。


「もしもし、私です。 超上級者コースにGPSの反応はありますか?」


 どうやら確認してくれているようだ。


「中腹付近に1つ……わかりました、すぐにそっちへ行きます」


 電話を切ると、すぐに私達全員を集めて、モニタールームへと案内してくれた。

 モニタールームに入ると、大きな画面が2つ。

 1つは、各地点の天候を映し出していた。

 もう1つは、GPSの位置情報を映しているのだろう。


「これが、亜美ちゃんの位置です」


 沢山の点がある中、1つだけぽつんと離れた場所にある点を指差す奈央ちゃん。


「お嬢様、先程からこの反応は動いていません……」

「!」


 ゾッとした。

 もしかして、何かあったんじゃ……。


「亜美……何やってんだよ」

「私が、私がもっと強く止めてれば……」

「希望は悪くないわよ。 それより、救助は出せないの?」

「このモニターのこの画面ですが……今、亜美ちゃんがいる付近の天候ですわ」


 その画面には、ただの白い映像しか映っていない。

 つまりそれは。


「亜美ちゃんは、多分この吹雪の中で、視界がほとんどゼロの中立ち往生しているのだと思います」


 その場にいる全員が、黙り込んでしまった。

 そんな中、1人動く人がいた。


「俺が行く」

「夕也くんっ?! ダメだよ!」

「そうよ。 遭難者が増えるだけだわ」


 奈々美ちゃんの言う通りだ。

 夕也くんまで危険な目に遭ってしまう。


「じゃあどうするんだよ! 放っておくのか!?」

「今井君……」

「夕也、気持ちはわかるが落ち着け」


 皆が、夕也くんを落ち着かせようと宥める。

 でも、実際どうすればいいのだろう……。


「今井君、これを」


 そんな中、奈央ちゃんは夕也くんに何かを手渡した。


「トランシーバーです」

「な、奈央っ!」

「今井君、私が逐一、貴方と亜美ちゃんの位置をナビします」

「ちょっと奈央、話聞いてた?」

「聞いてました。 でも、誰かが行かないと亜美ちゃんが……」


 奈央ちゃんも、出来る事ならこんな危険な事は避けたいのだろう。

 唇を噛んで悔しそうにしている。


「……恩に着るよ。 ナビは頼む」

「夕也くん!?」


 手を伸ばして止めようとしたけど、夕也くんはそのまま行ってしまった。

 やだ……もう、大事な人を失うのは。


「あのバカッ!」


 奈々美ちゃんが叫ぶ中、私は膝から崩れ落ちるようにへたり込んでしまった。

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