第90話 亜美と奈々美のショッピング
☆奈々美視点☆
10月12日の土曜日。
昼から亜美と2人でショッピングに来ている。
夕也と希望を放置しておいてもいいのか訊ねたら、「別に大丈夫だよ」と何やら余裕の様子。 更に何があったのか訊いてみたら「うふふ、後で教えてあげる」と、可愛く微笑みながら言うのであった。
この分だと中々良い事があったに違いない。
2人で洋服屋さんを梯子しているのだが、中々気に入ったものは無い。
亜美は何着か手にしては「うーん」と悩んでいることから、気に入ってはいるのだろうけどお財布事情で手が出ないのかもしれない。
「おお」
亜美はまた一着手に取って声を上げた。 どうやら、予算内に収まりそうなお気に入りが見つかったようだ。 「試着室行ってくる」と言って歩いて行った。
ふむ、私も見に行こうかしら。
亜美が入った試着室の前に行き、カーテンの外から亜美に声を掛ける。 「どうぞー」と言われたので中に入る。 まだ着替えている最中だったようなので、少し離れて待っていると着替え終えた亜美が「どう?」と鏡の前でポーズを取って見せた。
ベージュ系で統一されたコーディネートだろうか? ベージュのパーカーにとそれに合わせたのかベージュと白のボーダー柄のカットソーのTシャツ、少し白っぽいベージュのスカートというコーデだ。
秋っぽい色合いで、落ち着いている亜美には良く似合う。
これから気温が下がって着ても着れそうだ。
「うん、あんたっぽくて似合ってんじゃないの?」
「そう? これに決めちゃおっかな」
亜美は店員さんを呼んで、値札を外してもらっている。 そのまま会計を済ませた。
どうやら今日はその服で過ごすようだ。 さっきまで来ていた服を袋に入れて店を出る。
「うーん、良いお買い物したー」
「おいくらしたのそのコーデセット?」
右手の指を1本、左手の指を2本立てる。
1万2千かー。 結構なお値段ねぇ。 この子、6月に貯金結構使ったって割には結構持ってるのよねぇ。 なんかイケナイコトしてないわよね?
「どっか喫茶店寄ろっか?」
「そうね。 歩き疲れたし」
近場の喫茶店に入り、少し休憩することにした。
この喫茶店にはフルーツパフェは無いようなので、亜美はチョコレートパフェを注文している。 パフェは外せないのだろうか?
「この後どこ行く?」
「んー、そうね。 もう一軒洋服屋見て良い?」
「うん、いいよぉ?」
私が知っているお店は後一軒ある。 そこで気に入った物が無ければ、今日は手ぶらで帰る予定だ。
予算は、諭吉1枚ぐらいまでなら出そうかなぁとは思っている。
しばらく待っていると、メロンソーダとチョコレートパフェがやってきた。
「今日はアイスコーヒーじゃないんんだね?」
「たまにはねぇ」
ストローに口を付けて、ズイーっと飲む。
亜美はというと「んむ」といつものようにスプーンを咥え、幸せそうな顔を見せている。 パフェなら基本何でもいいのかしら?
「そういえば、夕也と何かあったんでしょ? 協力者の私には教えなさいよ」
「えぇーしょうがないなぁー」
と、言いながらも喋りたくてうずうずしていたのか、すぐに話を始めた。
「んむんむ……この間さ、部活の帰りに夕ちゃんと2人で緑風行ったでしょ?」
「えぇ」
約束していたのだとか。 希望もちょっと前に2人で緑風へ行くと言っていたが、同じように月ノ木祭を2人で回れなかった埋め合わせという事なのだろう。 夕也もマメな男だ。
「その帰り道で、ちょっとデートしてもらったんだぁ」
「帰り道で?」
緑風から亜美の家まではせいぜい15分程度の距離。 デートコースとしても特に何もないし、部活終わりなら時間も遅いので、大したことは出来ないはず?
「んむんむ」
「それだけ?」
「ん……ふふふー。 その帰りに夕ちゃんを誘惑して、見事に成功したんだよ」
「誘惑成功? ってことはつまり──」
「うん」
指でジェスチャーをしてみせる亜美。 紗希が教えたのねこれ……。
しかし、体を使った作戦が早くも成功したというのはいい傾向だ。 さすがの夕也も堪えきれずに落ちたか。
でもはて? あの道にホテルみたいなのあったかしらね?
「どこで?」
「んむ……」
ピタッとパフェを頬張る動きが止まり、恥ずかしそうに私の顔見ると小声で信じられないことを言った。
「公園……」
「……はい?」
今、公園って言った? 公園って公園? あの子供たちが遊んだりする、ブランコとかある所よね?
き、聞き間違えたかしら?
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「だから……こ、公園で……したの」
聞き間違えでは無かった。 確かに亜美は「公園でした」と言った。 何を言ってるのこの子は?
「い、一応、人目につかないとこに隠れてしたんだよ?」
「当たり前でしょうが……」
ベンチでとか滑り台でとかだったら、それはもう頭ぶっ飛んでるカップルよ。 全くなんなのよこの子は。 普通にできないのかしら?
「で、でもまぁ、希望と夕也がする前にそういう関係に持って行けたのは、良い傾向よね」
「うん。 夕ちゃんね、私の事も希望ちゃんと同じくらい想ってるって言ってくれたんだよ?」
「そう。 あんたにも十分チャンスがあるってわけね」
「うんっ! んむんむ」
夏休み中は、どうなるかと思ったものだけど、何だかんだで良く持ち直したものだ。
希望の事がどれだけ枷になっていたのか、今の自由な亜美を見れば良く分かる。
「それにね、今回の奈央ちゃんの件で春くんが1ヶ月の間、奈央ちゃんの疑似恋人になるじゃない?」
「えぇ」
「春くんは、希望ちゃんと手を組んで私と夕ちゃんの仲を妨害しようとしてるわけだし、この1ヶ月、春くんが動けないのも好都合だよ」
「そ、そうね」
春人──告白までしたのに扱いがどんどん負け役のそれになっていくわよ。 なんて哀れな男なのかしら? 春人と幸せに暮らす未来なんて、本当に存在するのか怪しいレベルで相手にされてないじゃない。
もしかして、春人の告白にどう返事するのかが、亜美の運命の分かれ道だったのかしら?
「可能性が出てきたとはいえ、まだまだ希望ちゃんが立場上有利なことには変わりないよね? 希望ちゃんだって、今からでも夕ちゃんとえっちしちゃえば、優位を保てるわけだし」
「そうねぇ、もう一押し何か欲しいわねぇ」
「例えば?」
「んー……難しいわねぇ。 今のまま、どんどん夕也にアタックし掛けて心を揺り動かしていくのが良いのかしら?」
「なるほどなるほど」
亜美は「猛アタックだぁ」と言いながら、パフェを完食してしまった。
私から見ても流れは今、亜美の方に向いている。 このまま何事も無ければいいのだけれど。
私達は喫茶店を出て、もう一軒の洋服屋を覗いた後、ショッピングを終えて家路についた。
帰りに、件の公園へ立ち寄り現場視察したが、よくこんなとこでそんなことできたものだと感心してしまった。
亜美も落ち着いて今見てみると、「あの時はどうかしていた」と顔を赤くして俯いた。
私は、絶対無理ねぇ。
「そういえば、明日は奈央と春人の疑似デートだったわねぇ?」
「うん、春君もデート経験はないみたいだから、どうすればいいのか希望ちゃんに聞いてたよ」
「へー、向こうで彼女とかいなかったのね」
「みたいだね」
まぁ、疑似だし適当でいいと思うんだけどねぇ。 奈央も大変ね。
奈央の誕生日、一体どうなる事やら?
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