第37話 呼び出し

 ☆亜美視点☆


 7月30日

 

 今日から遂に、インターハイの本番が始まる。

 私たちのグループは私達、月ノ木学園、長野の宮美山女子、愛知の風凪女子、滋賀の湖星高校で争う。

 特に初っ端に当たる、長野の宮美山女子は昨年ベスト4まで勝ち進んでいる強豪校だ。

 この先を占う試金石としては申し分ない相手だ。


 この相手には2、3年生では手も足も出ないかもしれないということで、私達1年が出来るだけ短期決戦で終わらせて消耗を抑える作戦。

 展開次第では1年生を2人ほど下げる時間を設けるとの事。


 試合開始だ。 宮美山のサーブから始まる。

 強豪校のデータはある程度目を通してある。

 

 強烈なサーブが飛んでくる。

 これは際どいラインだけど、インしそうかな?

 

「希望ちゃんっ!」

「はいっ!」


 私が声を出すまでもなく、希望ちゃんは自分の判断でボールを拾いに来ていた。

 頼りになるリベロだよ本当に。


 私はポジションを移動していつでも跳べるようにしておく。

 セッターの奈央ちゃんがジャンプトスを上げると、レフトの奈々ちゃんが跳ぶ。


「っ!!」


 強烈なスパイクで相手ブロッカーの脇を抜く見事な一撃。

 でも、このコースは打たされたね。

 相手のリベロがきっちりフォローに付いてる。


「ボール返ってきますわよ」


 奈央ちゃんが声を出して警戒を促す。

 私と遥ちゃんでネットに詰める。

 相手のポジショニング的に相手の攻撃は・・・。

 想定通りの選手にトスが上がる。

 読めれば!


「せーの!」


 遥ちゃんとタイミングを合わせて飛ぶ。


「ブロック高?!」


 完璧にシャットアウトしてまず1点をもぎ取る。


「ナイスブロック亜美ちゃん!」

「いえいえ、遥ちゃんサーブ入れてこ-!」

「あいよー」


 ローテーションしてサーバーは遥ちゃん。

 パワーなら奈々美ちゃんにも匹敵する、うちのビッグサーバー。


 遥ちゃんのジャンプサーブが矢のように相手コートを射抜く。

 ノータッチサービス! これは大きい。


「ひぇー・・・あんなんレシーブしたら腕もげるって」

「そ、そんなことないって・・・」


 ネットをはさんで向こう側に居る選手と会話する。

 

「はずせ~ はずせ~」


 なんか呪いをかけてるよこの人・・・面白い人だなぁ・・・。

 あ、遥ちゃんサーブはずした!

 呪いが成功したのかな?!


 さて相手のサーブだ。

 データでは相手は強力なジャンプサーブの使い手。

 何とか後衛で処理したいところだけど。

 今前衛は、左から紗希ちゃん、奈々ちゃん、私と攻撃的なフォーメションになっている。

 これを最大限生かすには後衛で拾うのが一番だ。

 今度はこちら側に強力なサーブが飛んできた。

 これは、希望ちゃんじゃ届かないかな?

 遥ちゃんと奈央ちゃんの間。

 ここで奈央ちゃんが拾うとセッターが使えなくなっちゃうけど、どうする奈央ちゃん。


「任せてください」


 奈央ちゃんがレシーブを上げる。

 うーむやられた・・・。

 仕方ないなぁ。

 

 私がセットに入る。

 ブロック2枚かな?

 ここはエースの奈々ちゃんに託しますか。


「はいっ!」


 奈々ちゃんにトスを上げる。


「亜美からのトスとか! 久しぶりねぇ!」


 高いジャンプで相手のブロックの横面に当てる。

 上手い、相手の手の横面に当ててブロックアウトを取るプレーだ。

 さっきの様にはいかないよって感じだね。

 スコア1-2で、サーブは私。

 

「亜美ちゃん、頼むわよぉ」


 紗希ちゃんから応援してもらう。

 よぉし、手玉に取っちゃうぞ。

 私は基本的にはランニングジャンプサーブを得意としてるけど、普通のジャンプフローターやランニングジャンプフローターも打ち分ける。

 ドライブやスピンなんて隠し玉もあるけどね・・・。

 

 私はジャンプフローターを選んでサーブを打つ。

 無回転で飛んでいくサーブは落下地点が読みにくく、相手のレシーブを崩しやすい。

 計画通り、相手コートがもたついて、綺麗なボールは返ってこない。

 きっちり希望ちゃんが拾って奈央ちゃんに繋ぐ。


「はいっ」


 トスはまたまた、奈々ちゃんに合わせる。


「人使い荒いんだからっ!」


 これはブロックされて返って来てしまう。

 すぐに紗希ちゃんがフォローに入って拾ってくれる。


「んじゃ、今度はこっち!」


 ボールが私の前に上がっている。

 私は既にバックアタックのための助走に入っていたので・・・。


「ドンピシャだよ奈央ちゃん!」


 大きくジャンプして強打する。

 ボールは相手のブロックに当たってコート外へ飛んでいく。

 これもブロックアウトだ。


「ふぅ・・・」


 サービスキープできて御の字だよ。

 さて次は・・・。

 私は助走に入ってボールを前方にトス。

 ジャンプして右腕を振り抜いた。


 私が放ったランニングジャンプサーブは、相手コートの際どい所に突き刺さる。

 ラインズマンからインの判定が出る。


「どんまーい、見て行こー」


 偶然じゃなくて狙って打ってるんだよねぇ。

 もう一本行っとこうかな?

 私はもう1度ランニングジャンプサーブを見せる。

 今度は別の線上に入れていく。


 さすがのお相手さんも、これは気付いたっぽい。

 信じられないといった表情を見せているけど・・・。

 

「本当、ロボットみたいに精密よね、あんたのそれ」

「人間だよ」


 奈々ちゃんといつものやり取りを済ませる。

 もう一度打ってもまず際どいとこは拾われるよね。

 それじゃあ、セッターに合わせて、攻撃のリズム狂わせちゃいますか。

 

 もう一度ランニングジャンプサーブ。

 今度はセッターの人にコントロールする。

 狙い通りセッターにレシーブさせて、攻撃のリズムを乱す。

 でも、予想外に他の選手もトスが上手い?

 正セッター崩しただけじゃダメか。

 紗希ちゃん、奈々ちゃんがブロックに跳ぶも、ブロックアウトにされる。

 リードは奪えてるし良しとしますか。


 


 試合は淀みなく進んでいき、セットカウントは0ー1でリード。

 スコアも20ー12と勝利目前。

 私達月学1年の内、すでに奈々ちゃん、紗希ちゃん、奈央ちゃんの3人はベンチに下がっている。

 2、3年生がコートメンバーに入って来ている。



「清水さん! お願い!」


 先輩からのトス。

 普段からそれなりに合わせてはいるけど、奈央ちゃんのトスとは微妙にタイミングが違う。


「っ!」


 ブロックの上から空いた場所を狙ったスパイクを打ち21点目。

 

「試合後半に来てもまだ、あの高さ出るの? やばっ」

「はは、でもさすがに疲れてるよ」


 この試合で何度目かの相手選手とのやり取り。


「(これが全一プレイヤー清水亜美・・・これは別格だわ)」

「先輩ナイスサー!」


 2年の先輩の入れに行くようなジャンプサーブは、さすがに簡単に拾われてしまう。

 遥ちゃんと私でリードブロックを仕掛けるも、ブロックアウト。

 細かいところが上手いなぁ。

 全国の強豪だけあるよ。

 

 その後も点を取り合ってのマッチポイント。

 これを、遥ちゃんが見事に決めて試合終了!


「ありがとうございました!」

「いやー、参った参った。 噂以上だったわ」

「いやいや、そちらこそ」

「何言ってるの、ほぼ完敗よ。 自信無くすわ」

「あはは・・・」

「敗者復活で絶対残ってリベンジさせて貰うからねぇ」

「頑張ってね」


 向こうのエースさんと言葉を交わして別れた。

 セットカウント2ー0の快勝で、決勝トーナメント進出を決めた。

 グループもう一つの試合は、滋賀の湖西が勝ち決勝トーナメントへ。

 敗者復活戦は、宣言通りに宮美山女子が勝ち上がり、トーナメント進出を果たした。


 他のグループの結果を見ると、弥生ちゃんもきっちりと勝ち上がっている。

 立華は第一シードで、トーナメントは2回戦から。

 組み合わせ表で見る限り、当たるのは最終日の準決勝だ。


 


 

 ホテルへ戻りミーティングを済ませて部屋に戻る。

 取り敢えず予選を抜けてホッと一息だ。

 2セット連取をして1試合で勝ち抜けたのも大きいね。

 

 今は、取り敢えず疲れを癒すために、皆で大浴場へ来ている。

 

「はぁー、疲れ取れるー」

「紗希ちゃん、第1セット大活躍だったもんね」


 今日の紗希ちゃんは、本当にキレキレだった。

 良く跳べてたし、決定率もかなり高かったよ。


「明日は2回戦の相手が第2シードの大阪銀光女子だっけ?」

「うん、大阪の強豪だねぇ」


 今日試合した宮美山女子と、同等かそれ以上にはチーム力があるらしい。

 気が抜けない相手だ。


「遥ー、あんたはサーブの成功率上げなさいよー?」


 奈々ちゃんから遥ちゃんにダメ出しだ。

 遥ちゃん、サーブは強烈だけどコントロールがね・・・。


「わかってるって! こう、どうしてもパワーを追求しちゃうんだよなぁ」

「脳筋!」

「悪いか!」


 何か始まったよ? 全くもう!

 

「はいはい、無駄な体力使わない!」


 私が真ん中に割って入る。


「ぐぬー」

「ふしゃー」

「何なのよもぅ」


 そんなこんなで2日目の夜が過ぎた。





 翌日の決勝トーナメント1、2回戦、さらにその翌日の3、4回戦も強豪校を連破して最終日の準決勝に駒を進める。

 同じく、順調に勝ち進んできた弥生ちゃんの学校との試合が待ち遠しい。




 その夜、部屋でボーっとしていると、不意に希望ちゃんが声を上げた。


「あ・・・」

「ん? どうしたの希望ちゃん?」

「ゆ、夕也くんからメッセージが・・・」

「おおっ、それってもしかして?」


 奈々ちゃんが興味津々で覗き込む。


「今から会えないかな? だって」

「うわわわ、どうしよどうしよ」


 希望ちゃんがわたわたしている。

 夕ちゃんからの呼び出し・・・つまり、希望ちゃんに告白の返事をするつもりだ。


 自分の事じゃないのに、胸が苦しくなる。

 心臓がドキドキする。

 

「ほらほら、早く返信しなさいよ」

「ま、待ってぇ! 心の準備がー」

「なーにを今更! 大会中に返事貰えるのはわかってたでしょうが! 貸しなさい!」

「わわ! か、返して! スマホ返してー!」


 奈々ちゃんと希望ちゃんが、もつれあってうねうねしてる。

 結局、奈々ちゃんが勝手に返信してしまって、希望ちゃんは「どうしよー!?」と、パニックになりながら頭を抱えている。


 何とか落ち着かせて、夕ちゃんとの待ち合わせ時間等を決めさせてから、軽く化粧をさせて見送った。


「・・・」


 どうして、こんなに落ち着かないんだろ・・・。

 やっぱり、どこかで期待してしまってるのかな?


「どうなるかしらねぇ」

「うん・・・」

「(亜美・・・)」


 この後、奈々ちゃんは何故か隣の部屋にいる、奈央ちゃん達を呼ん事情を説明し「希望ちゃんおめでとうパーティー」もしくは「希望ちゃんを励ますパーティー」を企画するのだった。

 皆、ただ騒ぎたいだけなんじゃ・・・?


「遅いわね」

「んーどこか歩いて行ったんじゃないの?」


 確かに、奈央ちゃんの言う通りかも?

 ホテル内だと先輩達がいたりするしね。


「意外と、空き部屋に忍びこんで、アレコレしてたりして?」


「私見てくるっ!」


 それはちょっと早いよ、夕ちゃん!

 あ、私が言うなって話だね。


「こらこら、落ち着く」

「あぅ、ごめん」


 奈々ちゃんに宥められて、何とか冷静になる。

 夕ちゃん・・・。


 希望ちゃんが部屋を出てから30分と少しぐらい経った辺りで、ようやく部屋に戻って来た。

 

 1人で戻って来ちゃったよ?!

 ど、どうなったんだろ?


「はぅっ、どうして皆で待機してるの?!」

「希望ちゃん・・・残念だったね・・・」

「はぅっ」

「私達が慰めてあげるから、元気だしなよ!」


 希望ちゃんが、何か言う前からフラれた前提で話を進める、奈央ちゃんと遥ちゃん。

 まだ早いよ!


 でも、どうだったんだろう?


「えーと?」

「私が皆に話して、あんたの帰りを待ってたのよ」

「そうそう。 告白の返事がOKだったら『おめでとうパーティー』でNOだったら『励ますパーティー』をしようと思ってね」


 困惑している希望ちゃんに、奈々ちゃんと紗希ちゃんが説明をする。

 希望ちゃんは「そ、そうなんだ・・・」と、一応は納得したようだった。


「で、私達はどっちのパーティーを開けば良いのかしら?」


 奈々ちゃんが、希望ちゃんに結果を聞く。

 皆、静かになって希望ちゃんの言葉を待つ。

 少し息を吐いてから、希望ちゃんはゆっくりと口を開いた。


「じゃあ────」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る