第36話 インターハイ開会

 ☆亜美視点☆


 今日は朝早くに家を出て、バレーボールのインターハイに出場する為に、九州へやって来ている。

 なんと、ここ九州にも西條グループの経営するホテルがあったらしく、我々月ノ木女子バレー部はそこを貸し切ってしまった。

 現在は広間でミーティング中である。


「えー、まずは皆、長旅お疲れ様です。 今からミーティングを始めます。 じゃあキャプテンよろしくお願いします」


 と、挨拶したのはお飾りの顧問教師である。

 バレーボールには詳しくないけどやる気はあるし、色々力は貸してくれるから完全なお飾りというわけでもないけど。


「はい。 さて、ようやく……ようやくここまで来れたけど、来た以上狙うは全国制覇よ。 その為にはやっぱり、1年生組の力が必要不可欠だわ」


 キャプテンが、私達1年生の方を見る。


「ただ、インターハイは四日間。 試合数も多くなるし、1年生だけじゃ戦い抜くのは難しいわ! 私達3年はもちろん、2年生もしっかりしないと」


 2、3年生の先輩達もやる気十分だし、最近は目に見えてレベルアップしている。

 本当に、去年まで地区大会で燻っていたのが不思議なぐらいだ。

 今の先輩達なら、強豪校は辛くても、中堅レベルの相手にならそれなりに通用すると思う。


「もちろん軸は1年生。 でも、その1年を温存するのに1セット6回の交代はフルで活用していくつもりで行くわよ」


 その辺の判断はキャプテンがしてくれるだろう。

 

「それで、今大会での注意すべきライバル校だけど。 まずは何と言っても、月島弥生を擁する京都立華ね。 1年生はよく知ってると思うけど……」


 弥生ちゃん、強豪の京都立華で1年生レギュラーを勝ち取った私のライバル。

 

「弥生ちゃんのバレーボールセンスはずば抜てけます。 私が知ってるのは去年までの弥生ちゃんで、今年になってからの弥生ちゃんはまだ知りません」


 中学生の時もそうだけど、インターミドルで会う度に強くなってた。

 きっと今年も、去年とは比べ物にならないぐらいレベルアップしてるはず。


「決勝トーナメントまでは立華と当たることは無いけど、ここが最大の壁になると思って間違いないわ」


 多分、そうだろうなぁ。

 特に選手層の厚さじゃ、うちとは天地の差だよ。

 

「正直言って、早めに何処かで負けて欲しいとこだけど……期待できないわ」


 負けてもらっちゃ困るんだよね。

 私は弥生ちゃんと試合するのが凄く楽しみだったんだもん。

 当たるまで、私達だって負けられないよ!


「他には大阪、岡山、長野あたりは強いわね。 予選グループでは私達は長野の宮美山女子と当たるわ。 その他の学校も侮れないわよ」


 まずは予選グループを勝ち抜かないとね。


 ◆◇◆◇◆◇


 私達はミーティングが解散したあと、部屋に戻ってきた。

 三人部屋を、私、希望ちゃん、奈々ちゃんで使っている。

 時間は空いてるけど、試合前ということもあり、出来るだけ休むようにとキャプテンから言われた為、外へ出るのは控える事にした。

 特に、私達3人は1年生の中の柱軸だからと、言われてしまっては仕方ない。


「しかし、暇よねー。 開会式は明日の夕方でしょ?」


 奈々ちゃんが早速愚痴っている。

 まあ、わからないでもない。


「そうだ、希望! 昨日はあの後どうなったのよ? 夕也に告ったんでしょ?」

「はうぅ!?」

「え、その反応はどっち?」


 奈々美ちゃんは興味津々で希望ちゃんの方へ寄って行く。


「ま、まだ……」

「は? まさかまだ告ってないの?」

「いやいや! 告白したよ! 返事がまだってだけだよ……」

「ああ、そゆこと」

「大会中には返事貰えるんだよね?」

「うん……その予定」

「ふうん、そうかそうか」


 夕ちゃん……どうするんだろうなぁ。


「亜美ちゃん、そう言えば昨晩なんだけど」

「ん? 昨晩?」


 なんだろ……っ?! まさかっ?!


「部屋から、なんかえっちな声が聞こえてたけど、もしかして……?」

「ななな、なんでもないよ!?」


 うわわわわ?! き、聞こえてたのかな?! 結構声は抑えてたつもりだったのに。


「何々? 怪しい話ね? 希望詳しく」

「うん、実はね」

「わぁー!わぁー!わぁー!」


 妨害するよ! ひとりえっちしてた事が奈々ちゃんにバレたら、すぐ紗希ちゃんに話しが行って大暴露されちゃう!!

 もし夕ちゃんにバレたら、恥ずか死しちゃうよ!


「えーい、やかましいわよ亜美!」

「きゃうん」


 奈々ちゃんからデコピンを貰ってしまう。

 希望ちゃんが、奈々ちゃんに耳打ちを始める。

 次第に奈々ちゃんの顔が小悪魔のような微笑みを浮かべていく。

 あぁぁぁぁ……終わった……。

 いやいやいや! 拡散は絶対に阻止しないと!


「ふぅん……亜美もずいぶんエロくなったもんねぇ? やっぱ1回ヤっちゃうと女変わるもんなのかしらねぇ?」

「ううううっ! 皆には絶対言っちゃだめだよ!? 特に夕ちゃんには!」

「あらあら、ふぅん……おかずは夕也か」

「そうなの亜美ちゃん?」


 ぼ、墓穴掘っちゃったぁ!? もう、その墓穴に入っちゃおうかなぁ!


「もう……いや」

「あはははっ、大丈夫大丈夫! 誰にも言わないから安心しなさいって」

「本当だよ!?」

「約束するわよ。 親友に二言は無いってね」


 親友……信用するしかないなぁ。


「でも、そんなに夕也くんが好きなら……」

「いいのっ!」

「はぅ……」


 また希望ちゃんは要らない気遣いを。

 夕ちゃん、希望ちゃんの事本当に頼むよ。

 

 あ、そうだ!


「希望ちゃん、夕ちゃんに無事着いたよって電話かけてあげたら?」

「えぇっ!?」

「あら、いいわね。 もしかしたら返事聞けるかもしれないし、かけてみなさいよ」

「うう……」


 希望ちゃんは、スマホを取り出して一度私達の方を見てから電話をかけ始めた。


「あ、もしもし夕也くん? 希望だけど」

『おう、どうした?』

「うん……その、無事に九州に着いたよって言う連絡を……」

『お、そうか。 俺も明日そっち行くからな』

「うん」

「ほらほら、返事はまだなのか聞きなさいよー」


 奈々ちゃんが小声で煽っていく。

 正直私も気になってスマホに耳を当てているけど……。


「あ、あの……昨日の返事……」

『ん、ああ。 もうちょっと考えさせてくれないか? 大会中には必ず返事する』

「うん、待ってる。 明日、気を付けて来てね」

『おう』

「じゃあね、夕也くん……そ、その……大好き」

『お、おう、じゃあまた明日』


 希望ちゃんは電話を切って大きく息を吐いた。


「うう、緊張したよぉ」

「あはは、結構攻めるじゃん」

「うん……」


 希望ちゃんは不安そうな表情で頷く。

 自信なさそうだなぁ。


「私が夕也くんに電話したんだから、奈々美ちゃんも佐々木くんに電話しなよぉ?」


 お、珍しく希望ちゃんが反撃に出たよ?


「わ、私は別に……」

「ダメー! 私だけなんて不公平だよ」

「わ、わかったわよ!」


 今度は奈々ちゃんが、宏ちゃんへ連絡をする番のようだ。

 昨日は上手くいってるって言ってたけど……。

 

「あー、もしもし……私だけど」


 プツッ……


「速攻で切られたんだけどっ!?」

「ええっ?!」

「佐々木くん……」

「なんかむかつく!!」


 奈々ちゃんは意地になってもう一度かけ直している。

 宏ちゃん、わざと意地悪したねこれ。

 絶対にこうなるってわかってて切ったんだ。


「もしもしっ! バカ男っ!」

『うっさいなー、なんだよ』

「いきなり切る事ないじゃない!?」

『わーるかったよ』


 何とか繋がったらしいけど、いきなり喧嘩始めちゃったよ……。


「と、とりあえず無事に着いたから……それだけ!」

『そんなことでいちいち……』

「の、希望と亜美がかけろって言うから」


 私は一言も言ってないんだけどな……。


『ほぉーん、そんなに寂しいのかよ?』

「べべ、別に寂しくなんかないわよ!」

『へいへい、明日そっち行ってやるから、今日だけ我慢しろ』

「だから、寂しくないってば!」


 うーん、いつも通りっぽいなぁ。

 奈々ちゃんと宏ちゃんは大体いつもこんな感じだし、上手くいってるっぽいね。


「じゃ、じゃあ切るわよ?」

『ああ。 じゃあな』

「あ、あの……す……好きっ」


 ピッ


「はぁ……」

「奈々ちゃん可愛いねぇ」

「うっさいー!」


 奈々ちゃんが怒って私のほっぺを摘んでぐいぐい伸ばす。


「いひゃいぉぉ(痛いよぉ)」

「このド淫乱娘」

「いんふぁんひゃあいぉぉ(淫乱じゃないよぉ)」

「あははは、亜美ちゃんの顔面白い」


 希望ちゃんがお腹を抱えながら笑う。

 その後もガールズトークで散々盛り上がるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日、お昼頃には応援団が到着した。

 希望ちゃんと夕ちゃんは何となくぎこちない感じで、見ていてヤキモキしたけど。

 どうやら返事はまだみたいだ。

 

 奈々ちゃんと宏ちゃんは、九州でもいつも通りの痴話喧嘩を繰り広げている。

 何だかなあ。


 ◆◇◆◇◆◇


 夕方17時、現在は開会式中だ。

 お偉い人達の退屈なお話から選手宣誓など、お決まりの流れ。

 

 開会式終了後、私は久しぶりに弥生ちゃんに再会した。


「弥生ちゃん1年振り!」


 最後に会ったのは去年の夏の全中だ。

 綺麗なシルバーブロンドのショートヘアーで赤黒い瞳が大きい目。

 とても可愛い顔立ちをしている女の子。

 右目の下に泣きぼくろがあってそれがまたチャーミーだ。

 身長も私と同じぐらい。

 奈々ちゃん曰く「髪色と喋り方以外は亜美とそっくり」らしい。


「久しぶりやね。 言うても、電話でたまに話しとるし、そんな気せぇへんけど」


 おー、この独特のイントネーション!

 これだよこれ!


「亜美ちゃん、調子はどないなんよ?」

「良いよー。 そう言えば、立華とは決勝トーナメントまで当たらないね」

「そやねぇ、ウチらと当たるまで負けたらあかんよ?」

「それはこっちのセリフだよ」


 やっぱり直接会って話すのは良いねー。

 出来れば大会中に一緒にショッピングとかしたいんだけど無理かな?


「すいません、熱闘バレーの収録中なんですが」


 弥生ちゃんと話しているとスポーツ番組の収録中だと言う人に話しかけられた。

 

「是非、今大会注目の二人に話を聞かせていただきたいのですが?」

「どうする、弥生ちゃん?」

「ウチはええよ」

「それじゃ私も」

「ありがとうございます」

 

 私と弥生ちゃんは順番にインタビューを受ける。

 中学2年の時に初めてインタビューされた時は緊張したなぁ。


 一通りインタビューを終えた後、弥生ちゃんと並んでボールを持っている映像を使いたいと言うのでリクエストに応えて終了となった。


「ウチらもすっかり有名人やねぇ」

「そだね」

「そや、藍沢さんと雪村さんはどないしたん?」

「あー、さっきみたいなのに捕まるのが嫌だから逃げたよ」

「あー、なるほどなぁ。 あの二人も今大会の注目選手になっとるからな」

「うん」

「やっぱり最大のライバルは、あんさんらになりそやね」

「お互い様だよ」

「あんさんみたいなバケモン相手にする、ウチらの身にもなってみなはれや?」

「お互い様だよ」


 私と弥生ちゃんはお互いに笑い合って握手を交わす。


「ほな、次はコートの上で会おや」

「うん、約束だよ」


 そう言って、私達は別れた。





 体育館の外に出ると、1年生メンバーが私を待ってくれていた。


「長かったわね。 弥生に挨拶は済んだ?」

「うん。 相変わらずな感じだったよ」

「なんか馴染みやすいのよね、あの子」

「クールなとこあるんだけど、喋り方の所為であまりそう感じないんだよね」

「クールかしらねーあれ」


 私達は六人で並びながらホテルへ戻った。

 明日からいよいよ、試合が始まる。

 まずは予選グループを突破して、決勝トーナメント進出を目指すよ!





 ホテルのロビーに着くと、夕ちゃんと宏ちゃんが出迎えてくれた。

 せっかくだし、私達の部屋に来てもらう事に。


「しかし、西條の家まじ凄いよな。 こんなホテルを全国にいくつも展開してんだろ?」

「そうみたいだね」

「うちら、とんでもないのと友達になってるんだと、改めて実感するわ」


 本当にその通りだよ。

 普段があれだから、ついつい大金持ちの令嬢だってこと忘れちゃうんだよねぇ。


「亜美ちゃんの所為で霞んで見えるけど、奈央ちゃんも結構化け物さんだよね?」

「私は人間だよ? 皆して化け物化け物って……さっき弥生ちゃんにも言われたし」


 奈々ちゃんに「あんたは正真正銘の化け物だからしょうがない」って言われた。

 私、人間だよね?


「おいおい、亜美ちゃんが悲しんでるだろ? 亜美ちゃんはちゃんと可愛い人間の女の子だぞ」

「うぅ、宏ちゃんだけだよー」


 私は宏ちゃんの手を取り「ありがとう!」と、お礼をする。

 奈々ちゃんがちょっと機嫌悪くなったけど知らないもんっ!

 私をいじめるからだよ!

 

 そう言えば、さっきから夕ちゃんが静かだな?

 ずっと下向いて、何か考え込んでる?

 希望ちゃんの事かな? 大会中には結論出すみたいだけど……。

 私からは変に声掛けない方がいいよね。

 

 夕ちゃん、どうするんだろ……?

 この間からそればかりが気になって仕方ない。

 希望ちゃんが幸せになる事を願う一方で、もしかしたらという期待をしてしまう自分が嫌で仕方ない。

 私はズルい子だ。

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