第35話 希望の告白

 ☆希望視点☆


 私の誕生日パーティーもそろそろ終了の時間が近づいてきた。

 今から、皆に誕生日プレゼントを貰うところである。

 嬉しいなぁ……。


「これ、私と遥で選んだやつね」

「ありがとー!」


 奈央ちゃんと遥ちゃんから紙袋を受け取る。

 有名なブランドの紙袋だ……さすが奈央ちゃん。


「開けて良い?」

「どうぞ」


 私はいそいそと紙袋の中身を取り出す。

 おお……これは……。


「キャミソールだ?」

「そうそう、これから暑くなるしね。 あ、それは遥が選んだのよ」

「希望ちゃんに似合いそうなの頑張って選んだよ」

「ありがとう、遥ちゃん! で、でもこれ結構お高いブランド……」

「あー、お代は9割奈央に出してもらった……」

「それぐらいは出すわよ」

「あ、ありがと」


 そ、それぐらいで済むようなお値段じゃないと思うんだけどなぁ……。


「大事にするね? 早速九州に持って行くよ」

「んじゃ、次は私から」


 紗希ちゃんは小さな包み紙を手渡してきた。

 小物かな?


「あんな高そうなキャミの後でこれってちょっと恥ずかしいけどね」

「いやいや……お……おおおお」


 こ、これは!


「ボ、ボケねこ!!」


 ボケねこのキーホルダーだ!

 嬉しい! フキダシには「開けるよ!」と書いてある。

 私はポケットから、夕也くんの家の合鍵を出してキーホルダーを付ける。

 おお、ナイスだね!


「この間、亜美ちゃん達とボケねこショップ行った時にね」

「そうなんだ! あ、今度一緒に行こうね!」

「うん! 行こう行こう!」


 その次は奈々美ちゃんと佐々木くんからだ。


「これ、希望にはこういう色が似合うと思って」


 これはまた袋だけど、有名なブランドの化粧品っぽい。

 中から出てきたのはリップだった。


「おお、ありがと! ちょっと塗ってみるね?」


 私はバッグから手鏡を出して早速塗ってみる。

 ほんのり薄いピンク色だ。

 あまり強く主張しない色で私にはぴったりだと思う。


「うん、いいんじゃない?」

「希望ちゃん、可愛いっ」


 亜美ちゃんからもお褒めの言葉を貰えた。


「じゃあ、これは私と夕ちゃんから。 って言っても私は1円も出してないんだけど……」

「うん、前聞いたから知ってるよ。 亜美ちゃんは自分の為にお金使ったんだもん、いいよ」

「あとで、私からタダの物上げるね」

「ありがとー。 どんなものでも嬉しいよー」


 私は亜美ちゃんから受け取った紙袋を開ける。


「おおおお、これは」


 またまたボケねこだ!

 そっか、七夕の日に紗希ちゃん達とお出掛けしたのはこれを買いに行ってたんだ!


「これはボケねこの壁掛けプレートかな?」

「うん。 フキダシに好きな言葉を彫って貰えるんだよ」


 そう言われて、私はフキダシの中を見てみる。

「Happy birthday dear Nozomi」と書いてある。


「あ、ありがと! 嬉しい!」


 帰ったらすぐ部屋の壁に飾ろう!


「それと、さっき言った私からのプレゼントだけど……『希望ちゃんのお願いを何でも聞いてあげる権』とかじゃダメかな?」

「え、なにそれ」


 大体いつも何でもお願い聞いてくれるような気もするけど?

 でも、特に今は何もないかなぁ。


「だってぇ……」

「わ、わかったよ! それでいいよ? でも、今は特にお願いないよ?」


 うん、やっぱり特には無い。


「有効期限は来年の希望ちゃんの誕生日までだからね?」

「結構長いんだね……。 わかったよ、ここぞという時に使わせてもらうね」

「うん」  


 皆、私の為に選んでくれたんだよね。


「ぐすっ……みんなありがとっ」

「うわわ、希望ちゃん泣いちゃった」


 うう……だって嬉しいんだもん。

 私は本当に幸せ者だよぉ。


「よしよし」


 亜美ちゃんが優しく宥めてくれる。

 私には、優しいお姉ちゃんがいて、大好きな幼馴染がいて、大切な友達がいる。

 本当に幸せだ。


 ◆◇◆◇◆◇


 誕生日パーティーは終わって亜美ちゃんと奈々美ちゃんが後片付けを済ませてくれたところだ。

 私も手伝おうと思ったんだけど「主役はゆっくりしてて」と言われたので、2人が片付けてくれるのをボーッと見ているだけだった。

 あらかた片付いたところで、奈々美ちゃんは佐々木くんと家に戻って行った。

「明日は早いからさっさと休め」と言い残していく辺り、さすがは元キャプテンだ。


 そして、亜美ちゃんも家に戻るということで玄関へ見送りに来た。

 私も後で戻るんだけどね。


「んじゃ、先に戻ってるね? あ、希望ちゃんは別に夕ちゃんの家にお泊りしても良いんだよ?」

「し、しないよぉ! 亜美ちゃんじゃないんだから」

「あはは、私は慣れちゃってるからねぇ。 夕ちゃん、あんまり夜更かしさせないでね」

「あぁ、すぐ帰らせるよ」

「うん、じゃあね。 明日は朝食作りに来れないから、次会うのは九州でかな?」

「おう」


 亜美ちゃんは、私の方を見て小さくウインクをしてから出て行った。

 亜美ちゃんなりのエールなんだろう。

 本当に良いんだね? 亜美ちゃん?


 ◆◇◆◇◆◇


 私と夕也くんは亜美ちゃんを見送った後、二人でリビングへ戻った。

 さっきまでの賑やかさとはうってかわって、静まりかえったリビング。

 私はチラチラと夕也くんの方を見ながら、タイミングを計る。


「(ふ、雰囲気が大事だよ、希望!)」

「静かだよなぁ」

「そ、そうだね。 さっきまでが嘘みたいだね」

「ん? どうした硬くなって」


 仕方ないよぉ! 人生初の告白だもん……。

 私の初恋の成就がかかった大一番。

 緊張するなという方が無理!


「そう言えば、亜美のプレゼントはどう使うつもりだ?」

「え? あれねぇ、今のところはお願いとか無いしなぁ」

「そうか」

「うん」


 うーん、中々いい雰囲気になれないな。

 このままじゃ時間だけが過ぎて行っちゃう……。

 明日は早いから、あまり長い時間は掛けられないし。


「希望ちゃん、もう眠いのか? デートとかして疲れてるもんな」

「う、ううん、大丈夫」

「無理するなよぉ?」

「してないよぉ」


 こうなったらちょっと強引にでも雰囲気作りを!


「ゆ、夕也くん、そっち行ってもいい?」

「ん? ああ」


 確認を取って、夕也くんの隣へ移動する。


「狭いのに、ごめんね?」

「別に大丈夫だけど?」


 何とかいい感じにならないものか。 亜美ちゃんの誕生日プレゼント買いに行った日の夜の時とか、GWのあの観覧車の時とかみたいに。


 ピロリンッ


 スマホにメールが来たみたいだ。

 確認すると亜美ちゃんからだった。

 そこにはただ一言「頑張れ!」とだけ書いてあった。

 亜美ちゃん……。


「誰からだ?」

「亜美ちゃんだよ」

「何か忘れ物か?」

「ううん……頑張れって」

「?」


 うん、雰囲気とかどうでもいいよね。

 私の今の気持ちを全部伝えれば良いんだよ。

 きっと届く……。


「夕也くん、今から大事な話をするね」

「大事な話?」

「うん、私にとっては凄く大事な話」

「そうか」


 私は緊張で震える体を落ち着かせるために、大きく深呼吸をする。

 雪村希望! 一世一代の大勝負に出るよ!


「私ね、小学1年生の頃からずっと好きな男の子がいるんだ」

「へぇ……」

「その人は、凄く優しくて、頼りになって、いつでも私の事を守ってくれるの」

「そいつを好きになったきっかけは?」

「うーん、単純だよ? 私が熱を出して寝てる時に、優しい言葉を掛けてくれたことにときめいちゃって」

「あれかぁ……」

「ふふっ」

「……」

「毎年、バレンタインには手作りのチョコ渡して」

「あー、貰ったな」

「誕生日にはケーキも作ってあげて」

「美味いんだよなぁ、あれ」


 しばらく、私は無言になる。

 どうしても頭を過るのは亜美ちゃんの事だ。


「でもその男の子にはね、好きな女の子がいるの……」

「……」

「最近フラれたみたいだけど」

「……」

「きっとその人の事、今でも好きで忘れられないんだろうなって思う」

「……」


 私は夕也くんの手を握る。


「私、それでも良いって思ってる」

「希望……ちゃん?」

「夕也くんが、亜美ちゃんの事を忘れてくれなくても良いと思ってる。 仕方いよね? 好きなんだもん」

「……」

「私の事を亜美ちゃんより好きなってくれるなら、夕也くんの心の中に亜美ちゃんが居続けたって構わないよ」


 私は……。


「私は、夕也くんが好き。 ずっと一緒に居てほしいの」

「希望ちゃん……」

「大好き」


 伝えちゃった。

 夕也くんは、どう思ってるのかな? どういう返事をしてくれるんだろう?

 すごく怖いよ。


「どうして今まで何も言わなかったのに、今日なんだ?」

「それはね、亜美ちゃんの事を待ってたからなんだ」

「亜美を?」

「うん、亜美ちゃんが私の最大の恋敵ライバルだと思ってたからね。 夕也くんの事、亜美ちゃんになら譲ろうって思ってたんだけど……」

「そうなのか……似た者同士だな……」

「うん、そだね」

「……」

「一応今日まで待つって言ってあったんだよ? でも、亜美ちゃんの気持ちは変わらなかったみたい」

「なるほど、わかった」


 また、少しの間沈黙が訪れる。

 気持ちは全部伝えた。 後は夕也くん次第だ……。

 これでフラれたらどうしようもない……。


「少し、時間をくれないか? そんなに長くは待たせないよ」

「あ、うん……わかった」

「インターハイが終わるまでには答えを出すから」

「い、急がなくていいんだよっ?」

「10年も待たせて、この上まだ待たせるわけにはいかねぇよ」

「はぅ……」


 と、とりあえずは保留かぁ……。

 ホッとしたような、ちょっと残念なような。 生殺しの時間が増えるだけな様な気も。


「あ、あの……亜美ちゃんの事、本当に無理に忘れなくていいからね? 亜美ちゃんの事より、私を好きになってくれれば私は……」

「それも参考にするから」

「うん……」


 今日やるべきことは終わった。

 ここに残っていても返事が返ってくることは無いし、居座る理由もないよね。


「じゃあ、私も帰るね?」

「あぁ、送るよ」


 私は夕也くんに見送られて家に戻った。


 ◆◇◆◇◆◇


 家に戻ってお風呂に入ると、亜美ちゃんが一緒に入ってきた。

 最近多いなぁ。

 っていうか帰ってくるの待ってたんだ……。


「どうだった?」

「うん、気持ちは全部伝えたよ。 一緒に居てほしいって」

「おお! 頑張ったねぇ、偉いよぉ希望ちゃん」

「はぅ……」


 よしよしと頭を撫でられる、一応今日で同い年になったんだけどなぁ。

 いつまで経っても妹扱いだよ。

 まあ、妹なんだけど。


「そ、それで夕ちゃんはなんて?」

「時間が欲しいって」

「そっか、やっぱりそうか」

「うん。 生殺し状態だよぉ」

「あはは、怖いよねきっと」

「うん」

「私はフッちゃう側ばかりだからなぁ」

「私も今までそうだったよぉー」


 返事を待つ方ってこんなに怖いものなんだ。

 これまでフッてきた名前も覚えてない男の子達、ごめんなさい!


「きっと、いい返事がもらえるよ。 私の自慢の妹だもん、傷付けたら私が許さないよー」

「亜美ちゃん……」


 亜美ちゃんの心の中には夕也くんがいるのに、それでも私を応援してくれる。

 きっと、今一番辛いのは亜美ちゃんなのに。

 どうして私の為に……ううん、わかってる……わかっててそれに甘えてる。

 私はズルい子だ。




 ☆夕也視点☆


 希望ちゃんを見送った後、自分の部屋へ戻る。

 希望ちゃんの告白は嬉しいと思う。

 可愛いと思ってるし、近くで守って上げたいと思える子だ。

 亜美の事が忘れられない俺を、その気持ち事受け入れようとしてくれてるんだよな。

 いつも俺達の後ろに隠れてたような、弱い子が。


(夕ちゃんには、希望ちゃんを幸せにして上げてほしいと思ってるの)


 あの夜に、亜美が言った言葉を思い出す。

 机の上に飾った、亜美との記念写真を眺めながら考える。


「はぁ……宏太の事で悩んでた亜美の気持ちが、今は痛いほどわかるな」


 どっちも大事な女の子だ。

 一度は亜美を選んでフラれた。

 だからって、ほいほい希望ちゃんと付き合うってのはどうなんだ?

 それは、亜美にも希望ちゃんにも失礼じゃないだろうか……。


(亜美ちゃんの事を忘れてくれなくても良いと思ってる)

(私の事を亜美ちゃんより好きなってくれるなら、夕也くんの心の中に亜美ちゃんが居続けたって構わないよ)

(私は、夕也くんが好き。 ずっと一緒に居てほしいの)


「……」





 ☆亜美視点☆


 ベッドに入って夕ちゃんの事を考える。


「夕ちゃん……どうするんだろ?」


 もし、夕ちゃんが私を選んだら……私はどうしよ?

 ううん、ダメダメ! 希望ちゃんを傷付けるなんてダメだよ夕ちゃん!

 ああ、でも……ううー、何期待しちゃってるんだろ私。


「夕ちゃん……んっ……」


 その日、私は初めてひとりえっちというものをしてしまった。

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