第34話 希望の誕生日会

 ☆希望視点☆


 今は、夕也くんの家のリビングに集まり、私の誕生日パーティー中だ。

 現在、皆で王様ゲームをやって盛り上がっている真っ最中である。


「王様だーれだ?」

「あ、私私ー」


 印の書かれた割り箸を見せて名乗り出たのは奈央ちゃんだ。


「んじゃね、3番がコーラ一気飲みしたまえ」


 中々きつい系の命令だ。

 炭酸が無理な人には地獄の様な内容だよね。


「ぁ、私だ」


 3と書かれた割り箸を見せて亜美ちゃんが声を出した。

 うわ、亜美ちゃん大丈夫かな?

 奈央ちゃんが、クーラーボックスからコーラ500mlのペットボトルを取り出して、亜美ちゃんに渡す。


「いきまーす」


 ペットボトルの蓋を開け、コーラのラッパ飲みを始める亜美ちゃん。

 皆もそれを一気コールで煽る。

 亜美ちゃんは、コールに乗ってグビグビと飲んでいき、500mlを一気で飲み干してしまった。

 凄い。


「亜美ちゃん、やるわね」


 紗希ちゃんも称賛の声を上げる。


「う、うん……っ」


 亜美ちゃんは、急にリビングを出て行った。

 と、思ったらすぐに戻って来た。

 あー、コーラ飲んだから……。

 男子の前だしねー。


「うー、鼻がツンとするよー」

「大丈夫か、亜美?」

「うん、大丈夫。 ありがと夕ちゃん」

「じゃあ、次行くわよー」


 王様だった奈央ちゃんが、割り箸を集めて、皆が割り箸を引く。

 次の王様は奈々美ちゃんだった。

 過激なやつを要求しそうで怖い。


「5番! 上の服を1枚脱ぎなさい」


 5番……違う、良かったー。

 さて、5番は誰だろ?


「はいはいー! 神崎紗希、脱っぎまーす」

「おー! 神崎か! 奈々美グッジョブだ!」


 佐々木くんが興奮している。

 やっぱり男の子は大きい胸が好きなのかな?

 わ、私だってある方だと思うけど、周りがおかしいんだよね?

 紗希ちゃんは恥ずかしがることもなく、上着を脱いで下着姿を晒した。

 うわ、結構えっちなブラ付けてるなぁ……。



「さ、紗希ちゃん、男子の前でも平然と脱ぐんだね……」


 亜美ちゃんもちょっと引き気味だ。

 佐々木くんと夕也くんは紗希ちゃんの豊満なおっぱいを凝視している。

 2人とも目がえっちだ!


「こんなの、恥ずかしがるほどじゃないわよ?」


 さすがに、ブラ丸出しで男子の前に座るのは恥ずかしいんじゃないかなぁ?


「ほらほら、次のゲーム行くわよ」


 次の王様は遥ちゃんだ。


「2番と6番がポッキーゲームやってもらおうかなー?」


 おー、定番のやつだね!

 割り箸を確認したけど私はどっちも違う。


「私6番だよ」


 また、亜美ちゃんが当たってる。

 それで2番は……。


「蒼井よくやった!」


 うわ、佐々木くんだ!

 この組み合わせはちょっと面白いかも!


「おお、宏ちゃんとなんだね」

「夕也、悪いな……」

「何がだよ」


 あ、佐々木くんはあれ本気でキス狙ってる顔だよ。

 奈々美ちゃんに後で怒られるかもしれないのに。


 亜美ちゃんがポッキーの片側を咥えて待機している。

 皆が大注目だ。

 佐々木くんも片側を咥えて、ポッキーゲームが始まる。


 ドキドキ!

 少しずつ食べ進める両者。

 顔の距離が次第に近づいていく。

 まだどちらも逃げる様子はない。


「ち、ちょっと亜美、嘘でしょあんた」

「おー、どっちも譲らないわね」


 佐々木くんは分かるけど、亜美ちゃんも中々逃げようとしない。

 元々、佐々木くんの事も好きだと言っていた亜美ちゃんだ。

 キスをすることに抵抗は無いのかもしれない。

 も、もしかしたらこのまま?

 

 2人の唇の距離が後1歩という距離まで来たところで、ようやくお互いの動きが止まる。

 さすがの佐々木くんも躊躇しているようだ。

 さてさて……どっちが先に退くか、はたまた……。

 一瞬、亜美ちゃんが夕也くんの顔をチラッと見たのが見えた。

「夕ちゃん、止めるなら今だよ?」とでも言いたげだ。

 それを受けて夕也くんは、スッと目を逸らしてしまった。

 ええー! 何でー! ここは止めないと!

 亜美ちゃんはムッとした顔をして最後の一口を進めた。


「んっ」

「んむっ?!」


 えーっ!? 亜美ちゃんと佐々木くんキスしちゃったーっ!?


 夕也くんも奈々美ちゃんも凄く驚いた顔してるよ!!

 私もだけど!

 佐々木くんでさえキスされて困惑してるし!

 


「おー! 亜美ちゃんやるぅ!」

「さすが私のライバル!」

「リ、リアルなキス始めて見たよ」


 紗希ちゃん、奈央ちゃん、遥ちゃんもそそれぞれのを反応を示す。


 本当に一瞬のキスとは言え、亜美ちゃんどういうつもりなんだろ?

 もしかして、夕也くんを諦めて佐々木くんを奈々美ちゃんから奪うつもり?


「ごめんね宏ちゃん。 嫌じゃなかった?」

「俺、もう思い残すことないわ……」

「さ、佐々木くん、幸せすぎて死んじゃダメだよ?」


 佐々木くんは、この上なく幸せそうな顔をしている。

 奈々美ちゃんも、ゲーム故致仕方ないといったところなのか、特に制裁を加える様子もない。

 とは言え複雑な顔をしてはいるが。


「次行くよ」


 まだ続くのかぁ、と思いながら割り箸を抜く。

 王様は佐々木くんだ。

 この人はどんな命令するか予想もできない。


「2番と7番はキスしたまえ!」


 うわわ、またまたハードルの高いのが。

 ポッキーゲームとか無しでいきなりキス!

 ま、まあ女子同士なら……。


「俺だ……」


 2番は夕也くんだ! わ、私の番号は!?

 急いで割り箸の先を確認する。

 4番だった……。

 神様の馬鹿ぁ! どうして7番じゃないのよぉ!


「ま、また私……」


 亜美ちゃんが7番の割り箸を見せて名乗り出る。

 亜美ちゃん、くじ運悪すぎない?! あ、いや、この場合は良いのかな?

 とにかく羨ましい!


「亜美、さすがにこれはパスしちゃっても良いんじゃない?」


 色々と、事情を知っている奈々美ちゃんが助け舟を出す。


「王様の命令は?」

「ぜったーい!」


 事情を知らないであろう、遥ちゃんと奈央ちゃんが煽る。

 紗希ちゃんはちょっと心配そうに見つめているあたり、2人の事情を知っているのかな?

 命令を出した佐々木くんも罰が悪そうな顔をしている。

 仕方ないよ、この2人が当たる確率だってそんな高いわけじゃなかったし。


「ううん……」


 亜美ちゃんはそう言って、夕也くんの方を向き直る。


「ち、ちょっと亜美」

「亜美、無理しなくていいぞ?」

「そ、そうよ? 周りの空気読まなくて良いよ亜美ちゃん?」


 あの、紗希ちゃんまで心配して止めようとしてる!


「ううん、無理じゃないよ? 知ってるでしょ、私は夕ちゃんを愛してるんだよ?」

 

 遥ちゃんと奈央ちゃんが異常に盛り上がっている。


「今井! 亜美ちゃんからの愛の告白、どう返事すんだい?!」

「どうって……あのなぁ」

「遥は黙ってなさい! この2人はちょっと……その……色々あんのよ!」


 奈々美ちゃんが遥ちゃんに怒りを露わにしている。


「いいんだよ、奈々ちゃん。 私はむしろラッキーだと思ってるもん。 罰ゲームの後押しでもないと、もう夕ちゃんとは……ね?」


 そっか、亜美ちゃんは夕也くんとキスをしたいんだ。

 罰ゲームっていう免罪符があれば「前にしたのが最後」だとか気にしなくて済む……。


「亜美……お前……」

「これは、罰ゲームでノーカンだから。 ね? 夕ちゃん……しよ?」


 亜美ちゃんは躊躇う事なく、夕也くんと唇を重ねた。

 たった数分の間に男の子2人とキスしちゃうとか、亜美ちゃん、これじゃキス魔だよ!!


「おぉ……」


 心配していたメンバーも、煽っていた2人も見入ってしまっている。

 亜美ちゃんはとろんとした表情で、夕也くんと舌を絡めている。

 うわわ、べ、ベロチュー!? 亜美ちゃん、凄くいやらしい顔してるよぉ!?

 こ、こ、これが大人のキッス!? 大人の階段を上った亜美ちゃんだからできることだぁ……。


 しばらくすると2人は唇を離して、見つめ合っていた。

 亜美ちゃんは「えへへ、またしちゃったね?」と可愛い笑顔を見せて夕也くんから離れる。

 亜美ちゃん……。

 

「こ、これがディープキスというやつ……衝撃的だわ」

 

 戦慄の表情を見せているのは遥ちゃんと、奈央ちゃんだ。

 キス未経験の2人には衝撃的な光景だったに違いない。

 キス経験済みの私でも、このベロチューにはちょっと興奮してるもんね。

 

 この後、亜美ちゃんは、先月末に夕也くんとの間に起きた事全て(告白されてフッたのにえっちした事とか、もうキスもえっちもしないと決めた事とか)話して、皆に情報共有するのだった。

 さすがに奈央ちゃんと遥ちゃんも罰が悪そうにしていたが、何故フッたのかはやっぱり理解できないようだ。

 そうだよねぇ。


 空気が重くなってしまったため、王様ゲームはこれにて終了となり、水を差した亜美ちゃんが皆に謝っていたが、皆は逆に、亜美ちゃんは悪くないと頭を下げるのだった。

 で、結局は、キスを命令した佐々木くんが、奈々美ちゃんから制裁を受ける事でこの場は収まった。


 ◆◇◆◇◆◇


 王様ゲームが終了した後は、それぞれが雑談しながらケーキやお菓子、ジュースを口にしている。

 紗希ちゃんは亜美ちゃんに初夜の事を詳しく聞いているようだ。

 わ、私も聞き耳立ててるけど、結構凄い内容で、紗希ちゃんも「ほほぉ、なかなか激しかったのね」と感心していた。

 紗希ちゃんは空気を読んだのか、何故フッたのかというところには触れなかった。

 紗希ちゃんも普段は皆と一緒にはしゃいだりしてるけど、こういうとこはなんだかんだ大人だ。

 奈々美ちゃんと似たとこあるんだよね。


 そんなこんなで盛り上がっている中で、奈々美ちゃんが口を開く。


「そうだ、女子の皆は明日の準備した?」


 明日からの九州遠征の話だろう。


「私と希望ちゃんはバッチリだよ」

「うん」


 私も亜美ちゃんも必要な物は全部旅行バッグに詰めてある。

 

「私も大丈夫よん」

「同じくOK」


 紗希ちゃんも遥ちゃんも抜かりはないようだ。

 

「私はもうヘリで向こうに荷物を送ったわ。 明日は必要最低限の荷物だけね」

「奈央ちゃんはスケールが違うなぁ……」

「そのままヘリで現地まで行きなさいよ」

「あー、ありねぇそれ」


 さ、さすがにしないよね……?


「夕ちゃんは応援に来てくれるんだよね?」

「ん、ああ行くよ。 開会式は見に行かないけどな」


 日程はまずは29日に開会式があって、30日はグループ予選。、31日に決勝トーナメント1、2回戦、8月1日に3、4回戦、最終日の午前中に準決勝、午後から決勝戦となっている。

 決勝戦後はそのまま表彰式と閉会式が行われる。

 勝ち進んでいると観光の余裕とかはまるで無いので、私達は閉会式の翌日も宿を取って、その日1日は観光に充てる予定だ。

 途中で負けたら観光の予定は前倒しになるけど……。


「宏ちゃんは? 来るの?」

「あぁ、奈々美がどうしても来てほしいって言うからなぁ」

「なっ?! 言ってないわよそんな事っ!」

「んー? 『宏太が来てくれないと、私寂しくてプレ-に影響でそうだわ』とか言ってただろ」

「おお、何々? 2人は上手くいってんの?」


 あ、紗希ちゃんのイジリタイムが始まるな?


「し、知らないわよ……」

「知らないって、自分たちの事でしょー? ねぇねぇ、どこまで進んでんのよぉ?」


 紗希ちゃんは「うりうりー」と、奈々美ちゃんの肩を小突いてニヤニヤしている。

 うん、紗希ちゃんは楽しそうだ。

 でも、奈々美ちゃんはちょっと鬱陶しそうだなぁ。

 上手くいってないのかな?

 

 奈々美ちゃんは小声で紗希ちゃんに話し始めた。


「さっきの王様ゲーム見てたでしょ……」

「ん? 王様ゲーム?」

「宏太と亜美のポッキーゲームよ」

「ポッキー……あ……」


 あぁ、そうか。


「佐々木君ってまだ亜美ちゃんの事を?」


 紗希ちゃんが奈々美ちゃんに小声で訊いている。

 多分、そうなんだろうなぁ。


「本人には聞いてないけど、多分」

「そっか……ごめん」


 紗希ちゃんは奈々美ちゃんに謝ってすごすごと引き下がる。

 複雑だなぁ……。

 それに、さっきの話で亜美ちゃんが当分の間、完全フリーだっていうことが佐々木くんに知れてしまったわけだし、佐々木くんの亜美ちゃん愛がまた燃え上がっちゃう可能性も。

 ふ、複雑だ。


「上手くいってるぞ? 割と」


 そんな時、佐々木くんがしれっとそんなことを口走る。

 奈々美ちゃんがバッと佐々木くんの方を振り返る。


「こ、宏太……?」

「とりあえずは上手くいってるだろ? 違うのか?」

「え、あ、え?」

「良かったじゃん、奈々美!」

「あ、え?」


 奈々美ちゃんは目を丸くして佐々木くんの事を見ている。

 奈央ちゃんも遥ちゃんも指笛とか鳴らして盛り上がってる。


「こ、宏太がそう言うんなら……上手くいってる……んじゃない?」

「なんだよそれ」

「も、もういいでしょっ! この話は終わり!」


 無理矢理話を切って終わらせる奈々美ちゃんの顔は赤くなっていて、とても嬉しそうだった。

 私も、今日の告白で夕也くんとこんな風になれたらいいなぁ。

 時間は20時を過ぎて誕生日パーティーも終盤。

 私の告白の時間も刻々と迫ってきた……。

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