第33話 真夏にスキー場デート?

 ☆希望視点☆


 明日は7月27日。

 私の誕生日であり、夕也くんに想いを告げる大切な日。



 ◆◇◆◇◆◇ 


 ──小学生の頃──


 夕也くんに初めて会ったのは小学1年の4月だった。


 引っ込み思案で奥手な私は、小学校入学後も中々周りに馴染めず、仲良くなっていくグループの輪からはみ出ていた。


 別に一人でも良いと思っていた時に、亜美ちゃんと夕也くん、奈々美ちゃん、佐々木くんが声を掛けてくれた。


 嬉しかった。

 それからは五人で遊ぶようになった。


 ある時、私は学校で高熱を出して倒れた事があった。

 放課後、両親が迎えに来るまでの間、保健室で私をずっと見てくれていたのが夕也くんと亜美ちゃんだった。


 その時かな? 夕也くんの悪い癖である歯の浮くような恥ずかしくて、それでいて優しい言葉を掛けられた私は、一発で恋に落ちた。


 その頃、亜美ちゃんもまだ私と喧嘩したり、夕也くんを取り合ったりしていた。


 小学6年の時、今でも覚えている。

 お昼休みに、私は先生に呼び出された。


 担任の教師から知らされたのは、両親が交通事故に巻き込まれたという事。

 乗用車と大型トラックの事故に巻き込まれて、とても危険な状態らしいという事。


 私は、教師に連れられて、両親が搬送された病院へ向かった。

 途中、事故の現場を通った時、私は事の重大さに気付いた。

 病院に着いて、看護師さんに連れられて行かれた先での事は、あまりにショック過ぎて覚えていない。


 両親を同時に失った私は、すぐに祖父母の家に引き取られるという風に話が進んだ。


 だけど、私はそれを拒んだ。

 せっかく出来た友達と……皆と一緒にいたかった。

 それを聞いた亜美ちゃんが「私に任せて!」と言って、信じられないほどの行動力と頭の回転の速さで、周りの大人達を次々に説得していった。

 同じ小学6年生の女の子とは思えなかった。


 亜美ちゃんのおかげで、私は養子として清水家に引き取られる事になった。

 馴染むまで、少し時間は掛かったけど、お養父さんもお養母さんも良くしてくれて感謝している。


 清水家に来た頃の私は、ショックの所為か塞ぎ込んでいた。

 家からも出ず、しばらく学校も休んでいた。

 そんな私を毎日元気付けてくれていたのは、やっぱり亜美ちゃんだった。


 毎朝、私の部屋の前で声を掛け、学校から帰って来たらどんなことがあったか話してくれた。

 その内に、私も落ち着いて、少しずつ元の生活に戻れるようになった。

 きっと、その頃からだろう。

 亜美ちゃんが、私の事を優先するようになったのは。

 中学に上がる頃にはもう、私と夕也くんのお節介ばかり焼いていた。


 私は、亜美ちゃんが夕也くんの事をずっと好きだった事を知っていたし、そんなことはして欲しくないと思っていた。


 亜美ちゃんには、私の恋敵でいて欲しかったし、亜美ちゃんには幸せになって欲しいと思っていた。

 ううん、今でもそう思ってる。


 亜美ちゃんには、一生かかっても返せない恩がある。

 だから、亜美ちゃんが望むなら、夕也くんの事は私が諦めるつもりでいた。


 でも、亜美ちゃんは、夕也くんとの幸せを選ばなかった。

 そういうことなら、もう私は止まらない。


 ◆◇◆◇◆◇


 7月27日


 私は、家を出て、夕也くんの家のインターホンを鳴らす。

 しばらくすると、夕也くんがドアを開けて出て来た。


「こんにちは、夕也くん」

「おう、待たせたな」

「ううん」


 今日は私の誕生日だ。

 夏休みに入ったということもあり、デートに付き合ってもらうことになっている。


「んじゃ行くか」

「おー」


 今日はなんと、スキー場へ出かけるよ!

 と、言っても屋内スキー場だけどね。

 梅雨が明けて、本格的に暑くなり始めた今日この頃。

 プールにしようかと迷っていた所に、紗希ちゃんからいい話を聞いた。

 人工雪で、夏でも悪天候でも遊べる屋内スキー場があるらしい。

 奈央ちゃんの家のグループがやってるみたい。

 紗希ちゃんは先週彼氏さんと行ったらしくて、割と楽しめたと言っていた。

 場所も聞いたし、今日はそこへ行ってみようということになっている。


「人工雪かー」

「うん」

「ま、暑い時期だしありだよな」

「うんうん」


 私達はおなじみの駅へやってきた。

 でも今日は、いつも行く隣町とは逆方面に行くよ!


 電車を待つ間にちょっとした話をする。


「そういや、九州への出発は明日だろ?」

「あ、うん。 準備はもう終わったよ?」


 そう、私達女子バレー部は明日、インターハイが開催される九州へ向かうことになっている。

 女子の日程は7月29日から8月2日まで。

 例年より遅い日程なのだそうだ。

 そのおかげで、今日はこうしてデートに来れているわけだ。

 ラッキー。


「夕也くんは応援に来てくれるんだよね?」


 インターハイには学校から応援団が付いてくるらしい。

 出発は私達が出た次の日、つまり明後日らしいけど。


「ああ、行くよ」

「やったー!」


 夕也くんに応援してもらえればやる気出るよ!


「大袈裟だな」

「そんなことないよー」


 そうやって話をしながら、やって来た電車に乗り込む。

 インターハイもそうだけど、今年の夏は夕也くんとの関係を進めて、最高の夏にするぞぉ!

 フ、フラれたら寂しい夏になるけど。


「どした?」

「な、なんでもないよっ」


 ま、前向きに考えよう!




 目的駅に着くと、そこから目的の屋内スキー場へはバスが出ている。

 至れり尽くせりだ。

 屋内スキー場に到着して、入場料を払い、いざ!


「おお! 夕也くん! 雪だよ雪!」

「人工雪な」

「あの機械で雪降らせてるのかな?」

「人工降雪機な」

「んー、涼しいね」

「そだなー」

「……夕也くん、なんか冷めてない?」

「雪降ってるからかな?」

「楽しくない?」


 ちょっと不安になる。

 それなら無難にプールとかにした方が良かったかな?


「楽しいよ」

「本当に?」

「当たり前だろ、希望ちゃんとのデートだぞ? どこ行っても楽しいに決まってる」

「はぅ」


 夕也くんは、すぐにこういう不意打ちをする!

 悪い男の子だよ! んもぅ!


「スノボとかも貸してくれるのか。 よし、ちょっと滑るかね」

「あ、私はやったことないから見てるね」


 すると、夕也くんは私の方を見た。


「教えるてやるから、一緒に来な」

「え、う、うん」


 スノボ初挑戦だよ!

 スキーは出来るんだけど……。


 ボードとウェアやゴーグル等の装備一式を借りて、練習用コースに出る。

 夕也くんから、転ぶ時の注意点や滑りの練習の仕方を丁寧に教えてくれた。

 正に手取り足取りだ。


「うわわっ?!」


 早速転んだ。


「おー、教えた通りの転び方だな! 偉い偉い」

「はぅ」

「正しい転び方は大事だぞ? 間違えた転び方したら怪我するからな? 結構、骨折とかする奴いるんだよ。 だからまず、転け方から覚えるのが基本だ」


「そうなんだ……」.


 夕也くんから、コツを教えてもらったりして、緩い傾斜なら何とか滑降できるようにはなった。


「さすが希望ちゃんだな。 運動神経は良いからちょっとコツ掴めばもっと上手くなるぞ」

「えへへ、ありがとう。 でも、夕也くんは私に教えてばかりで全然滑ってないけどいいの?」

「おう。 こっちのが楽しいしな。 転けてるの見るのとか」

「もぅっ!」


 けらけらと笑うと夕也くん。

 あー、私も凄く楽しい。

 その後もスノボの練習を少し続けた。


 スノボをある程度楽しんだ後は、少し休憩。


「しかし、上達早いなぁ」

「夕也くんの教え方が上手なんだよ、きっと」

「そうかねー」

「うん」


 こうやって、夕也くんと楽しんでる間に、皆は私の為に誕生日パーティーの準備をしてくれている。

 私は幸せだよ、お父さん、お母さん。


 私と夕也くんは、その後、スキーで目一杯遊んでからスキー場を後にした。


 バスを降りて、せっかくだから街中を歩いてデートすることに。


「あ、ねえ夕也くん、亜美ちゃんだよ」

「あ?」


 電気屋さんのテレビで丁度スポーツ情報番組がやってて、29日から始まる女子バレーボールのインターハイの特集中だった。

 亜美ちゃんは凄いなぁ。

 今大会No1のスパイカーだって!


「すげーよな。 この子が幼馴染なんだから世の中わからんね」

「だよねー」


『次は守備の要、リベロの注目選手ですが、先程の清水と同じ月ノ木学園の雪村希望選手』


 パッと私の顔が画面に映し出される。


「おー、希望ちゃん注目選手だってよ」


 次の瞬間、周りにいた人達が一斉に私を見る。

 うわわ、ここでも注目されちゃってるよ!


「てれびのおねーちゃん!」


 小さな女の子が私を指して言う。


「はぅー!」

「ははは、希望ちゃん大変だな」

「おー! 頑張って下さいね! 応援してます!」

「あ、はい、ありがとうございます」


 周りの人の激励に、何とか小声で答えるのが精一杯だった。



 ◆◇◆◇◆◇



 一通りブラついて、帰る頃には夕方になっていた。

 今から帰れば、丁度良い時間に夕也くんの家に着くだろう。


「楽しかったか?」

「うん、すごく。 ありがと、夕也くん」


 帰ったら今度は楽しい誕生日パーティーだ。

 その後は遂に夕也くんへの愛の告白だ

 緊張する。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕也くんの家に着くと、家の中から皆の声が聞こえてきた。


「俺の家だよな」

「そうだよ?」

「家の主が居ないのに、電気は点いてるわ、パーティーが始まってるわでなんかもう誰の家かわからんな」

「今更だよ」


 私と亜美ちゃんは合鍵貰ってるしね。


「はぁ、んじゃ、本日の主役さん」


 夕也くんはドアを開けて、私を促す。

 うん、いい気分だ!

 私は「うむっ!」と頷いて、パーティー会場となっている夕也くんの家へと入った。


「希望ちゃん! 誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「わわ、ありがとう皆!」


 リビングへ入ると、皆から祝いの言葉を貰った。

 毎年毎年、感謝だよぉ。


「ささ、主役の座へどぞどぞ」


 亜美ちゃんが、椅子を引いて私に座れと促す。


「ありがと」


「じゃあ、亜美、乾杯の音頭を!」

「任されたよ!」


 亜美ちゃんはこほんっと咳払いをしてジュースの入ったグラスを右手に持つ。


「それでは、希望ちゃんの16歳の誕生日を祝して! かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 亜美ちゃんの乾杯で、私の誕生日パーティーが幕を開けた。


「希望ちゃん、デートどうだった?」


 前に座る紗希ちゃんが聞いて来た。

 紗希ちゃんが教えてくれたデートスポットだったし、やっぱり気になるのかな?


「うん、楽しかったよ! 夕也くんにスノボ教えてもらっちゃった」

「おー、今井君スノボできるんだ! 今度私にもおせーて!」


 紗希ちゃんが身を乗り出して夕也くんにお願いしている。

 むむっ!


「さ、紗希ちゃん顔近いんじゃないかなっ!」

「おとと……これは失礼」

「希望、夕也の正妻面しちゃってどうしたのよぉ? デートで何かあったぁ?」

「な、ないよっ!!」


 奈々美ちゃんにイジられる。

 皆が意地悪だ!!

 助けを求めて亜美ちゃんの方を見る。


「皆、希望ちゃんが困ってるよー」

「亜美ちゃ~ん!」

「おーよしよし」

「雪村、子供みたいだな……亜美ちゃんにママみを感じる」

「同い年だよぉ」


 それを聞いた亜美ちゃんが抗議の声を上げていた。


「仲の良い姉妹よねー」

「そうだね」


 奈央ちゃんと紗希ちゃんは私達を見て微笑ましそうにこちらを見ている。

 そこら辺の血の繋がった姉妹より仲が良い自信あるもん。


「私の自慢のお姉ちゃんだよ」

「私の自慢の妹だよ」


 二人で「ねー?」と両手でハイタッチをかわす。


「尊いなぁ」

「あ、夕ちゃん、夕ちゃんの席はそこじゃなくてここだよ!」


 と、私の隣を指して夕也くんを誘導する。

 亜美ちゃんはまた……しょうがないんだから。

 夕也くんも「はいはい」と言って立ち上がって私の隣に座る。


「にやっ……」


 ん? 何か紗希ちゃんの目が一瞬光ったような……。

 嫌な予感がするよ?


「奈々美! 遥! フォーメーション!」

「ほい来た!」

「あいよ!」


 紗希ちゃんの号令で素早く動き出す奈々美ちゃんと遥ちゃん。

 紗希ちゃんは目にも止まらぬ速さで私の背後を取って、私の胸を鷲掴みにしてきた。

 最近してこないと思って油断してたよ!


「ちょっ……」

「お、えろい声出すねぇ……私以外の誰かに揉まれてるぅ?」

「も、揉まれてないぃ……」


 GWに夕也くんに揉まれたけどあれは事故だしね!

 で、でも付き合いだしたらやっぱ揉まれるのかな……?

 そういえば亜美ちゃんは夕也くんと、どんなことしたんだろ? 後で聞いちゃおう。

 って考えてる間にも紗希ちゃんは私の胸を揉みしだいている。


「紗希ちゃん……だめぇ」

「敏感だねー希望ちゃん。 ってかちょっと成長してるね? トップ81cmかなぁ」


 私でも気付いてないのに?! 紗希ちゃんの手怖いよぅ……。


「ダメだってぇ……」

「いい感じですなー 仕上げよ 奈々美!」

「OK!」

「わわ……」


 紗希ちゃんに羽交い絞めにされてしまう。

 そして目の前には遥ちゃんに自由を奪われて手を奈々美ちゃんに掴まれている夕也くんが。

 あ、これ、亜美ちゃんの誕生日で見たやつだ!!


「だ、だだだ、だめ……夕也くんだめ!」

「いやいや! 俺じゃないから! このバカ力2人組が勝手に!」

「や……あ、亜美ちゃん助けてー?!」

「ごめん、私じゃ無理かなぁ……」

「えええええ! ダメ! あっ……だめっ」


 うう、今、夕也くん触られちゃったらっ。


「んんっ!! だめぇぇぇぇ!!!!!」






「ぐすん……揉まれたぁ……」

「ああ、いやその……ごめん」

「希望、ごめんなさい」

「申し訳ない……」


 結局謝るんならしなきゃいいのにぃ……。


「夕ちゃん、ちょっと嬉しそうだね? 私のとどっちが触り心地良かった?」

「比べられません」

「ゆ、夕也くん……」


 恥ずかしかったよぅ……。

 本当に紗希ちゃん達には困ったものだ。

 この騒ぎの中でも佐々木くんと奈央ちゃんは我関せずと言った感じでピザを頬張っていたのには少し笑った。

 そして騒がしい誕生日パーティーはまだ続く。

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