第31話 Wデート?

 ☆亜美視点☆


 今日は七夕。

 毎年天気が悪くて星は見えないけど、今年は珍しく快晴だ。

 日曜日という事で、今日はゆっくりしようと思ってたんだけど……。


 ピロリンッ


 スマホにメールの着信だ。


「夕ちゃんから?」


 内容は「電話かけても良い?」だ。

 電話ぐらい、許可を取らなくてもかけてくれば良いのに。

 夕ちゃんはあの最後のデート以来、私との距離を測りかねているようだ。

 今まで通りの幼馴染で良いんだけどな。 私としては、変に距離を取られるのは嫌だ。

 返信するのも面倒だから、私からかける事にした。


「もしもし、夕ちゃん? どしたの?」

『あ、ああ、亜美さん、おはようございます』

「夕ちゃん、私いつも通りでいて欲しいって言ったよね?」

『そ、そうだったな』


 んー、まだぎこちないな。

 まあ、いっか。


「どうしたの?」

『今月末、希望ちゃんの誕生日だろ? その、プレゼント選びを手伝ってほしいなぁ、と』


 希望ちゃんの誕生日……。

 あと20日か。


「プレゼント選びねぇ……頑張って!」


 私は電話を切った。

 プレゼント選びを理由に、私とデートするつもりだ!

 あれが最後のデートだって言ったのに。


 すぐに電話がかかってきた。


『いきなり切るなよな』

「そうやって希望ちゃんの誕生日プレゼントを理由に、私をデートに誘おうとしてるでしょ?」

『し、してねーよ!』


 んー、本当かなぁ?

 少し考える。 はぁ、しかたないなぁ。

 まだまだ、私も夕ちゃん離れ出来ないみたいだ。


「プレゼント買ったらすぐ帰るよ?」

『おう! 助かる!』

「緑風ね」

『フルーツパフェ奢らせていただきます!』

「うむ、よろしい」


 電話を切って、とある人へ連絡し、軽く化粧をして出かける準備をする。

 階段を降りて誰かいないかなぁと、リビングを覗くと希望ちゃんがいた。

 希望ちゃんとは、あの日にお風呂でお話しをして「希望ちゃんの誕生日までもう一度よく考える」ということで何とか解決した。

 もちろん、考え直したところで私の決意は変わらない。


「希望ちゃん、ちょっと出掛けてくるね」

「ええ? 何処行くの? 退屈だしついて行っても良い?」


 ソファーに座りながら退屈そうに雑誌を読んでいた希望ちゃんは、目を輝かせてこっちを見ている。

 んー、希望ちゃんの誕生日プレゼントを選びに行くんだよね?

 連れて行くのは、夕ちゃん的にNGなのではないだろうか?


「ダ、ダメなの?」

「ちょっと待ってね? 一応聞いてみる」


 夕ちゃんに電話をかけると、すぐに繋がった。

 事情を話すと即答で「ダメ」と言われてしまった。

 チラッと希望ちゃんの顔を見ると、売られていく仔牛のような眼をしている。

 なんとか上手い妥協案は無いものか。


「ねぇ、誰とお出かけするの?」

「え、夕ちゃんだけど?」

「そっか! どうぞ! 二人で行ってきて!」


 え? その変わりようは何なの?


「良いの? 行きたいなら、夕ちゃん説得するよ?」

「ううん、お邪魔しちゃ悪いし!」


 邪魔って、希望ちゃんも妙な気の遣い方を。

 私が3週間程度で考えを改めると思ってるんだろうか?

 まあいいか……。


「それじゃ、行ってくるね? お父さんとお母さんによろしくー」

「はーい、いってらっしゃーい」


 にこにこと手を振る希望ちゃんを置いて、家を出るのだった。


 ◆◇◆◇◆◇


「お待たせ」

「おう、悪いなせっかくの休みに」

「いいよ、別に。 ていうか、朝言ってくれればよかったのに?」

「希望ちゃんも一緒だったからな……」

「まあ、そうか」


 たしかにそれはそうだよね。 うん、納得。


「ところで、希望ちゃんが欲しがりそうな物の目星とか付いてるか?」

「それに関しては、強力な助っ人を呼んであるよ」

「助っ人? 二人っきりじゃないのか……」


 何故か残念そうな夕ちゃんはこの際無視して、助っ人に連絡を取る。

 どうやら先に駅前で待っているようだ。


「ということだから、駅に行くよ夕ちゃん」

「あーい」


 何かやる気無くなってるんだけど、目的忘れてない?


 ◆◇◆◇◆◇


 駅前に来ると強力な助っ人が立っていた。


「やっほー、亜美ちゃん、今井君」

「紗希ちゃんお待たせー!」


 そう! 希望ちゃんと仲良しの紗希ちゃんだ。

 よく希望ちゃんと二人でお買い物に行ってる紗希ちゃんなら、希望ちゃんの喜びそうな物を知ってるかもしれない。

 あれ、もうこれ私いらないな?


「じゃ、夕ちゃん。 私の役目終ったから帰るね」

「おおおおい、ちょっと待て」

「え、紗希ちゃんがいたら、私いらなくない?」

「いるいる!」

「はははは、何を夫婦漫才してるのよ」

「夫婦じゃないよっ」

「フラれました!」

「……え」


 紗希ちゃんに事の顛末を説明すると、ぺこぺこと夕ちゃんと私に頭を下げ始めた。

 まだ皆に言ってなかったのは悪かったけど、皆私と夕ちゃんが付き合うと思ってたのかなぁ?


「そろそろ行く?」

「あ、ちょっと待って。 彼氏も来るのよ」

「!!」

「へぇー」


 さ、紗希ちゃんの彼氏! どんな人だろ?


 少しの間待ってると、それらしき人がやってきて紗希ちゃんの隣に並ぶ。

 紗希ちゃんが選ぶ相手だから、肉食系男子なのかと思ってたけど意外と真面目そうな人だ。


「これが、私の彼氏の柏原裕樹ね」

「こんにちは、柏原裕樹です」

「で、こっちが私のお友達の、清水亜美ちゃんと今井夕也君」

「清水亜美です」

「今井です」


 んー、やっぱり真面目そうだ。

 紗希ちゃんと合う要素が見当たらない……。

 身長は紗希ちゃんと夕ちゃんよりちょっと低い。

 真面目そうな黒髪のショート、草食系のイケメンさんだ。

 ん? こんな爽やかイケメン男子、月中にいたかなぁ?


「んじゃ、いこっか」


 紗希ちゃんが先導して駅構内へ移動する。


「で、希望ちゃんが欲しがりそうなものって?」

「そうそう、希望ちゃんね、最近これにハマってんのよ」


 そう言ってスマホのLINE画面を見せてくれた。

 希望ちゃんとのチャット欄だね。


「なんだこれ……」

「ね……こ……さん?」


 希望ちゃんが連発しているLINEスタンプのキャラなんだけど、ボケーッとしたバカ面の2頭身の猫が二足立ちしてる。

 フキダシで「だるい」とか「ウケる」とか「ナイスだね」とか喋ってるのもある。


「ボケねこってんだけど、最近、密かに人気が出てきてんのよこれ」

「うそだぁー?」


 え、これが可愛いの?


「なぁ、柏原君や、 どう思う?」

「自分とのLINEでも、紗希が使ってるけど……ちょっと、ないと思う」


 男子二人はすでに打ち解けているようだった。

 は、早いなぁ……。

 あと私も同意見だ。


「何言ってんのよ! このボケーッとしたバカ面が良いんじゃないの!」


 あぁ、やっぱり紗希ちゃんは希望ちゃん寄りなんだぁ。

 紗希ちゃんに任せておけば安心だぁ……。


「で、この密かに人気が出てきてるらしいバカねこさん……」

「ボケねこ」


 超速で訂正が入る。


「ボ、ボケねこさん関連の何かを買えばいいのかな?」

「そういうこと」

「でもよ、そのバカ……」

「ボケねこ」


 訂正し慣れてるの笑うんだけど……。

 多分だけど、奈央ちゃんや遥ちゃん、彼氏さんとも同じやり取りをしたんだろうな。


「その」

「ボケねこ」

「まだボケてねーんだけど?!」

「あははは、ウケる」

「おお?! 亜美ちゃんナイスだね!」


 し、しまった……私もボケねこさんペースに巻き込まれてる?!


「それでその、ボケねこってやつだけど、そもそもグッズとか見たことねーぞ?」

「そうだよね」


 まだまだマイナーなキャラなのかもしれない。


「そうなのよねぇ……私と希望ちゃんはこのキャラが出た時からのファンだけど、本当に最近になってちょっと人気が出始めたとこなのよ」


 紗希ちゃんは「何でかしら?」と不思議そうにしている。

 きっと世に出るのが早すぎたんだよ。

 時代が追い付いて来たから少しずつ人気が出てきたんだね。


「じゃあ、そのグッズ探すの大変じゃない?」


 彼氏さんの言うとおりだ。


「ふふふ、心配無用! なんと、今月初め、市内にボケねこのグッズ専門店がオープンしたのよ!」


 おお、なんとタイムリーな……。

 ご都合展開ここに極まれりだよ。


「希望ちゃんと行く約束もしてたんだけど、一足先にボケねこに囲まれてやるわー」

「嫌すぎるぞ……」

「同感……」

「右に同じくだよ……」


 テンションが高いのは紗希ちゃんだけだった。


 電車へ乗り込み四人で並んで座る。

 七駅ほど電車に揺られれば、大きな都市部に着く。


「柏原君って月学生じゃないよね?」

「え、ああ、はい 虹高です」

「うげ、虹っていうと県内一の進学校か!?」

「まぁ、はい」

「おー、頭いいんだねぇ」


 そんな頭が良い生徒の事、私が覚えてないなんて……。

 でも虹高かぁ。 私も中学の時に先生から薦められたなぁ。

 私は今の皆とバレーボールしたいから、そのままエスカレーター式で月学へ進学したんだけど。


「紗希ちゃんとは中学で初めて会ったの?」

「そよー。 中2の修学旅行の時に告られてさぁ」

「そっちが告ってきたんだろー」


 うわわ、よく見る「どっちが告白してきた議論」だ。

 なんで皆そんなに恥ずかしがるんだろ?

 私としてはそんなことより、この一見して接点が無さそうなこの2人の馴れ初め話が聞きたい。

 今度紗希ちゃんに聞こう!


「おーおー、痴話喧嘩やめろぉ」

「「してない!」」

「おー息ぴったりだぁ」

「そういう今井君と清水さんは? 二人も付き合ってるんじゃないの?」


 柏原君にそう訊かれる。

 んー、誰がどう見てもそう見えちゃうんだろうか?

 もう慣れちゃったけど、今はあんまり訊かれたくないかな。


「いや付き合ってねーよ」

「夕ちゃん……」

「え? そうなんだ? 仲良いしそうなのかと」

「わ、私達は産まれた時からの幼馴染なの。 誕生日も9日しか変わらないし、家も隣同士だし」


 私と夕ちゃんの関係を説明すると、柏原君は「なるほど」と納得していた。


「その辺の下手な恋人同士以上に仲の良い関係って感じだ?」

「え……」


 そんな風には考えたことも無かった。

「幼馴染」は「恋人」以上にはなり得ないと私は思ってたけど、そういう考え方もあるのかな?

 恋人以上の幼馴染かぁ。

 どうなんだろう? 私と夕ちゃんは、その辺の恋人以上に深い関係なのかな?


「えへへー……そうかも」


 あー、やばい、そう考えたらニヤニヤが止まらない。

 仕方ないよ、夕ちゃんの事は今でも大好きだもん。


「かもなぁ」


 夕ちゃんも肯定してくれる。

 そうか、それならやっぱり、無理に恋人にならなくたって良いんだ。

 私の選択は間違ってない。


「付き合ったら、それこそもう夫婦の領域よね」

「!」


 れ、恋愛の終着点は恋人じゃなくて結婚?

 いくら恋人以上になれても、夫婦にはなれないよね?

 結局は誰かにその座を奪われることになる。

 その座に着くのは、希望ちゃんなのかなぁ?


「しゅん……」


 一瞬で落ち込んでしまう。


「あ、ご、ごめん亜美ちゃん」

「い、いいの別に。 こ、恋人以上夫婦未満で……」

「……」

「え、えっとー?」


 事情をよく知らない柏原君が困惑している。

 紗希ちゃんが耳打ちで事情の説明をしてくれて、柏原君も飲み込んでくれたようだ。

 耳打ちしながら、ほっぺにちゅっちゅとキスしていた紗希ちゃんを私は見逃さなかったよ!

 上手くやってるんだ。

 紗希ちゃんがこんな風になるって、よっぽど好きなんだなぁ。

 羨ましい……。




 そうこうしてる間に目的の駅に到着した。

 私達の住んで街はどちらかって言うと田舎だ。

 田舎って言ったって、その辺の何もない本当のド田舎ってわけじゃないけど。

 よくショッピングに出かけたりする場所は隣町だったり、今来ているような都市部になることが多いけど。

 特に今日来た皆が言う「市内」には大きなショッピングモールがあったりして賑わっている。


「皆、こっちよ! ボケねこの波動を感じるわ!」

「「「えぇ・・」」」


 三人で同じ反応を返す。

 紗希ちゃんに付いていき、目的のバカ……ボケねこさんショップへ向かった。

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