第62話 雪が溶け春が来た

 冬の間は外に出られず、午前は座学の勉強、昼食をみんなで頂いて、午後はダンスやマナー、剣の使い方の基礎を習う。


 メイリンはとても優秀な成績だったらしく、なんでも的確に指導してくれた。 

 剣術に関しては、メイリンの家の伝統武術を合わせた型で、大型のマチェットナイフを二刀流に持ち、宙を舞うように擦り切る。前世で言う新体操選手のような身のこなしだ。

 素晴らしい。決してマネは出来ないので、とにかく剣術、弓術、武術とやってみたのだが、1番合うのが弓術だった。


 あの鳥と対戦した時よりはリオの身長も伸びたし、体格も良くなってきた。これもイマール牛のハンバーグおかげ?

 イマール家には、冬用訓練場として、格闘技場があり、それで弓術もメキメキと上がっていった。弓の種類は、日本式弓というよりは西洋のロングボウに近い。


 ただ、完璧なメイリンにも会得していない事はある。ダンスだ。女性同士で踊るのでどうしても男性パートの部分の感覚が違うようだった。


 ダンスの事をメイリンがジョバンニに相談したところ、自分が踊ろうか?という提案があったけど却下したそうだ。

 恋人が他の人と踊るのは練習でも嫌なのだそうだ。

 なんて可愛らしい気持ちなんでしょう、ご馳走様です。


 と、言うわけで、暇を持て余した双子と踊ることになったのだが、

「ちょ!リオ!足!」

「ごめ!」

 リオはケニーとは相性が悪いらしい。サントスはリードが良かったのか、意外と相性が良く、和やかに踊れた。

「別に悔しくないからなー」

 ソファーにふんぞり返って真っ赤な顔で言い放ったケニーに、サントスと顔を見合わせて笑う。


 そのような感じで基礎的な社交ダンスは時期に出来る様になり、自分自身の若い身体が動ける感覚を味わっていた。

 また、知識もスルスル入る。特に薬物調合や身体の部位の勉強は、好きな教科はこんなに頭に入るものなのかと驚いたくらいだった。


 メイリンが3年間学園で習ったことをリオが習うため、教科書はメイリンのものだ。教科書には細かく教師が言ったことが書いてあり、教科書に書き込む派なのだと分かる。

 メイリン曰く、教科書は私の物だし、私しか見なかったし、綺麗に保つ必要はない。また、紙綴りに要点を書くと、教科書に書いてある何に引っかかったのかという部分を写さなければならなくなるため、二度手間だと言うのだ。

 いわば効率重視の勉強方法である。


 リオはとにかく大事なことは写させてもらうというスタンスを取る。教科書はジョバンニとの大切な思い出らしい。

 そうだから、とても下さいとは言え出せずに、パパッと紙綴りに写していた。


 中間、期末、学年末テストがあるわけではないしね。研究職者になるための貴族の教養として習っているので、その辺りは楽かなぁと思う。


-------------⭐︎-------------


 やがて冬が過ぎ、春になった。

 春になる頃、リオは13歳になった。

 双子も春生まれで同時期に誕生月がきた。盛大に祝う物かと思われたが、そういう習慣はないようだった。

 ただ、神に生かしてもらったことを感謝する、そのくらいだった。


 この神というのは、実態のない万物の神様で、伝説も何もないのが珍しい。ただ、生かしてくれる存在、恵を与えてくれる存在、大きな意味でいう『地球に感謝』のようなものかなぁとリオは受け取る。

 

 13歳になるとプラプラしていた双子も(本当は貴族の勉強を頑張ってるけど)、子供っぽい服装から大人が着るスーツを着込むようになる。

 リオのワンピースも膝下から足首丈に変わり、より淑女らしい格好となった。ただし、アドバイザーがディアナなのでフリフリのパステルカラー、リボン多用の衣装となる。


「なんていうか、その趣味は母?」

 久しぶりに会った昼食でユーリに聞かれた。

「うーん、はい」

「す、すまない」

 今まで着ていた服はエヴァからの贈り物だったから、エレガントな装いが多かったが、これからは違う。

 全てフリフリだ。

「いいえ、似合っていたら良いんですが」

「似合う!可愛い!フリフリで!」

 即答されたので、一瞬放心状態となった後、笑いが込み上げて2人で笑った。

 

 いつ以来の会話だろう。

 彼は国境騎士団に試験を認められ、優秀だったとのことで特別訓練生として任務についていることが多くなっていた。


「あの木の上の小屋の事だけど」

 そういえば、リオも聞こうと思っていたところだ。

「無事でしたか?」

「ううん、雪でダメだった。でも父に言って、もう一度作る許可をもらうよ。今度は雪が自然と落ちるような、とんがってる屋根にしてみるよ」

「雪で…、そうですか。また、楽しみにしていますね」

「うん、楽しみにして。また呼ぶから。それに…」


 真剣な顔のユーリが近づいてきた。

 それに?何だろう…。

 何か言いたい感じの表情だったが、ちょうどダルトンが入ってきたので各々着席することになった。

 着席した後もユーリにジッと恨めしそうな顔で見られたため、正面に座る敏感な2人も何かを感じてコソコソと話す。


「なになに?リオちゃーん?」

「ユーリ兄と何かあった?」

 食事が運ばれてきたので、曖昧に微笑む。双子は絶対食事が終わったら話しかけてくるだろうと身構える。

 誰かあの2人に仕事を与えてやって下さい。


「ねぇねぇー」

「さっきのー」

 ほらきたね。2人だと怖い者なし、なのかしら?とたまに思う。

「さっき?はて…?何かございましたでしょうか?」

 このトボケ方はメイリンに習った貴族の嗜みの一つだ。意地悪なご令嬢とかはこの場にいないので、この2人で訓練してみる。


「えー、変な雰囲気だったよねぇ?」

「ユーリ兄と何かあった感じ?」

 2人がコソコソと聞いてくる。

「何かとは、どういうことでしょう?」

 はて?と首を傾げてみる。

「いや、それが分からん」

「だから聞いてるわけで」

「私も何をおっしゃっているか分かりません」

「いや、でも、なぁ」

「何かずっと見られていたぜ?」

「あらー。ユーリ兄様、私に何か用事でもあったのかしら?」

「さぁ?」

「そこまでは知らないけど?」

「そうですか。あ、午後の授業があるので失礼しますわね」

「「あぁ」」


 キツネにつままれたような、全く納得できない顔でリオを見送る。

 後で、メイリンにこの対応が正しかったか聞いてみようっと。

 実験台にしてごめんね、双子。

 答えがあるとすれば『私は何を言おうとしたか分からないから、ユーリ兄様に聞いてみてだよ』と心の中で叫んだ。

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