第59話 ユーリくんと木のお家
リオは、ダルトンとディアナ夫婦の養女となっているようだ。
兄弟はジョバンニ17歳、ユーリ14歳、ケニー12歳、サントス12歳、ジェイ7歳、ミリィ4歳。基本、この兄弟達と過ごすことになるそうだ。
ケニーとサントスは双子。リオも12歳なので三つ子?と話し合いながら笑ってしまう。
こんなにたくさんの子供がいて、女の子が産まれないのは呪いじゃないのか、自然の摂理に反しているとダルトンは一時、頭を抱えた。
その時ダルトンは、この事を王家御用達の占い師に語り、占い師が王家に、王家から公爵家に伝わって、マイヤーから派遣されたのがリオということであった。
また、一夫多妻制に関していうと、辺境地域は国境の治安維持の要でもあるため認められているようだった。辺境は交易都市があり物騒な事件が多いものの、警備隊への希望者が少ない。交易都市は商売が面白いのか、なり手は商人ばかりである。
その点、警備元締めの伯爵家の子供が多ければ周辺を守る人員が増え、国から予算がもらえ、お家も絶えることがない。そんなことからダルトンも3人の妻をめとったとの事だった。
ご夫人3人は喧嘩することはないのか、とリオは思うのだが、メイリンによるとその辺りは旦那の加減によるらしい。
旦那さん、大変ね。うふふと、リオはメイリンと口だけで笑う。
家庭教師のメイリンは18歳で学園を卒業したばかり。茶色い髪の毛をハーフアップにした黄緑色の瞳の、見た目上品なお嬢様である。3年間は仕事をして、婚約者と結婚するとの事で、お相手はなんと長男ジョバンニで、年下彼氏である。
そんな貴重な時間を家庭教師として来てもらっても良いのかなと、リオは思ったのだが、ジョバンニと近くに居られるだけで嬉しいらしい。
うわぁ、恋心ってやつですかね!
お互い婚約者同士、不合意の者もいれば、意気投合している人もいる。前者がリンクとコトラで、後者がジョバンニとメイリン。リンクとコトラは歳が離れているから難しいのかな、と思わず考えずにはいられない。
リオのお勉強は17時に終わる。メイリンがリオに婚約している事をカミングアウトして少ししてから、ジョバンニがリオの部屋の前で待つ事が多くなった。
なんなら広い廊下に待つ用のベンチソファーでも用意しておきましょうか、と気を使うほどラブラブっぷりである。
しかし、今日は違った。
廊下にはユーリがいたのだ。
「今日、兄さんは警備に同行しているよ。だからまた明日って」
「そう、ありがとう」
上品に微笑むメイリン。
メイリンは近くに実家伯爵家の別荘があるためそこから来ている。会えないと分かると大人しく馬車に乗って帰って行った。
「さて、兄さんにはちゃんと帰った事を伝えて…。僕たちは葉っぱを取りに行く?」
もう、17時といえば外は暗い。
「今からですか?」
「そう。もう、明日には雪が降るかも知れない。日々、山際が暗くなって来ているし」
確かに、昨日今日の昼間は風が強く吹いていて、いかにも天気が悪くなりそうな雰囲気だったけれども…。
「はい、分かりました」
「実は…いや、まぁ、秘密。コートを着て来て。マフラー、手袋もね!」
リオは言われるまま、着込んでエントランスに立った。
「そっちじゃ目立つから、こっちこっち!」
いつも従者が通る、薄暗い通路を通り抜ける。裏庭へと続くホールがあり、その窓から抜け出る。
リオが飛び降りるのには少し高いので、ユーリが手を差し伸べる。
「こっち!」
勢いよくユーリが駆け出すので、リオも後へ続く。
手で木をかき分け、少し大きな木の根元に出た。
ユーリは隣の木に立てかけてある梯子を持ってきたので、気付いた。
「木の上に家?!」
「あはは、うん、作ったんだよ」
嬉しそうに笑いながら、先に上へ上がった。
下からは板しか見えないけど…素人がこんな木の上に家を作るって怖くない?
「いいよー、来ても!」
え、やっぱり上るのか。
リオは梯子のグラつきを確認してから、恐るおそる上り始めた。
ひょこっと、板から顔を覗かせると、いくつかの蝋燭が揺れていて、家の中はふんわりオレンジ色に明るかった。
「うわー、綺麗」
「早くおいでよ」
もたもたしていたからか、リオの身体を軽くユーリが持ち上げた。
はいっ、と敷布の上に座らせ、そのまま手を繋いでいた。
「リオは軽いね。ちゃんと食べてる?」
名前の呼び方については、兄弟の年上はリオの事を呼び捨て、年下はお姉様、双子は同い年でどう呼び合うか悩んだ結果、お互い呼び捨てとなった。
「ここが綺麗なのは今日まで」
蝋燭が揺らに合わせてユーリの瞳も揺れる。その瞳で、リオを見ていた。
「どういう意味ですか?」
「明日、騎士団の人達がここが頑丈かどうか確かめに来るんだ。国境付近は森が多いから、監視小屋を作るのも僕らの仕事なんだ。その試験」
リオの手を固く握りなおす。その手はすごく熱くて、見かけよりは大きな男の手だった。
そう思った瞬間、不意に引き寄せらた。リオの身体がグラッと倒れ、ユーリの胸の辺りに顔が埋まる。慌てて上を見上げると、息がかかるほど近くで目が合った。
ユーリも驚いたように見つめていたが、優しく肩を掴みリオを離す。
「…ごめん。力を入れすぎたね」
ユーリは意外と素っ気なくリオの肩を離し、後ろを向いた。
この小屋には、ちゃんと見張り用なのか窓があった。
リオは立ち上がり、窓から外の森を眺めた。夕日が少し沈み、上空は深い青と緑色に染まっている。
「今日連れて来たかったのは…これ」
ユーリの前にカゴがあり、草が沢山詰められていた。リオはその葉の形をよく確かめてみる。
「これ、もしかして?」
「そうそう、クロスグリの葉とコケモモの葉っぱ。合ってる?」
蝋燭の近くで、もう少し良く確認する。紙綴りに書き写した葉によく似ていた。
「ありがとうございます、お兄様」
ユーリは照れて、
「お兄様はやめてよ。ユーリで良いよ」
と、呟いた。
リオは呼び方を少し考えたが、やはりユーリは優しいお兄様としてしか見れなかった。
「いいえ、お兄様。素敵な空間と葉をありがとうございます」
「あぁ、いや…」
照れて、反対側の窓へと向かう。
「夕飯時かな?戻ろうか。これ、下で拾ってね」
ユーリは葉っぱの入ったカゴを地面へ下ろした。
「はい」
そっと、リオの手を取る。梯子のところまで誘導して、階下へ促した。
リオが梯子に足を掛けたのを見て、ユーリは部屋の蝋燭を消した。
「妹…か…」
星を仰ぎながら呟いた小さな声は、梯子を慎重に降りるリオには聞こえなかった。
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