第34話 毒の検証 その1/3
朝、止血剤の乾燥具合を確認して梱包し、身支度をしてから個研に向かう。
個研にはシャインが既に来ていて、キノコを寄り分けていた。
「おはようございます」
「あ、リオちゃん、おはよう」
「キノコ…ですか?」
「うん。リオちゃんには毒が見えているようだから、色々用意してみたよ」
キノコ以外にも、毒の葉っぱや、蛇の毒らしき液体の入ったものが机に並べられていた。
それらはリオから見ると真っ黒になったものから、煙を漂わせるだけのもの、一部のみ紫色のものがある。
自分でも、その黒く見えたり紫の煙が出たりする物が、毒だと気付かなければ分からなかった事なのかも知れない。
毒が見える能力…。
ふと思う。
あの石の中に見えた、宿屋のご主人の映像…テレビのドキュメンタリーをぶつ切りで見ているような感じだった。
悲しみや怒りが分かるような感情、あれは毒とはまた違うものだ。
一体、あれはなんなのだろう。
石の記憶?
それは果たして、自分が見ようとして見えているものなの?それとも、自分の意思に関わらず、石が見せようとしているものなの?
と、考えているうちに、マイヤーとルーカスがやってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を済ませると、早速マイヤーから報告がある。
「今日、リンクさんは調査任務で来ません。また、彼からの報告で、宿屋一家の魔術の型が判明しました」
「へぇ」
シャインが楽しげに返事した。
「ご主人は土、奥さんは風、息子は水だそうよ」
「ご主人は土か!じゃあ、リンクの見ていた土系の流れと、リオちゃんが見た石の中に映る人から、石は宿屋のご主人に関わりがあると推測出来るね」
シャインは右手をグーに、左手をパーにしてパチーンと両手を合わせる。
「ま、そういうことね、副部長」
「先生、石の検証から?それとも、この毒々しい物の検証からにします?」
「毒々しいのからにしましょうか、朝から副部長がきれいに並べられたので」
あまりにも綺麗に並べられているので、マイヤーは笑って言った。
どうやら、リオとルーカスは毒物を見分けるテストを受けることになったようだ。
まず、キノコ群が並ぶテーブルのふちへ移動する。色や見え方、煙の有無、匂いやその他、気付いたことなどを話し合う。
「これは、猛毒だね〜。オレは煙が少し濃い程度かな…リオちゃんはどう?」
ルーカス、何故だか楽しそうだ。
「うわぁ、これすごいですね!キノコから真っ黒の煙が出ています」
「食べたら、すぐ死ねるね(笑)」
白いキノコ。裏側がものすごく赤い。「このキノコはオレはなんとも無いけど」
「これは傘の裏から煙が出ています。傘の中に毒があるのかな…」
ルーカスがキノコをひっくり返し、ムッとした顔をする。案外、見てると表情が豊かだ。
「うわっ、本当だ。でも、オレこれは煙が見えてないから、ひっくり返さないと気付かないかも…」
次は、ジャガイモ。毒素のある芽から煙が出ている。
「えー、見えない事が悔しい」
「そうでしょう、そうでしょう。私達の気持ちがお分かりになって?」
悔しそうなルーカスの顔がツボなのか、マイヤーとシャインが笑う。
ルーカスは外側からは分からなかったようだが、芽の近くを包丁でくり抜くとと煙が出てきたようだった。
また、緑色のジャガイモは全体的に『もやもや』していた。
こういうジャガイモは皮を厚く剥けば食べられる事が分かっているので、剥いた後は煙が出ていなかった。
ルーカスは全く見えていなかった。
次は蛇の毒。シャインは蛇を掴み、慣れた手つきでメスシリンダーのような物に毒を抽出し、並べて置いていく。
一般的に毒性の強いものから順番に置いていったようだが、リオとルーカスの見える煙の濃さから順番を入れ替えてみる。
その順番はマイヤーがメモとして控え、後日ラットで実験するとの事。
今まで規程とされていた蛇の種類による毒の強さが違うかも知れないそうだ。個体による違い含めて検証するそうで、どのような結果になるか楽しみだ。
蛇の毒実験が終わる頃にリンカがやって来た。
「おはようございます。スープを持ってきました」
テーブルに並べられる前にお皿から紫の煙が出ているのが分かって、ルーカスと2人で苦笑した。
実験で分かったことは、ルーカスよりもリオの方が毒を見る能力が高いということだった。
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昼休憩を挟んで、石の検証を行う。
昼からはシャイン、ルーカスは魔術機器の開発に取り掛かるとのことで、マイヤーとリオの2人で執り行う。
「ここまでの検証を取りまとめましょうか、リオちゃん」
メモを見ながらマイヤーが進める。リオも紙綴りをめくる。
「まず、リオちゃんは、毒が見える能力がある。これは先ほど検証したから、分かるんだけど、ルーカスよりも見えるので間違い無いかしら?」
「はい、そのように思われます」
「その毒と言うのは、人体に対してのみ、自己防衛からの発展系魔術かしらね…」
ふむふむとメモに書き込んでいく。リオも紙綴りに「自己防衛の発展系魔術」と書き込んだ。
「毒をレベルで言うと猛毒、強毒、中毒、毒、弱毒、微毒の6段回に分かれるのね」
マイヤーは三角を描き、それを6つの部屋に分け、ピラミッド型の絵にした。リオもそれを写す。
その上に先程ルーカスと一緒に見たキノコやジャガイモを、毒の強い順に置いていく。
「頂点が猛毒。毒を受けたら死ぬ。これが頂点。レベル6ね。高級魔族が攻撃した場合はどのような事があっても、人体は消滅するからこれに当たるのね、これはどういう風に見える?」
「真っ黒です。母が亡くなった時も、引っ掻かれた腕が黒くなっていました。そのうち腕から紫の煙が出てきて、次第に身体全体から出てきました。身体全体から煙が出てきて1週間後に亡くなりました…」
「ああ、ごめんなさい。酷な事を聞いてしまったわね」
「いえ…」
「実は、統計なんだけど、高級魔族に攻撃された場合は屈強な騎士も3日も持たないの。だからリオちゃんのお母様は、リオちゃんが居たから1週間以上…」
少し言葉を詰まらせる。
「大丈夫です、マイヤー先生。私の能力があったから、母は1週間生きられたし、その間に必要な会話をかわせたんです」
何となく、胸のペンダントにしている指輪を押さえた。
亡くなる3日前にもらったペンダント。彼女の生きた証はリオが持っている。
高級魔族に攻撃された場合、身につけた物も全てが煙として消えてしまうなんて。
もし1人で森や山で高級魔族と遭遇した場合、人知れず消えることになる。
残された家族や知り合いはどうなるのか…リオは薬師以外に自分が役に立てるのではないかと思った。
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