第11話 夜明け後のお誘い
整腸剤入りのハーブティーを飲んだ後、ジェリスとエヴァには母の寝室で休息してもらうことになった。
母の部屋にはベッドとソファーがある。
煙を出す石のことも話し合いたいらしいし、上司への報告の取りまとめもあるだろうし、部外者抜きが良いだろう。
ふと、テーブルの上のガラス瓶を見る。ガラスを突き抜けた場合を考慮し、寝室には持っていかず台所のテーブルの中央に置いている。
リオにしか見えなかったこの煙。上から出ようと立ち昇る煙は、蓋に当たるとイソギンチャクの触手のように引っ込む。どうして他の人には見えなくて自分には見えるのか。
難しいことは考えても仕方がない。
リオは自室へ戻り、欠伸をしながら布団に入る。あと4時間くらいしか寝られないが、2人には朝食を頑張って作るつもりだ。何よりみんなで食べると楽しいしね!
あと4時間後に起きられるように枕を4回叩いて床についた。
朝。
井戸の水を洗面台へ運び顔を洗う。
ふぅ。と息を吐き、朝食メニューをルンルンで考える。
疲れているだろうから、ベーコンの微塵切りを入れた少し甘めのスクランブルエッグ、昨日好評だったポテト餅にチーズを巻き付けて焼く。チーズのコゲた良い匂いがして、皿に盛り分ける。
サラダはきゅうりとキャベツに塩をかけて水を切った後、お酢とハチミツをかけて軽く揉む。それを切ったトマトと合わせて、朝食の出来上がり。
テーブルに3人分配膳したところでジェリスさんが台所へやってきた。
「ごめんなさい!何から何まで!」
リオとジェリスは微笑みながら
「おはようございます!」
と、仲良く挨拶をし合った。
エヴァも起きてきたので身体の調子を聞く。見たところお腹から紫の煙は出ていない。
ジェリスがもう一度診察してもらえばいいじゃーん(にやり)と言ったが、ぶっきらぼうに抵抗されたため視診だけとなった。
2人を洗面台に通し、身支度をしてもらったあと朝食にした。
やはりチーズポテト餅は大好評。酢の物が苦手なエヴァはこのサラダで無事克服出来たらしい。騎士団の食堂のサラダはもっと酸っぱいそうで、すすると咽せ込むほどだそうだ。逆に食べてみたい気持ちにかられる。
整腸剤入りハーブティーを飲みながら、ジェリスがこの宿屋にお金を払わなきゃねと笑った。
「それでね、リオちゃん」
唐突にジェリスが切り出す。
「このガラス瓶の煙が見えるのは今のところリオちゃんだけでしょ」
リオはコクリと頷く。
「でも他の人も見えるかも知れませんよ?」
「見えないかも知れない。あなたを保護したい。それで王都に来て欲しいの」
「王都?」
「そ。エルレティノ」
「お隣りさん?」
「そそ、お隣りの国」
パッと思い浮かんだのは、パスポートとか、ビザとか、出国に必要な手続きのことだった。あら?ここって住民票とかあったっけ?
「私、こちらの国の者ですし」
「国境があるだけで国自体の出入りは自由だけど?あぁ、ただ、王都に入るには許可書が必要かなぁ。でもそれは私が手続き出来るし」
ここから離れることを考えた事がなかったリオとしては即決出来る問題ではなかった。
どうしようかと唇に手を当て、一点を見つめるリオにジェリスは優しい声音で提案してみる。
「本当は私たちこれから調査するでしょ?昼から帰る予定だけど、その時についてきて欲しいの。その時までに考えてくれる?」
「はい。でも、どのくらいの期間に行くことになりますか?」
「もしかしてずっと帰ってこれないんじゃないか、って心配かな?」
「はい、そうです」
周囲を見渡せば、調合関係の部品が棚に所狭しと並んでいる。手入れをしなければすぐに傷んでしまうものも多かった。
離れがたい空気を察したのか、エヴァが周囲を見渡し少し眉をひそめる。
「そうねぇ。今はラーンクラン国の王都よりエルレティノ国の王都の方がここから近くて、馬で朝出て夕方に着くの。馬車で2日、知ってた?」
「いいえ、何となくしか知りませんでした」
草やキノコを調べるときために母から教わり文字は読めたし、書くこともできる。
しかし、この国の歴史や地理に関しては全く教養がなかった。
「二つの国は今、戦争しているわけではないし、帰りたかったら私や騎士団が馬を走らせてあげる。そういうことを踏まえて、前向きにご検討を」
「まるで商談のようですね」
「だって、商品価値があると思うもの。あなたのその目は貴重よ、だから私たちに保護させて欲しいの」
スッと人差し指を出して、自分の目からリオの目へ意味ありげに指を動かして笑う。
「分かりました」
不安だったが保護目的なら仕方ないのかな、とも思う。見た目は12歳。もしジェリスと同じ立場なら同じ事をすると考えた。
「じゃ、商談成立ということで」
ジェリスが立ち上がりふんわり笑い、ドレスも着ていないのに令嬢の礼、カーテシーを行う。エヴァも立ち上がり、胸の前で拳を叩き、感謝の意を示す。
リオも母に何度か教えてもらったカーテシーをエアカーテシーじゃん、と思いながら返した。
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