第4話『オープンキャンパスへ行こう!』
8月26日、月曜日。
高校1年の夏休みも残り一週間となった。
最近は昼間は結構暑くても朝晩は涼しいと感じられる日も出てきた。暦だけでなく、気候からも秋は着実に近づいているのだと実感する。個人的には早く昼間も過ごしやすい気候になってほしい。暑さも寒さも彼岸までという言葉もあるし、あと1ヶ月くらいの辛抱だろう。そうであってくれ。
「お姉ちゃんの通っている大学に行って、少しでもいいなって思ってもらえたら嬉しいな!」
「姉さんの通う大学に行くのは初めてだから楽しみだよ」
今日は芹花姉さんが通っている
1学期末の進路希望調査で、俺は東都科学大学の名前を書いたし、福王寺先生から「夏休み中にオープンキャンパスに行ってみるといいよ」と言われたので参加してみる次第である。
結衣も一緒に参加する予定だ。進路希望調査では大学の文系学部に進学したいと書いていたけど、
「お姉様の通う大学を見てみたいし、理系の学部もいいと思えるかもしれないから」
という理由でオープンキャンパスに参加する。早い段階から、色々な分野の学部学科を見ておくのは個人的にはいいと思う。ちなみに、結衣とは午前9時40分に武蔵金井駅の改札前で待ち合わせをすることになっている。
オープンキャンパスに行くのに、どうして在学生の芹花姉さんがなぜ一緒なのかというと、姉さんはサークルの集まりに参加するのだそうだ。お昼になったら、姉さんと姉さんの友人の
芹花姉さんと話しながら歩いていると、武蔵金井駅が見えてきた。今は……9時35分か。改札前にはもう結衣がいるかもしれないな。
駅の構内に入って、改札の方を見ると……改札近くにロングスカートにフレンチスリーブの襟付きブラウス姿の結衣の姿が見えた。今はスマホを弄っている。これからオープンキャンパスに行くのもあって、結衣が大学生に見えてくる。
「結衣!」
「結衣ちゃーん!」
俺と芹花姉さんが少し大きめの声で結衣の名前を呼ぶと、結衣はすぐにこちらを向いて笑顔で手を振ってきた。
「結衣、おはよう」
「おはよう、結衣ちゃん!」
「2人ともおはようございます!」
「今日の服も似合ってるね」
「似合ってるよね。大学生みたいだよ。うちの学生としてキャンパスにいても不思議じゃないよ」
「ありがとうございますっ! Vネックシャツ姿の悠真君もワンピース姿のお姉様も素敵ですよ!」
結衣はとても可愛い笑顔でそう言ってくれる。それが嬉しくて、俺は結衣の頭を優しく撫でた。芹花姉さんは抱きしめてもいて。今の2人を見ていると、同じ大学に通う友達同士にも見えてくる。
「じゃあ、結衣ちゃんとも会えたからさっそく行こうか! 大学までは私が連れて行くからね!」
「ありがとうございます! 心強いです!」
「ありがとう、姉さん」
大学の最寄り駅と、最寄り駅から大学までの道のりは事前に調べてある。だけど、在学生の芹花姉さんが一緒なのは心強い。
俺達は改札を通り、東京方面の電車がやってくるホームへ向かう。
芹花姉さんはいつも先頭車両に乗るということで、俺達は先頭車両の乗車位置まで行く。朝の通勤通学の時間帯だと女性専用車両になっているけど、今の時間は男性が乗っても大丈夫とのこと。良かった。
ホームには両手で数え切れるくらいの人しかいない。平日の今の時間帯はこれが普通なのだろうか。通勤の時間帯も終わっているし、今はまだ夏休みの学校も多いから。
それから程なくして、東京行きの電車がやってきた。
乗車すると、先頭車両なのもあって空席となっている箇所がいくつもある。幸いにも3席連続で空いている場所があったので、結衣、俺、芹花姉さんの並びで座った。暑い中歩いてきたので体が癒やされる。
俺達が座ってからすぐに発車する。
大学の最寄り駅は
「座っているし、悠真君とお姉様が一緒ですからあっという間ですね」
「そうだな。それに、10分なら満員電車でも我慢できそうだ。芹花姉さん、どうだ?」
「今はもう慣れたよ。10分くらいだから平気になった。ただ、高校までは徒歩通学だったから、入学直後はキツかったな。遅延したときはもっと混むし。だから、1限からある日はちょっと嫌だった時期もあった」
「そうだったのか」
「そうだったんですね。金井には大学はありませんから、大学進学が決まったらそこは覚悟しないといけないですね」
「そうだね。ただ、履修した講義の時間割のおかげで、毎日通勤通学ラッシュの時間帯に乗らなくて良かったのは救いだったかな」
芹花姉さんは苦笑いしながらそう言った。
大学だと、高校までとは違って受ける授業を自分で決めるんだよな。もし、大学に行けたら、週に何日かはゆっくり登校してもいいような時間割にしたい。できるといいなぁ。
それからも電車通学のことなどで話が盛り上がり、四鷹駅に到着するまでにはあっという間だった。
四鷹駅は複数の路線が乗り入れる駅なので、武蔵金井駅よりも立派な駅だ。
俺達は北口を出て、在学生の芹花姉さんを先頭で東都科学大学に向かって歩き出す。姉さん曰く、徒歩10分ほどで大学に着くらしい。
「四鷹駅の北側ってこんな感じなんですね。色んなお店もあっていい雰囲気ですね!」
「金井よりも都会な感じがするよな。駅のすぐ側にはオリオっていうショッピングセンターもあるし」
「大学の帰りとか休日には、彩乃ちゃんとか大学の友達と一緒に駅の近くにあるお店に行くことが多いよ。オリオの中にはアニメイクもあるし」
「アニメイクで買い物して家に帰ってくることがたまにあるもんな」
金井にはないアニメイクが四鷹にはあるんだよな。東都科学大学っていいなと思う気持ちがちょっと膨らむ。大学の行き帰りにアニメイクに行けるのはいいな。
「悠真君。今、東都科学大学ってちょっといいかもって思ったでしょ」
ニヤリとしながらそう問いかけてくる結衣。見事に言い当てられてしまいドキッとする。
「ちょ、ちょっとな。立地的に」
「ふふっ、悠真君らしい」
「アニメイクが四鷹にあるおかげで、大学に入学してからより漫画とかアニメとかラノベとかを楽しめるようになったかな」
芹花姉さんはそう言うと、ニッコリスマイルで主に俺の方を見てくる。東都科学大学はいい所にあるよというアピールなのだろう、うん。
それからも芹花姉さんが四鷹駅周辺のお店の話をしながら、東都科学大学に向かって歩いていく。初めて来る場所だから小旅行的な気分にもなれる。ただ、姉さんは4月からこの道を歩いて大学に通っているんだよな。そう考えると、ちょっと不思議な感覚に。
結衣もここら辺を歩くのは初めてなのかな。目を輝かせながら周りの景色を見ている。それがとても可愛くて。
周りを見てみると、オープンキャンパスに参加する人なのか、俺達と同じ方に向かって歩く人がそれなりにいる。理系の国公立大学だし、ここに志望したり、興味があったりする人が多いのだろう。そう考えると、在学生の芹花姉さんが凄い人に思えてきた。
「ここが東都科学大学だよ」
『おおっ……』
芹花姉さんのおかげで、俺と結衣は無事に東都科学大学の正門前に到着した。目の前には大きな建物がいくつもあって。それに圧倒されて、俺は自然と声が漏れてしまっていた。結衣も同じなのか、俺とほぼ同じタイミングで声を漏らしていた。
「立派な建物だ」
「そうだね、悠真君!」
「金井高校に比べたら凄く大きいよね。ここから見える校舎以外にも、キャンパス内にはいくつも校舎があるし。ちなみに、ここから見える大きな校舎にある教室で受ける講義もあるよ」
「そうなんですね!」
「……じゃあ、私はサークルの集まりがあるから、そっちに行ってくるよ。2人は情報科学科と生命科学科の模擬授業を受ける予定なんだよね」
「そうだよ」
情報科学科は俺が興味のある学科で進路希望調査票にも書いたから。生命科学科は芹花姉さんの在籍する学科だから模擬授業を受けてみたいと思ったのだ。結衣もその2つは受けてみたいと快諾してくれた。
「了解。じゃあ、模擬授業が終わったら私に連絡してきて」
「分かったよ」
「分かりました。では、また後で」
「うんっ、また後でね」
芹花姉さんは俺達に手を振って、キャンパスの中に入っていった。在学生だけあって、姉さんの後ろ姿には落ち着きが感じられて。
「私達も行こうか!」
「ああ、行こう」
結衣と一緒に、キャンパスに足を踏み入れるのであった。
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